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[005]
患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 13, No3

08:甲状腺機能亢進症の放射性ヨード治療 / James R. Hurley, M.D.

はじめに
アメリカでは、甲状腺機能亢進症患者のほとんどが放射性ヨードで治療されます。この治療法は1942年から利用できるようになり、また1950年代始めから広く使われています。現在このように普及したのは、重大な副作用がなく、比較的費用がやすく、甲状腺機能亢進症の緩和に効果が高いためです。その他に使われる治療法としては、抗甲状腺剤の投与や甲状腺の外科的切除(甲状腺切除術)があります。

抗甲状腺剤の投与により、血液中の甲状腺ホルモンレベルを正常値に下げることができますが、数年間投与を受けていた場合でも、薬を止めると甲状腺機能亢進症が再発してきます。薬の投与を受けている間は、血液検査を行いモニターを受ける必要があります。また、重篤な副作用が約300から500人に1人の割合で起こります。

甲状腺の外科的切除も甲状腺機能亢進症を除くのに効果的であり、熟練した甲状腺外科医により手術を受ければ副作用もめったに起こりませんが、この治療法は比較的費用が高く、ほとんどの患者は別に治療法があるのであれば、なるべく手術を避けたいのです。

ヨードと甲状腺
甲状腺は体の中でヨードを集め、貯える唯一の場所です。ヨードは普通の食餌の中に含まれています。甲状腺は毎日体に入るヨードの10〜20%を集め、甲状腺ホルモンを作るのに使います。そのホルモンは甲状腺の中に貯えられます。食餌から取り込まれ、甲状腺で使われなかったヨードは1日か2日の内に尿に排泄されます。少量の放射性ヨードをカプセル、あるいは液体として食餌中のヨードと混ぜ、食餌性ヨードと同じ比率にしたものを投与すると、放射性ヨードが甲状腺に取り込まれます。

甲状腺がヨードを取り込む能力は、経口投与の4時間後あるいは24時間後にどれくらいの量の放射性ヨードが甲状腺に届いたかを測定すればわかります。これは甲状腺摂取率と呼ばれるものです。活動が活発すぎる甲状腺のある患者では、この取り込みの量が正常より高くなっており、反対に甲状腺が不活発になっている患者では正常より低くなります。

また、甲状腺内の放射性ヨードの分布図も得ることができ、これは甲状腺スキャンと呼ばれています。これは甲状腺結節の機能的な活動を測るのに使うことができます。

2つ形(放射性同位元素)の放射性ヨードが一般的に使われています。123-Iと131-Iです。どちらもガンマ線を出し、それは簡単に組織を透過して体の外から検知することができます。また、どちらも甲状腺摂取率とスキャンに使うことができます。131-Iはベータ粒子も放出しますが、それは周辺の組織に吸収されるので、甲状腺が受ける線量ははるかに高くなります。123-Iは甲状腺や体の他の部分に放射線がほとんど吸収されることがないため、診断用としてはこちらの方が優れています。ただし、甲状腺機能亢進症の治療には使えません。131-Iは、ほとんどの放射線が甲状腺に吸収されるため、診断用としてはあまり好ましいものではありませんが、そのために甲状腺機能亢進症の治療には理想的なものとなっています。

3番目の放射性同位元素であるテクネシウム(99m-Tc パーテクネテート)は、甲状腺スキャンに広く使われています。静脈注射で投与でき、15分以内にスキャンが得られます。しかし、甲状腺細胞に留まらないため、甲状腺摂取率や、治療には使われません。

食餌性ヨードと放射性ヨード
甲状腺の放射性ヨードの取り込みは、食餌中のヨードの量に影響を受けます。ヨードの含有量の高い食餌を摂っている人は、甲状腺の取り込み量は平均より低くなっています。栄養食品の中にはヨードの含有量が高いものがあります。例えば、ある種の食物には多量のヨードが存在しており、特に多くのアジア料理に使われる海草やケルプ(昆布の1種)にはたくさん含まれています。健康食品店で、甲状腺に問題のある患者がケルプの錠剤を勧められることがあります。また、CTスキャンやその他の放射線画像法で静注されるX線造影剤も、多量のヨードを含有しています。ヨードを含有するビタミン剤や食物、およびX線造影剤は甲状腺摂取率や、放射性ヨード治療を行う前には避けるようにしなければなりません。

放射性ヨード治療
十分な131-Iが投与されれば、放射性ヨードが集積した甲状腺細胞は傷害を受け、死んでしまいます。これにより甲状腺ホルモンの産生量が減少するのです。
甲状腺は、体の中で放射性ヨードが集積する唯一の部分であるため、131-Iから出る放射線のほとんどは甲状腺で吸収されます。したがって、甲状腺機能亢進症に対する放射性ヨード治療で体の他の部分が受ける線量は、バリウム注腸や消化器連続撮影、あるいは腎臓のX線撮影を1〜2度行った程度か、それ以下です。

広範な研究で、外科手術で治療を受けた患者と比べ、放射性ヨードで治療を受けた患者に白血病や甲状腺癌のリスクが高まることはないことが示されています。
また、放射性ヨードで甲状腺機能亢進症の治療を受けた女性で、不妊や流産の問題はなく、その女性の子供に先天性異常が見られることもありません。

一方で、放射性ヨードによる治療は妊娠中に行ってはならず、妊娠も治療後最低3ヶ月は避けるようにするべきです。ほとんどの医師は放射性ヨード治療を受けた後、妊娠は6ヶ月から12ヶ月待つように勧めます。これは主に、甲状腺機能亢進症の治療がうまく行ったかを確かめるためであります。

甲状腺ホルモンの血液中のレベルは、放射性ヨード治療を行った後ゆっくりと下がっていきます。そして、普通正常になるのに1ヶ月から3ヶ月かかります。病気がひどい場合はもう少し長くかかるかもしれません。この間、プロプラノロールのようなベータ・ブロッカーを使って甲状腺機能亢進症による症状を抑えます。もし、甲状腺機能亢進症が重症であれば、甲状腺機能亢進状態をもっと速くコントロールするために、プロピルチオウラシル<注釈:プロパジールまたはチウラジール>やメチマゾール<注釈:メルカゾ−ルのこと。メルカゾ−ルのアメリカでの商品名はタパゾール>のような抗甲状腺剤、あるいはヨードの使用が必要な場合があります。おおよそ20%の患者は、甲状腺機能亢進症を完全に治すのに、放射性ヨードを2回使う必要があります。
ほとんどの医師は、6〜12ヶ月待ってから2回目の放射性ヨードの投与を決めます。

バセドウ病と放射性ヨード
アメリカでは、甲状腺機能亢進症の原因としてもっとも多いのは、バセドウ病です。バセドウ病で起こる甲状腺機能亢進症は、甲状腺細胞の異常というよりむしろ免疫系の機能異常によるものです。抗体が産生され、正常であれば甲状腺刺激ホルモン(TSH)がくっつくはずの甲状腺細胞上のレセプターに、その抗体がくっついてしまうのです。これらの“甲状腺刺激”抗体はTSHのふりをしますが、そのために甲状腺は甲状腺ホルモンを作り出し、大きくなります。バセドウ病では、甲状腺すべての細胞がヨードを集め、甲状腺ホルモンを作るように刺激されます。そのため、放射性ヨードを投与すると、すべての細胞がほぼ同じ程度の線量を受けるため、治療後に甲状腺機能低下症を起こしてくる頻度が高くなります。

甲状腺機能亢進症を放射性ヨードで治療した後、1年以内に甲状腺機能低下症になるリスクは、甲状腺が受けた線量に比例します。甲状腺の被爆量は、甲状腺のサイズ、甲状腺のヨード取り込み量、および血液中に戻るまでに放射性ヨードが甲状腺内に留まる時間からあらかじめ計算することができます。後者は、生物学的半減期として知られているもので、5日から7日にわたり数回のヨード摂取率を行うことで測定できます。

しかし、放射線に対する甲状腺の感受性はきわめて個人差があり、予測がつかないのです。100人の甲状腺機能亢進症の患者に同じ量の放射性ヨードを与えても、甲状腺機能低下症になる人と甲状腺機能亢進症の状態が残る人が出てきます。バセドウ病に対し、放射線治療を行なって1年後に甲状腺の機能が正常であった患者では、その後毎年2〜3%に、線量の如何にかかわらず、甲状腺機能低下症が起こってきます。これは、おそらく放射線による損傷のため死んだ甲状腺細胞が新しく入れ替わることができないことによるものと思われます。

甲状腺機能亢進症の治療に、医師がより多くの線量の放射線を使う傾向が増しています。これは、甲状腺機能亢進症が残り、再治療が必要になる確率が減り、甲状腺機能低下症が起こるまでの時間が短くなります。理論的には、これにより何年も経って起こってくる甲状腺機能低下症を見逃すリスクを減少させることになります。おそらくこの情報から得られるもっとも重要なメッセージは、甲状腺機能亢進症を放射性ヨードで治療した患者は全員、生涯にわたって年1回のペースで甲状腺機能のチェックを受ける必要があるということです。これは血液中のTSHの量を測定することで簡単に行うことができます。

放射性ヨード治療とバセドウ病性眼疾患
バセドウ病による甲状腺機能亢進症患者の約10〜20%に、眼障害あるいは眼窩障害として知られる目の病気が併発してきます。これは、免疫系が目の後ろにある組織を攻撃し、目を動かす筋肉が冒された時に起こります。これらの組織が腫れ、目の後ろ側の圧力が高まり、目を前に押し出します。このため、目が膨れたようになり(突出症)、目の回りの組織が腫れ、涙が出過ぎたり、また光過敏症が起こります。

バセドウ病における甲状腺の変化と目の変化との間の関係はまだわかっていません。ただ、目の変化が血液中に存在する甲状腺ホルモンの量とは関係ないことははっきりしています。この状態が起きるのは、普通甲状腺機能亢進症の診断がなさた前後1年以内です。甲状腺機能亢進症の診断が出る前と後で、目の病気を生じる患者の数は同じです。

甲状腺専門医の間では、バセドウ病患者を放射性ヨードで治療すると、目の病気を発病する確率が増すのかどうかについてはまだ意見の一致がありません。放射性ヨード治療後に増加を見出した研究も一部ありますが、一方でそれ以外の研究ではそのようなことは見出されていません。もし、治療前に目の病気が存在していなければ、治療後に発病する確率は非常に低く、約3〜5%です。しかし、放射性ヨード治療を行う前に、すでに目の病気が存在していた場合は、治療後に悪化する可能性があり、特に最初から甲状腺機能亢進症が重篤であったり、甲状腺機能低下症を発病し、すぐに治療されなかった場合、あるいは明らかに甲状腺機能亢進症が残っている場合にはその可能性が高いのです。

放射性ヨード治療後の目の病気の悪化は、副腎皮質ホルモンの一種であるプレドニゾンを比較的多めに3ヶ月以上投与することで予防できる場合があります。ただ、プレドニゾンには腸出血を含む重大な副作用を起こす可能性があるため、投薬のリスクと目の病気の悪化とのバランスをとる必要があり、プレドニゾンを使うかどうかは個々の患者で個別に決めるべきでしょう。

放射性ヨード治療時に目の病気がなかった患者は、頻繁にフォローしなければなりません。もし、血液中のT4レベルが正常以下に下がった場合、TSHの上昇や甲状腺機能低下症の症状が出るのを待つことなく、甲状腺ホルモン補充を行うべきです。目の病気があらかじめ存在していて、プレドニゾンの投与が行われていない患者では同じようにフォローを行います。

放射性ヨードと他のタイプの甲状腺機能亢進症
バセドウ病による甲状腺機能亢進症の治療に使う以外に、放射性ヨードは中毒性多結節性甲状腺腫、および単発性の中毒性甲状腺腺腫による甲状腺機能亢進症の標準的な治療でもあります。これらの病気は甲状腺細胞が独自に(すなわち、TSHあるいは甲状腺刺激抗体が存在しなくて)甲状腺ホルモンを産生するあまり理解されていないものです。

中毒性多結節性甲状腺腫は、長い間甲状腺の肥大や結節があった年配の患者に主に起こり、世界的にみて甲状腺腫が多く見られる比較的ヨードが欠乏した地域により多く見られます。

独自に甲状腺ホルモンを産生する良性の単発性の甲状腺結節は“中毒性”甲状腺結節と呼ばれます。これは年齢を問わず起こります。

この2種類の病気のどちらかに罹っている患者では、甲状腺ホルモンのレベルが上がっており、脳下垂体でのTSH分泌が抑制されています。TSHがなければ、正常な甲状腺細胞は機能することができません。したがって放射性ヨードが集まることもないのです。中毒性多結節性甲状腺腫または単発性の中毒性甲状腺腺腫の治療に、放射性ヨードを使う場合、機能していない正常な甲状腺細胞はほとんど放射線を受けません<注釈:β線は1〜2mmしか飛ばないために、周囲の正常甲状腺細胞にダメージを与えないのです>。そのため、治療後に甲状腺機能低下症になることはあまりありません。

まとめ
放射性ヨードによる甲状腺機能亢進症の治療は簡単で、かつ効果的なものです。治療の唯一の重大な合併症は、甲状腺機能低下症が起きることですが、これは毎日1錠の甲状腺ホルモン剤を飲むことで簡単に管理できます。放射性ヨード治療の後何年も経ってから起こる可能性があり、また甲状腺の機能は生涯にわたって変化を続けるため、放射性ヨードで治療を受けた患者は、永久的に定期的な甲状腺機能検査を受ける必要があります。

Dr. James R. Hurleyは、コーネル大学医学部放射線科助教授で、ニューヨーク市のニューヨーク病院、コーネル医療センターの内分泌学および核医学科のメンバーでもあります。

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