甲状腺機能低下症のお話:「脳の霧」をご存知ですか?

甲状腺ニュースは、閉店状態でしばらく更新していませんでした。久しぶりのトピックは甲状腺機能低下症の治療における最近の進歩についてです。ところで、「脳の霧」という言葉をご存知ですか?

チラーヂンS(T4)は甲状腺機能低下症の標準治療であり、ほとんどの甲状腺機能低下症患者はこの治療に満足しています。しかし、甲状腺刺激ホルモン(TSH)レベルが正常であるにもかかわらず、10~15%の患者が残存症状、生活の質の低下を訴え、チラーヂンSによる治療に対して不満を持っていることがわかってきました。訴える症状は疲労、憂鬱な気分、記憶力やとっさに言葉が出てこないなどの認知障害であり、複数の症状を訴える場合もあります。患者はこの症状を「脳の霧」と呼んでいます。「脳の霧」は頻繁な疲労、眠気、物忘れを特徴とする複数の症状を伴い、日常生活に支障を引き起こします。

結論から言えば、「脳の霧」を訴える患者には、T3+T4併用療法が効果的です。2018年6月27日に公開した甲状腺ニュースでは、T3+T4併用療法の効果には否定的な論調でしたが、少なくともTSHレベルが正常であるにもかかわらず、残存症状、生活の質の低下を訴える10~15%の患者にはT3+T4併用療法は光明であることは間違いないようです。この5年間で、考え方が大きく変化してきました。

ようやく、2年前に米国と欧州の甲状腺専門家が共同声明を出し、TSHレベルが正常であるにもかかわらず、残存症状、生活の質の低下を訴える10~15%の患者に対してちゃんと治療することが重要であることを認めました。

50年前から患者はこの症状を訴えてきましたが、医師は無視してきました。大変、悲しいことです。一人の医師として、まず謝罪したいと思います。

私も今までに同じような症状を訴える甲状腺機能低下症の人にT3+T4併用療法を行い、劇的に症状が消失しました。当時は、半信半疑でしたが、今は確信を持って治療できます。本邦では、学会が声明を出していませんが近い将来、声明を出すことを信じています。

文責 田尻淳一