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[061]
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産後甲状腺炎
Alex Stagnaro-Green
J Clin Endocrinol Metab 87: 4042-4047; 2002

産後甲状腺炎は、産後1年以内によくみられる甲状腺疾患である。産後甲状腺炎は、次の3つの甲状腺機能異常のどれかを示す:一過性甲状腺機能亢進症、一過性甲状腺機能低下症、一過性甲状腺機能亢進症の後に一過性甲状腺機能低下症【図1】。しかし、ほとんどの女性では産後に甲状腺異常はみられない。

病 因
産後甲状腺炎は、妊娠中に抑えられていた免疫能が産後にリバウンド(跳ね返り現象)して、もともと持っていた自己免疫性甲状腺炎が増悪するために起こると考えられている(1-3)<注釈:母親にとって、胎児は父親からの遺伝子も受け継いでいるため、母体の免疫系が自分以外のものと認識して排除しようとすると困るので、妊娠中は自分の免疫能を低下させ、胎児を守っている。産後にこの免疫能の抑制がなくなるので、一気に免疫能が元に戻る。これを、リバウンドという。分かりやすく言えば、バネを押さえていたのを急に放した状態である>。ヒト白血球抗原(HLA)DR-3、DR-4、DR-5を持っている女性で、産後甲状腺炎を起こしやすい。産後甲状腺炎を起こす女性では、妊娠中および産後にCD4+/CD8+、CD4+2H4+比が増加している(4)。組織学的には、穿刺吸引細胞診を行うと慢性甲状腺炎(2,3,5)無痛性甲状腺炎(6)でみられる散発性またはびまん性リンパ球浸潤がみられる。要するに、妊娠前には臨床的には症状がなかった慢性甲状腺炎が、産後に免疫系のリバウンド現象を契機として症状が発現したということである(2)

頻 度
産後甲状腺炎の頻度は、報告者によりまちまちである。この頻度の違いの原因は、民族的な違いがあるかもしれないが、大きな要因は甲状腺自己抗体の測定法の違いである。さらに、測定法の違いのみではなく、妊娠中の甲状腺のスクリーニングに関する研究が少ないのである。産後甲状腺炎を起こす女性の一部は、もともと橋本病(慢性甲状腺炎)を持っている。産後甲状腺炎の頻度に関して、以下に述べる基準を満たす研究はたった13しかない:1]産後、最低5ヶ月まで経過をみている、2]産後、決められた時点で2回甲状腺機能を調べている。この13の研究はすべて前向き試験であり<注釈:前向き試験とは、研究を始める前に研究方法を決めて行う研究である>、研究方法で述べているが、前もって決められた産後の時期に甲状腺機能をチェックしている。

産後甲状腺炎の頻度は1.1%〜16.7%までと報告によりかなり差があり(1,3,5,7-15)、平均すると7.2%である。タイプ1糖尿病(インスリン依存型糖尿病)患者では、産後甲状腺炎の頻度は3倍に増える(16,17)。特に、ニューヨーク地方では、産後甲状腺炎の頻度は8.8%であるが、タイプ1糖尿病患者では産後甲状腺炎の頻度は25%である(16)。産後甲状腺炎もタイプ1糖尿病と同じく自己免疫性疾患であるので、タイプ1糖尿病患者において産後甲状腺炎の頻度が高いことは驚くことではない。さらに、以前の研究でタイプ1糖尿病患者では、抗甲状腺抗体の陽性率が高いことも報告されている。

流産後にも甲状腺炎が起こるが、頻度は不明である(18,19)。さらに、タイプ1糖尿病患者と同様に、SLE、慢性関節リウマチ、強皮症などの自己免疫性疾患を持つ女性も、産後甲状腺炎の頻度は高いことが予想される。しかし、SLE、慢性関節リウマチ、強皮症などの自己免疫性疾患を持つ女性に対して産後甲状腺炎の頻度を調べた研究は皆無である。

産後甲状腺炎の再発率は高い。産後甲状腺炎を起こした女性の70%は、次の出産後にも産後甲状腺炎を起こす。抗TPO抗体陽性にもかかわらず産後甲状腺炎を起こさなかった女性が、次の出産後に産後甲状腺炎を起こす頻度は25%である。それに対して、抗TPO抗体陰性で産後甲状腺炎を起こしていない女性が、次の出産後に産後甲状腺炎を起こすことはない(20)

病型パターン
前述の13の研究に記載されている371回の産後甲状腺炎で、病型パターンについて検討されている。最も多いパターンは、先行する甲状腺機能亢進症がみられない甲状腺機能低下症であり、このパターンが43%を占める。甲状腺機能亢進症のみが32%、最も少ないのは先行する甲状腺機能亢進症がみられる甲状腺機能低下症であり、25%である。

症状と診断
症状は、産後甲状腺炎を起こしている間にみられる。甲状腺機能亢進症の症状は軽度であることが多い。甲状腺機能低下症の診断がついた後に、産後甲状腺炎の診断がつくことが多い。甲状腺機能低下期も気づかれずに、自然に回復することもある。甲状腺機能低下期に気づかない理由は、症状が軽いかもしくはないこと、赤ちゃんの育児に追われて本人が気づかないこと、または医師が症状に気づかないことに起因する。

産後甲状腺炎の甲状腺機能亢進期は、産後2〜10ヶ月の間に起こる。通常、産後3ヶ月目が多い。甲状腺機能亢進期の産後甲状腺炎患者でよくみられる症状は、動悸、疲労感、暑がり、いらいら感である(1,10,21,22)【表1】。甲状腺機能亢進期に無症状である症例は、33%である(10)。治療しなくても、甲状腺機能亢進症は2〜3ヶ月で自然に良くなる。産後甲状腺炎の甲状腺機能亢進期は、抑制されたTSH値、抗TPO抗体陽性、TSHリセプター抗体陰性から診断できる。フリーT4値は、高いこともあるが正常なこともある。

産後に発症するバセドウ病は、産後甲状腺炎の頻度の1/20であるが、バセドウ病の発症はその他の時期と比べると産後に多い。産後甲状腺炎とバセドウ病の鑑別は、普通は簡単である。しかし、ある研究によれば産後甲状腺炎の25%がTSHリセプター抗体が陽性であると報告しており、そのような場合には鑑別が難しいこともある【表2】。TSHリセプター抗体が陽性の場合、眼球突出か甲状腺の血管雑音があればバセドウ病の診断はより確実になる。バセドウ病患者の甲状腺腫は、産後甲状腺炎の甲状腺腫に比べると大きい。症例によっては、放射性ヨード摂取率をすれば、診断は確実にできる。産後甲状腺炎の甲状腺機能亢進期なら、放射性ヨード摂取率は非常に低い値を示し、一方バセドウ病なら放射性ヨード摂取率は高い値を示す。

産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期では、産後2 〜12ヶ月に起こり、甲状腺に痛みは出ない。通常、産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期は産後6ヶ月ころに起こる。産後1年以上続く甲状腺機能低下症は、産後甲状腺炎とはいわない。集中力低下、注意力低下、乾燥皮膚、記憶力低下、無気力は、甲状腺機能低下症の症状である(1,10,21,22)【表1】。産後に血清TSHが高値になり、抗TPO抗体陽性なら産後甲状腺炎と診断してよい。稀に甲状腺の圧痛がある場合、血沈が正常であることが産後甲状腺炎の診断に役立つ<注釈:血沈が速ければ、亜急性甲状腺炎である>。

産後うつ病
産後甲状腺炎と産後うつ病の関連については一致した意見は出ていない。産後うつ病の発症に、甲状腺機能低下症と抗甲状腺自己抗体(抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体)陽性の影響について研究がなされてきた。2つの研究では、甲状腺機能低下症と産後うつ病の関連性があると報告した(21,23)。別の2つの研究では、産後に甲状腺機能は正常だが抗甲状腺抗体陽性の女性でうつ病の頻度が高いと報告している(24,25)。1つの研究では、産後うつ病と甲状腺機能低下症および抗甲状腺自己抗体の間には関連性はないと報告している(26)。産後甲状腺炎と産後精神異常の関連性はない(27)

永続性甲状腺機能低下症
通常、産後甲状腺炎は1年以内までには甲状腺機能は正常に戻る。しかし、長期間、観察していると永続性甲状腺機能低下症になる症例が出てくる。研究によれば、甲状腺機能低下症の頻度は、産後3.5年で23%、産後8.7年で29%である(28,29)。永続性甲状腺機能低下症に進展しやすいのは、産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期にTSH値が高く、抗TPO抗体価が高い症例である(12)。産後甲状腺炎が永続性甲状腺機能低下症に進展するという事実は、産後甲状腺炎はもともと存在する橋本病の臨床症状であることの証拠を示している(28)

治 療
甲状腺機能亢進症
産後甲状腺炎の甲状腺機能亢進期に治療することが、患者にとって利益があるかどうかを検討した研究はない。しかし、潜在性甲状腺機能亢進症は、いろんな症状がみられ生活の質(QOL)に悪影響を与える(30)。甲状腺機能亢進症の症状が強い場合、治療が必要なら、医師と患者の合意のもとに行われるべきである。ベータ遮断剤は、動悸、イライラ感、神経過敏を改善する。治療する際に問題が起こるとすれば、それはベータ遮断剤の副作用のためである。治療は、症状が続くときには行われるべきである。甲状腺ホルモン高値は甲状腺炎による甲状腺組織の破壊のために起こっているので、抗甲状腺薬は使用してはいけない。

治療に関して、症状のある患者にはベータ遮断剤を投与するようにしている【図2】。動悸、イライラ感などを改善するための量を調整しやすいので、プロプラノロール<注釈:商品名 インデラル>が使いやすい。治療は、通常3ヶ月以内で終了する。症状や甲状腺ホルモン値をみながら、ベータ遮断剤の投与量を決める。FDA<注釈:日本の薬事審議会のようなところ>は、授乳中のプロプラノロールの使用を許可している。
甲状腺機能低下症
前述した13の研究によれば、産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期に甲状腺ホルモン剤治療を行った症例は、13〜73%であり、平均34%である。この13の研究は治療試験ではないため、治療開始の基準が一定していない。内科医と内分泌専門医を対象とした最近のアンケート調査では、産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期に対する治療開始の基準は、甲状腺機能低下症の症状があり、血清TSH値が10mU/L以上である(31)。潜在性甲状腺機能低下症を治療する利益は、乾燥肌、寒がり、疲れやすい、認知能の低下などの甲状腺機能低下症の症状を改善したり(32)、排卵障害がある女性の不妊を解消することである(33)。潜在性甲状腺機能低下症をもつ妊婦は流産をしやすいので(34)、産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期に妊娠した場合には、甲状腺ホルモン剤による治療が必要である。さらに、妊娠初期に血清T4値が低いか、妊娠中期はじめに血清TSH値が高い母親から生まれた児は、7〜8才時に知能低下が起こる可能性がある(35,36)<注釈:この意見は認められているわけではない。百渓先生は、この意見に反対している。結論が出たわけではないので、この記載はそのまま信用するわけにはいかない>。従って、妊娠初期に甲状腺機能低下症を持つ妊婦を甲状腺ホルモン剤で治療することは重要になってくる。

産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期の治療については、結論は出ていない。いつ治療を開始するか、治療をするべきかどうかが、まだ解決されていない。ほとんどの医師は、産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期に症状があれば、甲状腺ホルモン剤治療を行っている。しかし、血清TSHが高くても無症状である女性を治療することが、利益あることかどうかは不明である。また、甲状腺ホルモン剤の投与期間についても、合意が得られているわけではない。甲状腺機能低下症の場合、対応の仕方は2つである:1]6〜12ヶ月後に甲状腺ホルモン剤を減量していく、2]子供を産み終えるまでずっと甲状腺ホルモン剤を飲み続ける。

甲状腺機能低下症の場合、症状があるとき、妊娠を計画しているとき、血清TSH値が10mU/Lを越えているときには甲状腺ホルモン剤治療をするべきであると考える<注釈:これは、著者であるStagnaro-Green医師の個人的な意見であるが、わたしも同じ意見である>。サイロキシン<注釈:チラーヂンS>の開始量は、TSH値にもよるが、通常は50マイクログラム/日から始める。維持量は、症状と血清TSH値により決定される。一旦、維持量が決まったら、子供を産み終えてから1年後まで、サイロキシンを投与する。妊娠の間は、サイロキシンを服用している場合、TSHを注意深くチェックするべきであり、必要に応じて投与量を調整する必要がある。最後の出産から1年後に、サイロキシンの量を半分に減量し、6週後に血清TSH値を測定する。もし、甲状腺機能が正常ならサイロキシンを中止し、6週後に血清TSH値を測定する。サイロキシンを中止することができた場合でも、将来甲状腺機能低下症になる可能性があるので、年1回はTSHを調べるべきである。

スクリーニング
産後甲状腺炎のスクリーニングをすべきかどうか、もしするとすればどのような方法で行うかについては意見の一致がみられていない(37)。妊娠中に抗TPO抗体をスクリーニングすると、産後甲状腺炎を起こす可能性が11倍高い女性を見つけだすことができる。産後にTSHをスクリーニングすれば、産後甲状腺炎を見つけることができる。アメリカでは年間400万人の赤ちゃんが生まれる。全ての出産婦をスクリーニングすることは重要な健康保護になるが、そのためには人員、資金、精神的支えなどを必要とする。スクリーニングをするかどうかを決定する場合には、産後甲状腺炎の臨床的な影響を検討し、最近の文献で以下のことを考慮に入れる必要がある:1]流産と胎児の知的発達に対する妊娠中の潜在性甲状腺機能低下症の影響、2]甲状腺自己抗体と流産の関連性について。

スクリーニングをするかどうかを決定するには、以下のことも検討する必要がある:1]産後甲状腺炎のスクリーニングを行った場合、それに見合った効果があるのか?、2]産後甲状腺炎に関連した重大な問題点があるのか?、3]産後甲状腺炎の合併症を予防できるのか?、4]感度と特異性が高く、コストの安い一般的に使用されている測定法があるのか?

最初の3つの質問に対する答えは簡単である。産後甲状腺炎は頻度が高く、臨床的に問題になる症状を有し、サイロキシンで治療可能である。臨床的な問題としては、母体が感じる甲状腺機能低下症の症状(1,10,21,22)、甲状腺機能低下症は不妊の原因になること(33)、母体のT4低値(妊娠初期)やTSH高値(妊娠中期はじめ)が胎児の知的発達の遅延を引き起こす可能性(35,36)、潜在性甲状腺機能低下症では流産の頻度が高いこと(34)、未治療の甲状腺機能低下症の存在などである。

抗TPO抗体が、産後甲状腺炎を起こすかどうかのスクリーニングには最も適した検査である。抗TPO抗体は、広く普及しており、経済的であり、再現性も高い。スクリーニングとして抗TPO抗体を検討した研究から、感度は0.46〜0.89、特異性は0.91〜0.98である。産後甲状腺炎の予測は、0.4〜0.78の間である(38)。結果の差は、測定法の違いや妊娠中は抗TPO抗体価の低下が起こり、場合によっては陰性化することもあること(産後は、リバウンドで抗TPO抗体価が高くなる)などによる。

母体の潜在性甲状腺機能低下症が胎児に与える影響および甲状腺自己抗体と流産の関連性がスクリーニングの是非を討論する際に影響を与える。妊娠初期の母体のFT4低値は、児のベイリー(Bayley)精神運動発達指数の低スコアーと関連している(36)。妊娠後期はじめの母体の甲状腺機能低下症は、知能指数が7ポイント低下していることと関連している(35)。妊娠後期の母体の甲状腺機能低下症は、死産の危険性が増す(34)。この10年間の研究で、甲状腺機能とは関係なく抗TPO抗体陽性妊婦は流産の頻度が2〜4倍増えることが分かってきた(39,40)

産後甲状腺炎のスクリーニングに関して3つの意見を述べている論文が、最近掲載されました。全員をスクリーニングする、スクリーニングをしない、起こしやすい人を選んでスクリーニングするという3つの意見である(37)。全員をスクリーニングすることを勧める意見は、産後甲状腺炎を治療することで出産婦の生活の質が向上するという仮定に基づいている。スクリーニングに反対する意見は、適正なスクリーニングの検査が合意されているわけではなく、産後甲状腺炎を治療する利益が証明されていないことを理由にあげている。選んでスクリーニングすることを勧める意見は、産後甲状腺炎になりやすい女性における高い抗甲状腺抗体陽性率を引き合いに出す。

妊娠初期に抗TPO抗体のスクリーニングを行い、抗TPO抗体陽性例に対して産後6週のTSHスクリーニングをした場合とスクリーニングをしなかった場合の費用の比較を行った研究がある(41)。妊娠初期に抗TPO抗体が陽性であった女性は、産後6週目と3〜4ヶ月目にTSHスクリーニングを受ける。産後甲状腺炎の頻度を5%と仮定すると、この研究から妊娠初期に抗TPO抗体のスクリーニングをすることで各年令毎に60,000ドルの費用削減になると結論している。しかし、この研究では妊娠初期の潜在性甲状腺機能低下症が診断されない影響については検討していない。

医学学会団体が出しているスクリーニングに関するガイドラインもまちまちで、修正しているものもある。アメリカの医学学会団体では、産後甲状腺炎に対して全員をスクリーニングすることを薦めているガイドラインはない。アメリカ産婦人科学会は、産後のスクリーニングを勧めていない(42)。アメリカ甲状腺学会は、妊娠中のスクリーニングを行うかどうかは、主治医と患者がよく話し合って決めるべきであると述べている(43)。アメリカ臨床内分泌専門医会は、以前より抗TPO抗体が陽性であることが分かっている女性に限って、産後にスクリーニングを勧めるように勧告している(44)。大阪産後健康保護協会のみが、妊婦全員のスクリーニングを勧めている(網野信行・大阪大学医学部教授、私信)。特に、大阪産後健康保護協会は妊娠初期の抗TPO抗体のスクリーニングを勧めている。抗TPO抗体陽性の女性は産後甲状腺炎になりやすいので、産後3ヶ月目と6ヶ月目に甲状腺機能を調べる。

全員に対して産後甲状腺炎のスクリーニングをする際の複雑さは、臨床予防行政のガイドラインによく表現されている(45)。臨床予防行政のガイドラインでは、すべての妊婦にスクリーニングを行うことを推奨する十分な証拠はないが、産後甲状腺炎の頻度と産後に甲状腺機能低下症が見逃される可能性が高いことがスクリーニングを必要とする理由であると結論している(45)

甲状腺機能低下症を治療する利益と妊娠前および妊娠中に甲状腺機能を正常にする重要性を考慮に入れれば、産後甲状腺炎を起こす可能性が高い女性に対してスクリーニングをすることを勧める。特に、インスリン依存性糖尿病(タイプ1)、以前に産後甲状腺炎を起こした既往のある人、抗TPO抗体陽性であることが分かっている人、流産の既往がある人に対しては産後3ヶ月目にスクリーニングを行うべきである。産後うつ病のある女性、別の自己免疫疾患を持っている女性、自己免疫性甲状腺疾患の家族歴を持つ女性なども、産後3ヶ月目にスクリーニングを行うべきである。スクリーニングの項目として、抗TPO抗体とTSH値は入れるべきである。抗TPO抗体陰性で、甲状腺機能が正常な場合はそれ以上の経過観察は必要ない。抗TPO抗体陽性の場合、産後6ヶ月目と9ヶ月目に血清TSH値を調べるべきである。

. Dr.Tajiri's comment . .
. 産後甲状腺炎については以下を参考にしてください。
赤ちゃんが生まれてきた後:産後甲状腺機能障害
産後甲状腺異常

産後うつ病については以下を参考にしてください。
産後うつ病:ホルモンとのつながり
ベイビーブルース【甲状腺疾患と産後うつ病】

スクリーニングについては以下を参考にしてください。
無症状の成人を対象とした甲状腺機能異常に対するスクリーニングに関する8つの機関の勧告
臨床ガイドライン<1>甲状腺疾患のスクリーニング
臨床ガイドライン<2>甲状腺疾患のスクリーニング:最新情報
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参考文献]・[もどる