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患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 11, No1

04:医者から“甲状腺抗体”といわれたらベッドでただ泣くしかないのでしょうか? / Terry F. Davis, M.D., F.R.C.P.

何を言っているのですか?
患者さんがよくわからないような難しい言葉を使うのが大好きな医者が本当にたくさんいるのです。私達の目的は、甲状腺の病気を持つ患者さんがそのように煙にまかれずに、ちゃんと与えられた情報を理解できるように教育することです。
甲状腺抗体という言葉は、もちろん恐れるようなものでは全くなく、ただあなたの甲状腺の病気の原因が免疫系であろうという知識を反映しているにすぎません。ですから、ベッドに横たわって泣く必要はないわけです。でも、そのことが何を意味しているのか時間をとってきちんと説明できる医師と話すことが大事です。

では、免疫系とはなんでしょうか?
免疫系は、血液の中を循環しているリンパ球と呼ばれる白血球からできています。そして、体の様々な場所でこれらの細胞が作られ、生活しています。:リンパ節、骨髄、お腹の中の脾臓、そして胸骨の後ろにある胸腺です。白血球はそれ自身たくさんの異なったタイプの細胞からなっており、それぞれ特徴のある表面、あるいは指紋のようなものを持っており、そのために特殊なラボ検査で区別できるのです。もっとリンパ球のことがよくわかるように単純化すると、リンパ球には2つのタイプがあります。B細胞とT細胞です。B細胞は抗体を分泌する細胞です。
またT細胞はB細胞が抗体を出す時を知らせるコントロール細胞です。

T細胞は指揮者です
T細胞と呼ばれるリンパ球は免疫系をコントロールする細胞で、たくさんの異なったタイプのT細胞があり、それぞれ違う働きをします。例えば、あるT細胞はB細胞にいつ抗体を出し、どれくらい出すかということを知らせますが、別のT細胞はB細胞に抗体の分泌を止めさせます。T細胞は、またある条件下では甲状腺細胞を含む他のタイプの細胞を殺す能力があり、キラー(殺し屋)細胞と呼ばれています。T細胞は甲状腺の病気を含むある種の病気の原因として非常に重要なものですが、その活性の測定や定量は非常に困難です。今日では、研究室でのみこれらの特殊な甲状腺T細胞を測定することができます。

では、抗体とは何でしょう?
T細胞とは対照的に、B細胞から分泌される抗体の測定はずっと簡単にできます。
抗体は大きな蛋白質(分子)で、すでにおなじみのものがたくさんあるはずです。
これは、私達の体をウィルスや細菌の攻撃から守るために使われるものです。例えば、インフルエンザのウイルスに対して免疫ができた場合、B細胞はインフルエンザウィルスに対する抗体を分泌します。後にインフルエンザにかかったとすると、抗体がインフルエンザウィルスを攻撃し、不活性化します。そして私達の健康が保たれるわけです。

体が自分自身の組織に対して抗体を作ったりしてはならないのは明らかですが、中には間違ってそうしたかのように、自分に対する抗体を作る人がいます。もし、自然が完全なものであれば、病気なんかないはずです。体が甲状腺を攻撃する抗体(抗甲状腺抗体)を作る時は、潜在的な、またはこれから発病する甲状腺の病気の徴候である可能性があります。しかし、血液中に測定できるほどの抗甲状腺抗体がある人の多くは、はっきりした甲状腺の病気を見つけることはできません。これは、B細胞から分泌される抗甲状腺抗体のタイプ、および特に量が非常に重要であるからです。抗甲状腺抗体がたくさんあれば、現在あるいは近い将来起こる甲状腺の病気があるという徴候です。それに対し、少量の抗甲状腺抗体にはあまり意味がないのが普通です。

抗甲状腺抗体は一体何を無効にしようとしているのでしょうか?
ウィルスや細菌の効力をなくす代わりに、抗甲状腺抗体は甲状腺の特定の場所に対して作用するようです。医師は、血液中に普通に見出される3種類の抗甲状腺抗体のどれかを測定するようにするでしょう。−サイログロブリン(Tg)に対する抗体、甲状腺ペルオキダーゼ(TPO)に対する抗体、あるいはTSHレセプター(TSHR)に対する抗体です。

では、これらの抗体について一つずつ順番に見てみましょう。おそらくこれらの甲状腺物質の複雑な名前にはなじみがないと思いますが、本当はとても単純なものです。しかし、甲状腺の機構の非常に重要な部分であります。

サイログロブリン(Tg)は大きな蛋白質で、その上に甲状腺ホルモン(T3とT4)が作られる足場の働きをするものです。

甲状腺ペルオキダーゼ(TPO)はポータブルエンジン(または酵素)で、サイログロブリンの足場を上げたり下げたりして、甲状腺ホルモンを作りやすくするものです。TgとTPOに対する抗体は、どちらも橋本甲状腺炎による甲状腺の破壊がある患者で、非常に高い量が見られます。そして、甲状腺内に生じる炎症による甲状腺の病気の原因の一つと思われます。

測定される3番目の抗体は、TSHレセプター(TSHR)に対するものです。TSHとは、甲状腺刺激ホルモンのことで、これは鼻の後ろの脳の基底部にある脳下垂体から分泌されます。TSHは甲状腺に甲状腺ホルモンを分泌するようにいうホルモンです。これは、TSHが甲状腺細胞の表面にあるTSHレセプターという機構にくっつくことで行われます。このTSHRに対する抗体は、このレセプターを塞いでしまい、TSHが作用できないようにすることがあり、その結果甲状腺の機能不全を起こします。
もっと普通に起こるのは、この抗体がTSHRの上にくっつき、甲状腺の細胞が大きくなるよう刺激し、もっとたくさんの甲状腺ホルモンを放出させることで、甲状腺の活動し過ぎの状態になることです(バセドウ病)。したがって、たくさんのバセドウ病患者に、TSHRに対する抗体が見つかります。これらの抗体が存在する時は、甲状腺に適切な治療を行わなければ、甲状腺が今、または間もなく活動し過ぎの状態になることを示しています。

医師は抗甲状腺抗体の測定をすべきでしょうか、それともお金の無駄でしょうか?
ある状況下では抗甲状腺抗体の測定が絶対に必要であることは間違いありません。そして、多くの患者で、それが良好な医療を行うための一部分となっています。甲状腺の抗体を測ることで、橋本病またはバセドウ病の確定診断ができます。そして、病気の活動性を具体的に示してくれます。

妊婦では、TPOの測定値が出産後3ヶ月から9ヶ月の間に起こってくる甲状腺の病気を予測する重要な予測因子となります。また、TSHR抗体の測定値は新生児のバセドウ病の有効な予測因子です。これはTSHR抗体は胎盤を通ることができ、赤ちゃんの甲状腺に影響するからです。

TSHR抗体の測定は、またバセドウ病の治療に使われる抗甲状腺剤(メチマゾールまたはプロピルチオウラシル)の中止時期を予測する重要な予測因子として役立ちます。TSHR抗体が存在すると、投薬を中止することで、通常は患者に甲状腺機能亢進症が再発します。

それでは、なぜ私に抗甲状腺抗体があるのですか?
ある種の人に抗甲状腺抗体と甲状腺の病気がなぜ起こるのかについては、わかっていません。橋本病とバセドウ病のどちらも家族内に伝わりますが、遺伝的関係があることははっきりしています。言い換えれば、あなたの遺伝子のためです。
これらの病気の発病時には、患者が相当な生活上のストレスを訴えることが多いのです。そして、ストレスは抗体の活性を高めるなど免疫系に影響を与えることが知られています。ウィルスもまた甲状腺の病気を起こす能力があると思われます。しかし、特別な甲状腺ウィルスは分離されていません。したがって、甲状腺−抗体関連の病気の原因については、現時点では医学的研究の大きな主題となっています。

まとめ
抗甲状腺抗体は、免疫系の基本的要素の一つであるBタイプのリンパ球により作られます。どうして患者に抗甲状腺抗体ができるのかまだわかっていませんが、その抗体が存在すると甲状腺の炎症を起こし、不活発な状態にすると思われます。抗甲状腺抗体はまた、甲状腺が過剰に甲状腺ホルモンを分泌する活動し過ぎの状態も起こすことがあります。血液中の抗甲状腺抗体は簡単に測定ができ、甲状腺の病気のマーカー(目印)や予測因子として有益なものです。もし、橋本病やバセドウ病に罹っていれば、これらの疾患のマーカーがどの程度循環血中にあるかを知ることが役立つと思われます。医師が血液中のこれらの抗体を測定した方がいいと考えているかどうかは、医師に尋ねるようにしてください。

Terry F. Davis医師はニューヨーク市マウントシナイ医科大学教授で、内分泌および代謝疾患科医長です。

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