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小児のバセドウ病に対する治療、特に放射性ヨード治療について[総説]
Scott A Rivkees, Charles Sklar and Michael Freemark
J Clin Endocrinol Metab 83: 3767-3776; 1998

小児も成人でも甲状腺機能亢進症の一番多い原因は、びまん性甲状腺腫、甲状腺機能亢進状態、眼症の特徴をもつバセドウ病である(1-4)。甲状腺ホルモン剤の飲み過ぎ、急性や亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎などの甲状腺機能亢進症は、小児でもみることがある(4)。しかし、これらの病気は甲状腺機能亢進状態は一過性であるのに対し、バセドウ病では甲状腺機能亢進症は持続する(4)。中毒性機能性腺腫や多発性中毒性甲状腺結節があると、小児の持続する甲状腺機能亢進症の原因となる(4)。しかしながら、中毒性機能性腺腫や多発性中毒性甲状腺結節は小児では希であり、触診や画像診断で鑑別できる(4)。バセドウ病ではTSHに働きの似ている自己抗体(TSAbs)が出現してきて、その抗体が甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンを過剰に作り、甲状腺機能亢進症になる。甲状腺機能亢進症を治療しないで放置しておくと、学童期や思春期の発育において身体的にも行動的にも悪影響を与えるし(1-4)、体重減少、多尿、多飲、動悸、骨が弱くなる、異常行動、知的行動障害などの症状が出現する(1-4)。バセドウ病は長びく病気であり、自然にはほとんど治らないので、小児や思春期の学童の正常な発育には、甲状腺機能亢進症の治療は必須なものである(1-4)

小児の治療に関しては、いろいろな意見がある。病気を完全に治す特別の方法もないし、それぞれの治療法にも欠点がある。抗甲状腺剤には副作用が多く、長期に服用しても再発が多い(2,5-8)。手術は高い寛解率を得ることができるが、副甲状腺機能低下症や反回神経麻痺による嗄声などの後遺症の危険がある(9)。放射線治療も高い寛解率を得ることができるが、小児や思春期の学童に対する放射線治療の長期の安全性は、まだ1,000人未満程度で評価されているにすぎない(6,15,17-23)。放射線治療後の小児への発癌性や遺伝的障害についても結論を引き延ばしている(24-28)

この総説では、小児バセドウ病治療の利点や危険性について述べたい。特に、小児バセドウ病に対する放射線治療の安全性について述べたい。

抗甲状腺剤
バセドウ病の薬物治療はAstwoodによって、1940年代前半に始められた(10)。現在の抗甲状腺剤治療の主流はプロピールチオウラシル(PTU)、メルカゾール、カルビマゾール<注釈:体内でメルカゾールに変換されます。日本にはありません>などのthionamide系薬物である。これらの薬物は甲状腺内のヨードの酸化や有機的結合を阻害して、甲状腺ホルモン産生を抑える(7,29,30)。PTUは半減期が短く(4〜6時間)、日に何回かの服用を要す(7,29,30)。反対に、メルカゾールは同量のPTUと比べると10倍以上の効き目があり、半減期も長い(12〜16時間)(7,29,30)。甲状腺機能亢進状態をコントロールする場合、PTUは8時間毎に投与されるが、メルカゾールは落ち着いた状態なら日に1〜2回の投与で十分である(31)

クスリが一番効いてくるのは飲み始めて、4〜6週間後である。それまでは、甲状腺機能亢進状態のコントロールはアテノロール<注釈:日本では商品名テノーミン>やプロプラノロール<注釈:日本では商品名インデラール>などのベータ遮断剤を使用する(7)。甲状腺機能亢進症はヨードカリウム(またはルゴール液)で、速やかにコントロールされる(7)。ヨードは甲状腺からの甲状腺ホルモンの分泌を抑え、尚かつ甲状腺内の血管を減少させて手術を受ける患者の準備のために有用である(7)
薬物による長期寛解率
成人の場合の寛解率は以前、大体40〜50%と報告されている(7)。しかし、最近は薬物療法の寛解率が低下してきており(33)、多分ヨード摂取量の増加に起因するのではないかと考えるれている<注釈:これは日本では当てはまらない。何故なら、日本は世界でも有数のヨード摂取の多い国なので>(34)。薬物療法の寛解率は甲状腺ホルモン剤の併用によっても変わらない(35)

小児の場合は、数年間抗甲状腺剤を服用した後の寛解率は一番良いところで50〜60%である(2,5)
そして普通は30〜40%以下である(2,6,8,36-39)。さらに、思春期以前と思春期を比べた場合、薬物中止後1年間の寛解率は思春期以前の小児では17%であるが、思春期の小児では30%である(39)

甲状腺刺激抗体(TSAb)のレベルが高いと抗甲状腺剤の効きが悪いという証拠が示されてきた(40,41)。成人の場合、バセドウ病診断時の甲状腺刺激抗体(TSAb)が高い例では、抗甲状腺剤を数年間服用後の寛解率は15%であるが、バセドウ病診断時の甲状腺刺激抗体(TSAb)が低い例では、抗甲状腺剤を数年間服用後の寛解率は50%である(40)。長期寛解率は治療開始4〜6ヶ月の抗甲状腺剤の反応で予測が付くと言われている(42,43)。甲状腺刺激抗体(TSAb)が高い例や短期治療後に甲状腺機能亢進症が持続している例では、長期寛解率は低い(40,42,43)
薬物治療の副作用
抗甲状腺剤の副作用は成人より小児の方が出やすい(32,44)そして副作用はアレルギー性のこともあるし中毒性(量に比例する)のこともある。希に、副作用が重篤になり死亡することもある(4,6)【表1】。現在までに、小児における抗甲状腺剤による重篤な副作用36例と死亡2例がFDAに報告されているが、これは少な目に報告されていると思われる(Malozowski, Sの私信)。報告(2,6,8,36-38)によれば、小児の抗甲状腺剤による副作用の頻度は、20〜30%である【表1】。これらの副作用のでた患者の1/3から1/4で、抗甲状腺剤の使用ができなくなる。残りの患者では、もう一方の抗甲状腺剤に変更することで副作用は良くなる。

軽度の白血球減少症(白血球数4,000以下)は甲状腺機能亢進症でよくみられる合併症であり、抗甲状腺剤の治療によりさらに減少することがある(45,46)。ほとんどの症例では、白血球減少症は一過性で感染の危険もない(46)。重症の白血球減少症(白血球数2,500以下)や顆粒球減少症(顆粒球1,000以下)は重篤な日和見感染を引き起こす可能性があり(46)、抗甲状腺剤は即中止すべきである。

甲状腺機能亢進症では、肝機能検査の異常がみられることがある(7,47,48)。しかしながら、治療開始時に肝機能が正常である患者の28%で、PTU治療中に肝機能に異常がでることがあるが、これは軽度で一過性である(45,47,49)。もっと重篤な薬剤性肝障害を起こすこともある。この場合は、肝臓由来の酵素が著明に増加し、肝臓組織が壊死を起こし希に死亡することもある(6,47,49,50)
薬剤性肝障害は治療中いつでも起こす可能性があるが、通常は治療開始2〜3ヶ月後に起こす(47,49,50)。メルカゾールは胆汁鬱滞型の肝障害が特徴的であるが、PTUは普通、肝細胞障害型である(47,49,50)。重篤な肝障害が出た場合は、抗甲状腺剤は即中止しなければならない。副腎皮質ホルモンの投与で肝障害からの回復を早めることができる。

抗甲状腺剤の皮膚への副作用には、全身の紅斑、丘疹、痒みを伴った発疹、蕁麻疹、血管浮腫などがみられる(46,51)。蕁麻疹はもう一方の抗甲状腺剤に変更することで軽減されるし、抗ヒスタミン剤の投与で治療できる(46,51)

発熱、リンパ節腫大、関節痛、関節炎なども抗甲状腺剤の副作用としてみられる(52)。希に、脾腫と抗核抗体陽性を伴う全身の血管炎を起こすこともある(52)。このような症例には、副腎皮質ホルモンが有効であることが分かっている(52)。他の希だが重篤な副作用として、ネフローゼ症候群、低トロンビン血症、再生不良性貧血などが報告されている(45)。これらの副作用がでたら、抗甲状腺剤治療は中止し、別の治療法に変更しなければならない。
甲状腺癌の危険性
甲状腺癌が一生のうちで起こる頻度は男性で400人に1人、女性で300人に1人である(53)。いくつかの研究では、バセドウ病患者は正常人や他の甲状腺疾患を持つ人に比べて甲状腺癌に罹りやすいと報告している(54,55)。バセドウ病の人が甲状腺癌になった場合は、バセドウ病を持たない人が甲状腺癌になった場合に比べて重篤になりやすいともいわれている(54,55)
甲状腺機能亢進症合同研究班(CTSG)は次のような発表をおこなった;10〜20年間以上(一生ではない)の観察期間中に、成人のバセドウ病で抗甲状腺剤治療を受けた患者では、甲状腺癌の発生頻度(観察期間の)は332人に1人で、これは131-I治療の5倍(1,783人に1人)、手術を受けた患者の8倍(2,820人に1人)の危険性がある(56)。甲状腺良性結節の頻度も、成人のバセドウ病で抗甲状腺剤治療を受けた患者では、76人に1人で、これは131-I治療の10倍(802人に1人)、手術を受けた患者の20倍(1,692人に1人)である(56)。これは、抗甲状腺剤治療そのものに原因があると考えるより、甲状腺組織の多さの問題と思われる。すなわち、手術や131-I治療を受けている患者では甲状腺組織が少ないので、腫瘍の頻度も低いと思われる。

手 術
甲状腺亜全摘術はバセドウ病の治療としては一番古い治療法で、この治療法を開発したKockerはその功績を讃えられ、1909年にノーベル医学賞を与えられた(7)。以前は成人も小児も甲状腺亜全摘術がなされてきたが(38,57)、甲状腺機能亢進症の再発を減らすために、最近では甲状腺全摘術の比率が増えてきている(58-60)。甲状腺亜全摘術と甲状腺全摘術は経験を要する手術である。術後の後遺症と術後再発は外科医の熟練度と経験に大きく左右される。甲状腺専門外科医への紹介が望ましい(4,8)
長期寛解率
甲状腺亜全摘術後、甲状腺機能亢進症の改善は小児も大人も約80%達成できるが、60%は甲状腺機能低下症に陥る(38,57)。甲状腺亜全摘術後、10〜15%で甲状腺機能亢進症が再発する(38,59)
それに比べ、甲状腺全摘術後に再発は3%以下であるが、ほぼ全員が甲状腺機能低下症に陥る(57-61)
後遺症について
術後の後遺症の発生率は、甲状腺亜全摘術後と甲状腺全摘術後では差がない(59)。甲状腺手術の後遺症に関する最も信頼性の高い研究は、1970年に行われた成人と小児を含めて24,108人に行われた甲状腺手術に基づくものである(9)。これらの患者数は、この年に米国で行われた甲状腺手術の1/3に相当すると推測される(9)。手術での死亡率は、大人で0.5%、小児で0.08%(1,000人に1人)であった(9)

最もよく起こる軽い後遺症は痛みと一過性の低カルシウム血症である(9)。低カルシウム血症は副甲状腺への血流の遮断やカルシウムの減った骨への急速なカルシウムの取り込みと関係あるかもしれない。もっと希な後遺症(1〜4%)は、術後出血、永続性副甲状腺機能低下症、声帯麻痺などである(9)。小児に対する甲状腺術後の後遺症の研究からは症例数がずっと少ないが(38,58,62)、後遺症の頻度は大人と同じである(38,58,62)【表2】

もっと多数の症例を対象とした甲状腺術後の後遺症の研究は、最近なされていない。麻酔、手術法、術後管理の進歩により術後の後遺症は減少していると思われる。しかしながら、アイソトープ治療が増えて、現在では手術は減っている。そのために、以前と比べて外科医は腕を磨きそしてそれを維持することが困難になってきた(63)

放射性ヨード治療
放射性ヨード治療は約60年前にマサチューセッツ総合病院で、初めてバセドウ病の患者に使用された(64,65)。現在までに200万人以上のバセドウ病患者が放射性ヨード治療を受けていると推定されており、この治療は放射性核種を使用する治療法のうちでも最もよく行われるものの一つになっている。バセドウ病患者に131-ヨード(131-I)の経口投与後に、放射線被曝の大部分は甲状腺にだけ限局される(66,67)。131-ヨードはβ線とγ線を出す。甲状腺濾胞細胞はβ線粒子により破壊される(66,67)。131-ヨードから出るβ線粒子は、1〜2mm飛ぶのみで131-ヨードを取り込んだ細胞を破壊し、隣接した細胞も破壊する(66,67)。放射性ヨード治療後の組織所見は細胞の腫脹、壊死、浮腫、白血球浸潤である(66,67)

131-ヨードの甲状腺への取り込みは、甲状腺の大きさと活動性に左右される。患者に投与される131-ヨードの量は甲状腺の大きさと131-ヨード摂取率から計算される『投与量(mCi)=(甲状腺1g当たりの放射性ヨードのμCi×推定甲状腺重量)/131-ヨードの24時間摂取率』(7,68-70)。例えば、この式に当てはめると甲状腺重量40g、131-ヨード摂取50%で甲状腺1g当たりの放射性ヨード200μCiを投与した場合、患者への投与量は16mCiとなる

甲状腺の大きさは臨床的には、正常甲状腺の大きさと比較して表現される(小児の場合は年令一歳につき0.5〜1.0g、成人は15〜20g)。さらに詳しく調べるときには超音波により甲状腺の大きさを算出する(71-73)。しかしながら、正確な甲状腺の大きさを算出し、放射性ヨード摂取率、放射性ヨードの半減期を測定して、正確な投与量を計算したとしても放射性ヨードに対する甲状腺の感受性は各自で違うために、治療効果は一定しない(74)。放射性ヨード投与量を決める場合は、通常は臨床的に甲状腺の大きさを測ってするやり方で十分である。

甲状腺を破壊するには、甲状腺への照射量は30,000〜40,000cGy(rads)を要する(75,76)。しかし、実際には甲状腺への照射量は10,000〜20,000cGyで行われており、その量で完全もしくは部分的な甲状腺組織の破壊が起こる(66,67,76)。甲状腺1gあたり150μCi(5.5メガベクレル(MBq)/g)の投与量は甲状腺に12000cGyの照射量に匹敵する(66,67)。胃、骨髄、肝臓、生殖器への被爆量はそれぞれ約14、6.8、4.8、2.5cGyである。全身の被爆量は約4.0cGyである(67,77)。131-ヨードの有効半減期は7日間である(67)。故に、5週間後には甲状腺内には投与した量の1%以内が留まるのみである(67)

放射性ヨード投与後4〜10日以内に、甲状腺濾胞細胞の破壊による甲状腺ホルモンの漏出のために血中甲状腺ホルモン値が高くなることがある(78)。この期間の甲状腺機能亢進症はベータ遮断剤にてコントロールできる(79,80)。ヨードカリウムやルゴール液がこの期間の甲状腺機能亢進症の症状を軽減し、放射性ヨード治療の効果に影響は与えない。治療後6〜8週で、甲状腺は縮小してきて、一過性の甲状腺機能低下症になる(7,81)。20%以上の患者で、甲状腺機能亢進症が2ヶ月以上続く;このような患者では、2回目の放射性ヨード治療が勧められる(7,10)
多くの病院では、最初の放射性ヨード治療から6ヶ月経たねば2回目の治療はしない。

小児のバセドウ病に対する放射性ヨード治療はいくつかの報告がある(6,15,17-23)。1歳児が放射性ヨード治療を受けた報告もある(22)。小児および思春期のバセドウ病患者の放射性ヨード投与量は甲状腺1g当たり100〜250μCiと報告されている(6,15,17-23)
長期寛解率
放射性ヨード投与量の多い方が放射性ヨード投与量の少ない方に比べて、長期寛解率が高い(7)。同じ量を投与しても、病院によって甲状腺機能低下症と甲状腺機能亢進症の比率がまちまちである(78)

成人バセドウ病患者で、少ない放射性ヨード投与量(50〜75μCi/g)で治療された場合、治療後1年しても30〜50%がまだ甲状腺機能亢進症である(82-85)。その後は、甲状腺機能亢進症の頻度は加速度的に減っていく(86)。少ない放射性ヨード投与量(50〜75μCi/g)で治療された場合、治療後1年の甲状腺機能低下症の頻度は7〜20%であるが、時間とともに頻度が高くなる(84,86)。対照的に、多い放射性ヨード投与量(150〜250μCi/g)で治療された場合、治療後1年の甲状腺機能亢進症の頻度は5〜10%のみであるが、甲状腺機能低下症の頻度は40〜80%である(7,56,77,87)

甲状腺重量1g当たり50〜100μCiの放射性ヨードで治療を受けた小児では、25〜40%が治療後数年経ってももだ甲状腺機能亢進症である(88)。対照的に、甲状腺重量1g当たり100〜200μCiの放射性ヨードで治療を受けた場合は一回の治療で、甲状腺機能亢進症が持続するのは5〜20%のみで60〜90%が甲状腺機能低下症に陥る(10,21,22,89)

放射性ヨード治療がうまくいくかどうかは、甲状腺の大きさと甲状腺刺激抗体(TSAb)の強さに依存する(90)。大きな甲状腺腫(80g以上)と甲状腺刺激抗体(TSAb)高値例では、甲状腺腫の小さい患者に比べて放射性ヨード治療が効きにくい(90-93)。甲状腺腫の大きな患者では放射性ヨード治療より、甲状腺全摘術の方が寛解率が高い。抗甲状腺剤治療をすると放射性ヨード治療の効きが悪いという報告もある(93-95)
副作用
放射性ヨード治療後の急性副作用の報告はあるにはあるが、頻度が低く記載も正確でない(7,78)【表3】。小児においては、バセドウ病に対する放射性ヨード治療後の急性副作用についての報告はほとんどない(6,15,17-23)

成人においては、放射性ヨード治療後の一過性の吐き気が報告されてきた。放射性甲状腺炎による甲状腺部の軽度の痛みは放射性ヨード治療後1〜3日経ってから起こる(7,78)。これらの副作用は自然に良くなる。痛いときに非ステロイド系鎮痛剤を使用すると、痛みは軽減する(7,78)。放射性ヨード治療後、甲状腺腫が大きい場合には希に著明な頸部腫脹や気管圧迫症状がみられることがある。このときは大量の副腎皮質ホルモン剤でコントロールできる(78)。放射性ヨード治療後の頸部腫脹は50,000cGy以上照射された場合に起こる;そのような投与量はバセドウ病の治療量としては多すぎる(96)。声帯麻痺も希に起こる(89,97)

希に、放射性ヨード治療後1〜14日してから甲状腺クリーゼが起こることがある(98-100)。この副作用は大変希である。あるセンターでは、7,000人の患者に放射性ヨード治療を行い甲状腺クリーゼは一人もいなかった(10)。重症の甲状腺機能亢進症や大きな甲状腺腫を持つ患者が、甲状腺クリーゼのリスクがある。このような場合には、抗甲状腺剤を使用して放射性ヨード治療前に、甲状腺内の甲状腺ホルモンを枯渇させておくことが必要である(7,100)。抗甲状腺剤は放射性ヨード治療の5〜7日前に中止する(7,100)
甲状腺眼症の悪化
バセドウ病の放射性ヨード治療と甲状腺眼症の悪化との関連が最近、議論の的である(101,102)
多数の症例を検討したいくつかの研究では、バセドウ病の放射性ヨード治療により甲状腺眼症の悪化はみられないと報告しているが(86,103-106)、バセドウ病の放射性ヨード治療後に甲状腺眼症が悪化すると報告している研究者もいる(107)。最近の15〜85歳までの成人を扱った前向き研究で、バセドウ病の放射性ヨード治療後2〜6ヶ月して15%の患者で甲状腺眼症が悪化することを報告している(108)。これらの甲状腺眼症の悪化した患者の70%は眼症の悪化は軽度で一過性であった。治療後1年目に5%の患者で甲状腺眼症の悪化がみられた(108)。対照的に、メルカゾールで治療した患者では甲状腺眼症の悪化は3%でみられたのみである(108)。眼窩への放射線照射と大量の副腎皮質ホルモン剤の治療が必要になるのは、放射性ヨード治療後の患者の5%、メルカゾール治療患者の1%である(108)

放射性ヨード治療後の甲状腺眼症の悪化や出現しやすい要因として、甲状腺眼症を既に持っていること、喫煙、放射性ヨード治療前のT3値高値、放射性ヨード治療後のTSH高値などが考えられている(109)。だから、特に喫煙している甲状腺眼症を持つバセドウ患者には放射性ヨード治療をしない医師もいる(109))。放射性ヨード治療前のT3値高値は放射性ヨード治療後の甲状腺眼症悪化のリスク要因なので、放射性ヨード治療前の抗甲状腺剤による治療で甲状腺ホルモン値を正常にすることで、甲状腺眼症の悪化を軽減できるかもしれない(109,110)。放射性ヨード治療後には、甲状腺ホルモン値とTSH値を定期的に測定すべきである。甲状腺眼症のリスクを軽減するために、早めに甲状腺ホルモン剤を開始する(109)

最近の研究で、放射性ヨード治療後3ヶ月間、副腎皮質ホルモン剤を服用することで甲状腺眼症の悪化や出現を予防できるという結果を報告している(108)。しかしながら、放射性ヨード治療後の長期間に亘る甲状腺眼症の悪化はめったに起こらないし予測もつかないので、ほとんどの小児では副腎皮質ホルモン剤の併用は推奨されない(108)。小児への長期間の副腎皮質ホルモン剤投与により体重増加、免疫抑制、成長障害などの副作用が出ることがある。一方、副腎皮質ホルモン剤は重症の甲状腺眼症の患者に対しては有効かもしれない。

大人と比べて、小児では重症の甲状腺眼症になることは希である(1,32,103)。眼球突出は普通、軽度であり、進行性でなく可逆性である(1,103)。バセドウ病に対して放射性ヨード治療を受けた87人の小児のうち、放射性ヨード治療後90%は眼症が改善し、7.5%は不変、3%が悪化した(22)。バセドウ病治療開始時に甲状腺眼症のあった45人の小児では、1年以上の抗甲状腺剤治療後、73%で眼症が改善し、眼症が悪化したのは2%だけである(2)。80人のバセドウ病小児に対して、甲状腺亜全摘術を行った場合は9%で眼症が悪化した(59)。それと対照的に、甲状腺全摘術を行った60人(75%)では、全員眼症は落ち着いていた(59)。このように、バセドウ病小児では、薬物治療、放射線治療、手術の後も眼症が悪化する頻度は大人と比べて低い。
副甲状腺機能の変化
バセドウ病に対する放射性ヨード治療で、副甲状腺にも140〜750cGyの被爆を受ける(111)。希に、放射性ヨード治療後に一過性の副甲状腺機能低下症になることがある(112,113)。この副作用は希で、一時的なものである(114)。反対に、原爆の被爆者などと同じように、副甲状腺への放射線被曝により副甲状腺機能亢進症になりやすいようである(115,116)。バセドウ病や甲状腺癌に対して放射性ヨード治療を受けた患者で、ときどき副甲状腺機能亢進症になったと報告されています(111,117)。ゆえに、バセドウ病に対して放射性ヨード治療を受けた患者では、5年毎に血清カルシウム値を測定すべきです(117)。しかしながら、性と年令をマッチさせたコントロールと比べて、放射性ヨード治療を受けた患者で副甲状腺機能亢進症の頻度が高いことはなかった(118)
甲状腺癌のリスク
小児時期に甲状腺への放射線被曝を受けた場合、甲状腺癌のリスクが増すことは約50年間認められてきた(119)。そこで、放射性ヨード治療の重大な関心事は甲状腺癌や他の部位の癌のリスクに関するものである。この関心事が60,000人以上の患者を長期間経過観察してきた真の目的である(56,120-123)。放射線外照射、診断量の131-I投与、環境因子としての放射性ヨード、γ線被爆の研究が放射線被曝と甲状腺癌のリスクに関する重要な情報を提供してくれる(26,28,124-128)。これらの研究で分かったことは、低から中程度の放射線外照射で甲状腺癌の頻度が増えてくるということです。反対に、甲状腺細胞が死滅するか分裂できないほどの大量外照射の場合は、甲状腺癌の危険は減ります(128,129)

放射性ヨード(131-I)を診断に使った場合、60μCiの131-Iを投与すると甲状腺への被爆量は、成人の場合6.5cGyである(130)。この投与量の131-Iにより甲状腺癌や甲状腺以外の癌の頻度が増したという証拠はない(130-133)。また、中国の一部の地方で高い環境放射線が感知されるところの女性住民に、甲状腺癌や甲状腺結節が多い事実もない(134)

対照的に、甲状腺に20〜200cGyの線量を外照射した場合、甲状腺腫瘍のできるリスクが増す(26-28)。X線やγ線の外照射を受けて5年以内の場合甲状腺癌のリスクは報告されていない(28)。放射線被曝を受けた患者の悪性腫瘍になる平均潜伏期間は10〜20年であるが、早い場合は5〜9年ででてくる(26-28)。放射線被曝後の甲状腺癌は85%以上が乳頭癌で、10%が濾胞癌、5%が髄様癌と未分化癌である(28)

日本での原爆の生存者では大気中での爆発によるx線やγ線の外照射による急性被爆後、甲状腺癌の頻度が増えた(127)。核兵器実験後にマーシャル諸島に降り注いだ131-Iや他の半減期の短い放射性ヨードのために、甲状腺への放射線被爆は成人で150cGy、小児で700〜1,400cGyと見積もられている(26,135)。この被爆により甲状腺の良性と悪性腫瘍の頻度が伴に3〜10倍に増えた(135)。しかし、甲状腺癌との関係は証明することはできなかった。この放射線被曝の場合は、甲状腺癌と131-Iとの関連は少ないと考えられた(128,135)(Boice, Jrとの私信より)。

チェルノブイリ原発事故では甲状腺癌の頻度が増えた(136-138)、 特に10歳以下の小児(124,139,140)で。甲状腺への被爆に関する他の研究(26,27)での長期の潜伏期と対照的に、チェルノブイリ原発事故では被爆後4年という短い期間で甲状腺癌が出ている(139)。この特異性は、ヨード欠乏地域であったこと、住民検診を積極的に行い早期に病気を発見したこと、131-Iや他の半減期の短い放射性ヨードの量が多かったことなどが関与しているのかもしれない(128)。この事故での甲状腺癌はほとんどが、乳頭癌である(139,140)

米国における30,650人を対象としたCTSGの疫学的調査(56)やスウェーデンの研究(16,121,141)などから、131-I(放射性ヨード)治療後の相対的な甲状腺癌の危険度について推測できる。成人のバセドウ病に対しての131-I(放射性ヨード)治療後(この治療量でも甲状腺にはかなりの放射線被曝を受ける)、甲状腺癌の頻度や甲状腺癌での死亡は増えない(56,121,141,160)

小児を含んだCTSGの疫学的調査の経過観察では低用量131-I(放射性ヨード)投与(50μCi/g;この量は甲状腺への被爆量は2,500cGyになる)で治療したあるセンターでは、甲状腺腺腫が30%の頻度でみられた(56,88)。小児に対してもっと多い131-I投与(100〜200μCi)を投与して治療した他のセンターでは、甲状腺腫瘍の頻度は増加していない(56)

小児および思春期児童に対する131-I(放射性ヨード)治療後の経過については他の報告も含めて約1,000人での報告があるのみである(6,15,17-23)。これらの研究の観察期間は5年未満から15年とまちまちであり、20年以上観察されている人は少数のみである。これらの研究では、甲状腺癌の頻度は増加していないと結論付けている。
甲状腺以外の悪性疾患
成人では甲状腺以外の悪性疾患における放射性ヨードの影響に関する報告が数編みられる。バセドウ病に対する131-I(放射性ヨード)治療後では、白血病の頻度は正常人と比べても同じである(16,121,123,141-143)。バセドウ病に対する131-I治療後に乳癌の頻度が少し増えるという報告がされたこともあるが、この増加は統計学的に有意ではなく、この報告を支持する論文もほとんどその後出ていない(125,144,145)。胃癌の頻度を例にとると、スウェーデンの研究ではバセドウ病に対する131-I(放射性ヨード)治療後に少しではあるが、統計的に有意に胃癌の頻度が増したと報告している(121)。重要なことは、最近のCTSGの研究ではバセドウ病に対する131-I(放射性ヨード)治療後には甲状腺以外の悪性疾患の頻度は増加しないと報告していることである(160)

バセドウ病小児に対する131-I(放射性ヨード)治療後に甲状腺以外の悪性疾患がどれくらい発生するかについてはまだ研究されていない。
発育期の小児は、バセドウ病の131-I(放射性ヨード)治療後に癌になりやすいのか?
甲状腺への放射線被曝後の甲状腺癌になる危険性は、大人や年長の小児と比べて年少の小児で高い(26-28,146)。チェルノブイリ原発事故後、事故の時1歳未満であった小児が一番甲状腺癌になりやすいことが分かった(139)。事故時に0から5歳であった場合には、甲状腺癌が多い(139)。事故時に6歳以上であった場合には、甲状腺癌より甲状腺良性結節の方が多く(139)、事故時に12歳の場合まで甲状腺癌の頻度は減っていく(139)。しかしながら、131-Iだけが放射線被曝の後遺症の原因かどうかは不明である(128,146)

外から甲状腺に放射線を照射した場合の研究では、20歳以上の成人においては甲状腺癌の頻度は増えないことが分かっている(27,28)。20歳未満の患者に対して外から甲状腺に放射線を照射した場合、年が若いほど甲状腺癌の頻度が増していく(26-28)。日本の原爆生存者の研究では、甲状腺癌のGy(グレイ)あたりの相対的リスクは被爆時の年令が0〜9歳、10〜19歳、20〜39歳、40歳以上でそれぞれ9.4、3.0、0.34、-0.23であった(27)(Ron Eとの私信)。頭部や頸部に放射線照射を受けた場合、甲状腺癌のGy(グレイ)あたりの相対的リスクは照射時の年令が0〜5歳、5〜10歳、10〜15歳でそれぞれ9.0、5.4、1.8であった(27)(Ron Eとの私信)。しかし、1〜15歳の間に頭部や頸部に放射線照射を受けた場合でも、甲状腺癌の発生頻度は極めて低い(年間10,000人につき1〜4人程度である)(27)

確かに年少の小児では、甲状腺への外照射にて甲状腺癌になりやすいのは分かっているが、バセドウ病の治療のために131-Iを投与された場合、甲状腺癌のリスクが高くなるかどうか知られていない(26,56)。放射性ヨード治療では、甲状腺細胞はほとんど破壊されるため、甲状腺に腫瘍ができる危険性が減少するのであろう。最近の超音波を使った研究では、放射性ヨード治療後1年の甲状腺の重量はほとんどの患者で90%以上縮小する(90)。放射性ヨード治療後の進行性の繊維化や細胞の破壊のために、残った甲状腺組織は進行性に減少していく(67)。小児では、放射性ヨード治療後の甲状腺重量の変化についての研究がなされていない。

放射性ヨード治療後に甲状腺組織が残っているということは、理論的には残った細胞から腫瘍が出てくる可能性がある。しかし、甲状腺細胞が破壊され、甲状腺重量が十分に縮小する量の放射性ヨードが投与されているので(66,76)、甲状腺癌のリスクは外から放射線照射したときと比べて低い。外から頭頸部へ放射線照射を受けた年少小児が甲状腺癌になりやすいことを考慮に入れれば、小児期にバセドウ病に対して放射性ヨード治療を受けた患者では、理論的には甲状腺癌のリスクが少し高いことが推測される。この甲状腺癌のリスクは5歳未満でバセドウ病に対して放射性ヨード治療を受けた場合が一番高く、それから放射性ヨード治療を受けた年令が20歳まで進行的に、甲状腺癌のリスクは減少する。

バセドウ病に対して放射性ヨード治療を小児期に受けたとき甲状腺癌のリスクはそんなに高くないという考えを支持する事実として、われわれは小児期に放射性ヨード治療を受けて甲状腺癌になった例をたったの4例しか知らない(5歳時に50μCi/g投与、9歳時に5.4mCi投与、11歳時に1.25mCi投与、16歳時に3.2mCi投与)(19,88,147-149)。この4人中3人では、低用量の放射性ヨード治療を受けている、そして残り一人は中等量の放射性ヨード治療である。前にも述べたように、少量の放射性ヨード治療は甲状腺結節や甲状腺癌の頻度を増やす(56)

甲状腺以外の悪性疾患に関しては、放射性ヨード治療を行った場合、全身の放射線被曝はmCiあたり0.45cGyである(67,150)。平均すると小児が放射性ヨード治療を受けた場合、全身には約4cGyの被爆を受けると見積もられる(67,150)。放射線被曝は唾液腺、胃、膀胱などのヨードを取り込みやすい臓器において少し多くなる(67,150)。しかし、たとえ多数の小児を対象に調べたとしても、そのような少量の被爆で上記臓器の癌の頻度が増えたとう事実を見出すのは困難であるし、もしも甲状腺以外の悪性疾患の頻度が増えたとしても、それは非常に低いものであろう(151)
将来生まれてくる子供への影響
バセドウ病に対する放射性ヨード治療で受ける生殖器への被爆は大体2.5cGyである。この被爆量はバリウムによる注腸検査や腎盂造影と同じである(152)。小児や思春期にバセドウ病に対する放射性ヨード治療を受けている約370人の患者から生まれた約500人の子供の経過が、いくつかの論文で記載されている(6,15,17,18,20-22)。小児や思春期に放射性ヨード治療を受けている患者から生まれた子供が正常者と比べて奇形児が多いということはない。小児期に80〜700mCiという大量の131-Iの投与を受けている77人の患者でも先天性の奇形の頻度は増えない(153)。さらに、放射性ヨード治療とは比べものにならないほどの大量の放射線被曝を生殖器に受けている広島や長崎の生存者でも、先天的異常の頻度は正常者と同じである(154)
放射性ヨード治療を受けた小児の長期経過観察
実験による研究から、放射線被曝を受けた甲状腺はTSH値の増加により甲状腺腫瘍ができやすくなることが分かってきた(8,10,77)。ゆえに、放射性ヨード治療を受けた患者に対してTSH増加や甲状腺機能低下症を防止する目的で甲状腺ホルモン剤(チラージンS)を投与することが提唱されている(77)。魅力ある考えだが、ヒトにおいてこの治療が有効であるかどかは不明である。

バセドウ病患者では、他の甲状腺疾患や正常者と比べて甲状腺腫瘍の頻度が高いと報告されている(55)。放射性ヨード治療や手術を受けた患者より抗甲状腺剤で治療を受けた患者の方が、甲状腺癌の頻度は高い(26)。バセドウ病の既往のある患者では全員、定期的な甲状腺の検査が必要である。
触診可能な甲状腺結節があれば、甲状腺癌を否定するために穿刺吸引細胞診か外科的切除を要す。
放射線被曝による甲状腺腫瘍は、典型的には被爆して10〜20年経ってから出てくるので(26,56)、小児期を越えた長期の経過観察が必要である。

CTSGの研究によれば、成人では10〜20年間の観察期間に甲状腺癌は2,000人に1人の割合で出てくる(56)。甲状腺への放射線被曝による甲状腺癌はほとんどが乳頭癌(90%)である。この癌は甲状腺摘除術とその後の放射性ヨード治療により治療できる(156-158)。小児の乳頭癌の予後は極めて良好で、この癌で死亡することは大変希である(158)。小児期にバセドウ病に対して放射性ヨード治療を受けた後に甲状腺癌になることは希であり、もし甲状腺癌になっても予後は大変良い。

概 要
治療の簡易性、副作用、癌のリスク、長期寛解率などを考慮に入れて、バセドウ病の治療法を決定する。小児に対するバセドウ病の薬物治療は30〜40%の低い寛解率と重篤なものは希であるが20〜30%の高い副作用が特徴である(2,5,6,8,37)。小児バセドウ病に対しては大体どの病院でも、まず薬物療法が最初の治療である(32)。特に、甲状腺刺激抗体(TSAb)が低い例や甲状腺腫の小さい例で薬物療法は適している(40,41)。抗甲状腺剤治療は放射性ヨード治療や手術などを行う前の甲状腺機能を正常にするときや放射性ヨード治療を受けるのに安全な年令に達するまでなどに有用である。抗甲状腺剤治療は、また希ではあるが甲状腺眼症を持つ小児に対しては放射性ヨード治療より望ましい。

薬物治療とは対照的に、手術は素晴らしい寛解率(90%)であり、甲状腺機能亢進状態を迅速に改善できる。甲状腺全摘術は手技が難しく、手術によるリスクを伴う。例えば1,000人の小児に甲状腺全摘術を行った場合、約1人が死亡する(9)。懸念されることは、ここ数十年の間に熟練した甲状腺専門外科医が減ってきているという事実である(63)。薬物の副作用の出た患者や薬物治療で長期寛解の得られない患者などが、放射性ヨード治療を望まないとき、手術は有用な治療法である。手術は80g以上の大きな甲状腺腫を持つ場合に、適しているかもしれない。手術は甲状腺眼症があり抗甲状腺剤で長期寛解に持っていけない患者に対しても考慮すべきである(109)

放射性ヨード治療は普通、90%以上の寛解率である。放射性ヨード治療はバセドウ病の治療の中で一番簡単で費用も少なくて済む治療であり(159)、急性の副作用を起こすことは希である(124)。副作用としては、一部の患者で甲状腺眼症の悪化がみられることで、特にたばこを吸う人でこの副作用が出やすい(108)。十分な131-Iで放射性ヨード治療を受けた小児バセドウ病患者の研究からは、甲状腺腫瘍の頻度は増えないことが分かっている(6,15,17-23)。しかし、数千人の小児バセドウ病患者が放射性ヨード治療を受けているに過ぎずまた全員がちゃんと経過観察を受けているわけではないので、現時点では、放射性ヨード治療は少なくとも小児バセドウ病患者において甲状腺癌のリスクは低いであろうと結論するくらいしかできない。放射性ヨード治療を受けた小児バセドウ病患者における甲状腺腫瘍の真の頻度を決めるためには、もっと多数例の長期観察を要する。

1歳の乳児がバセドウ病の治療のために放射性ヨード治療を受けてきた(22)。我々には何歳以下の小児には多めの131-Iによる放射性ヨード治療を避けるべきなのかは分からない。放射線を外から被爆した場合には、5歳以下の小児で一番甲状腺癌のリスクが高く、被爆した年令が進むにつれて甲状腺癌のリスクは減っていく(27,28)。ゆえに、バセドウ病治療のために放射性ヨード治療後に甲状腺組織が残っている場合には、甲状腺癌の頻度は少し高くなるかもしれない。現時点では、5歳以下の小児にはバセドウ病治療のために放射性ヨード治療は避けていた方が賢明であるかもしれない。幸いなことに、小児期にバセドウ病に対して放射性ヨード治療を受けた後、甲状腺癌になったとしても、予後は大変良い。甲状腺組織を破壊するために多めの131-Iを投与すると(150〜200μCi/g甲状腺組織; 5.5〜7.4MBq/g; 12,000〜16,000cGy/g)、放射線被曝による甲状腺腫瘍のリスクは減る。当然の事ながら、小児でも少ない131-Iを投与するより上記の量を投与することが望ましい。

バセドウ病を持つ小児患者の治療法の選択は、しばしば難しく患者や患者の家族の希望が最優先される。放射性ヨード治療後に甲状腺癌になる可能性が低いながらもあるということは、抗甲状腺剤治療の副作用や手術の合併症と伴にちゃんと説明しておくべきである。患者や家族が治療法を決めるときの助けになるので、それぞれの治療法の利点と欠点について主治医とよく相談することは必要である。最後に、バセドウ病という病気はどの治療法でも避けられないリスクはあることは、患者にしっかり説明しなければならない。

まとめ
  1. 小児バセドウ病患者に対しては、放射性ヨード治療は簡単で効果的な治療法である。
  2. 放射性ヨード治療の効果は投与量に依存する。150〜200μCi/gを投与した場合、寛解率は90%以上である。患者の85〜90%では、一回の投与で治せる。
  3. バセドウ病患者は正常人と比べて、甲状腺癌になるリスクが高い。甲状腺癌になるリスクは放射性ヨード治療や手術で治療を受けた患者より、抗甲状腺剤で治療した患者において高い。これは、放射性ヨード治療や手術で治療を受けた患者より抗甲状腺剤で治療した患者の方が甲状腺組織が多いことと関係しているかもしれない。
  4. 放射性ヨード治療を受けた小児バセドウ病患者における甲状腺癌のリスクは分かっていない。放射線の外照射を受けた年少小児において、甲状腺癌の頻度が高いことを考慮に入れると、我々は放射性ヨード治療を受けた年少小児バセドウ病患者において、甲状腺癌のリスクが少し高くなると推定する。この理論的なリスクは放射性ヨード治療を受けたときの年令が5歳以下の小児で、一番高いと考えられる。そして、放射性ヨード治療を受けたときの年令が5〜10歳、10〜20歳と大きくなるにつれて甲状腺癌のリスクはどんどん減っていく。
  5. 小児バセドウ病患者に対しては、残った甲状腺組織を最小にし、甲状腺腫瘍のリスクを減少させるために、多めの131-Iを投与すべきである(150〜200μCi/g甲状腺組織; 5.5〜7.4MBq/g; 12,000〜16,000cGy/g)。放射性ヨード治療後、甲状腺機能低下症治療のためと血清TSHを増加させないために甲状腺ホルモン剤による治療を行うべきである。
  6. 小児期に放射性ヨード治療を受けた患者や生殖器に放射線被曝を受けた患者が妊娠出産しても、子供に先天的異常が起こるという証拠はない。
  7. 小児に対する抗甲状腺剤治療は長期服用しても、長期寛解率が30〜40%以下と低く、重篤なことは少ないが副作用が20〜30%と高いのが特徴である。薬物治療で治りやすいのは甲状腺刺激抗体(TSAb)が低値であるときや短期の薬物治療で寛解になる例である。
  8. 望ましい手術法は、熟練した甲状腺専門外科医による甲状腺全摘術である。甲状腺全摘術の場合は寛解率は90%であり、合併症は1〜5%、死亡率は0.08%である。80g以上の大きな甲状腺腫の場合には、薬物治療や放射性ヨード治療に比べて寛解率は高い。
  9. バセドウ病の治療を受けた患者は全員、注意深い経過観察が必要であり、年一回の甲状腺の検査を要する。新しく出てきた甲状腺結節は生検するか切除すべきである。放射線被曝後に出てくる甲状腺癌はほとんどが乳頭癌であり、この癌は検査にて診断が付けやすく、予後が大変よい。

. Dr.Tajiri's comment . .
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小児のバセドウ病は日常臨床でも、お目にかかることは少なく珍しい。しかし、印象的には大人より薬物療法に抵抗性があると感じていたが、この総説を読んで、納得できた。米国では、小児でも積極的に放射性ヨード治療を行っているのに驚いた。米国の小児バセドウ病の治療に対する考え方が分かり、大変興味深かった。

2〜3、気になるところがあったので、指摘したい。
  1. 抗甲状腺剤による副作用のところで、顆粒球減少症でも顆粒球数が1000/mm3以下程度では、感染の危険はないと思う。顆粒球数が100/mm3以下になると感染の危険性が高くなります。これはわたしたちの論文を参考にしていただきたいと思います(Arch Intern Med. 1990; 150: 621-624)。ただ、大人と小児では状況が異なるのかもしれませんが。
  2. 放射性ヨード治療前に抗甲状腺剤を使用すると、放射性ヨード治療の効果が悪くなると記載されているが、実際にはそのようなことはないと思う。
日本に目を向けると、別府野口病院の村上信夫先生が小児バセドウ病の治療について報告されている(内分泌外科:4巻、287〜291頁、1987年)。11歳以下で薬物療法を継続できた22人中、長期寛解例は7人(32%)とこの総説で述べているように低かった。対照的に12歳以下(7〜12歳)で手術を受けた64人中、甲状腺機能正常44人(69%)、甲状腺機能低下症11人(17%)、再発9人(14%)と良好な成績である。全員が、亜全摘術であることを考えると素晴らしい治療成績であると思われる。当然のことながら、この研究では放射性ヨード治療を受けた患者はいない。
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参考文献]・[もどる