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[045]
甲状腺疾患健康ガイド

13:甲状腺癌
01
02 甲状腺癌のタイプ
03 放射線被爆
04 治療法
05 放射性ヨード治療
06 放射線外部照射治療
07 治療後の検診
08 まとめ
09 質問と答え

01 ↑このページのトップへ
北アメリカでは年間約15,000人の人が甲状腺癌に罹っており、それほど珍しいものではありません。しかし、まれなものではないためそうなる可能性を意識しておく必要があります。特に甲状腺に結節(局所的な腫れ)がある人は注意が必要です(健康ガイド−5:甲状腺結節を参照) 。他の癌とは対照的に、甲状腺癌はほとんど全部治ります。甲状腺癌には様々なタイプがありますが、いちばん多いのは(症例の80%)乳頭癌や濾胞性癌、乳頭癌と濾胞性癌が混じり合った形のものです。甲状腺癌の中でまれなタイプには、リンパ腫や髄様癌、未分化癌があります。甲状腺結節は男性より女性に多いのですが甲状腺結節が癌になる危険性は男性の方が高いのです。

02 甲状腺癌のタイプ ↑このページのトップへ
普通のタイプの甲状腺癌は治療によく反応します。まれな髄様癌を除き、同じ家族の中に悪性疾患が起きる確率は極めて低いのです。髄様癌患者は、たとえ結節が見当たらないような早い段階であっても、家族に対して適切な臨床検査や生化学的検査を行なってもらうようにしなければなりません。髄様癌は同時に脳下垂体や副腎、膵臓、副甲状腺などの他の内分泌線を冒すことがあります。そのようなものは複合内分泌線新生物症候群(MEA)と呼ばれます。

03 放射線被爆 ↑このページのトップへ
子供の頃あるいは思春期、時には大人になってからの頭頚部への放射線被爆歴が甲状腺癌発生の重要な原因ファクターとして認識されるようになりました。患者は何年も前にニキビや顔の皮膚病、首の結核、頭部の真菌性疾患、顔の血管種、胸腺肥大、扁桃腺炎、喉の痛み、慢性の咳に対して、また顔が毛深いというような理由でX線治療を受けています。そのような治療はこれらの病気に対してもはや行なわれておりません。甲状腺が放射線に特に影響を受けやすく、そのような治療により生じた甲状腺腫瘍が癌である危険性が30%あるということがわかってきたからです。さらに、頭頚部やその近辺にできたある種の癌に対して放射線照射治療が必要な患者にも、甲状腺結節や甲状腺癌が生じてくる危険性が高くなると思われるのです。先に述べた病気のいずれかで放射線照射を受けたことのある人は、医師の診察を受け、甲状腺が正常に機能しており、結節がないことを確認してもらうようにします。

04 治療法 ↑このページのトップへ
甲状腺結節の有無を確かめるには、甲状腺スキャンや超音波画像診断が用いられます。しかし、どの結節が明らかな癌であり、あるいは癌の疑いがあるために外科的介入を必要とするのかを見つけること、また癌でないものを除外することに関しては、穿刺吸引生険がはるかに優れた診断法です。もっとも効果的な甲状腺癌の初期治療は手術です(健康ガイド−12:甲状腺疾患の外科治療を参照) 。甲状腺癌の予後は極めてよいため、外科医の中には甲状腺を部分的に取るだけでよいと考える人もおります。しかし、長期的なフォローアップでは甲状腺をできるだけ多く取ってしまう方が安全だということを示す証拠がどんどん積み重なってきております。積極的なアプローチにより再発が防げますし、その後に放射性ヨードなどの非外科的方法を取ることで予後はさらによくなります。甲状腺全摘術でうっかり近くにある副甲状腺も取ってしまいカルシウム欠乏症が起きる可能性もわずかに高くなりますが、そのような危険性は経験を積んだ外科医が手術をすれば最小限に抑えられるはずです。熟練した人の手にかかれば、声帯に損傷を与えるようなこともまず起こりません。

患者の約30%で、癌が近くのリンパ節に広がっている恐れがあります。もし、そのようなことがあれば、頸部郭清と呼ばれる手術でリンパ節を取ってしまわねばなりません。どの程度取るかは癌に冒されたと思われるリンパ節がいくつあるかにもよります。普通は、この手術は美容的に満足のいくような切開を加えて行なわれます。時には切開をもっと長く入れなければならない場合もあります。一時的に幾分顔が腫れる以外は、そのようなリンパ節切除によって重大な機能喪失や機能低下が起こることはありません。

05 放射性ヨード治療 ↑このページのトップへ
手術時の所見にもよりますが、放射性ヨード治療が手術後に考慮される場合があります。放射性ヨードはカプセルか水薬の形で普通、必要な手術が終わってから6週間後に投与されます。放射性ヨード治療の効果を上げるために、この間は甲状腺ホルモン剤(錠剤)は一時中止します。残念なことに、患者が疲労や筋肉のつり、むくみ、便秘などを含む不活発な甲状腺の症状を我慢しなくてはなりません。最近の研究では、ヒトTSHの注射を受けている患者は甲状腺ホルモン錠を止めなくてもよかったということです。できればこの薬が近い将来一般臨床で使えるようになればよいと思っています。

放射性ヨード治療は簡単な治療ですが、線量によっては数日間病室に隔離する必要があります。一時的な首の不快感や唾液の減少、味覚の変化がまれに起こることはありますが、大抵の場合、大きな副作用はありません。残っていた癌や再発した癌が見つかった場合はこの治療をもう一度繰り返して行なうことがあります。放射性ヨードが確立した線量と治療間隔で投与されれば、50年以上の経験から比較的安全であり、重大な副作用が早期に、または後になって起きることはめったにないことが示されています。

06 放射線外部照射治療 ↑このページのトップへ
「コバルト線」によるX線照射が必要なことはめったにありませんが、甲状腺癌を完全に取り除くことができなかった場合に勧められます。放射線外部照射は4週間から6週間で線量を少しずつ分けて頸部領域に行ないますが、小血管の形成や皮膚の色素沈着による2次的な皮膚反応が起きることがあります。しかし、このようなことがかならず起きるというわけではありません。

07 治療後の検診 ↑このページのトップへ
手術や放射性ヨード治療の後、甲状腺ホルモン剤が処方されます。甲状腺ホルモン剤は適切な代謝が行なわれるようにするだけでなく、甲状腺癌の成長を促す恐れのある脳下垂体ホルモン、サイロトロピン(TSH)を抑えるためのものです。不活発な甲状腺のある患者とは違い、甲状腺癌患者は甲状腺癌が今後成長してこないよう、血清TSHのレベルを正常以下に保つに十分な量を与えられます。甲状腺機能のレベルは臨床検査と血液検査の両方で定期的にチェックされます。甲状腺癌患者は6ヶ月から12ヶ月の間隔で定期的に診査を受け、残っている癌や再発した癌がないか確かめます。血清サイログロブリン(甲状腺ホルモンの前駆物質)の測定も、癌が残っていたり、再発したりしていないかを確かめるために必要になる場合があります。残っている癌や再発した癌がないかを確かめるのに頸部の超音波検査や胸部X線が必要なこともあります。

08 まとめ ↑このページのトップへ
いちばん多いタイプの乳頭癌や濾胞癌の5年生存率および10年生存率は95%以上です。45歳以上の患者、または最初に診断を受けた時に癌が甲状腺の外まで広がっていた患者では再発の危険性が高くなっています。しかし、早期発見と早期治療でそのような結果を避けることができます。

患者には甲状腺癌に関して聞きたいことがあるのが普通です。ここにそのいくつかを挙げております。ここには載っていない質問がある場合はカナダ甲状腺財団宛てにお送りください。顧問医の答が甲状腺掲示板に載るかもしれません。

09 質問と答え ↑このページのトップへ
[01] [質 問] 喫煙や飲酒は甲状腺癌の原因になりますか?
  [回 答] 喫煙や飲酒は甲状腺癌とは関係ありません。もちろんそのような習慣は健康のために避けた方がよいのですが、甲状腺の悪性疾患を引き起こしたり、悪化させたりするようなことはありません。
[02] [質 問] 甲状腺癌は全身に広がりますか?もしそうならどうやってわかるのですか?
  [回 答] 甲状腺癌が全身に広がることはめったにありません。ほとんどの甲状腺癌は最初の手術で治ります。甲状腺癌が頸部のリンパ節に広がることはありますが、そのようなリンパ節は取ってしまえばよく、それで治すことができます。頻度は少ないのですが、癌が肺や骨に広がることがあります。そのような場合はX線やスキャンによる画像診断で見つけることができます。また放射性ヨードやX線による治療が必要になり、時に外科的に取ってしまうことも必要になります。まれですが性質の悪いタイプの癌に対しては、化学療法やX線治療が勧められることがあります。
[03] [質 問] そのような治療を全部したとしても、甲状腺癌で死ぬ可能性はありますか?
  [回 答] 皮膚癌以外では、すぐに治療した場合、他のあらゆるタイプの癌に比べ、いちばん多いタイプの甲状腺癌がもっとも長期成績がよいのです。ほとんどすべての患者が治療により完治します。
[04] [質 問] どうやって甲状腺癌を見つけるのですか?
  [回 答] 甲状腺癌は患者が首のシコリに気付いて見つかることが多いのです。そのようなケースの半分は医師が別の癌とは無関係な病気の診察をしている時に見つかります。甲状腺癌では痛みがなく、症状もめったに出ません。実際に甲状腺癌患者はすべて代謝と甲状腺検査所見が正常です。
[05] [質 問] 治療の副作用にはどのようなものがありますか?
声が出なくなったり、大きな傷が残ったりすることがありますか?
  [回 答] 甲状腺癌の通常の治療は、小さな切開を入れて甲状腺の必要な部分だけ、あるいは全部を取ってしまうことになります。手術の後、患者の声に障害が出るとか、カルシウムバランスの乱れが起こるようなことはまれです。リンパ節を取る場合はもっと切開を大きくしなくてはならないことがあります。しかし、それは首の下の方に入れますし、見かけもそんなに悪くなりません。
[06] [質 問] 自分の甲状腺癌の治療結果を最良のものにするにはどうしたらいいのですか?
  [回 答] 大事なのは甲状腺や頸部のシコリを早いうちに正しく診断してもらうことです。まず家庭医に診てもらうべきで、その医師が状況を判断して、診断を確かめ、正しい治療を行なうため適切な専門医へ紹介することになるでしょう。しかし、他の多くの癌とは対照的に、早期発見と早期治療により必ずといってよいほど癌の根絶と完治がもたらされます。
[07] [質 問] 放射性ヨードの投与を受ける場合は甲状腺ホルモン錠を飲むのを止めなければなりませんか?
  [回 答] その通りです。6週間止めなくてはなりません。TSHレベルが上がっている場合にだけ、放射性ヨードが甲状腺に「入り込み」、作用することができるのです。甲状腺ホルモン剤を止めるとそうなります。残念ながらその間、不活発な甲状腺の影響で、疲労や筋肉のつり、むくみ、便秘などの症状が出る可能性が高いのです。研究ではヒトTSHの注射の使用が試験されていますが、これは有望のようです。できればこの薬が利用できるようになって、甲状腺ホルモン剤を止めずに放射性ヨード治療ができるようになることを願っています。

この記事はトロント州、トロント大学マウントシナイ病院外科教授:オンタリオ癌研究所プリンセスマーガレット病院外科顧問であるIrving B. Rosen, MD., FRCS(C), FACS、およびトロント大学内科、小児科、耳鼻咽喉科教授:マウントシナイ病院内分泌学、代謝、および頭頚部腫瘍学プログラム主席顧問であるPaul G. Walfishにより書かれたものです。

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