情報源 > 書籍の翻訳[D]甲状腺の悩みに答える本
<第4部・第21章>
第4部<第21章>
将来に向けての8つのステップ:甲状腺、精神および気分の理解を如何に高めるか
医療の助けを求め、もっと具合がよくなろうと努力している人のほとんどは、自分がかかっている医師が、複雑な分野である甲状腺疾患について何から何まで知っているのかどうかまったくわかりません。患者にとって本当に重要なことは、具合がいいかどうかなのです。当然、医師が自分の具合が悪い原因を見付け、治してくれるものと期待します。それでも、甲状腺の病気に気づかなかったり、どのように治療したらいいか知らない、あるいはいつまでも残る甲状腺ホルモンバランスの乱れにどう対処したらいいかわからない医師があまりにも多いのです。
甲状腺疾患患者に対する治療の基準を評価し、見直すことと、ごくわずかな甲状腺の異常が健康や感情に与える影響をもっとよく認識することが医療界へ切実に求められています。一般大衆と甲状腺ホルモンバランスのある人に対する甲状腺のケアも全体的にもっと向上させる必要があります。どうしたらこのようにできるでしょうか?あなたが始めることができるケアの質の改善法をここにいくつか挙げてみます。
自分の甲状腺について勉強しましょう  
患者がより多くのことを知っていれば、医師と協力して働くことができ、治療を行う側と治してもらう側がパートナーになることができます。厄介な病気に罹っている他の人と同じように、多くの甲状腺疾患患者が医療システムに左右されています。甲状腺ホルモンバランスの乱れで苦しんでいる人の中には、内分泌病専門医や核医学専門医、心臓病専門医、そしてその他の専門医へと際限なく診察を受けて回る人もおります。受診時には、医師からいろいろな情報を得たり、必要な情報を得る方法を尋ねるようにしてください。インターネットで見付けた情報にも役立つものがありますが、中にはあまり正確でない例もあります。多くの患者は、本当は全部甲状腺に関係があるのですが、いろいろな症状があるために、次々に別の専門医へと簡単に送られていると思っています。不安やうつ病のような症状の性質を理解し、どのように対処するかということが特に重要です。そうすれば、そのような症状がぶり返しても、恐れることはあまりなくなります。他の甲状腺疾患患者と話したり、本を読んだり、また甲状腺疾患患者支援グループに加わったりして勉強することで、自分の病気を治す上でどのような困難に直面するかもっとよく理解することができます。
自分の経験や症状、そして治療について医師と率直に話しましょう  
治療を行う人との間で明確なコミュニケーションがとれているということは、治療の成功のために計り知れない価値があります。また、内分泌病専門医や初期医療担当医だけでなく、ソーシャルワーカーや精神科医、またあなたの治療に関わっている医療関係者ともきちんと話し合う必要があります。あなたの治療をする医療関係者と病気のことを話し合い、誰もがあなたが受けた診断と治療についてきちんと理解しているというようでなければなりません。
配偶者や家族、あるいは愛する者が甲状腺の病気に罹ったら、その病気のことをよく知り、治療に密接に関わるようにしましょう
私の経験では、家族や友人、同僚などを通じ、よい支援システムを作り上げている甲状腺疾患患者はずっとうまく病気に対処しています。
新たに診断を受けた人にとっては、家族療法や夫婦療法が価値ある支援システムである場合があります。あなたが必要な支援は求める必要があります。気分障害の治療でもそうですが、甲状腺疾患患者の家族療法はグループで行われることがあります。支援グループの会合は、病人の性格の変化を含めて甲状腺疾患に対処する上での困難を分かち合う機会を家族に与えてくれるものです。慢性甲状腺炎やバセドウ病のような甲状腺疾患は、遺伝性の病気であると考えられるので、他の家族(子供であっても)も将来罹患する可能性があります。甲状腺の病気の精神的影響に取り組んでいるのが、あなたとあなたの家族だけでないと感じることが非常な助けになります。さらに、他の患者と会うことで、他の家族でうまくいった対処法を学ぶ機会も得られます。
主治医にあなたの懸念を簡単に退けさせたり、間違った病名を付けさせてはなりません。 この本全体を通じて、私は甲状腺ホルモンバランスの乱れの症状と、うつ病や不安障害、低血糖症、慢性疲労症候群、そして線維性筋痛のような他の病気の症状との間の類似性を示してきました。あまりにもよく似ているので、間違った診断をされ、間違った治療を受けることもあります。症状が続く場合は、医師にもう一度診断をし直してくれるよう強く言ってください。しかし、あなたが自分の病気のことや一般的な治療のオプションを学べば、もっと自分の主張に自信が持てるはずです。
甲状腺の検査がもっと普通に行われるようにするために、一般スクリーニングなどの努力に対する支援をしてください
冠動脈疾患のリスクファクターであるコレステロールについて公衆教育がなされています。人々は総コレステロールレベルを200以下に保つようにし、“善玉”のHDLコレステロールと“悪玉”のLDLコレステロールの比率が適正なものである必要があることを知っています。同じように、甲状腺機能を評価するための検査の重要性について、もっと一般の意識を高めるべきです。アメリカ臨床内分泌病専門医会が最近、アメリカの数都市で、気づかれていない甲状腺機能低下症を見つけ出すためのスクリーニングプログラムを推進し、この方向に向けて大きな一歩を踏み出しました。ヒューストンだけでも、このスクリーニングで相当数の人に、以前は診断されなかった甲状腺疾患が見付かり、治療を開始したのです(1)
米国医師会雑誌に最近発表された研究で、35歳以上の女性に5年毎のTSHスクリーニングを行うと、コレステロールの上昇やその他の病気を含め、重大な健康問題を起こす恐れのある未診断の甲状腺疾患を見つけ出すことができるので、費用効率がよいということが示されました(2)。この研究は、当然ながら未診断の甲状腺疾患が人間関係や仕事にもたらす被害を考慮に入れてはおりません。これらの付加費用を考えると、もっと高い頻度でTSHスクリーニングを行えば、身体的健康に及ぼすマイナス効果だけでなく、精神的、感情的苦痛も相当防げるであろうことは疑いありません。
必要ならば、初期医療担当医に内分泌病専門医に紹介してくれるよう頼むのをためらってはなりません
内分泌病専門医と患者のどちらをもいらいらさせる現行の医療システムの矛盾は、研究が進み、知識が広がるにつれ、専門医が甲状腺疾患患者に最良の治療を提供できるようになっているのに、いまだに甲状腺の病気を見つけ、管理する責任を主に初期医療担当医が担っていることです。これらの医師が甲状腺バランスの乱れに対し、最適な治療を行うことはほとんどできません。時間や専門知識がないだけでなく、複雑で、込み入った甲状腺学の分野に興味もないからです。アメリカ内科医会や米国医師会を始め、多くの医師団体が内分泌病専門医をホルモンと代謝の病気を専門とする医師と認めています。甲状腺専門医(伝統的には内分泌病専門医)は、体内の化学的メッセンジャーであるホルモンの異常を診断し、治療するトレーニングを受けています。いちばん多い内分泌疾患は甲状腺ホルモンバランスの乱れと糖尿病、そして骨粗鬆症を含む代謝性骨疾患です。
内分泌学会の臨床内分泌学先導委員会が最近、初期医療担当医がいつ患者を内分泌病専門医に紹介するかに関する勧告を出しました(3)。甲状腺疾患に関しては、いくつかの勧告の中で、甲状腺機能亢進症患者は病状が安定するまで内分泌病専門医が診査と治療を行うべきであると明記されています。それ以外に紹介するべき患者として、著しく悪化した甲状腺機能低下症患者や甲状腺機能検査の解釈がきわめて難しい患者、そして甲状腺眼症のある患者が含まれています。また、説明のつかない異常な甲状腺検査や甲状腺機能検査結果を示す患者だけでなく、評価や生検、甲状腺結節の管理の場合も紹介するべきです。この勧告には亜急性甲状腺炎または甲状腺の圧痛や痛みのある患者だけでなく、甲状腺癌患者も含まれています。
初期医療担当医が甲状腺疾患の治療を行うに十分な知識を持つようになるまでは、思ったような結果が出ない場合、この分野の専門知識を持つ内分泌病専門医に紹介してくれるよう強く頼むべきです。
管理医療システムに登録している場合は、甲状腺疾患に関連したニーズを満たしてくれるよう主張すべきです
管理医療では、甲状腺疾患患者の治療に内分泌病専門医ではなく、初期医療担当医を使うようにさせたがりますが、そのことで結局は症状を簡単に片づけられたり、とても最適とは言えない治療を受けるはめになってしまうことがあります。コストが限られているため、管理医療の状況では、初期医療担当医が必要な頻度で再検査を行わないことがあります。 管理医療システムの中では、多くの内分泌病専門医が果たして専門医として生き残っていけるだろうかと心配しています。管理医療プランの中には専門医への紹介をなるべくさせないようにしているものがあります。事実、多くのプランでは患者の紹介をすると、初期医療サービスに対する償還が減らされるのです。もう一つの問題は、患者の紹介をした時に、患者がごく少数の内分泌病専門医の中から選ばねばならないように管理医療プログラムが規定していることです。
甲状腺疾患患者のケアを内分泌病専門医から初期医療担当医に移し、紹介を制限することは、ケアの質に悪影響を与えるだけでなく、全体のコストも増えることになると思われます。間違った甲状腺の検査法を選んだり、結果の解釈を誤ったり、またモニターのための検査の回数が多すぎたり、少なすぎたりすれば、長期的にはさらに高くつくような健康問題が生じると思われます。最近発表された、甲状腺疾患患者の治療を行う上で、初期医療が非効率的である可能性について述べた論文によれば、管理医療という環境では境界型や無症候性の疾患は大抵何ともないと退けられてしまう恐れがあるということです(4)
医師のトレーニングを改善するよう世論を喚起しましょう  
トレーニングプログラム担当の医師は、内分泌学への系統的ローテーションを実施するに必要な教育担当者のローテーションの割り当てに責任を持っています。家庭医は甲状腺の検査の最新技術を、甲状腺の病気を見付けることの重要性に重きをおき、甲状腺機能検査の正しい解釈法を繰り返し教えてくれる甲状腺専門医からならうべきです。また、患者の管理に手を焼いた場合、早目に紹介することを含めて患者を専門医に紹介する時期についてのガイドラインも示されるべきです。
初期医療担当医に対する精神科のトレーニングと教育も実習中に重点的に行われるべきです。精神科医も甲状腺疾患の発見についての適切な指示を受け、甲状腺専門医への患者の紹介をもっと行うようにすべきです。
あなたや家族が不必要な苦しみを受けずにすむには、これらのステップを踏むことが役に立ちます。また、甲状腺が健康と幸福のために如何に大事なものかという意識を、皆が高めるのにも役立つでしょう。
参考文献
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