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バセドウ病に対する外来での放射性ヨード治療:この一年
田尻淳一 田尻クリニック 熊本

バセドウ病に対しては抗甲状腺剤、放射性ヨード治療、手術が治療の3本柱です。それぞれに長所、短所があります【表1】。それらを分かりやすく説明して、患者さん自身に治療法を選択してもらうのが一番いいと考えています。そのためには十分な時間をとって、患者さんに治療の長所、短所を理解してもらい、選択した治療法に対して納得してもらうことが最低条件です。ここを怠ると、その後の治療や医師・患者関係もうまくいかないことがあります。やはり、何事も最初が大切です。
【表>1】治療法の比較
  抗甲状腺剤治療 放射線治療 外科治療



  • あらゆる年齢
  • 妊婦
  • 甲状腺の腫れが小さい人
  • 病気の程度が軽い人
  • 高齢者
  • 心臓や肝臓の悪い人
  • バセドウ病手術後に再発した人
  • 薬で治りにくい人
  • 薬の副作用が出た時
  • 若い人
  • 甲状腺の腫れが大きい人
  • 甲状腺癌の疑いがある時
  • 早く治りたい人
  • 薬で治りにくい人
  • 薬の副作用が出た時


  • 簡単
  • 日常生活が可能
  • 甲状腺の腫れが小さい人
  • 薬の量を加減できる
  • 早く治る
  • 癌・白血病にならない
  • 生まれてくる子供に影響がない
  • 早く確実に治る
  • 再発が少ない


  • 治りにくい
  • 長期間かかる
  • 副作用がある
  • 効き方が不確実
  • 甲状腺機能低下症になる
  • 施設が限られる
  • 手術の傷が残る
  • 後遺症がある
  • 入院を要する
今回は、バセドウ病治療のうち放射性ヨード治療、特に外来での放射性ヨード治療について述べたいと思います。

1998年6月に、厚生省からの通達放射性ヨード治療(アイソトープ治療)が500MBq(13.3mCi)までなら、外来で治療しても良いことになりました。これは、今まで約2週間の入院が必要で特別な病棟に隔離されていたことを思うと、患者さんにとっては、朗報であると思います。しかし、甲状腺機能が高いとか、心疾患など別の重篤な病気を持っている症例では外来での放射性ヨード治療は不適切なこともあります。入院治療か外来治療かは主治医が判断しますが、甲状腺機能さえしっかりと抑え込んでおけば、ほとんどの場合は外来でバセドウ病のアイソトープ治療は可能であると考えます。

アイソトープ治療は、癌や白血病にもならず、将来子供を産む若い女性に投与しても奇形児が生まれたりなどしません。安全であり、治療費も安く、外来でカプセルを飲むだけと大変簡単です。すなわち、安全、安い、簡単と3拍子揃った治療なのです。唯一の欠点は10年後に約50%の人が甲状腺機能低下症になることです。これは、甲状腺ホルモン剤さえ飲めば、全く問題ありません。 アイソトープ治療の先進国であるアメリカではバセドウ病の9割がアイソトープ治療を受けるまでになっています。前アメリカ大統領のブッシュさん、バルセロナ、アトランタオリンピックの女子陸上100mのゴールドメダリストであるゲイル・ディーバース選手もアイソトープ治療でバセドウ病を治しています。

このような良い治療が、何故日本ではあまり普及しなかったのでしょうか?それは、日本が世界で唯一の被爆国であることも関係しているでしょう。また、アイソトープ治療をするためには、入院を要したということもこの治療の普及の妨げになったでしょう。加えて、アイソトープ治療のできる施設があまりにも少ないということも理由としてあげられるかもしれません。

しかし、外来でアイソトープ治療が可能になれば、クスリを長期に飲んでも治らない人、手術は嫌であるという人、クスリの副作用で別の治療を選択しなければいけない人、手術ができないような別の病気(例えば、心臓病、肝臓病など)を持っている人、早く治りたい人などにとっては非常に福音です。

まず、当院で行っているバセドウ病患者に対する外来アイソトープ治療について紹介します。当院では治療についてのパンフレットを患者さんに渡して治療について理解してもらっています。

またQ&A集も参考にしてもらっています。

放射性ヨード摂取率の3時間値を用いる文献的考察
わたしは患者さんの負担を少しでも軽くするために、アイソトープ投与量を決めるのに24時間値ではなく3時間値のみで計算します。Verulakonnda USらは、123-I摂取率4時間値から予測24時間値を算定して、良好な結果を得ています(Clinical Nuclear Medicine 21;102-105:1996)。計算式は以下の如くです。
予測24時間値 = -38.618 + 65.216 × log[3時間値]
17%でrapid turnoverの症例があり、24時間値の方が低い。バセドウ病に対するアイソトープ治療自体がかなりアバウトな治療であるので、これくらいの頻度はあまり臨床上問題になりません。外来で治療できるので、効きが不十分なら再度アイソトープ治療を行えばよいと考えてます。これが、簡便な外来アイソトープ治療の良いところと思います。ヨード摂取率測定検査をしているところをお見せします。

この一年間の外来アイソトープ治療
昨年の7月16日から外来アイソトープ治療を始め、2000年10月9日までに、延べでバセドウ病361例、プランマー病11例を治療しました。甲状腺への平均吸収線量は6,500radです。わたしのクリニックの年間に訪れる新患数は約1,200人です。開業してアイソトープ治療を始めるまで、約6年半です。単純計算するとその間に来院した新患患者は約8,000人になります。
例えをあげれば、神戸の隈病院が年間の新患数が約7,000人で、アイソトープ治療(これは甲状腺癌も含めて)が年間377人です。わたしのところのような小さなクリニックでこの一年間にこれだけの数のアイソトープ治療ができたのは、それまでにクスリで治らないけれど、他の治療を受けたくなかった人が外来でアイソトープ治療が、それもわたしのクリニックでできると分かって、クスリよりアイソトープ治療を選択したというわけです。好きでクスリを飲んでいたのではなく、仕方なくクスリを飲んでいたのだなと思いました。多くの場合は、誰しも早く治りたいわけです。でも、仕事の都合、家庭の事情などで入院できなかったわけです。そのような人たちが、アイソトープで治っていっていますから、これからはうちのクリニックの規模なら、年間50〜100例程度でしょう。アイソトープ治療で明け暮れた一年でした。
バセドウ病は抗甲状腺剤では30%しか治りません。かといって、手術をする必要はないと思います。特に、最近は年令も15歳以上ならアイソトープ治療の適応になるという考えになってきています。以前のように、若い人は手術という常識が覆される日も近いと思います。若い人こそ、傷の残らないアイソトープ治療が適していると思います。ただ、アイソトープ治療後にTSHレセプター抗体が一時的に高くなりますので、1〜2年以内に妊娠する可能性のある人は慎重に経過をみる必要があります。

今後の問題点
欧米諸国ではすでに以前から、投与量の限界はありますが、外来での放射性ヨード治療は認められていました。しかるに、我が国では少量のアイソトープを服用するだけでも入院を要していました。それも、特別な病棟に隔離されて尿を貯めさせられていました。これは患者さんにとっては非常に辛いことだったと思います。精神的ストレスは計り知れないものがあったと思います。ついに厚生省の頭の硬い役人さんが、唐突に外来でのバセドウ病に対する放射性ヨード治療をしてもいいと言い出しました。これは、患者さんのためというより、医療費を削減するための手段だと感じています。どちらにせよ、役人と患者さんの利害が一致したのです。これは今までになかったことです。患者さんのためになるのならいいことです。
しかし、問題はそれ程簡単ではなかったのです。実は、医療サイドにとってはこの外来での放射性ヨード治療はあまりメリットがないのです。何故かと申しますと、バセドウ病の放射性ヨード治療自体に保険で認められた点数がないのです。すなわち、治療自体はただなのです。患者さんに対して、長時間かけて安全性や将来起こりうる甲状腺機能低下症について説明し、やっと納得してもらい、「さあ!治療」となっても、ただなのです。確かにアイソトープカプセルは薬品として点数はついています。これは100%原価で仕入れますから、5%の消費税を払えば赤字です。これでは、いくら厚生省が外来でアイソトープ治療をするようにと勧めても、医療機関としてはおいそれと「そうですか」とはいかないのが実状です。放射線技師の給料も出ない可能性があるからです。
だから、今でも入院させてバセドウ病のアイソトープ治療を行っているところが多いと思います。入院させると諸々の検査などで約58万円かかります。これは医療機関によって多少の違いはあるでしょうが、かなりな高額になります。外来でアイソトープ治療を行えば、投与量が外来最高量でも5万円くらいです。この違いは医療機関にとっては大きいです。反対に、患者さんや支払い基金にとっては好都合なのです。

わたしの個人的な意見では、アイソトープ治療に保険点数をつけるべきです。アメリカを例に取るとアイソトープ治療の費用は500ドル(日本円に換算して6万円弱でしょうか)です。それくらいは保険点数をつけてあげるべきです。患者さんを説得し、治療前後の説明をし、投与量を決めることに対して、それくらいの代償はあってもおかしくはないと思います。そうすると、外来でアイソトープ治療をする医療機関も増えてくると思います。

昨年7月、外来アイソトープ治療を始めるにあたってもっと多くの人に外来でアイソトープ治療ができるようになったことを知らせたい、そしてどこでそれができるのかも公開したいと思いました。本来ならば、日本アイソトープ協会が患者さんのために公開すべきだと思い、メールで要請しました。返ってきた回答は「検討します」でした。これは、役人言葉で「何もしないこと」を意味することくらい私でも分かります。わたしは、敢えて自分で草の根運動をして、日本全国の甲状腺専門医および放射線科医の先生方に個々にお聞きして、出きる限り調べました。そして、日本全国のバセドウ病のアイソトープ治療が可能な施設を公開しました。しかし、全部は分かりませんでした。しかし、彼らの公開を待っていたのでは、いつになるか分かりません。これが、日本の実状です。国民の権利はどこへ行ったのでしょう。

もっと、患者さんがアイソトープ治療について理解し、外来でアイソトープ治療を受けて一日も早く、健康になられることを望んで止みません。

最後に、もう一度言います。バセドウ病のうち抗甲状腺剤で治るのは30%です。その他の方は抗甲状腺剤では治りません。しかるに、日本ではバセドウ病の80%の人が抗甲状腺剤で治療を受けています。この事実をあなたはどう考えますか?

. Dr.Tajiri's comment . .
. バセドウ病に対して外来アイソトープ治療を受けた日本人の方アメリカ在住の日本人の方の手記も参考にしてください。日米の差が興味深いです。 .
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