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バセドウ病:抗甲状腺剤、手術あるいは放射性ヨードによる治療…前向き、無作為試験
OVE TORRING, LEIF TALLSTADT, GORAN WALLIN, GORAN LUNDELL, JAN-GUSTAF LJUNGGREN, ADAM TAUBE, MARIA SAAF, BERTIL HAMBERGER, および甲状腺研究グループ
カロリンスカ病院: 内分泌病科(O.T., M.S.), 外科(G.W., B.H.), 一般腫瘍科および放射線科(G.L.)
ハディンゲ大学病院: 眼科(L.T.)
ストックホルム、セントゲラン病院: 内科(J.-G.L.)
スウェーデン、ウプサラ大学: 統計学科(A.T.)
J Clin Endocrinol Metab 81: 2986-2993, 1996

まとめ

3種類の一般的治療法の効果とリスクを分析するため、バセドウ病患者179名を次のように無作為に割当てた。A]20〜34歳(若年の成人患者)の患者60名は18ヶ月間の抗甲状腺剤投与(薬物治療)、または甲状腺亜全摘術(手術)を受けた。B]35〜55歳の119名は(年輩の成人患者)薬物治療または手術、あるいは放射性ヨード(ヨード-131)治療を受けた。フォローアップ期間は最低48ヶ月とした。

抗甲状腺剤、手術、あるいは放射性ヨード治療で、6週間以内に甲状腺ホルモンレベルは正常になった。再発のリスクは、薬物治療を受けた若年患者と年輩の患者がもっとも高く(42%対34%)、次いで放射性ヨード治療を受けた者(21%)<注釈:一回の放射性ヨード治療で治らなかったもので、2回目の治療で全員治っています。これは再発ではなく、一回目の投与量が足りなかっただけです>、手術で治療を受けた若年患者と年輩の患者(3%対8%)となっていた。薬物治療終了時にTSHレセプター抗体が上がっているか、薬物治療または手術の後にTSHレセプター抗体が上がっている場合は、再発の可能性が高くなっていた。眼症の発症や悪化は再発とは関係なく、その逆も同じであった。全グループの被験者の90%が受けた治療に満足していた。治療開始後、最初の2年間にバセドウ病あるいはその他の病気による欠勤には有意な差が見られなかった。

血清T3レベルが高い患者は眼症のリスクが高く、特に放射性ヨード治療を受けた場合に眼症のリスクが高くなっている。また、抗甲状腺剤による治療後に再発の頻度が比較的高いことは、バセドウ病の治療を選択する際に考慮すべき重要なファクターである。

はじめに

バセドウ病に対しては、3種類の治療法が一般に使われている。抗甲状腺剤、手術、そして放射性ヨード治療である。バセドウ病の治療方針は、同一国内でも各国間でも相当な違いがある(1-5)。アメリカの甲状腺専門医の間では、中等度の甲状腺機能亢進症とびまん性甲状腺腫のある43歳の女性に対し、第1に選択される治療が抗甲状腺剤30%、手術1%、放射性ヨード治療69%となっている。ヨーロッパの専門医の間でこれに対応する数字は77%(抗甲状腺剤)、1%(手術)、22%(放射性ヨード治療)となっている(1,2)。日本では、典型的な中等度の合併症のないバセドウ病患者に対する数字は88%(抗甲状腺剤)、1%(手術)、11%(放射性ヨード治療)となっている(5)。これらの違いは様々な地域で疫学的な差があり、治療を選択する際に医師が多くのファクターを考慮に入れる必要があるためである。そのようなファクターには患者の年令や好み、病気のひどさ、甲状腺のサイズ、その地域の伝統、および人的資源などがある。

女性では甲状腺機能亢進症の罹患率が2%となっているので、各治療の利点やリスクは重要である(6,7)。3種類の治療法を全体の成績や合併症と比較した比較対照試験が今までに発表されていないので、1983年から1990年の間に179名の患者を無作為に募り、前向き研究を実施した。先に、治療前の血清総T3レベルが高く、放射性ヨード治療を受けた患者では2年間のフォローアップ期間中にバセドウ病眼症が起きたり、悪化したりするリスクが高いことを報告した(8)。現在まで、各患者を最低4年間観察してきており、ここで3種類の治療法の成績を、受けた治療に対する患者自身の評価に基づいた生活の質の測定値を含めて提示する。

対象と方法

1983年11月から1990年6月の間に当施設に紹介されてきた20歳から55歳のバセドウ病患者で、過去に甲状腺疾患の病歴のない患者全員にこの試験参入のための診察を行なった。

対象と研究方法
  • 若年成人
    20歳〜34歳までの患者を抗甲状腺剤と甲状腺ホルモン剤(T4)による併用治療(薬物治療)、あるいは甲状腺亜全摘した後、甲状腺ホルモン剤(T4)による治療(手術)に振り分けた。
  • 年輩の成人
    35歳〜55歳の患者には第3の選択肢として放射性ヨード治療を加えた。我々は35歳未満の患者に対してルーチンに放射性ヨード治療は行なっていない。
患者を次のように無作為化した。各患者を年齢グループごとに作成した2種類のリストを使って連続的にそれぞれの治療グループにランダムな順序で振り分けたが、振り分けられる治療グループの大きさが同じになるようバランスをとった。このリストは試験期間中を通じて臨床担当医が見ることができないようにし、無作為な振り分けは電話を通じて行なった。1994年5月中に、本研究に協力することに同意した179名の患者は、治療開始から最低48ヶ月(48ヶ月から121ヶ月)のフォローアップを受けていた。

バセドウ病の診断には次の基準を使用した。A]甲状腺機能亢進症の症状がある、B]甲状腺に結節がない、C]血清総T4と遊離T4および/または総T3レベルの上昇がある、D]血清T4レベルが150〜180nmol/Lの間、あるいはT3レベルが2.5〜3.5nmol/Lの間であれば、TRH検査によって診断の裏付けを取った、E]さらに、患者全員にヨード-131の甲状腺摂取率試験を行い、抑制されておらず、甲状腺スキャン上でびまん性のヨード-131取り込みパターンであることを確認した。また、放射性ヨード治療の1回投与線量で患者が甲状腺正常状態または甲状腺機能低下症になるような甲状腺のサイズであることも確認した。

無作為な振り分けの前に患者全員が臨床診察と血液検査を受けた。全観察期間中を通じて同じ眼科医が患者全員の眼科的診察を行なった。

治療と経過観察
薬物治療
1日4回、10ミリグラムずつのメチマゾール<注釈:日本ではメルカゾール>を投与した(1日40ミリグラム<注釈:メルカゾール8錠>)。抗甲状腺剤投与開始後、4週間して、1日0.1〜0.3mg(平均0.17mg/日<注釈:チラージンS(50)2錠〜6錠>)のT4<注釈:日本ではチラージンS>を加えた。18ヶ月後に抗甲状腺剤とT4を同時に中止した。禁忌でなければ、患者が甲状腺機能正常になるまで最初に20〜60mgのプロプラノロール<注釈:日本ではインデラール>を1日3〜4回または1日50〜300mgのメトプロロール<注釈:日本ではセロケンまたはロプレソール>を分服で投与した。メチマゾールで副作用が出た場合は、プロピルチオウラシルに変えた(1回100mg:1日4回)。治療開始後、最初の1年間は、最初の2ヶ月は月1回、その後は3ヶ月毎に患者の診察を行なった。治療中止後、最初の1年間は年2回、その後は最低年1回患者のフォローアップを行なった。
手 術
手術前に最低40mgのプロプラノロール<注釈:β-遮断剤>を1日3,4回、またはそれに匹敵する量のメトプロロールを患者に投与した。患者は手術の前日に入院させた。
標準的な方法は、全身麻酔で甲状腺の各葉をおよそ1g以下残す、甲状腺亜全摘術であった。全症例で、反回神経を確認し、上喉頭神経の外側枝の領域は切離しなかった。副甲状腺には留意したが、捜すことはしなかった。組織学的検査では、甲状腺炎と分類された甲状腺の標本は一つもなく、悪性の徴候がある標本もなかった。
手術後、β-遮断剤の経口投与による治療を続けた。脈拍数が100/分を超える場合は、1mgのプロプラノロールを静注した。術後の甲状腺機能低下症の発症を防ぐため、術後4日目に退院する前(平均:術後甲状腺機能低下症の発症頻度は1日目で5%:8日目で95%である)に0.1〜0.2mgのT4<注釈:チラーヂンS(50)として2〜4錠>、投与を患者全員で開始した。術後5週、3、6、9、12ヶ月で患者のフォローアップを外来にて行い、その後は最低年1回のフォローアップを行なった。
ヨード-131
甲状腺のサイズ、24時間ヨード-131摂取率、および測定した甲状腺内のアイソトープ半減期に基づいたヨード-131の1回経口有効線量を投与した(9)。有効線量は甲状腺に120グレイ<注釈:1グレイ=100ラッド:かなり大量の投与量です。最初から甲状腺機能低下症にする目的の量です。因みに、わたしの平均投与線量は65グレイです>が照射されるように計算した。薬物治療の患者に投与されたのと同じ用量のプロプラノロールまたはメトプロロールも患者全員に投与した。治療後6週と10週で患者を診察し、10週目には甲状腺の24時間ヨード-131摂取率も測定した。TSHが上昇し、および/またはフリーT4、T4あるいはT3が基準範囲の下限より下に下がった患者は直ちに甲状腺機能低下症であるとみなして、L-T4<注釈:チラーヂンS>治療を開始した。10週目に甲状腺正常状態であれば、最初の1年は3ヶ月毎に、2年目は年2回、その後は年1回のフォローアップを行なった。
フォローアップ
治療を行なった診療科で診察を実施した。これには臨床診察と血液検査を含めた。来院の都度、体重と眼球突出の程度、患者が報告する眼症状の訴えを記録した。さらに、内科治療と外科治療を受けた患者の血清T3、T4、遊離T4、TSHおよびTSHレセプター抗体(TRab)濃度を測定し、外科治療を受けた患者ではヘモグロビンと血清カルシウムの測定も行なった。

検査法について
検査のパラメーターを以前に述べたように作成した(8)。基準範囲は次のとおりである。血清T3:1.1〜2.5nmol/L、T4:75〜150nmol/L、遊離T4:9〜21pmol/L、TSH:0.1〜4.5mU/LおよびTrab:10%未満。

患者の治療評価
患者の病気や治療期間の見解も、治療開始後少なくとも3年目のフォローアップ時に各患者に送ったアンケートを元に記録した。治療開始日から2年後までの全患者の欠勤の統計を、傷病手当だけでなく、1〜2日以上の欠勤も含めてすべてスウェーデン社会保険庁から入手した。

統計学的分析
【表1】の統計学的分析は、治療方針の意図に基づいた179名の患者全員のものである。残りのデータ分析は本文に別途記載がない限り、実際に治療を受けた患者のみからなるものである。分析はカイ二乗分析、Fisher's exact検定、ロジスチックおよび相対危険度回帰分析を使用した。

結 果

治療とフォローアップの間、薬物治療を受けた若年成人患者と年輩の成人患者の間や外科的治療を受けた若年患者と年輩の患者の間には血清T3、T4、フリーT4、およびTRabレベルに有意な差は認められなかった。したがって、薬物治療を受けた若年患者と年輩の患者のT3値は、外科的治療を受けた若年患者と年輩の患者のデータと一緒に【図1】に載せた。放射性ヨードで治療を受けたグループでは、最初の1年間は血清T3値にいくぶん個人差が大きかったが、3つの治療グループすべてで平均値は6週間以内に基準範囲になり(血清T4レベルがそうであったように)、4年間のフォローアップ期間中を通じて基準範囲内に収まっていた【図1】

血清T4レベルは、他のグループに比べ放射性ヨードで治療したグループで10週後に有意に低かった(p<0.001)が、それでも基準範囲内であった【図1】。平均フリーT4の血清レベルは、3つの治療グループすべてでT4投与開始時から試験期間中を通じてわずかに正常基準値を上回っていた。

平均TRab血清レベルは、薬物治療グループで治療開始後から下がりつづけ、18ヶ月後に薬剤を中止した時には正常基準値付近になっていた。薬物治療を受けた若年患者と年輩の患者だけでなく、外科的治療を受けた若年患者と年輩の患者のTRab値も【図2】に載せた。外科治療グループでは同様のTRabパターンが認められた。しかし、放射性ヨード治療グループでは、有意な増加が見られ、治療後2ヶ月でピークに達し、フォローアップ期間中を通じて平均レベルが正常基準範囲を超えたままであった。ただ、T3の平均値は若年患者グループの方が年輩の患者グループより幾分高かった。データは【表1】に示した。

フォローアップ中に、放射性ヨードで治療した2名の患者が治療後7ヶ月と42ヶ月に眼症を発症した。放射性ヨードで治療したグループでは、甲状腺眼症の発症または悪化と甲状腺機能低下症の生化学的証拠との間に関連性はなかった。したがって、甲状腺眼症のない患者では、甲状腺眼症のある患者よりもTSHの平均値と値の範囲が高く、フリーT4とT3は低くなっていた【表2】

グループ間で喫煙者の数と非喫煙者の数には有意な差がなかった(喫煙者/非喫煙者/不明:薬物治療を受けた若年成人患者→14/14/2、外科的治療を受けた若年成人患者→18/12/0、内科的に治療を受けた年輩の成人患者→18/22/1、外科的治療を受けた年輩の成人患者→19/18/0、放射性ヨードで治療を受けた年輩の成人患者→23/17/1)。

患者の治療評価
【表3】に示したとおり、ほぼ全員の患者が自分が受けた治療に満足していた<注釈:治療は医師が無作為に決めたものである。しかし、患者はその治療法に対して同意しているので、患者が治療法を最終的には決定しているとみなすべきであろう>。放射性ヨードで治療を受けたグループは、他のグループより友人に同じ治療を勧める者が多かった。手術を受けた若年成人患者では、病気の再発が主な失望事項とみなされていたが、放射性ヨード治療グループでは再発による失望の度合いがもっとも小さかった。記憶のある患者の中で、薬物治療(14例)または放射性ヨード治療(9例)を受けた患者よりも、外科的治療(30例)を受けた患者の方に、治療後3ヶ月後よりも、3ヶ月以内によくなったと感じた者の数が有意に多かった(手術23例対薬物治療27例および放射性ヨード治療21例:p=0.025、カイ二乗検定による)。3つの治療グループすべてで、治療後1年以内に回復したと感じない患者の割合は驚くほど高かった。そして、多くは3年以上経ってもまだ回復したとは感じていないのである。いつ治ったと感じたかを覚えていない患者の数は3つのグループ間で差はなかった。

病気による欠勤
本研究に協力していただいた95%の患者で、バセドウ病やその他の病気のために仕事を休んで家にいた日数のデータを入手した。そして、5つのグループ間で有意な差はなかった。治療開始後、最初の18ヶ月間対それ以降の6ヶ月間の値(平均±標準偏差)は次のとおりである。薬物治療を受けた若年成人患者→71±21日対12±4日、外科的治療を受けた若年成人患者→65±15日対10±3日、薬物治療を受けた年輩の成人患者→62±10日対10±4日、外科的治療を受けた年輩の成人患者→75±12日対10±3日、放射性ヨード治療を受けたグループ→74±12日対9±3日であった。

3つの治療法から得られた特定の成績
薬物治療グループ
71名の患者(若年患者30名と年輩の患者41名)が無作為に抗甲状腺剤とT4の併用治療に振り分けられた【図3】。2名は治療に従わず、1名は誤って無作為化されていた。残り68名の患者の中で、ほとんどはメチマゾール<注釈:日本ではメルカゾール>で誘発されたものと思われるが、全身性の可逆性副作用が11名に見られた(16%)。このうち8名は皮膚の発疹で、2名は関節痛、1名は発熱と痙攣であった。このため、全員がプロピルチオウラシル<注釈:日本ではプロパジールまたはチウラジール>に切り替えた。11名の患者のうち4名がプロピルチオウラシルに対しても同じ副作用が出て、薬物治療を中止した【図3】。4名の患者のうち1名は手術を受け、2名は放射性ヨード治療を受けたが、1名はそれ以上の治療を受けることなく、8ヶ月後には甲状腺正常状態を保っていた。

68名の患者のうち4名(6%)は(各年齢グループから2名ずつであるが)メチマゾールの用量を1日60mgまで、あるいはプロピルチオウラシルの用量を1日600mgまで増やしても、甲状腺正常状態にはならなかった【図3】

薬剤の中止後、薬物治療を受けた若年成人患者24名のうち10名(42%)が平均15ヶ月以内(2週間から57ヶ月)に、また薬物治療を受けた年輩の成人患者35名のうち12名(34%)が平均13ヶ月以内(1〜33ヶ月)に再発した。薬物治療を受けた若年成人患者のうち再発した7名は手術を受け、3名は放射性ヨード治療を受けた。薬物治療を受けた年輩の成人患者のうち再発した2名は術を受け、8名は放射性ヨード治療を受けたが、2名は再度薬剤治療を受けることになった。

治療中止後の再発の可能性は、相対危険率回帰分析によれば、どちらの年齢グループでも治療前のTRab値が高いこととは無関係であった(薬物治療を受けた若年成人患者でp=0.26、薬物治療を受けた年輩の成人患者でp=0.73、2つの年齢グループを合わせた場合p=0.21)。

甲状腺機能亢進症が再発した59名の患者は薬物治療の末期にTRabレベルが高かった【表4】。さらに、薬物治療を受けた若年成人患者と年輩の患者とを合わせると、治療中止後、再発する前にTRabレベル増加が22例のうち12例(55%)に見られたが、これに比べ再発しなかった患者では37例のうち4例(9%)にTRabの増加が見られたのみであった(p<0.001)。

再発の可能性は、2つの年齢グループを合わせた場合、治療前の血清T3レベル(p=0.021)とT4レベル(p=0.007)、および男性であること(p=0.038)には正相関していたが、フリーT4レベル(p=0.1)とは相関がなかった(相対危険率回帰分析)。年齢、T3/T4比、無作為化の時点での眼症の存在、喫煙の習慣、あるいは穿刺吸引細胞診でのリンパ球の有無では、甲状腺機能亢進症の再発に対する予測値を示すことはできなかった。さらに、異なったグループでは、再発と治療前の血清T3、T4あるいはフリーT4が相関していなかった。眼症の悪化や発症は、甲状腺機能亢進症が再発した後のどの患者にも見られなかった。

アンケートによれば、薬物治療を受けた若年成人患者の80%と年輩の成人患者の86%が、1日4回抗甲状腺剤を飲むのに問題はないと言っていた。その上、薬物治療を受けた若年成人患者の78%と年輩の成人患者の94%が18ヶ月の治療に関しては、特に問題はないと言っていた。
外科的治療グループ
若年成人患者30名が無作為に手術に振り分けられたが、そのうち2名は抗甲状腺剤で治療を開始し、1名は手術を受けなかった。年輩の成人患者37名が無作為に手術に振り分けられたが、全員手術を受けた【図3】。12〜18ヶ月後に、甲状腺機能亢進症の再発が4名の患者(6%)に見られた。このうち1名は若年成人患者で、3名は年輩の成人患者であった【図3】。これらの患者は抗甲状腺剤とT4併用療法(1名)または放射性ヨード治療(3名)で治療を受けた。1名は術後もTRabが上昇したままで、他の2名は甲状腺中毒症の再発の前にTRabの上昇があった。それ以外にTRabレベルの上昇があった患者はいなかった。

手術に無作為に振り分けてから手術までの平均期間は、若年成人患者と年輩の成人患者を合わせて、26日(8〜79日、127日の1名を除く)であった。患者は術後平均4日で退院した。術前のプロプラノロールの平均用量は1日180mg(120〜320mg)であった。
13名の患者で、術前のβ遮断薬が不十分であった。そのうち8名は術前に見つかり、ルゴール液による治療が追加された。

7名の外科医が参加した。全員、甲状腺手術に熟練していた。平均手術時間は、両年齢グループを合わせて、133分(75〜190分)であった。反回神経麻痺や持続性副甲状腺機能低下症、創傷感染、術前または術後の死亡を含む重大な合併症は見られなかった。患者は全員、術後にT4の投与を受けた。両グループの平均用量は0.16mg(0.1〜0.2mg<注釈:チラージンS(50) 2錠〜4錠>)であった。最終来院時の平均用量は0.17mg(0.1〜0.3mg<注釈:チラージンS(50) 2錠〜6錠>)であった。

最初に内科治療の方に無作為に振り分けられ、薬物治療を受けた患者14名は、先に述べたとおり後に甲状腺亜全摘の手術を受けた。全部で179名の患者のうち82名が両側の甲状腺亜全摘による治療を受けた。
放射性ヨード治療グループ
2名の患者が割当てられた治療を拒否した【図3】。放射性ヨード治療を受けた39名の患者のうち、8名に治療後4.5〜16ヶ月で甲状腺機能亢進症の再発があった<注釈:これは、再発ではなく投与量が少なかっただけである。2回目の治療でほとんどの場合は治る>。7名の患者は最初の放射性ヨード治療後10週間、甲状腺機能亢進症が残った。眼症のある患者3名には、甲状腺組織を破壊する目的で1回以上の放射性ヨード治療を行なった。したがって、18名の患者が放射性ヨード治療を1回以上受けたことになる。しかし、初回とそれ以降の治療を行なった後、全員に甲状腺機能低下症が起こり、T4を投与した<注釈:ここが日本のやり方と一番違う点である。日本の場合には10年後に約半数が甲状腺ホルモン剤を飲むような治療である。国によって放射性ヨード治療の最終目的が違うようである。米国は最初から、甲状腺機能低下症を狙って治療する>。初回治療からT4を処方するまでの期間は平均で3.7ヶ月であった(7週間から12ヶ月)。最終来院時の平均T4用量は0.175mg(0.1〜0.25mg<注釈:チラージンS(50) 2錠〜5錠>)であった。投与されたヨード-131の平均線量は250メガベクレルまたは6.8mCi(初回治療時の平均値:39例)であった。15名の患者に眼症の悪化があった。このうち13名は放射性ヨード治療を1回以上受けていた。
アンケートによると、患者の13%が放射性ヨードを投与されることを懸念していた。

考 察

3種類の治療に対する患者自身の評価だけでなく、甲状腺眼症の発症や全体的な転帰や合併症など、治療の結果に関連した疑問の多くには、まだ答えが出ていない。

しかしながら基本的には、3種類の治療形態すべてで、ほぼ同じような甲状腺ホルモンレベルの減少が得られた。放射性ヨード治療では数週間遅かったが、それはこのグループに後でT4補充が行なわれたからである。T3とT4レベルが3種類の治療で1年後と4年間のフォローアップ期間中に同じような結果になったのは、T4の補充のためでもある。すべての治療形態で、副作用はほとんどなかった。薬物治療を受けたグループでは、重大な副作用は起こらなかった。さらに、患者の6%(68名中4名)で薬物治療が抗甲状腺剤に対する副作用、あるいは効果が不十分であるか、患者のコンプライアンス不良のいずれかにより他の治療に変更された。その上、薬物治療終了後に若年成人患者の42%、年輩の患者グループの34%に病気の再発が起きた。したがって、治療の目標を1コースの抗甲状腺剤治療で永久的な甲状腺正常状態を得ることにおけば、68名の患者のうち30名(44%)で治療が失敗したことになる。年齢が35歳以上の被験者では、血清T3、T4、あるいはフリーT4レベルが高い場合も再発のリスクが高いことを示唆するものである。他の試験でも証明された通り、治療終了時にTRabレベルが上がっており、治療終了後にレベルが上がっていく場合は再発する確率が高くなる(10-14)。しかし、個々の患者においては、TRabの値は再発に関しては比較的弱いマーカーであり、治療終了時に正常値であった患者の23%に甲状腺機能亢進症が再発した。ただし、本試験での再発率はTRab値を考慮に入れなければ、34〜42%であった。したがって、TRabレベルの上昇が見つかれば薬物治療を延長する。特に甲状腺眼症のある患者に対してそうするが、メチマゾールは免疫調節の役割りを持つ可能性があると言われているためである(15)

抗甲状腺剤治療の大きな欠点は、再発率が高いことである。他の試験ではこの再発率が20〜75%となっている(16)。本試験では比較的再発率が低かったが、一部には内科治療が18ヶ月であったこととフォローアップ期間が4年間であったこと、そして使用した抗甲状腺剤の用量が比較的高かったこと、さらに恐らくはスウェーデンの当地域には大きなびまん性甲状腺腫がめったに見られず、そのような症例を除外したことによるものと思われる。2つの先行的研究では、6ヶ月間治療した患者では58%と70%の再発率であったのに比べ、18ヶ月間治療した患者では再発率が38%と25%であった(17,18)。さらに、比較対照試験では、低用量のメチマゾール<注釈:日本ではメルカゾール>を使った時よりも(平均14mg)高用量のメチマゾールを使った場合(平均60mg)に再発率が有意に低いことがわかった(19)。その一方で、このことは他の2つの試験で確認することはできなかった(20)。再発率が低い別の理由は、甲状腺機能低下症予防のためT4を加えたことにあるのではないだろうか。この投薬法をヨーロッパ甲状腺協会のメンバーの45%、アメリカ甲状腺協会のメンバーの20%が使っている(1,2)。今回の研究での再発率は、最長108ヶ月のフォローアップ期間中の累積再発率が50%であることを報告した2つのスウェーデンの試験結果に近いものである(21,22)。しかし、比較的高い用量のメチマゾールを使うと副作用の発生率(6%)が低い用量を使った場合に報告されている発生率よりも幾分高くなる。4名の患者で甲状腺機能亢進症が続いていた背景にあるメカニズムは不明である。一部にはコンプライアンスの不良によると思われるものもあるが、全部がそうというわけではない。今回3種類の治療法すべてで使用したT4補充量のレベル(〜0.17mg/日)は、高いように思われるが、それには2つの理由がある。まず、一部の研究者はバセドウ病の治療中に血清TSHレベルが測定できるレベルにあることを容認しているが、我々は「甲状腺を休ませる」という考え方の方を支持した。TSHが甲状腺抗原の発現を誘発する恐れがあり、それが再発や/または甲状腺眼症の背景となる免疫プロセスに関わっている可能性があるからである。次に、T4の補充量レベルは過去何十年かの間に総体的に下がってきたということがある。

術前にβ-遮断剤を使用するのみで、当院のテクニックを使って行なった手術も安全で、合併症もなかった。しかし、患者の20%は術前のβ-遮断剤のみの使用では不十分であった。3名の被験者は再発の前にTRabレベルが高いか、上昇があった。これは薬物治療の所見でも裏付けられた。

手術は有効な治療の選択肢であり、大きな甲状腺腫のある患者、特に圧迫症状のある患者、そして他の治療よりも外科的治療の方を好む患者など、多くの患者に選択しうる治療法であると考えてよい。また、たちの悪い甲状腺機能亢進症や中等度から重度の眼症のある患者では、初期の抗甲状腺剤治療の後に手術が確実な効果を上げる場合がある。4名の患者(6%)が術後48ヶ月までに再発した。手術後の、甲状腺機能亢進症の再発のリスクは1〜28%であると報告されている(23-25)。再発のほとんどが最初の1年以内に見られるが、手術後5年以上経って起こる再発は43%にものぼる(26)。このことから患者を長年にわたってフォローアップすることが重要となる。

切除された組織の平均重量は29gであった。そして、残っている組織の重量は2gであると見積もった。これは過去に報告されたものよりも少ない(23,25,27,28)。現在のところ、術後8年も経って再発した患者が1名いる。将来は、再発または甲状腺機能低下症を起こしてくる可能性の高いバセドウ病患者を選び出すための様々な検査ができるようになり、手術後に残す組織の量がわかるようになると思われる。

患者の45%(40名中18名)が1回以上の放射性ヨード治療を必要とした。38%は病気が治らなかったためである。他の試験では0〜41%という数字が出ているので、これはかなり高い失敗率である<注釈:これはあまり問題にならないと思う。放射性ヨード治療の唯一の欠点は効きすぎであるので、一回で治らなければ追加治療すればいいわけです>。そして、失敗率は投与した線量に逆比例している(16)。比較的高い吸収線量を目標としていたが、失敗率が高かったのはかなり大きな甲状腺腫のある患者が放射性ヨード治療に無作為に振り分けられたということもあるであろう。さらに、本試験で放射性ヨード治療を受けた患者で、甲状腺機能亢進症がひどかった。このことは本試験で放射性ヨード治療を受けた患者の平均血清T3レベル5.3nmol/Lは、別の試験で放射性ヨード治療を受けた代表的サンプル患者の4.3nmol/Lよりも高いことからも明らかである。この試験では82%がヨード-131の1回投与線量で治癒している(29)

放射性ヨード治療では、普通、治療後に一過性の血清TRab濃度の上昇がみられる(36-39)。このことは我々が行なった試験でも見られた。そのような上昇が見られなったのは、5名の患者のみであった。この5名の患者で1回以上の放射性ヨード治療を必要とした者はなかった。

以前、われわれの患者を2年間フォローアップした際の報告にある通り、眼症の発症や悪化のリスクは、血清T3レベルが5nmol/Lを超える患者で22%であったのに比べ、T3レベルが5nmol/L未満の場合のリスクは2%であった(8)。放射性ヨード治療により、対応するT3レベルでのリスクはさらに10〜58%増加する。治療後に甲状腺機能低下症が起きることが眼症の発症リスクのリスク増大に関係があると言われてきた(40-42)。しかしながら、甲状腺機能低下症を示す生化学的指標と甲状腺眼症の発症や悪化との間には何ら関連性が認められなかった。同様に、喫煙も放射性ヨード治療と眼症の間に見られる関連性の原因であるとは考えにくい。グループ内の喫煙者の特徴に大した違いはなかったためである。我々は、疾患の重症度が高く、不安定であることが眼症の発症に共通する特徴であることを見出した。すなわち、治療後のTSHの上昇を伴なう甲状腺機能低下症よりも、治療をした後に血清T3レベルが高いか、T3またはフリーT4のレベルの変動があるということである。したがって、放射性ヨード治療後に機能している残存組織の存在がこのプロセスに関わっている可能性がある。一方、その後の研究で、早期にT4を投与すると眼症が発症したり、悪化したりする頻度を減らすことができることがわかった(29)。これらのデータに基づき、バセドウ病の放射性ヨード治療後の経過を安定させるため、我々は治療後早期にT4治療を開始することをお勧めする。

アンケートによれば、3種類の治療法の間に大きな差はなかった。治療後1年以上経っても、治っていないと感じている患者の数は驚くほど多かった。しかし、本研究では治療を受けていないコントロールグループがないことを頭に入れておかねばならない。治療後に患者が家にいた日数は3種類の治療法すべてで同じようなものであった。したがって、治療法の差というよりも、病気の性質やひどさ、そして病気が患者の一般健康状態に及ぼす影響を反映している可能性が高い。さらに、全グループで比較的病気のための欠勤の期間が長かったことも、スウェーデンの在宅療養費の補償が比較的高い(給与の90%まで)ことの反映である。最後に、放射性ヨード治療を受けた患者の方が同じ治療を他の人に勧めることがかなり多かった。これは患者にとってこの治療法を選ぶ方が好ましいのだと思われる。

バセドウ病の治療は、病気の重症度や患者の年齢、そして治療の個人的な好みによって選択される。疾患の活動性が中程度の患者、すなわち血清T3レベルが5〜7nmol/L未満で、治療前に眼症のない患者では、合併症のリスクや治療後の眼症発症がほとんどなく、3種類の治療法のどれも使うことができる。さらに、患者が甲状腺正常状態になるまでの経過時間は、平均するとどの治療法でもほぼ同じである。我々は、このカテゴリーに入る35歳以上の患者を放射性ヨードで治療することが最も多い。

患者の病気の程度がひどく、眼症がある場合は難しい問題が生じてくる。例えば、T3の血清濃度が高い患者では(>5〜7nmol/L)、後でT4を投与する放射性ヨード治療は、我々の過去の経験から眼症を発症してくるリスクが高い(8)。そのような患者には抗甲状腺剤による初期治療が効果的であると思われる。このタイプの患者で再発のリスクが高いことから、患者の同意があれば、確実な治療法として手術あるいは放射性ヨード治療のいずれかを予定することが多い。本研究から導き出された結論からは、これらの患者の治療法について適切な答えが得られなかった。したがって、このカテゴリーに属する患者に対する最適な治療法を見出すには、さらなる無作為試験が必要である。

. Dr.Tajiri's comment . .
. この研究から分かったことで重要な点は、患者さん自身が納得して選んだ治療法に対しては、結果がどうであれ本人は満足していることである。友人がもしバセドウ病になったら、自分が受けた治療を勧めますかという問いに対しても、大部分の人は自分が受けた治療を友人にも勧めますと答えていた点も重要です。

この事実は、医師が治療法を決めるのではなく、患者さんに治療法をよく説明してご本人に最終的には治療法を決めていただくのが、最良の道であることを示しています。

バセドウ病の治療選択については以下を参考にしてください。
バセドウ病の治療:違う人には違う扱いで

バセドウ病の治療後に起こる問題について知りたい人は以下を参考にしてください。
甲状腺機能亢進症とバセドウ病の治療後に起こる問題は?
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参考文献]・[もどる