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[033]2002年4月1日
[033]
バセドウ病に対するアイソトープ治療に及ぼすメルカゾールの影響:無作為臨床研究
田尻クリニック / 田尻淳一
アメリカのCooperらのグループが、最新のアメリカ甲状腺学会誌(Thyroid 12: 135-139, 2002)に「バセドウ病に対するアイソトープ治療に及ぼすメルカゾールの影響」について報告している。42人のバセドウ病患者を、無作為にアイソトープ治療前にメルカゾールを使用する群(21人)とベータ遮断剤のみ使用する群(21人)に分け、アイソトープ治療に及ぼす影響について検討した。8人が研究から脱落した(アイソトープ治療前にメルカゾールを使用する群5人、ベータ遮断剤のみ使用する群3人)。アイソトープの投与量は15mCiを基準として、甲状腺腫の大きさや放射性ヨード摂取率などで投与量を補正した。アイソトープ治療前にメルカゾール(30mg/日)とベータ遮断剤を少なくとも2ヶ月間投与し、アイソトープ治療6日前から中止した。ベータ遮断剤のみ使用する患者では、アテノロール50〜100mg/日を投与した。ベータ遮断剤は甲状腺機能が正常になったら中止した。一人を除いて、どちらの群も全員、甲状腺機能低下症になった。甲状腺機能低下症になるまでの期間は、両群ともほぼ同じであった(メルカゾールを使用する群:112日[28〜196日]、ベータ遮断剤のみ使用する群:106日[45〜167日])。フリーT4が正常になるまでの期間(メルカゾールを使用する群:44±39日、ベータ遮断剤のみ使用する群:35±30日)やフリーT4が正常以下になるまでの期間(メルカゾールを使用する群:80±70日、ベータ遮断剤のみ使用する群:65±32日)は、両群とも差がなかった。

結論として、彼らは「アイソトープ治療前にメルカゾールを使用しても、治療効果には影響がない。治療成績、甲状腺機能低下症になるまでの期間も差がない」と述べている。
. Dr.Tajiri's comment . .
. 放射線科などでは、メルカゾールを1ヶ月も前から中止して、甲状腺機能亢進状態にしてからアイソトープ治療を行う施設がある。これをやると患者は非常に辛いと思う。このような状態でアイソトープ治療を行うと、アイソトープ投与後に血中甲状腺ホルモンが一時的に高くなり、心臓に負担をかけることになる。特に、高齢者では危険である。最悪の場合には甲状腺クリーゼを起こすこともありうる。現在では、日本でも外来でアイソトープ治療が可能になっているので、メルカゾールで甲状腺機能を正常にしてからアイソトープ治療を行う方が患者も楽である。分かりやすくいえば、メルカゾールで甲状腺内の甲状腺ホルモンを枯渇させていれば、アイソトープ治療で甲状腺を破壊しても、血中に漏れ出る甲状腺ホルモンは少ないのである。例をあげて分かりやすく説明すると、ダムが満水状態で発破をかければ、大洪水になる。しかし、渇水させて発破しても漏れ出る水はチョロチョロなのと同じである。甲状腺ホルモンはこのときの水と思っていただくと分かりやすいと思う。

元来、アイソトープ治療は効きすぎが問題なのであって、少しくらい効かなくても心配ない。余程、甲状腺腫が大きくない限り、2回目で大体治るわけです。今回の研究では、アイソトープ投与量は15mCiを基準にして、甲状腺重量が60〜80g以上か放射性ヨード摂取率(24時間)30%以下なら、5〜15mCi追加し、甲状腺重量が30g以下なら、3〜5mCi差し引いている。それにしても、日本と比べるとアイソトープ投与量がべらぼうに多いと思う。全員が甲状腺機能低下症になるのも頷ける。アメリカのやり方が良いのか、日本のように少量を投与するのが良いのかは分からない。日本では、最初から甲状腺機能低下症にする治療を行おうとすれば、患者から理解が得られないと思う。国民性の問題もあろう。急激な変化を望まない国民性なのであろう。アメリカでも、すべての患者が甲状腺機能低下症にしてしまう治療に納得しているわけではなさそうである。このことについては最近、患者情報[054]で公開した。
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