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甲状腺疾患健康ガイド

12:甲状腺疾患の外科治療
01
02 術前検査
03 手術の適応症
04 病院での経過
05 手術の副作用
06 術後の治療
07 手術の結果

01 ↑このページのトップへ
ひと頃は、甲状腺疾患、特に目に付くほど大きくなっていて活動し過ぎのものは手術でしか治すことができませんでした。実際に1909年のノーベル医学賞は甲状腺切除術を安全な方法にしたスイスのテオドール・コッヒェル教授が受賞したのです。過去50年間に甲状腺に関する医学上の発見が数多くなされ、外科治療のニーズは減ってきました。しかし、現在でも外科治療は多くの甲状腺疾患でその治療の一部としてまだ欠かせないものです。

02 術前検査 ↑このページのトップへ
甲状腺が大きくなったり、機能障害を起こしたりした場合はその性質が様々に異なる可能性があります。そのため、患者は正しい診断をつけるための適切な検査を受けなければなりません。実際に行なわれる検査は普通、甲状腺機能検査、放射性ヨードを使った甲状腺スキャン、甲状腺の超音波検査、そしてもっとも重要な甲状腺の穿刺吸引生険(FNAB)です。適切な病歴採取などと合わせ、これらの検査結果を元に外科治療が適切であるか、また特定の状況に対し効果があるのかどうかを確かめるため、医師が患者を外科医に紹介することがあります。

03 手術の適応症 ↑このページのトップへ
外科治療は特に癌を含んでいると思われる結節のある患者に適応されます。これは主にFNABで見つかりますが、FNABで癌組織を見つけ出すことができる一方で、それよりも「細胞性」または「濾胞性」病変が認められるとして悪性疾患が報告される頻度が高いのです。そのため、FNABの診断が厳密に癌という診断を示していなくても十分に癌であることをうかがわせるものであり、外科治療を受けるに足るだけの根拠となる場合があります。

活動し過ぎの甲状腺の肥大がある場合は手術が必要なことがあります。特に甲状腺に孤立性または多発性の結節があるような患者ではそうですが、バセドウ病患者では手術が必要になる頻度はそれほど多くありません。ただ、バセドウ病患者でも甲状腺が非常に大きくなっていたり、スキャン上でコールドであるか、放射性ヨードの取り込みが悪い結節があったりする場合はすべて外科治療が適当であると思われます。

ずっと前に頭頚部の皮膚の病気で放射線照射を受けたことのある患者では、甲状腺に外科治療を必要とするような結節性病変が生じて来る可能性があります。これはそのような結節性病変には30〜60%の確率で癌があるからです。カナダでは、そのような放射線照射がニキビ、顔の皮膚の血管腫瘍、時には胸腺肥大に対して当たり前に行なわれていました。

時には患者の甲状腺が食道や気管を圧迫し、物を飲み込んだり、息をするときに詰まった感じがしたりするほど大きくなることがあります。これは胸部X線写真で気管が肥大した甲状腺のために曲がっている場所を確認することができます。このような場合は手術が効果的ですし、その方が好ましいと思われます。

04 病院での経過 ↑このページのトップへ
甲状腺の手術が必要な患者は普通、胸部X線や心電図、甲状腺機能検査を含む様々な血液検査などの適切な術前検査を受けた後、手術の前日に入院します。手術は首の正面下部を少し切開して行なわれます。首の中央部の筋肉を開き、声帯に行く上喉頭神経と反回神経および体内のカルシウムレベルをコントロールする副甲状腺を傷つけないように注意深く切り離し、甲状腺を取り除きます。

甲状腺を半分だけとればよい場合もありますが、特に良性疾患ではそのとおりです。甲状腺は対称な2つの葉から成っており、どちらも肥大しているか、悪性疾患がある場合、あるいはバセドウ病で大きくなっているような場合は甲状腺をほとんど全部取ってしまわねばならないことがあります。

甲状腺に癌がある場合は、外科医は頸部のリンパ節に癌が広がっていないか調べます。リンパ節に癌が広がっている場合は、機能の乱れや外見を損なうことを最小限に留める改良型頸部郭清法と呼ばれる手術で取り除かねばならないことがあります。そのような頸部郭清を行なうため、甲状腺切除術の切開を首の下にまで伸ばして術野を広くする必要がある場合があります。

手術の後、切開したところを丁寧に縫合し、患者は普通術後1日目か2日目に退院することができます。縫合糸は術後2日目に取れます。そして患者は外科医の詳しい検査を受けるため1週間後に来院することになります。

05 手術の副作用 ↑このページのトップへ
手術直後は首の切開したあたりの腫れや喉の痛み、ものが少し飲み込みにくいというような症状や、手術の時にとっていた姿勢のため首の後ろに少し不快感を覚えます。このような問題はすべてそれほどひどくないことが普通で、何日かあるいは何週間か経つうちに自然に消えていきます。

時に切開を入れたところに液体が溜まることがあります。外科医が針と注射器で溜まった液体を吸い出すことになりますが、そのような方法で簡単に対処でき、溜まった液体を出すためにまた切らなければならないということはまずありません。

頻度は少ないのですが、発声に問題が出ることがあります。これは普通、麻酔のためのチューブの刺激による1種の喉頭炎のためで、やはり数週間あるいは何ヶ月かして消えていきます。反回神経の損傷で声がしゃがれたり、出にくくなったりすることもありますが、このようなことはめったに起こることはなく、避けることができるはずのものです。時に、癌性の病気で反回神経が癌によって破壊され、反回神経を取ってしまわねばならない場合もあります。

甲状腺のほとんどを取ってしまった場合は、そのような手術の後にカルシウムレベルが低い状態になってしまうとことは珍しくありませんが、カルシウム剤で簡単に治療できます。これは普通自然に治りますが、カルシウムの状態が正常になるまで数週間か数ヶ月かかることもあります。もとに戻れば、カルシウム剤を飲む必要はありません。時にはカルシウム剤を永久に飲まなければならない場合もありますが、これは甲状腺の癌が広がっていて、あまり甲状腺をいじれないような時に起こります。

切開したところは大抵きれいに治り、見かけもあまり悪くなりません。東洋人や黒人、あるいは思春期の患者では傷口が肥厚したり、ケロイドができたりすることがあります。これはコーチゾンの注射で治療できますし、大抵の場合改善が見られます。

06 術後の治療 ↑このページのトップへ
術後は、たとえ甲状腺のごく一部の治療しか必要でなかった場合でも、患者は甲状腺ホルモン剤を飲むことを勧められます。これは患者を甲状腺機能低下から守り、残った甲状腺組織に腫瘍や腫瘍状の肥大が起こるのを防ぐためです。

患者の病気が癌であった場合は、放射性ヨード治療が必要なことがあり、X線の外部照射治療も必要になることがあります。これは病理学者と呼ばれる医師による組織検査の最終報告結果によって内容が異なります。患者の主治医はそのような治療についての勧告を行なわねばなりません。

これは大事なことですが、甲状腺切除術を受けた患者はすべて少なくとも年2回、甲状腺機能をチェックしてもらうために診察を受けねばなりません。

甲状腺ホルモン剤を飲むことは簡単なことで、複雑な管理もいりません。悪性疾患に罹った患者は診察を受ける間隔をもっと短くしなくてはなりませんし、癌再発の可能性を調べるため頸部の超音波検査やサイログロブリンの検査が必要となります。

07 手術の結果 ↑このページのトップへ
甲状腺切除術を受けた患者は普通、速やかに回復し、手術の影響もほとんど出ません。手術の副作用も最小限のはずです。そして、手術を行なう外科医は甲状腺外科の経験を積んでいるか、そのための教育を受けている医師を選ぶようにするのがとても大事です。特に外科医による悪性疾患の治療は極めて効果的で、治癒率も他には見られないほど高いのです。患者は甲状腺の手術から回復した後、健康ではつらつとした感じを味わうことができるはずです。

この記事はトロント州、トロント大学マウントサイナイ病院外科助教授であるIrving B. Rosen, MD., FRCS(C), FACSにより書かれたものです。

. Dr.Tajiri's comment . .
. 甲状腺の手術に関しては、以下も参考にしてください。
甲状腺手術術後の傷跡について
甲状腺の手術
甲状腺・副甲状腺の内視鏡手術について
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