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[034]2002年4月1日
[034]
バセドウ病に対するアイソトープ治療に及ぼすメルカゾール投与の影響:前向き、無作為試験(1年間の観察)
田尻クリニック / 田尻淳一
ブラジルのグループは、アメリカ内分泌学会誌(JCEM 86: 3488-3493, 2001)に、「バセドウ病に対するアイソトープ治療に及ぼすメルカゾール投与の影響」について報告している。この研究は、トピック[033]と同じ目的で行われている。一般的に、従来は抗甲状腺薬で治療するとアイソトープ治療の効果が減弱すると考えられていた。最近、ここで紹介するようにメルカゾールで治療してもアイソトープ治療の効果には影響がないという論文がでてきた。これは、患者にとってはありがたいことです。アイソトープ治療が苦しいものではなくなるからです。甲状腺機能を抗甲状腺薬で正常にして、アイソトープ治療を行えば、楽です。

対象は、61人のバセドウ病患者で、無作為にアイソトープ治療のみの群(32人)とメルカゾールで治療をした群(29人:メルカゾール30mg/日)に分けた。メルカゾールは4日前から中止した。アイソトープ投与量は、200μCi/gとして放射性ヨード摂取率24時間値から計算した<注釈:アイソトープ投与量=甲状腺重量[g]×200μCi/放射性ヨード摂取率24時間値[%]×10)。血清T4、フリーT4、TSHを4日前、当日、治療後毎月、一年後までチェックした。フリーT4が正常もしくは低下した場合を治ったと定義した。その定義からすると、約80%が後3ヶ月経つと治った状態になった。一年後、両群の間で治療効果に差はみられなかった【甲状腺機能亢進症のまま(メルカゾールで治療をした群:15.6%、アイソトープ治療単独群:13.8%)、甲状腺機能正常(メルカゾールで治療をした群:28.1%、アイソトープ治療単独群:31.0%)、甲状腺機能低下症(メルカゾールで治療をした群:56.3%、アイソトープ治療単独群:55.2%)】。甲状腺機能亢進症のままの患者は、甲状腺腫が大きく(p=0.002)、放射性ヨード摂取率24 時間値が高く(p=0.022)、血清T3値が高い(p=0.002)傾向にあった。多重因子解析から、血清T3値のみが治療成績に影響を与える因子であった。

結論として、メルカゾールをアイソトープ治療前に使用しても、治療効果や治った状態になるまでの期間に影響は与えないことが分かった。
. Dr.Tajiri's comment . .
. 今回の研究結果は、トピック[033]とほぼ同じであった。これら二つの前向き、無作為試験の結果より、メルカゾールで治療してもアイソトープ治療には影響を与えないというのは事実のようである。

では、PTU(チウラジールまたはプロパジール)はどうであろうか。これについては、次回のトピックで紹介します。乞うご期待を。

今回の研究でも、アイソトープ投与量は非常に多いと思う。アイソトープ投与量を200μCi/gとして算出している。因みに、わたしは80μCi/gであるので、単純計算してもわたしの2.5倍の投与量になる。わたしの外来でのバセドウ病に対するアイソトープ治療の短期成績は、わたしのHPで簡単に示しています。近いうちに、詳しい外来でのバセドウ病に対するアイソトープ治療成績を詳しい情報で公開する予定です。
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