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甲状腺癌患者における放射性ヨードスキャンのための甲状腺ホルモン剤中止と遺伝子組み換えヒトTSH(甲状腺刺激ホルモン)投与との比較
Paul W. Ladenson, M.D., Lewis E. Braverman, M.D., Ernest L. Mazzaferri, M.D., Fran_oise Brucker-Davis, M.D., David S. Cooper, M.D., Jeffrey R. Garber, M.D., Fredric E. Wondisford, M.D., Terry F. Davies, M.D., Leslie J. DeGroot, M.D., Gilbert H. Daniels, M.D., Douglas S. Ross, M.D., Bruce D. Weintraub, M.D.
N Engl J Med 1997; 337: 888-96

背 景
分化型甲状腺癌治療後の患者で再発を見つけるため、放射性ヨードスキャンニング(ヨード-131)が実施できるよう定期的に甲状腺ホルモン剤治療を中止し、甲状腺組織を刺激するために血清TSH濃度を上げる必要がある。しかし、甲状腺ホルモン剤治療を中止すると甲状腺機能低下症になる。遺伝子組み換えヒトTSHを投与すれば、甲状腺ホルモン剤治療を中止することなく甲状腺組織を刺激することができる。

方 法
127名の甲状腺癌患者に2種類の方法で、全身放射性ヨードスキャンニングを実施した。最初は甲状腺ホルモン剤治療を続けながらTSHを2回投与した後に実施し、次に甲状腺ホルモン剤治療中止後に実施した。スキャンはスキャンニングの条件を知らない医師が評価した。血清サイログロブリン濃度と甲状腺機能低下症症状の発生率、および気分障害の測定も行なった。

結 果
127名の患者のうち62名が1つまたは両方の全身放射性ヨードスキャンで陽性と出た。TSHによる刺激後に得たスキャンは、甲状腺ホルモン剤中止後に得たスキャンと41名の患者(66%)で同等であり、3名(5%)ではそれよりも良く、また18名(29%)では劣っていた。どちらのスキャンもマイナスであった65名の患者を含めると、106名(83%)の患者でどちらの方法のスキャンでも同程度の結果が得られた。8名(少なくともどちらか片方スキャンで陽性が出た患者の13%)は甲状腺ホルモン剤中止後に行なったスキャンの方が優れていたことから、放射性ヨードで治療を受けた。被験患者35名のうち15名で血清サイログロブリン濃度が上がった。甲状腺ホルモン剤中止後に血清サイログロブリン濃度が上がった患者は14名であり、TSH投与後に血清サイログロブリン濃度が上がった患者は13名であった。TSH投与後よりも甲状腺ホルモン剤中止後の方が患者に甲状腺機能低下症症状(P<0.001)や気分の不調(P<0.001)が多く出た。

結 論
TSHは甲状腺癌患者のスキャンニングのための放射性ヨード取り込みを刺激する。しかし、TSH投与後のスキャンニング感度は甲状腺ホルモン剤中止後に比べ劣っている。TSHを用いたスキャンニングでは身体症状や気分の不調を伴なうことが少ない。

アメリカでは毎年14,000人の人が甲状腺癌と診断されている(1)。ほとんどは手術と、その後、高頻度に行なわれる放射性ヨード治療、また必ず術後に行なわれるTSH分泌抑制のための甲状腺ホルモン療法で効果的に治療が行なわれている。これらの患者は何十年も経って腫瘍の再発が起こってくる可能性があるため、モニターを必要とする(2,3)。一部の患者では、このモニターの中に取り残した甲状腺癌や再発した癌を見つけるための放射性ヨードスキャンニング(4,5)や血清サイログロブリン測定(6,7)が含まれるので、定期的な甲状腺ホルモン療法の中止が必要となる。甲状腺ホルモン療法中止の結果、大抵の患者は甲状腺機能低下症の症状が出てくるし、中には最適な画像(8)を得るに十分なほどTSHの分泌が増加しない患者もいる。そして少数の患者で腫瘍の増殖が促進されることがある(9-11)

これらの問題の解決法は、残存甲状腺組織を刺激するTSHを投与することである(12,13)。遺伝子組み換えヒトTSHは天然のTSHと同じ特性と作用を有している(14-17)。予備研究では、以前、甲状腺癌で手術を受けた患者の残存甲状腺組織や甲状腺癌組織による放射性ヨード取り込みをTSHが刺激した(18)。現在は、以前、甲状腺癌の治療を受けた患者のもっと大きなグループで、甲状腺ホルモン療法の中止と比較して、TSH投与の有効性と副作用の評価を行なう研究がなされている。

方 法
対象患者
被験者は、治療を行なっている医師により放射性ヨードスキャンニングが適応であるとされた152名の分化型甲状腺癌患者(平均年齢44歳:20歳〜64歳)である。患者から本試験参加にあたって文書によるインフォームドコンセントの提出を受けた。1名の患者を除き、全員が甲状腺亜全摘術または甲状腺全摘術を受けており、ほとんどが放射性ヨード治療も受けていた。甲状腺組織による放射性ヨード取り込みを妨げるような薬剤または造影剤の投与を受けた患者は1名もいなかった。25名の患者が試験を完了しなかったか、または除外された。14名はプロトコールから逸脱したため、4名は副作用のため、4名は個人的理由から、また3名は放射性核種画像の評価を行なう医師同士の意見の一致が得られなかったためであった。その結果、残り127名の患者の所見をもとに試験の最終結果を出した。
遺伝子組み換えTSH
遺伝子組み換えTSH(サイロゲン、Genzyme、Cambridge、Mass.)は先に述べたとおりに生産されたものである(14,19)。その生物学的力価はタンパク質1ミリグラムあたり10Uであった。(Second World Health Organization International Reference Preparation、thyrotropin, Human、for Bioassey、84/703)
試験デザイン
各患者でヨード131による全身スキャンを2度行なった。また正常な甲状腺組織または甲状腺癌と考えられる放射能集積巣で、放射性ヨード取り込み量の測定を定量的に行なった。最初のスキャンは、患者に甲状腺ホルモン療法を継続しながらTSHを投与した後に実施し、2度目のスキャンは甲状腺ホルモン療法を中止した後に実施した【図1】。甲状腺ホルモン治療の内容は、97名の患者にサイロキシン(T4)、6名の患者にトリヨードサイロニン(T3)、また49名の患者に両方を投与し、血清TSH濃度を1リットルあたり0.5mU未満に抑えるだけの用量を使用した。TSHは1日1回0.9mgの用量を筋肉内注射で2日間投与した。2回目の投与から24時間後に2〜4mCi(74から148MBq)のヨード-131を経口投与した。48時間後に最初の全身スキャンを行なった。甲状腺ホルモン療法を最低2週間続けてから、血清TSH濃度が1リットルあたり25mUを超えるようになるまで少なくとも2週間ホルモン治療を中止した。その後、前に投与した量の20%以上の増減のない用量でヨード-131を患者に投与し、48時間後に再度全身スキャンを行なった。
【図1】試験デザイン
図1
TSHは筋肉内注射で投与された。
放射性ヨードスキャンの解釈と取り込み量の測定
患者の身元や試験実施センター、あるいはスキャンの順番を知らない医師3名が個別に放射性ヨードスキャンの評価を行なった。最初に医師がスキャンの技術的質に応じて分類し、生理学的な放射能集積部位、異常部位およびアーチファクトの可能性がある部位を確認して、残置正常甲状腺の放射能取り込み、あるいはそれ以外の頸部や肺、または縦郭内あるいは他の離れた部位での異常な放射能集積部位の存在をもとに明らかに再発と認められる範囲をクラス分けした。1組のスキャン毎に放射能取り込み巣の数や位置を比較し、2つのスキャンの所見が一致しているか、していないかを分類した。ある1組のスキャンの所見が一致していない場合は、取り込み巣の数が多いか、取り込み巣がより広範に広がっている方のスキャンを質が高いものとした。55名の患者で、頸部取り込み巣の分画放射性ヨード取り込み量を甲状腺プローブによる測定、またはデジタルガンマカメラによる対象域のコンピューター分析、あるいはその両方を用いて測定した。
その他の測定
各スキャンを撮る前に、患者のバイタルサイン、血清コレステロール、中性脂肪、尿酸、クレアチニン、TSH、およびサイログロブリン濃度、尿中ヨード(20)とクレアチニン濃度を測定した。35名の患者で、サイログロブリン測定のためにサイロキシン投与前と投与後48時間、72時間、および96時間、また血清TSH濃度が1リットルあたり少なくとも25mUになった際に甲状腺ホルモン治療を中止した後、放射性ヨード投与を行なった日に血清サンプルを採取した。血清TSHは1リットルあたり0.1mUの感度を有する免疫学的アッセイにより測定した。血清サイログロブリンは1リットルあたり1μgの感度を有する放射免疫アッセイ(Kronus, San Clement, Calif.)で測定した。抗甲状腺抗体も放射免疫アッセイ(Thymune-T, Murex Diagnostics, Darford, United Kingdom)で測定した。;1ミリリットルあたり1Uを超える値のサンプルはサイログロブリンのアッセイを行なわなかった。2回目のスキャンを行なってから1週間後に採取した血清サンプルで抗甲状腺抗体の検査を行なった。

各患者の臨床状態はBillewicz Scaleと短期型Profile of Mood Status(気分状態プロファイル法)で、試験開始時と放射性ヨード投与時毎に評価した。Billewicz Scaleは甲状腺機能低下症の14の症状を観察者が格付けして評価するものである(21)。短期型Profile of Mood Statusは自分で6項目の気分状態(疲労−無気力、抑うつ−意気消沈、精力的−活動的、錯乱−困惑、緊張−不安、および怒り−敵意)を評価するものである(22)
統計学的分析
2つの方法で質の高いスキャンが得られた数をMcNemarカイ平方検定で比較した。スキャンニング前の血清TSH濃度、放射性ヨード取り込みの絶対値と分画、Billewicz Scaleと短期型Profile of Mood Statusにより評価された症状と気分障害状態の発生率の差をWilcoxon signed-rank検定で分析した。

結 果
試験を完了した127名の患者の特徴を【表1】にまとめた。
【表1】127人の甲状腺癌患者の特徴a
特 徴 患者数[単位:人(%)]
女 性 90(71)
癌のタイプ 乳頭癌 112(88)
濾胞癌 12(9)
ハースル細胞癌 3(2)
以前の治療 手術とアイソトープ治療 98(77)
手術のみ 28(22)
アイソトープ治療のみ 1(1)b
術後のアイソトープ集積部位 集積無し 3
正常残置甲状 75
甲状腺以外の頸部 34
胸 部 10
5
a 試験を完了できた127人と最初に研究に参加した152人の間には特徴において差はみられなかった。
b この患者は以前、バセドウ病にてアイソトープ治療を受けているが手術は受けていない。
血清TSH濃度
平均(±SD)血清TSH濃度は初期値の1リットルあたり0.2±0.3mUから、1回目と2回目のTSH投与から24時間後に、それぞれ1リットルあたり101±60mUと132±89mUに上昇した。2回目のTSH投与から72時間後の平均血清TSH濃度は1リットルあたり16±12mUであった。これに対して、甲状腺ホルモン剤を中止した後の放射性ヨード投与日の平均血清TSH濃度は1リットルあたり101±77mUであった。
TSH投与後と甲状腺ホルモン剤中止後の全身スキャン
65名の患者(51%)で、TSH投与後と甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンのどちらも陰性であった。どちらかの方法で撮ったスキャンまたは両方のスキャンで陽性であった62名の患者のうち45名は放射性ヨードの取り込みが残存甲状腺組織に限られていたが、10名では局所転移巣に一致する頸部放射能取り込みが見られ、4名には明らかな胸内転移が、また2名には骨または肝臓転移があり、1名は片方の審査者が胸内に放射能取り込み巣があるとしたのに対し、もう片方の審査者は頸部にあるとして判定が分かれた。

少なくとも片方のスキャンが陽性であった62名の患者のうち41名(66%)で2つのスキャンが同程度であった(【図2】と【表2】)。3名の患者(5%)でTSH投与後に撮ったスキャンの方が優れていた。18名の患者(19%)で甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンの方が優れていた(P=0.001)【表3】。残存甲状腺組織以外にある放射能取り込み巣がすべて腫瘍であるとすれば、甲状腺癌の病期分類は、残存甲状腺組織以外の頸部に放射能取り込み巣がある11名の患者の内6名、胸内に取り込み巣のある4名の患者のうち3名、およびそれ以外の離れた場所に放射性ヨード取り込み巣のある2名の患者を含め、62名の患者のうち40名(65%)で同じになった。
【表2】甲状腺癌患者127人におけるTSH注射後と甲状腺ホルモン剤中止後の放射性ヨードスキャンの陽性率と陰性率の比較a
TSH注射後のスキャン 甲状腺ホルモン剤中止後のスキャン
陽 性 陰 性
陽 性 41 3
陰 性 18 65
a 2つの方法でのスキャンの比較は有意に差がみられた(P=0.001)。
どちらのスキャンも取り込みのなかった患者も含めた127名の全患者のうち、審査者がTSH投与後に撮ったスキャンの方が甲状腺ホルモン治療を中止した後に撮ったスキャンより優れている(3名の患者)か、同等(106名の患者)と判定したものが86%であり、劣っていると判定が出たのは14%であった。患者が以前ヨード-131による治療を受けたかどうかにには関わりなく、1組のスキャンの判定が一致しているものと不一致なものでは同じような判定結果が出た。

判定が一致しているスキャンと不一致なスキャンとの間には次のような特徴のいずれにおいても有意な差はなかった;年齢、性別、体重、腫瘍のタイプまたは疾患の範囲、過去の放射性ヨード治療、手術または最後に受けた放射性ヨード治療から経過した年月、2度のスキャンのための放射性ヨード投与前の血清TSH濃度または推定尿中ヨード排泄量(データは挙げていない)、甲状腺ホルモン治療中止後の時間または検査部位。

甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンの方が優れていた18名の患者のうち、10名はその後ヨード-131で治療を受けた。5名は残存甲状腺組織を破壊するため、また3名は甲状腺外の頸部に放射能取り込み巣が甲状腺ホルモン剤を中止した後に撮ったスキャンのみに見付かり、それを破壊するために放射性ヨード治療を受けた。これらの患者のうち3名でTSH投与後に血清サイログロブリン濃度が増加した。放射性ヨード治療を受けた残り2名の患者では、甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンの方が優れており、どちらのスキャンも残存甲状腺組織内に取り込みが見られたが、甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンの方にもう一つ余計に病巣が見付かったため、スキャンの判定が不一致である方に分類された。放射性ヨード治療を受けておらず、甲状腺ホルモン剤中止後のスキャンの方が優れていた8名の患者のうち、残存甲状腺組織だけに放射能取り込みが確認されたのは5名であり、残り3名では残存甲状腺組織外に1個の病巣が見付かった。これらの患者は血清サイログロブリン濃度が低い(1名)か、またはアーチファクトが疑われた(2名)ために治療されなかったものである。
TSH投与後と甲状腺ホルモン剤中止後の放射性ヨード取り込み
甲状腺切除術を受けた126名の患者の中で、ヨード-131の残存甲状腺組織への平均取り込み量は甲状腺−プローブ分析によれば、47名の患者でTSH投与後よりも甲状腺ホルモン剤中止後の方が高く(0.4±0.7%対0.3±0.7%、P=0.004)、対象領域分析によれば30名の患者で甲状腺ホルモン剤中止後の方が高かった(0.5±0.9%対0.3±0.6%、P=0.02)。しかし、甲状腺の放射性ヨードの平均取り込み量を全身のヨード−131貯留量の差で補正すると、平均分画取り込み量はTSH投与後に撮ったスキャンと甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンとの間に差がなかった(データは挙げていない)。
TSH投与後と甲状腺ホルモン剤中止後の血清サイログロブリン
35名の患者で、TSH投与前と最初のTSH投与後、および甲状腺ホルモン剤中止後に間隔を変えて何度か血清サイログロブリンの測定を行なった。15名の患者はいずれかの時期に血清サイログロブリン濃度が1リットルあたり5μg以上に増加した。13名の患者でTSH投与後に増加し、14名の患者で甲状腺ホルモン剤中止後に増加した。11名の患者は甲状腺ホルモン剤中止後の方で血清サイログロブリン濃度が高く、TSH投与後の方で濃度が高かったのは3名であった。1名の患者では希釈法による正確な定量ができなかった。今回調べた中では、TSHの1回目の投与から72時間または96時間後に血清サイログロブリン濃度がもっとも高くなっていた。
TSH投与後と甲状腺ホルモン剤中止後の臨床的、生化学的変化
TSH投与後より甲状腺ホルモン剤中止後の方が患者により多くの症状が出た。Billewicz Scaleの甲状腺機能低下症症状14項目すべて(体重増加、便秘、寒さに耐えられない、動きが遅い、感覚異常、難聴、発汗の減少、皮膚の乾燥、皮膚がざらざらする、皮膚が冷たい、むくみ、くるぶし反射減退、および脈拍の減少)(P<0.001)とProfile of Mood Stateの6項目すべて(P<0.001)に関して2つの試験期間の間で統計学的に有意な差があった。
患者の平均脈拍数は、TSH投与後よりも甲状腺ホルモン剤中止後の方が減少していた(1分あたり78±12対68±11、P<0.001) 。患者の血清コレステロール(66%増)、トリグリセライド(70%増)、尿酸(24%増)の平均濃度、およびクレアチニン(44%増)はTSH投与後より、甲状腺ホルモン剤中止後の方が高くなっていた (すべてP<0.001) 。
副作用と抗TSH抗体の評価
この試験に参入した152名の患者のうち48名(32%)に副作用が出た。治療を担当している医師の判断で、間違いなくTSHが原因の副作用とされたのは6名、おそらくTSHが原因であろうとされたのは20名、TSHが原因である可能性があるとされたのは22名であった。いちばん多い副作用は吐き気であったが、これは25名(16%)の患者に起きた。ただし、軽度のものであり、長くは続かなかった。再発した浸潤性の甲状腺癌のある患者がTSH投与後6日目に明らかな肺塞栓により死亡した。TSHを7ヶ月から16ヶ月前に投与された7名の患者を含め、血清中に抗TSH抗体が検出された患者は一人もいなかった。

考 察
遺伝子組み換えTSHは、甲状腺ホルモン治療を続けている甲状腺癌患者の放射性ヨード取り込みを刺激するのに、安全かつ効果的であるが、甲状腺ホルモン剤中止ほどの効果はないことがわかった。TSHによる治療で甲状腺ホルモン剤を中止した後に起こる甲状腺機能低下症症状や気分障害を防ぐことができる。片方、または両方の方法で撮ったスキャンが陽性であった患者の71%で、TSH投与後に撮ったスキャンが甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンと同程度であるか、それよりも優れていた。一方、残りの29%では甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンの方が優れていた。反対に、甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンが同程度か、その方が優れていたのはスキャンが陽性であった患者の95%であった。スキャンが陰性であった患者−これは以前放射性ヨードによる治療を受けた患者であることが多い−を含めると、86%の患者でTSH投与後に撮ったスキャンが甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンと同等か、それよりも優れていた。

個々の審査者により甲状腺ホルモン剤中止後に撮ったスキャンの方が優れていると患者の4分の1以上で判定されたのだが、その差の臨床的重要性ははっきりしない。ホルモン剤中止後のスキャンにのみ残存甲状腺組織への取り込みが見られた12名の患者のうち、5名は放射性ヨードで治療を受けた。この状況では、放射性ヨード治療に関する診療上のばらつきが差に反映される。ホルモン剤中止後のスキャンにのみ、残存甲状腺組織外に別の放射性ヨード異常集積が見られた6名の患者のうち3名が放射性ヨード治療を受けた。両方のスキャンで陽性であった、他に転移のある7名の患者はその後、放射性ヨード治療を受けた。甲状腺ホルモン剤中止により追加して得られた情報は、数週間甲状腺機能低下症になっている際にほとんどの患者で起こる症状を埋め合わせるに足るものである。

スキャンの結果が不一致である理由は2つ考えられる。まず、甲状腺機能低下症では放射性ヨードの排泄が減少するため、甲状腺ホルモン剤を中止した後は画像撮影のための放射性ヨードの生物学的利用性が高くなる(23)。2番目に、この試験でのTSH投与法により生じた刺激の程度と期間が最適なものでなかった可能性がある。TSHによる刺激がもっと長く続き、甲状腺ホルモン剤中止後の状態により近い状態を作り出すプロトコールの方が優れている可能性がある。

この試験デザインの限界は、2つのスキャンの順番がランダムにされていないことである。甲状腺ホルモン剤中止後のスキャンが陽性、あるいは血清サイログロブリン濃度の上昇により放射性ヨード治療の適応となった患者が甲状腺ホルモン治療を再開する必要があるならば、別のスキャンをTSH投与後に得ることができるのでこの順序は不適切であったのではなかろうか。なぜなら、2度目のスキャンニングで放射性ヨード治療が遅れることになるからである。最初のスキャンニングで投与された放射性ヨードが残存甲状腺組織を破壊し、甲状腺ホルモン剤中止後のスキャンニングの残存甲状腺組織に対する感度を落とした可能性がある。しかし、先に行なったTSH投与後のスキャンで陽性となった患者の96%が甲状腺ホルモン剤中止後のスキャンでも陽性となっており、甲状腺組織内への分画放射性ヨード取り込み量も2回目のスキャンのために放射性ヨードを投与した後に事実上増加しており、また残存甲状腺組織の破壊はこの試験で用いたよりも高用量の放射性ヨードでスキャンニングした場合に起こりやすいことから、この可能性は低い(24)

血清サイログロブリンの測定は、残存または再発甲状腺癌を見つけるのに有益な方法である(6,7)。TSHを介したサイログロブリン刺激の評価はこの試験の主な目的ではなかったが、患者のサブグループの結果から投与したTSHがサイログロブリンの放出を刺激できることが証明された。このことからTSHを投与することで腫瘍マーカーとしての血清サイログロブリンの感度が上がる可能性が示唆されている。

TSH投与後の放射性ヨードスキャンでは、甲状腺ホルモン治療を中止した後に起こる甲状腺機能低下症を避けることができるという事実は、臨床的に重要なものである可能性が高い。たとえ短期間であっても甲状腺機能低下症となる結果−仕事の成績や個人の安全が損なわれること、および人間関係に及ぼす影響−は放射性ヨードスキャンのため、定期的に甲状腺ホルモン治療を中止しなければならない患者を診ている医師にはおなじみのものである。最近行なわれた小規模の試験(25)では、甲状腺ホルモン剤の部分的中止により、症状を最小限に抑えつつスキャンを行ないやすくする方法が示唆されているが、このアプローチにはさらなる評価が必要である。さらに、甲状腺ホルモン剤を中止した後に長い間血清サイログロブリンの上昇が続けば、これには残存甲状腺癌組織への刺激効果があり、腫瘍の増殖を促進する恐れがある。このため重大な臨床転帰に至ることがあり、特に中枢神経系への転移がある患者ではその危険性が高い(9-11)

本試験ではほとんどの患者がTSHに対し、良好な耐容性を示した。副作用は吐き気だけであり、それもほとんどの患者で軽く、短期間出ただけであった。抗TSH免疫グロブリンの応答は、以前TSHの投与を受けた患者でも検知されなかった。

結論として、TSHは甲状腺癌の治療を受けた患者のスキャンのための放射性ヨード取り込みを刺激する効果があり、ほとんどの患者でTSHを介した診断用スキャンは、甲状腺ホルモン剤を中止した後に行なったスキャンと同じ程度の感度であった。しかし、スキャンが陽性であった患者の29%はホルモン剤中止後のスキャンの方が優れていた。これにより患者の6%でより進んだ腫瘍の病期とされ、そのうち13%の患者が放射性ヨード治療を受けることになった。TSHは残存甲状腺組織によるサイログロブリン産生も刺激する。これは甲状腺組織の破壊治療を受け、甲状腺ホルモン治療を受けている患者では腫瘍マーカーとしてのサイログロブリンの有益性を高めることになると思われる。TSHを飲み、甲状腺ホルモン治療を続けている時は、甲状腺ホルモン治療を中止する時に比べ、患者に出る症状が著しく減少する。

. Dr.Tajiri's comment . .
. 現在、米国ではヒトTSHの臨床使用についてFDAに申請中です。近い将来に、日本でも使用できることを楽しみにしています。放射性ヨード治療のために甲状腺ホルモン剤を中止した際の甲状腺機能低下症は患者さんにとっては苦痛です。甲状腺ホルモン剤を中止することなく、ヒトTSHを使用することで放射性ヨード治療ができるようになれば、患者さんにとっては福音です。

ヒトTSHに関する関連資料は以下を参考にしてください。
サイロトロピン(TSH)アルファ:甲状腺癌患者の治療へ大きな進歩
甲状腺癌患者調査:全身放射性ヨードスキャンのための準備中の具合はどうですか?

この論文に対する論説があります。参考に読んでください。
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参考文献]・[もどる