橋本病の精神症状について

今回は、橋本病の精神症状(うつ病や不安障害など)についてお話したいと思います。

橋本病患者で、うつ病や不安障害はよくみられる症状です。この精神症状の原因として、甲状腺機能低下症や甲状腺自己抗体が考えられています。甲状腺機能低下症でうつ病や不安障害がみられるというのは理解できます。しかし、問題になるのは甲状腺機能正常の橋本病です。この場合は、甲状腺機能低下症は除外されますので、甲状腺自己抗体がうつ病や不安障害を引き起こす可能性もあります。この点については、以下で詳しく説明します。

甲状腺機能が正常か低下かという問題はさて置き、ざっくりと橋本病とうつ病および不安障害の関連性を検討したメタアナリシス(最も信頼性のある論文)が2018年に発表されました(Association of depression and anxiety disorders with autoimmune thyroiditis: a systematic review and meta-analysis JAMA Psychiatr 75: 577-584, 2018)。この論文では、橋本病では健常者と比べて、うつ病や不安障害が多くみられるという結論を出しました。しかし、このメタアナリシスの欠点は、甲状腺機能正常の橋本病と健常対照者を比較していない点です。うつ病と不安障害は世界で3億人にみられるという事実を考えれば、うつ病と不安障害に関して甲状腺機能正常橋本病と健常対照者の比較は必須と思います。その疑問に答えたのが、今回紹介するメタアナリシスです。

そのメタアナリシスは2024年に発表されました。その文献〈1〉はこのお話の最後に記載します。結論から言いますと、1)甲状腺機能正常の橋本病は、健常対照群と比べてうつ病や不安障害にかかりやすいこと、2)甲状腺自己抗体自体がうつ病や不安障害と関連していること、が分かりました。

以前から、チラーヂンSを服用していない橋本病の人を診察している時、甲状腺機能は全く正常にもかかわらず気分が落ち込む、不安を感じるなどの症状を訴えることが多いことに気付いていました。チラーヂンSで治療していれば、今なら「脳の霧」を疑い、T3+T4併用療法をまずお勧めするでしょう。しかし、チラーヂンSを服用していない甲状腺機能が正常である橋本病の人に対してどのように対応すればよいかとずっと悩んでいました。今回のメタアナリシスを読んで、このような人が実際にいることが分かりました。わたしは、自分の頭の中の霧が晴れたような気分になりました。

そこで、甲状腺機能正常である橋本病の人でうつ病や不安障害を訴える人に対して、どのように対応するか自分なりの考えをまとめてみました。

分かっている事実

【1】甲状腺機能正常の橋本病では、うつ病や不安障害がみられる
【2】抗甲状腺抗体自体がうつ病や不安障害を引き起こしている可能性がある
【3】セレン補給により抗TPO抗体が低下する
【4】橋本病では、ビタミンDが不足していることが多い
【5】ビタミンDが不足するとうつ病になりやすい(以下の文献〈2〉参照)

以上の事実を踏まえて、甲状腺機能正常の橋本病の患者さんがうつ病や不安障害を訴える場合、心療内科、精神科に紹介する前に、まずビタミンDとセレンを服用してもらうという対応が良いのではと考えています。ビタミンDセレンは甲状腺ニュースでお話ししましたように、サプリがあります。具体的には、1日にビタミンDを1カプセル(1000単位)とセレン1錠(100μg)を服用することで、うつ病を改善させ、抗TPO抗体を低下させることでうつ病や不安障害を改善する可能性があるのではと期待しています。わたしは、ビタミンDとセレンを一緒に飲む治療を「カクテル治療」と名付けました。セレン、ビタミンDは適量を服用すれば安全なサプリです。

橋本病で甲状腺機能が正常な場合、うつ病や不安障害を自覚するときにはご相談ください。できる限り、その問題に対して真面目に対応する姿勢で臨みます。

文責:田尻淳一

以下の論文を参考にしました。

〈1〉Association between depression and anxiety disorders with euthyroid Hashimoto's thyroiditis: A systematic review and meta-analysis. Comprehensive Psychoneuroendocrinology 20: 100279, 2024

〈2〉Vitamin D protects against depression: Evidence from an umbrella meta-analysis on interventional and observational meta-analyses. Pharmacological Research 187: 106605, 2023