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甲状腺準全摘術単独または残置甲状腺組織に放射性ヨード治療を追加する方法は、バセドウ病眼症の予後に影響を及ぼすか
Mariacarla Moleti, Filiberto Mattina, Ignazio Salamone, Maria Antonia Violi, Carmelo Nucera, Sergio Baldari, Maria Grazia Lo Schiavo, Concetto Regalbuto, Francesco Trimarchi, Francesco Vermiglio
Thyroid 2003; 13: 653-658

まとめ
軽度〜中軽度のバセドウ病眼症(GO)を有するバセドウ病患者55例が、甲状腺準全摘術(Tx)を受けた。16例の患者では、分化型甲状腺癌があったため、術後に標準的な放射性ヨード治療を受けた。我々は、甲状腺準全摘術単独または術後の放射性ヨード治療による残置甲状腺組織の完全な除去によってGO活動性が影響を受けるかどうかについて検討した。したがって、甲状腺準全摘術前の臨床的活動スコア(CAS)の評価に基づいて、2つのグループに分けた[A群:活動性GO(CAS 3以上; 31例)、B群:非活動性GO(CAS 2以下; 24例)]。
臨床的活動スコアの評価は、術後または放射性ヨード治療後6、12、24ヶ月に行われた。経過観察期間中に、A群患者の約70%でGOが非活動性になり(治療前CAS 4.2±0.8、24ヶ月後CAS 2.1±2.0、p<0.0001)、B群の37.5%は活動性になった。甲状腺準全摘術単独または術後の放射性ヨード治療による残置甲状腺組織の完全な除去による治療後の経過でGO活動性を比較すると、短期間および長期間経過観察のどちらにおいても、術後の放射性ヨード治療による残置甲状腺組織の完全な除去による治療を受けた患者で有意に非活動性GOの頻度が低かった。したがって、術後の放射性ヨード治療による残置甲状腺組織の完全な除去による治療は非活動性GOに導き、その状態をさらに維持する有効的手段であると思われる。

はじめに
バセドウ病患者では、甲状腺機能低下症または血清甲状腺ホルモン値の変動などと同様に甲状腺機能亢進症の再発や持続は、しばしばバセドウ病眼症を悪化させる(1)。したがって、バセドウ病眼症(GO)治療戦略の最初の目的は、甲状腺機能を正常にすること、そして正常機能を維持することである。このように、バセドウ病眼症(GO)を治すには、バセドウ病を完治させることが重要であると主張されてきた(2-4)。放射性ヨード治療と甲状腺全摘術は、バセドウ病を永久に治してしまう有効な治療である。放射性ヨード治療がGOの症状を進行または悪化させるかどうかについては議論の的である(5,6,7)。しかしながら、甲状腺と眼窩で交差反応を起こす自己抗原とTリンパ球を産生する甲状腺組織を完全に除去するため、理論的に甲状腺全摘出術はGOの予後に対して利益があるはずである。甲状腺組織がほんの少し残っている状態であっても完全な甲状腺組織の除去によって、バセドウ病眼症の経過が変化するか否かをはっきりさせるために、我々は甲状腺準全摘術のみを受けた患者または甲状腺準全摘術に放射性ヨード治療を受けた患者を合わせた55例の患者のGO活動性の経過を観察した。

患者と方法
1995年〜1999年の間に診断された軽度〜中等度バセドウ病眼症患者55例を対象として後ろ向き研究を行った(女性44例、男性11例;23〜78才)。これらの55例は以下の理由のため、甲状腺準全摘術を受けた[大きい多結節性甲状腺腫のため(39例)、甲状腺機能亢進症の再発のため(9例)、他の治療を拒否したため(4例)、穿刺吸引細胞診で分化型甲状腺癌と診断されたため(3例)]。55例のうち16例において、術後の病理組織で分化型甲状腺癌と診断されたので、術後5週間目に標準的な放射性ヨードが投与された[微小乳頭癌(8例)、乳頭癌(2例)、微小濾胞癌(5例)、濾胞癌[Hrthle細胞癌]]。

甲状腺切除術の前に、全ての患者は抗甲状腺薬の投与によって甲状腺機能を正常に保った(メルカゾール20〜30mg/日から開始し、漸減し5mg/日まで減量した)。甲状腺切除術は、甲状腺残置を約2g以下残す術式で行った<注釈:この術式を甲状腺準全摘術という>。甲状腺切除術と放射性ヨード治療を受けた患者では、術後5週目の甲状腺機能低下症になったときに、1,110MBq(30mCi)の131Iを単回投与した。術後または放射性ヨード治療後、LT4(レボサイロキシン;チラーヂンS)による補充またはTSH抑制療法が開始され、術後4〜6週目、その後は3ヶ月ごとに甲状腺刺激ホルモン値とフリーT4を測定しながら、投与量が決められた(補充療法TSH; 0.5〜1.5mU/L、TSH抑制療法TSH; 0.1mU/L以下)。手術前後または分化型甲状腺癌に対する放射性ヨード治療の前後に、バセドウ病眼症の治療を受けた患者は一例もいなかった。

臨床的および生化学的に甲状腺機能正常のときに、眼症の重症度と活動性を評価するために、眼科的検査が行われた。臨床的評価は、GOの眼変化に対するSister Societies Ad Hoc Committeeの分類(1992)に従って行われた。GO重症度の評価は、非定量的な臨床指標(軟部組織病変の評価)と眼瞼の厚み、眼球突出(CTやMRIによる測定)、外眼筋の肥厚(外眼筋横断面の直径)、視力、視覚能誘発試験などの客観的な定量的眼科的検査により行われた。上記の診断指標に従って、GOは以下のように分類した(少なくとも2つのグループに分類される)。
  1. 軽度GO:
    軟部組織の軽度病変、軽度眼球突出(18〜20mm)、CTまたはMRIによる外眼筋の軽度肥大、軽度間欠性複視、軽度視力低下または視覚能誘発試験の僅かな異常。
  2. 中等度GO:
    中等度軟部組織の中等度病変、中等度眼球突出(21〜23mm)、CTまたはMRIによる外眼筋の中等度肥大(漏斗部での視神経の圧迫はない)、中等度間欠性複視、中等度視力低下または視覚能誘発試験の中等度異常。
眼症活動性の評価は同じ内科医(M.M.)によって行われ、以下の病変を1点とする臨床的活動性スコア(CAS)を用いるMouritsなどの方法(7,8)によって評価した[眼瞼浮腫、結膜浮腫、涙丘腫大、結膜充血、眼瞼充血、眼球の表面または球後の痛み、上方視または下方視時の痛み]。CASが合計3点以上のとき、眼症は活動性があると判断した。我々の研究目的のために、甲状腺切除術前の眼症活動性によって患者を2群に分けた。A群は、眼症活動性がある31例である(CAS 4.19±0.8)。A群31例のうちの20例(A1群)は、甲状腺準全摘術だけを受けた[A群31例のうちの11例(A2群)は、甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療を受けた]。B群は、眼症が非活動性である24例である(CAS 1.7±0.4)。B群24 例のうちの19例(B1群)は、甲状腺準全摘術だけを受けた[24例のうちの5例(B2群)は、甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療を受けた]。

術前(抗甲状腺薬を服用中で、甲状腺機能が正常なとき)、6ヶ月後(短期時点)、12ヶ月後(中間時点)、24ヶ月(長期時点)にGO活動性が評価された(フリー甲状腺ホルモンが正常で、TSHが0.02〜1.5mU/Lであったとき)。これらの3つの期間は、6、12、24ヶ月と名付けた。甲状腺癌に対して放射性ヨード治療を受けた患者からは、インフォームドコンセントを得た。
統計解析
臨床的活動性スコア(CAS)は、平均±標準偏差(SD)として表現された。治療前と治療後CASスコアの比較は、対応のあるスチューデントt検定によって分析した。各期間の活動性と非活動性GOの比率は、カイ(χ)二乗検定を使用して評価した。

結 果
各群の特徴は【表1】に示した。
A 群
6ヶ月後、臨床的活動性スコア(CAS)は治療前(甲状腺準全摘術だけを受けた患者または甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療を受けた患者)4.2±0.8から2.5±1.6に有意に減少した(p<0.0001)。さらに、12ヶ月後(中間時点)には2.3±1.8、24ヶ月後に2.1±2.0へと減少した。事実、短期評価(6ヶ月以内)で、31例のうち12例は活動性のままだったが(38.7%、CAS 4.3±0.8)、残り19例(61.3%、CAS 1.4±0.7)は非活動性になった。中間評価(12ヶ月)で、活動性GOの比率はわずかに減少する。この時点で、眼症が活動性であった12例のうち3例が非活動性になったが、残り9例は12ヶ月(CAS 4.7±1.2)、24ヶ月(CAS 5.0±1.0)と持続的に活動性のままだった。したがって、活動性GOの最終的な比率は29%であった【図1[パネルA]】
B 群
臨床的活動性スコア(CAS)は、治療前(甲状腺準全摘術だけを受けた患者または甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療を受けた患者)1.7±0.4が24ヶ月後に1.9±2.0とわずかに増加した(有意差なし)。事実、非活動性GOであるB群24例のうち6ヶ月後に1例、12ヶ月後に2例、24ヶ月後に6例が活動性になり、最終的に37.5%が活動性になった【図1[パネルB]】。全体または異なる治療群(甲状腺準全摘術だけを受けた患者または甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療を受けた患者)による各群(AとB)の平均臨床的活動性スコアは【図2】に示した。我々の研究目的のために、治療前の眼症活動性にかかわらず、甲状腺準全摘術だけを受けた場合(A1とB1)と甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療を受けた場合(A2とB2)の臨床的活動性スコア(CAS)の評価を行った。個々の臨床的活動性スコア(CAS)値(治療前および経過観察中)の変動は、【図3】に示した。

甲状腺準全摘術前には、甲状腺準全摘術のみによって治療を受けた39例(A1とB1)のうち19例(48.7%、CAS 1.7±0.4)でバセドウ病眼症は非活動性であった。非活動性眼症の比率は術後短期間において71.8%まで増加するが、長期的にみると持続的に活動性である症例(9例)と活動性が再発した症例(9例)を足した18例(39例中)がその後、臨床的活動性スコア(CAS)が減少した。最終的に、甲状腺準全摘術のみによって治療を受けた39例のうちの21例(53.8%)が非活動期であった。

A1とB1の活動性と非活動性眼症の比率は、長期間観察後と治療前で差はみられなかった【図4[パネルA]】

甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療を受けた患者(A2とB2)において、非活動性バセドウ病眼症は16例のうち5例(31.2%、CAS 1.6±0.5)であった。非活動性バセドウ病眼症の比率は短期間に87.5%まで増加した。その後の追跡調査でも活動性GOにはならなかった【図4[パネルB]】

甲状腺準全摘術のみによって治療を受けた患者と比べて放射性ヨード治療を追加治療した患者において、非活動性バセドウ病眼症の比率は短期観察後(71.8%vs.87.5%、χ2 7.7、p<0.0005)および長期観察後(100%vs.53.8%)に高かった。

考 察
甲状腺機能障害はバセドウ病眼症の経過に悪影響を与える(1,9)。したがって、甲状腺機能を正常にすることが甲状腺眼症治療の第1の目標である。バセドウ病による甲状腺機能亢進症の治療法と甲状腺眼症の因果関係が不明なため、甲状腺眼症を併発しているバセドウ病による甲状腺機能亢進症の治療法はどれが良いかは、現時点では議論の的である。

ほとんどの場合、抗甲状腺薬治療によって眼症状は改善する(13)。それは、おそらく甲状腺機能の正常化と関連しているように思われる。一部、抗甲状腺薬の免疫抑制薬効果も関与している可能性がある(14)。しかしながら、バセドウ病が再発すると眼窩の自己免疫現象の原因であると推定されているTSHレセプター抗体の増加がみられるので、抗甲状腺薬中止後の高い再発率(15)は、甲状腺眼症をもつバセドウ病患者に対して抗甲状腺薬は不適当であることを示している。放射線内照射後の甲状腺抗原の漏出がTSHレセプター抗体の活動性と血中濃度を増加させるので(16)、同様のメカニズムがアイソトープ治療後に甲状腺眼症がしばしば悪化する原因と考えられてきた。しかしながら、放射性ヨード治療後の甲状腺眼症の悪化はコルチコステロイド(副腎皮質ホルモン剤)の投与によって予防される可能性がある(17)

今までに発表された結果が相反するために、甲状腺切除術が甲状腺眼症の経過に影響を及ぼすかどうかは未解決のままである。甲状腺亜全摘術では残置甲状腺組織が大きいと再発が起こりやすいことも要因と思われるが(19)、甲状腺眼症の悪化や発症は甲状腺全摘術より甲状腺亜全摘術においてより起こりやすいので(18)、今までに発表された結果が相反する結果になった原因のようである。にもかかわらず、バセドウ病眼症の悪化は甲状腺準全摘術後にも、みられることがある。わずかな残置甲状腺組織でさえ甲状腺‐ 眼窩自己免疫の活動性を誘発するか、維持する上でなにがしかの役割を果たしている可能性を示唆する(11)。まさしくこれが重要であり、甲状腺と眼窩に交差反応している自己抗原と自己反応性Tリンパ球の除去、すなわち甲状腺組織の完全除去がバセドウ病眼症(20-22)の経過に良い影響を及ぼすと推測される。

我々の研究では、甲状腺準全摘術単独または甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療を行ったやり方が中軽度のバセドウ病眼症の活動性にどのような効果を及ぼすかについて、短期間と長期間での非活動性の比率を指標として評価した(活動性が非活動性になるか持続性の非活動性バセドウ病眼症)。短期的には、バセドウ病眼症は活動性患者の60%以上で非活動性になり、非活動性になった患者のうちの一例を除いて全員は非活動性のままだった。したがって、全体の非活動性眼症の割合は甲状腺切除術後6ヶ月以内に47%から76%まで増加した。バセドウ病眼症の悪化は1例の患者だけでみられたのみである。しかしながら、非活動性眼症患者においてバセドウ病眼症の再発が甲状腺全摘術と放射性ヨード治療後12ヶ月、24ヶ月で起こったために、さらに長期間観察すると非活動性眼症の割合は67%に減少した。

注目すべきことは、短期と長期を通して起こった眼症の悪化または再発は甲状腺準全摘術単独を受けた患者にみられただけであった。そして、6ヶ月後に持続的に活動性眼症を持っていることが分かっている患者の80%以上は、甲状腺準全摘術単独を受けた患者であったことである。事実、行った治療に従って我々の患者を見たとき(甲状腺準全摘術単独または甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療)、最初の眼症の活動性にかかわりなく、短期的な非活動性眼症の割合は、甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療(87.5%)が、甲状腺準全摘術単独(72%)に比べて高かった。さらに、長期的にみると、甲状腺準全摘術単独では非活動性眼症の頻度は53%に低下し、術前の頻度と同じになった。一方、甲状腺準全摘術と放射性ヨード治療を受けたグループでは、全ての患者が12ヶ月以内で非活動性であり、術前には活動性眼症の頻度は高かったにもかかわらず、追跡調査期間の全体を通してずっと非活動性であった。

今回の研究で、甲状腺準全摘術のみを受けた39例のうち短期的に眼症の悪化がみられたのは1例だけ(2.5%)、長期追跡調査で眼症再発は甲状腺準全摘術後(12〜24ヶ月)、39例のうちの8例(20.5%)でみられたことから、甲状腺準全摘術は眼症を悪化はさせないことが分かった。

しかしながら、甲状腺準全摘術後に放射性ヨード治療を行うやり方は、短期および長期にバセドウ病眼症を非活動性にし、その状態を維持するのに効果的であると判明した。甲状腺準全摘術後に放射性ヨード治療を受けた患者は眼症の悪化や再発がみられず、長期追跡調査中ずっと非活動性を保った。

したがって、甲状腺眼症の病因と自然経過について我々は十分な知識がないために決定的な結論を出すことはできないけれども、放射性ヨード治療がバセドウ病眼症の悪化を予防しているように思える。しかしながら、TSHレセプターが甲状腺と眼窩の共有抗原であるという現在の仮説が支持されるなら、甲状腺切除術後のほんの少しの甲状腺組織でさえ自己免疫現象の維持に関連していることが推察される。抗原としての甲状腺残置組織の完全除去は、この抗原に対する眼窩の自己免疫反応を永久にコントロールすることになるであろう。

参考文献]・[もどる