橋本病とビタミンD不足症について
2024年4月7日の甲状腺ニュースで「甲状腺とビタミンDのお話」を公開しました。今回は、橋本病とビタミンD 不足症の関連性についてお話します。前回と重複しますが、最初にビタミンDについて簡単に説明します。従来、ビタミンDは骨に重要なビタミンと考えられていました。ビタミンDは、細胞の核の中にあるビタミンD受容体に結合して特定のタンパク質を作ります。ビタミンD受容体は、全身の臓器、器官に存在していることが分かりました。そのため、最近の研究から、ビタミンDは骨以外でも重要なはたらきをしていることが分かってきました。
ご存知のように、橋本病は代表的な甲状腺自己免疫疾患です。新たな証拠として、免疫細胞に存在するビタミンD受容体を介して、橋本病における免疫調節が行われていることも分かってきました。今回、橋本病における血清ビタミンD濃度、甲状腺機能障害および免疫活動の間の関係を以下の3つの側面に焦点を当てて説明します。
1)橋本病におけるビタミンD受容体遺伝子多型(ビタミンDに対する感受性です。すなわち、ビタミンD受容体遺伝子多型によって受容体のはたらきが変化し、ビタミンDの効果が弱まる場合があります。)について
2)橋本病におけるビタミンDを介した免疫調節について
3)橋本病におけるビタミンD補充療法の臨床的意義について
橋本病におけるビタミンD受容体遺伝子多型について始めましょう。ビタミンD受容体遺伝子多型(FoklおよびBsmlなど)が、橋本病におけるビタミンD受容体の感受性およびビタミンD反応性を調節していることが分かりました。例えば、FokI FF遺伝子型を持っている人では、ビタミンDを補充すると抗体が著明に減少します。しかし、この現象は一定しているわけではなく、ばらつきがみられます。従って、橋本病におけるビタミンD受容体遺伝子多型については、今後の研究が必要です。
ビタミンDは、橋本病などの自己免疫疾患の発症に重要な役割を果たしています。多くの研究で、橋本病患者は健康な人に比べてビタミンD不足症の有病率(ある時点の全患者数の割合)が高いことが報告されています。橋本病患者では、血清中のビタミンD濃度とTPO抗体およびサイログロブリン抗体との間に負の相関関係(ビタミンD濃度が低いとTPO抗体は上がり、反対にビタミンD濃度が高いとTPO抗体は下がる)があることが分かっています。すなわち、ビタミンD濃度が低いと抗TPO抗体価は上昇します。その結果、ビタミンD不足症が橋本病患者の自己免疫反応を悪化させる(甲状腺機能低下症)可能性があるわけです。これらの結果から、橋本病を悪化させる自己免疫過程を軽減するために、適切な血清ビタミンD濃度を維持することが重要になります。ここで、ビタミンD補給の出番です。
ビタミンDの補給は、橋本病を含む自己免疫性甲状腺疾患患者の抗体レベルを下げる効果をもたらします。臨床試験では、ビタミンDが甲状腺抗体、特にTPO抗体とサイログロブリン抗体のレベルを大幅に低下させることが実証されています。実際、ランダム化比較試験のメタアナリシスでは、ビタミンDの補給によりTPO抗体価が有意に低下し、甲状腺自己免疫に良い影響(甲状腺機能低下症の改善)を与えることが示されました。また、長期の補給(3か月以上)は、抗体レベルのより顕著な低下と甲状腺機能の改善に関連しており、適切なビタミンDレベルを維持することが自己免疫性甲状腺疾患の管理における重要な治療戦略となります。これらの研究結果は、自己免疫性甲状腺疾患患者の治療計画にビタミンDサプリメントを加えることで病状や経過を改善し、抗体による甲状腺への損傷を軽減できる可能性を期待させてくれます。
ビタミン D 補給が病状や経過の改善に有効であることを裏付ける証拠は、医師や患者にとって喜ばしい限りです。ビタミンD補充療法の投与量は、1日あたり1000~4000 IU(国際単位)を1~6ヶ月間投与する場合や、週あたり50,000~60,000 IUを2~36ヶ月間投与する場合など、大きくばらつきがあります。このように投与量と投与期間に大きなばらつきがあるため、残念ながら現時点では、橋本患者にとって理想的なビタミンD補給方法を決めることは困難です。
今回の論文から得られる結論は以下です。橋本病と診断されたら、まずビタミンDを測ってもらいましょう。血清ビタミンD濃度が低いときは、ビタミンDのサプリメントを1日1カプセル飲むことをお勧めします(1カプセル1000単位:日本人の体格ならこの量が適切です)。ビタミンDのサプリメントは、非常に安価です。90日分で1000円程度ですから、1日10円ちょっとです。10円で健康になれば、安いと思います。具体的には、大塚製薬(商品名:ネイチャーメイド スーパービタミンD)、Asahi(商品名:ディアナチュラ ビタミンD)、DHC(商品名:DHCビタミンD)、Fancl(商品名:ファンケル ビタミンD)などです。
文責:田尻淳一
以下の論文を参考にしました。
Vitamin D deficiency in Hashimoto’s thyroiditis: mechanisms, immune modulation, and therapeutic implications. Front Endocrinol 16: 1576850, 2025
https://www.frontiersin.org/journals/endocrinology/articles/10.3389/fendo.2025.1576850/full

