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軽率にアイソトープ治療をうけるべきではない
メアリー・ショーモン(Mary Shomon)

『バセドウ病の臨床的ガイド』を書いたエレイン・ムーア(Elaine Moore)さんへのインタビュー
このインタビューで、素晴らしい新刊『バセドウ病の臨床的ガイド』の著者であるエレイン・ムーアさんが、バセドウ病について彼女自身の考えやこの本の紹介をしてくれます。個人的には、この本は全てのバセドウ病患者の座右の書になるのは勿論のこと、治療する医師にとっても座右の書になると信じています。

Mary J. Shomon エレインさん、まず最初に本の出版、おめでとうございます。わたしは、このような包括的で偏りのないバセドウ病に関する本を読んで興奮しました。この本は、患者にとっても信頼できるものです。ですから、わたしはバセドウ病について情報を探している患者さんには、是非読むように勧めています。『バセドウ病の臨床的ガイド』を書こうと思われた動機を伺ってもいいでしょうか?
Elaine Moore わたしがバセドウ病の診断を受けたときに、治療法について十分な説明を受けられなかったことを残念に思っています。バセドウ病の自己免疫学的側面を理解することなく、症状があまりなかったにもかかわらず、即、アイソトープ治療を受けました。主治医が治療法はアイソトープ治療しかないと言ったとき、わたしは彼の言うことを信じました。わたしは、現在、永続性甲状腺機能低下症に陥っており、甲状腺機能亢進状態のときより多くの問題をかかえています。患者にとっては、甲状腺そのものが問題なのではなく免疫系の異常がバセドウ病を引き起こしているということについて理解することの方が重要です。患者は代替え治療も含めた全ての治療法について理解する必要があります。また、彼らはバセドウ病は自然経過の中で毎年25%くらいは自然治癒するということも理解すべきである。すべてのバセドウ病患者の経過をみることはいいとしても、全員がアイソトープ治療を受ける必要はないと思います。アイソトープ治療で甲状腺を破壊する治療を受ける患者が多すぎるように感じます。アイソトープ治療には危険はないと医師から誤った説明を受けています<注釈:この記載は間違いです。アイソトープ治療で癌や白血病になるという証拠はありません。この著者はアイソトープ治療後の甲状腺機能低下症のことを言っているのかもしれませんが、それは危険なことではありません>。わたしがこの本を書こうと思った理由は、放射性ヨードで甲状腺を破壊するということは、重大な結果を招きうるということを他の人に知ってもらいたかったからです。それは、軽く受け止めるようなことではないのです。

わたしの2番目の目標は、バセドウ病でみられる免疫異常について理解していない人たちに長期間経過後にバセドウ病がどうなるのかを知ってもらうことです。わたしの本は、新しくバセドウ病と診断された人や50年間バセドウ病の治療を受けている人のために書きました。
Mary J. Shomon 他の本にはないあなたの本だけの特徴というと何でしょうか?
Elaine Moore わたしは、この本でバセドウ病の成因について詳しく書きました。特に、バセドウ病の遺伝子を持った人がストレスなどの環境因子が引き金になって、バセドウ病が発症するということについて書きました。このようなことを理解することで、バセドウ病における甲状腺は犠牲者であって、自己免疫に侵された甲状腺が原因ではないことが分かります。

従来の治療法や代替え治療について書くときに、それぞれの治療が基礎にある免疫障害にどのように影響を与えるか、その影響が長期予後にどのように反映するのかについて説明しました。それぞれの治療法の長所と短所を示し、何故、患者にとって最良の治療法は存在しないのかも説明しました。わたしが言いたいことは、バセドウ病の免疫的側面についてです。もし、この免疫的障害に対して対策を講じないなら、患者は線維性筋痛やチェリアック病のような別の自己免疫病になる可能性があります。

わたしは、いろんな治療法の治療成績についても書いていますが、実際にその治療を受けた人の体験談も載せました。また、妊娠時小児の場合、甲状腺機能低下症になった場合についても記載しました。わたしは検査についての広い知識を持っていますから、検査結果の落とし穴についても詳しいのです。抗甲状腺薬を服用している多くの患者は、クスリを短期間服用しただけであまりにも突然に止めさせられています。彼らが再発したときには、放射性ヨード治療を受けるように医師から勧められます。もし、もっと多くの医師が適切な甲状腺自己抗体を検査すれば、この放射性ヨード治療は避けることができるかもしれません。

抗甲状腺薬を服用している人の中には、甲状腺機能検査を信用したばっかりに極度の甲状腺機能低下症に陥っている患者もいます。あなたが書かれた本の中で、この患者の信用について懸念していることを表明していることを存じています。また、実際は別の病気を持っているときでも、甲状腺ホルモンが高いとバセドウ病と診断されています。しかし、間違った診断的検査が信頼されています。患者が主導権を握るのを助けるために、検査結果の解釈について一章を使って詳しく書きました。また、別の章では自己抗体についても詳しく説明しています。
Mary J. Shomon あなたの本を読んだ後に、いろいろな観点からバセドウ病に対する従来の治療と代替え治療について大変分かりやすくに書かれていると感じました。今の状態をより理解するためにバセドウ病患者がまず最初に読むべき本であると感じました。しかし、甲状腺専門医の一部には、あなたの本に対して反対の意見を持っている人たちがいます。これは、わたしが本を書いたときと同じ反応です。このような医師の反応が何故起こると思いますか?
Elaine Moore 即、アイソトープ治療を受けないで、別の治療も考慮することを、わたしが患者さんに勧めていることと関係していると思います。アメリカでは、50年前に科学者と医師がアイソトープ治療の安全性について議論したのです。

アイソトープ治療後に胸腺が腫れた患者の死亡率が報告されて、数人の科学者はアイソトープ治療は安全ではないと結論しました。しかしながら、アイソトープ治療に賛成している医師たちは議論を続け、結局、自分たちの考えを通してしまいました。その結果、アメリカでは現在、アイソトープ治療がバセドウ病の主流の治療になりました。しかし、ヨーロッパや日本ではそうではありません<注釈:日米欧のバセドウ病に対する検査、治療の比較がなされています>。ほとんどのヨーロッパ諸国では、40歳未満の女性に対してはアイソトープ治療は行いません。ヨーロッパや日本では、抗甲状腺薬が治療の主流です。原子力委員会の前の会長は、放射性ヨードがいかに危険であるかを証明するために人生の多くの時間を費やしました<注釈:わたしは放射性ヨード治療は安全であると考えています>。

広島への原爆投下やチュルノブイリ原発事故の生存者の研究結果から、ここ10年の間に、研究者は放射性ヨードの影響について多くのことを学びました。その結果、アメリカでも一部の医師は放射性ヨード治療を患者に勧めることを止めました<注釈:131-Iが甲状腺癌の原因であるという証拠はありません>。しかし、放射性ヨード治療は費用がかからない安い治療です。現在、医療は費用が重要な要因になってきています。多くの医師、特にHMO<注釈:アメリカの民間健康保険>に加入している医師や1990年以前に医学教育を受けた医師は放射性ヨード治療が安全であると主張しています。わたしがこの本を書いた目的の一つが放射性ヨード治療の安全性に関する研究を示すことなのです。

また、一部のバセドウ病患者では自然寛解がみられるということは昔から知られているにもかかわらず、甲状腺機能低下症の方が甲状腺機能亢進症より好ましいと考えている医師が多いのです。わたしのように症状が軽いバセドウ病を持った患者に対しては、治療をする前に症状をみながら、自然経過でよくなるかどうかをみる賢明な医師もいるにはいますが、多くの場合、軽症のバセドウ病に対してアイソトープ治療が行われているというのが実状です。

ドイツのE委員会が、ある種の薬草はバセドウ病の治療として安全で効果があると報告しているにもかかわらず、ほとんどのアメリカの医師はバセドウ病の治療として薬草を使用しません。無症状か軽度の症状しか持たないバセドウ病患者の甲状腺を破壊することについては慎重に考えもしないのに、何か新しいことに対しては試みようともしません。ある有名な甲状腺専門医団体の評議員たちは、大変稀な甲状腺クリーゼがあたかもよく起こるかのように言って、患者を怖がらせて、アイソトープ治療をしようとしており、これはバセドウ病患者にとっては大変迷惑なことです。また、その医師たちはバセドウ病が自然に治ることがあるという論文を決して掲載しません。彼らは代替え医療の利点について今までに発表された論文さえも、無視しています。そして、アイソトープ治療に反対している患者の意見を封じ込めています。薬品会社から寄付金をもらっているいくつかの医師団体があります。当然のことながら、彼らは甲状腺機能低下症は治療するのに簡単な状態であるという意見を金科玉条のごとく患者に話します<注釈:読んでいて、あまりにも一方的な意見を述べています。特定の医師に対して敵意があると受け取られる恐れがあるように感じます>。

メアリーさん、幸いにも、わたしたち二人はそのようなパトロンがいませんので、何の気兼ねも要りませんね。わたしたちは、客観的にみて事実に基づいた、よく研究された情報を患者さんに示すことができると思うのです。あなたが書いた「甲状腺機能低下症とうまくつき合う」という本の中でおやりになっていることなんですが、わたしも今度の本の中で、沢山の引用文献を示しました。ある事実に反対する人は、引用文献からその事実の証拠を知ることができます。そして、アイソトープ治療が最初に治療法として受け入れられた1950年代前半以降、多くのことが変化してきていることを知るでしょう。メアリーさん、あなたが何百万人もの甲状腺機能低下症患者を助けているのは存じ上げていますよ。あなたは治療法を決めるときに医師と一緒に考えることの重要性を患者に教えておられます。わたしの本でも、バセドウ病の患者に同じように振る舞うように勧めています。
Mary J. Shomon ほとんどのアメリカの医師が唯一の治療法と思って、患者に勧めたがるアイソトープ治療とは別の治療法として抗甲状腺薬長期投与法や甲状腺ホルモン剤併用療法について多くのバセドウ病患者がもっと知りたいと思っていることをわたしも存じています。これらの事柄について、あなたの本の中で述べていることを簡単に説明していただけますか?
Elaine Moore 第8章で、通常の治療法について書いていますが、ここで甲状腺ホルモン剤併用療法の有益性について説明しています。同じ章で、ハーバード大学の内分泌専門医の数人からアイソトープ治療を行う前に、まず最低18ヶ月間の抗甲状腺薬治療をするべきであるという勧告を掲載しています。18ヶ月間、抗甲状腺薬治療をすれば、多くの患者は抗甲状腺薬を中止できます。18ヶ月経っても治っていない場合には、抗甲状腺薬治療を続けるのか、別の治療に切り替えるのかを決定することができる。一部の患者では、症状が良くなったり悪くなったりしながら、自然治癒することもある。これは考慮に入れるべき要因です。それぞれの患者さんで、症状や体力的な個人差が治療法を選択する重要な要因になります。全ての患者は西洋医学もしくは代替え医療を行う医師によって症状の経過をみる必要がありますが、全ての患者に同じ治療法を行う必要はないと思います。
Mary J. Shomon 代替え医療について簡単に説明していただけますか?
Elaine Moore これはわたしの一番気に入っている章と関連するのですが、その章を書くために代替え治療でバセドウ病が治った多くの人(この中には医師も一人います)に会って話を聞きました。その章の中で、同種療法<注釈:病気は健康人に病気を引き起こす薬物により治癒できる、また薬物はその投与量が少ないほど効果が増すという説>、薬草医学、活力治癒法、ストレス解消法、食事療法、ヨード剤、頭蓋仙骨療法<注釈:これはどのようなものか分かりません>、インディアンの植物を使った民間療法、伝統的な中国の医療、漢方、ハリ、ヨガ、太極拳などについて説明しています。バセドウ病患者は、代謝が亢進しているために引き起こされる多くの栄養不足になっています。バセドウ病の症状の多くがこれらの栄養不足と関係しています。医学論文に基づいて、これらの栄養不足を補正することでいくつかの症状を緩和するのに役立つことを説明します。
Mary J. Shomon あなたの本を読むことで、バセドウ病患者に何を学んで欲しいですか?
Elaine Moore バセドウ病という病気は、個人差があり、その人その人で違うということを知って欲しいのです。症状やその感じ方も個人差があります。症状の強さや病気の程度を決めている自己抗体の遺伝子は、個人差があります。このような個人差のために、治療に対する反応も異なります。数週間で治ってしまう人もいれば、治るのに数年を要する人もいます。

抗甲状腺薬で治った多くの人は、彼らの主治医はクスリで治ったことに驚き、そんなにクスリが効いた例を見たことがないと言うと報告しています。今までに抗甲状腺剤の治療をしたことがないことを認める医師もいます。できることなら、もっと多くの患者がクスリによる寛解は到達可能な目標であることを医師に理解させることができればと思います。甲状腺を破壊するアイソトープ治療を受けたことを後悔し、その後遺症に苦しんでいる多くの患者と話しました。ある人は、わたしは甲状腺を守る使命を帯びていると言ってくれました。それは、事実です。わたしは多くのバセドウ病患者が甲状腺を破壊しない状態で生活してもらいたいと思います。どんな臓器でも、軽々しく破壊すべきではないと思います。

. Dr.Tajiri's comment . .
. この著者は、アイソトープ治療が悪いと言っているのではなく、最初から全員にアイソトープ治療を勧めているアメリカの医師を批判しているのです。軽症バセドウ病の場合には、まず抗甲状腺薬で治療すべきでしょう。治らない場合に、患者が治療法を選択すべきであると言っているわけです。これは、ごく当たり前のことだと思います。

代替え医療に関しましては、私は治療経験もなく、知識がありませんので、ここでコメントを述べるのは差し控えたいと思います。しかし、個人的には、ことバセドウ病に対しては代替え医療は効かないと思っています。医学書をいろいろ読んでみましたが、どこにも代替え医療についての記載はありませんでした。しかし、インターネットでは、結構あるんですね、バセドウ病に対する代替え医療のサイトが。現時点では、科学的な根拠に乏しい代替え医療に頼るより従来から行われている治療を選択する方が賢明のように思います。因みに、Medlineで「バセドウ病」と「薬草(漢方)」を検索しましたが、中国語で書かれた論文が一つあったのみです。
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