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アイソトープ治療「アメリカ編」
. Dr.Tajiri's comment . .
. このレポートを書いてくれたのは、アメリカ在住のニックネーム「ミス ペイシェント」さんです。
アイソトープ治療を受けたのはアメリカの病院です。外来でのアイソトープ治療です。
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私が甲状腺亢進症と診断されましたのは、今年の1月、血液検査によるものでした。
全く予期せぬ診断に、この耳慣れない甲状腺亢進症について、いったいどういう疾患なのか、甲状腺とはなにか知る必要があると思い、幸運にも貴ホームページに出会えることができたのです。治療を始めながら、症状の変化、薬の効果など、治療経過とともにご相談ご回答頂けたことや、皆さんの会話を伺い、どんなにか心のささえになったことか。この夏、ここアメリカにてアイソトープ治療をし約60日が過ぎた今、経過はよく、治療の効果が確実に現われています。

この度皆様に、アメリカでのアイソトープ治療の体験をご紹介することで、何らかのご参考になればと思い、投函致したいのですが、その前に、是非、なおさんにアイソトープ監獄編のお礼をお伝えしたいと思います。入院開始から退院までの手記をありがとうございました。すべて読ませて頂き、なるほどこう治療するのかとわかりました。私の場合、入院は全くしませんでしたが、おかげで、治療への心構えや、準備ができとても参考になりました。私も、うまく書けるか自信はありませんが、多少なりとも皆様の良い情報になればと願うところです。
8月3日木曜日  
8月10日木曜日 Methimazole(メルカゾール)の服用でなんとか亢進症を治そうとしましたが、8月初旬、腕に発疹がでて、結局、甲状腺専門医(Internal Medicine, Endocrinology & Metabolism)より、アイソトープ治療をするように、総合病院の紹介状をもらいました。その病院は、以前、他の手術で入院したこともあり、丘の上にある、とても近代的でホテルのような病院です。すぐに予約がとれるか不安でしたが、翌週治療できるから、すぐ来て下さいと言われ、なんだかあまりに早く予約がとれたので、逆に不安になったほどです。日本では、放射性ヨード治療の医師は、核医学科医と言われるように、アメリカでもNuclear Medicine Specialist in the Department of Nuclear Medicineと言うそうで、私が行く病院の医師は、年輩のカナダからアメリカに移住している女医さん(以下MDと呼ぶ)です。

後で聞いた話ですが、当病院では、Radioiodine Treatment(アイソトープ治療)ができるのは彼女だけで、もし大量の投与をした場合、汚水処理場(多分)から、放射線が洩れていると、MDの所に連絡がきて、強い治療をしたかとの問い合わせがくるそうです。その辺はあまり詳しく聞けなかったのですが、そうなると医師は公共の汚水の事まで考えなければならないのでしょう。

MDと電話の問診が始まり、手はどの程度震えるか、心拍数はいくつか、どんな薬を飲んでいるかなど。私の場合は、割と軽いほうで、甲状腺もさほど大きくなく、のど仏あたりが腫れている程度です。
Methimazole(メルカゾール)5mg Tabletsを1日3錠飲んでいるのを直ちにストップするよう言われ、早速、治療の予定を説明されました。

治療予定とは…
  • 8月10日朝8:30、病院の受付で申請の手続きをすること。その日は、後で、微量のNuclear Medicine(検査用のアイソトープカプセル)をとるので、朝食は取らないこと。そのあとは、仕事に行ってもよい。
  • 8月11日朝8:00、朝食はしっかり取るよう言われる。Scanを取ったあと、食事は禁止。 同日午後1:30に病院にもどり、MDから色々説明を聴き、本番のNuclear Medicine(治療用のアイソトープカプセル)を取り、即刻帰宅。
  • 8月12日から14日まで、外出禁止。

とまあ、ざっと簡単過ぎるほどの治療の予定を電話で聞かされ、ノートをとり、言われる通りに8月10日に気楽に行くことにしました。ご存じの通り、アメリカでは、入院費がべらぼーに高いので、また、薬をのんだあとは、自宅にて充分対処可能と言う判断でしょう。ここが、日本との大きな違いであり、強調すべきところでしょうか<注釈:日本でも1998年6月から13.3mCiまでは外来でアイソトープ治療可能になっています>
8月10日木曜日  
  この日は、特に説明することがなく、受付で保険などの手続きを済ませたあと、外来患者用の受付、Laboratory(検査室)の方へと行く。しばらく待合い室で待っていると、看護婦さんに呼ばれ、放射能マークのついた鍵付きの部屋に案内され、これから飲む薬の説明がある。MDが現れると期待していたが、まったくお目にかからなかった。看護婦さん、あるいは、MDの助手さんから、今日は、微量の投与量薬を2錠のみ、Thyroid Gland(甲状腺)の大きさを検査し本番の投与量計算するとのこと。手のひらに黄色と紫色した大きめのTablets(カプセル)がおかれ、飲みなさいと言われたが、私がちょっとためらい、色々質問したため、早く飲まないとオブラートがとけ、面倒なことになると注意され、一気に飲んだ。その日は、それだけであっけなく終わった。仕事に行った後の半日は、特に変わった事はなく、ただ喉が乾き、水をずいぶん飲んだような気がする。
8月11日金曜日  
  翌朝、しっかりと朝食を取ったつもりで8時に同じ外来患者用の待合室で待つ。しばらくすると、昨日の助手さんが現れ、同じ部屋に案内される。すぐにScanの撮影(シンチ検査のこと)をしましょうと言われ、細長い機械つきのベットに仰向けに寝て、首すれすれまで撮影機のような機械をおろされ、約20分ほど微動できない窮屈な格好でじっと待つ。

ちょっとこの部屋の様子をご説明すると、ドアはスチール製で厚く、出入りする時は、その都度、鍵で開けて入り、立ち入り禁止のマークが大きくあった。中は、狭く、とにかく機械だらけで、治療室とは思えない雑然とした物置のような感じのところ。部屋の位置は、病院の出入り口からも遠くなく、誰でもが通る廊下に面している。地下とか隔離された位置には全然ないのが不思議になった。只、ドアにはNuclearのマーク(万国共通の放射性同位元素マークです)がはっきりと掲示されていたのを、とても印象的に覚えている。

撮影が終わると、午後1:30に戻るよう言われ、また、あっけなく帰宅する。家に戻ってから、何も食べられないので、家の片づけをしたり、ベットルームに本や水などを用意し、監獄の用意をした。
また、おなかがすいたら、すぐ食べられるよう、果物を洗い、冷蔵庫に入れる。ぶらぶらしていると、1時になり、また病院へと車をとばす。自宅から病院までは、車で15分の距離。この辺は病院だらけで、実は、自宅の窓から見える距離、歩いて5分のところにも大きな病院があるが、そこはどうも行く気がしない。

午後1:30、受付で…MDとの予約があることを告げ、同じ待合室で待つ。しばらくすると、今度は別の看護婦さんが現れMDの部屋に案内された。中に入ると、書斎と言うか、とにかく本が壁から天井までびっしり並び、唖然としながら面談者用のいすに座った。部屋の様子を見回し、しかし、どちらのDoctorの部屋に訪れても、書類の山で埋もれ、彼らの忙しさが想像できるのだが、こちらのMDは極めつけらしく、机がどこにあるのか解らないほどで、地震がおきたら、まっさきに頭の上に本が落ちるなと思った。でも、ここは病院だから安心だな、などとくだらない事を考えているうちに、MDが現れた。彼女は、小柄で白髪のやさしい印象で安心した。 

MDは、これから色々な書類を渡すから、説明を良く聞くようにと言われ、今思えば、医学講義を受けたようでもあり、結局、入院をする治療ではないので、これからする、アイソトープ治療(I-131 Treatment)をよく理解し、放射能感染を防ぎ、且つ、治療を成功させるよう教育する。投与後、自宅に帰ったあとは、すべて患者に任せる。英語に自信のない人は、通訳同行の必要ありと感じた。

書類の種類は、後で記述しますが、6件。説明時間は、質問も含め1時間以上したような気がする。
説明中に今朝の助手さんが現れ、Scan撮影(シンチ検査のこと)の結果を報告しながら、投与量の計算が始まる。
会話は、何、何ぐらいですね・・・とか医学用語で話し、MDが計算機で数字をたたいていました。
結果、書類によると、14.55millicuries of I-131 sodium iodide, Equivalent dose of 72.5 up to be 10.5mco I-131 とあります(※走り書きで72.5 or 72.5%解読不可、10.5mco or 10.5wco か解読不可)<注釈:131-Iの半減期は約8日です。14.55mCiの放射能が72.5%に減衰していることを示しています。実際に服用したのは10.5mCiです>

助手さんは、OKと行って、退室する。多分、本番Tabletの調合に行ったのだと思います。
それからまた、MDの説明が続けられ、最後に同意書にサインをし、それでは、薬ができているだろうから行きますかと言われ部屋を出る。今度は、地下かなんかの特別な治療室でも案内されるかと思ったが、Scan撮影した同じ部屋であった。

部屋に入ると今度は、他の患者とさっきの助手さんがいて、治療が始まっていた。狭い部屋に4人入り、私は、その辺にある台をテーブル代わりにし、空いている椅子に座った。本当にここで本番の薬を飲むのか疑問に思っていると、MDが手袋をはめ始めたので、やっぱりそうかと思い気をとりなおす。

MDが部屋のすみにある、鉄製(多分)<注釈:これは鉛製です>の箱から鉛らしい筒をとりだした。この筒はすごく重いよと言いながら、筒の中から、薬の入ったプラスチックの透明な容器を取り出し、私の左手(多分)に持たせた。部屋に入る前に用意しておいた水入りの紙コップを右手に持ち、容器を口元にもっていき、薬をさわらないように、容器からそのまま口の中に落とし入れて飲むよう指示があった。 缶ジュースを飲むスタイルである。解りましたという間もなく、考えずに言われる様に1!2!のリズムで薬、水の順にいっきに飲み干した。

MDは、私に「Good Girl」と言い、あなたはたった今、アイソトープ治療をしましたよと言いながら、今度は、すでに用意してあった(多分)放射能探知機をONにし私に近づけ、びりびりとゆう音を聞かせるのです。これも治療では必要なのかなと思い、確かに体内には放射線が投入されていることを証明をし、じゃすぐ帰りますと急ぐ私に、MDがなんと、手袋をとり、「Good Luck」と言いながら握手をしてくれました。 

少々あせりを感じている私は、とにかく帰らなければと思い、御礼の言葉もそこそこに、精算などの事務処理はいっさいなく、Parkingにまっすぐに向かい、自分で運転し帰宅したのです。

病院での治療は以上で、その後は、2度MDと電話をしただけで、病院には来る必要がなかったです。
帰宅後も体調は、ほとんど変化なく、痛み、かゆみ、全くありあませんでした。
3日間の外出禁止、MDから渡された書類に従い食事療法と放射線をはやく体内から排泄することに集中しました。

只、運動不足と食事が充分でなく水ばかり飲んだので、胃腸の調子が悪くなり、おなかが痛くなったり、食欲がなくなったり、3日間ダウン状態にはなりました。

渡された書類も治療の一部であり、水分の取り方、ダイエット、対人との接触距離は重要事項とのことで、6種類の内容をご紹介致します。特にダイエットでは、Iodine(ヨード)の含まれる食品、生ざかなも含め、とってはいけないとのこと。おかゆはOKでも梅干しがだめ。要するに食べられる物がなく、3日間はとにかく我慢しなさいという印象です。

書類内容について
以下すべては、MDの部屋で薬の飲む前に行われた事。

【1】 Why will you receive radioiodine treatment? などと書いてあるpamphlet

【2】 Radioactive Iodine I-131 Treatment for Hypertyroidism …説明書

【3】 Instructions for patients who have received I-131 therapyのForm
  私の場合、14.55millicuries of I-131 sodium iodide. Equivalent dose of 72.5 up to be 10.5mco I-131
…とかの量を飲みました。

後、No Special Raditation Safety Precautions are necessary after …と書かれ、11日から14日までの自宅での対人接触距離間隔を説明を聴きながらFormに書き始める。

<例> a) Friday 8-11-00 @2:00pm to Saturday 8-12 @2:00pm
Permissible distance 4-6 feet or more, for 5 hours/day
At other times remain farther than 6 feet.
などなど…

(もう、読むの疲れたでしょう。でも、まだまだあるのですよ)

【4】 Post-Radioiodine Treatment Instructions Continuedと題し、Special Precautionsつまり特例警戒事項の説明と対策が紙面一面に説明しながらFormに書き始める。
 
<例> Drink fluids. Drink at least 1 glass (preferably) every hour today & tomorrow morning.
Then, drink 1/2 glass every hour until Saturday.
Void frequently. Try every 2 hours. Flush toilet x5 today , x4 tomorow. x2 on Sunday.
No sharing of food or eating for 3 days.
などなど…

要するに、大量の水分をとり、すぐに排出し、何回も流す。また、妊婦、18歳未満との接触禁止。
ベットは共にしない。タオルは共有しない。朝シャワーに入り、髪を良く洗う。72時間セックス禁止。など。

If the patient is to be hospitalized or if death should occur within this precautionary period, notify the following individuals immediately.
For further information please contact: Dept. of Nuclear Medicine Tel No....
Make appointment to see Dr. ........ in 4-6 weeks get blood work before appointment by 9-8-00.

(もうちょっとで終わりです)

【5】 Low Iodine Diet for Nuclear Medicine Tests Iodine Containing Foods to be Avoided …説明書
  Important: You must stop eating any of the iodine - containing foods listed below until after your Nuclear Medicine thyroid tests and/or treatments have been completed.

Listed Foods name 1-14 items

All foods are to be served on disposable dishes and trays.

とにかく、塩分の含まれる食品はすべて禁止。

(やっと最後の書類に来ました)

【6】 Consent Form for I-131 Therapy …同意書
  要するに、治療にあたり、MDの説明に同意する。現在もまた、3ヶ月後も妊娠しない。など。

(おまけの書類)

【7】 Bush starts thyroid treatment with a radioactive“cocktail”Friday, May 10, 1991の新聞の切り抜き
  前アメリカ大統領Bushも、また、奥さんのBarbaraも亢進症になり、この治療をしたとの新聞の切り抜きです。

(おわり)
最後まで読んで頂きありがとうございました。かなりまじめに記述したので、読むのも大変ですよね。
お疲れ様でした。ご参考になりましたでしょうか。
アイソトープ治療アメリカ編でした。
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