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甲状腺疾患健康ガイド

10:子供の甲状腺疾患
01 総 論
02 子供の診断で通常行なわれる検査はどのようなものでしょうか?
03 先天性甲状腺機能低下症
04 先天性甲状腺腫
05 慢性甲状腺炎(自己免疫性甲状腺炎)
06 バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
07 その他の甲状腺疾患
08 甲状腺疾患と発育
09 治療法

01 総 論 ↑このページのトップへ
大人に見られる甲状腺疾患のほとんどは子供にも起こります。管理法にいくらか違いがあるものの、原則的には同じです。このパンフレットは大人に起こる同じような病気の原因と治療法の概略を述べた他の健康ガイドと合わせてお使いください。

子供の理解力に応じて、甲状腺がどこにあり、どのような働きをしているかということをきちんと説明するのはとても大事なことです。甲状腺の形を説明するには、首の前の鎖骨のすぐ上のところに、ちょうど蝶々が気管を被うようにとまっていると言うようにするとよいでしょう。子供では、あごを上げて首をわずかにうしろにそらせると甲状腺の外形がわかります。特に甲状腺が正常より大きくなっている場合はよく見えます。その機能、つまり働きは、炉に例えるとよいでしょう。甲状腺が活動しすぎだと(甲状腺機能亢進症)、その温度が高くなりすぎたのだと考えることができます。温度が低くなりすぎた場合は不活発(甲状腺機能低下症)になるのです。あるいは、サイズがどうであれちょうどよい量のホルモンを作っている場合は、サーモスタットが正しく設定されているというわけです。

甲状腺は小さな丸いリンパ節とは違うタイプのものです。リンパ節はどの子供でも首の両側に触れることができ、これは感染から守るためにあるのです。甲状腺は甲状腺ホルモンを作るためのものです。甲状腺ホルモンは体のすべての細胞が必要な体内化学物質で、これによって体がちょうどよい速度で正しく働くことができるのです。視床下部と脳下垂体(02:甲状腺:一般知識の紹介を参照)は、脳の一部が下に伸びた部分です。大きさはちょうど指先ぐらいで、鼻橋の真後ろの目の間にあります。視床下部はTRHというホルモンを作りますが、これは脳下垂体の方に行って脳下垂体のある種の細胞に指令を与え、TSH(甲状腺刺激ホルモン)と呼ばれるホルモンを作らせます。次にTSHが甲状腺にT4とも呼ばれる甲状腺ホルモン(サイロキシン)を作るように指令します。甲状腺がT4を作りすぎると、視床下部と脳下垂体がTRHとTSHの産生を減らします。甲状腺が作るT4が少なすぎると甲状腺へ行くTSHのレベルが上がり、もっと甲状腺ホルモン(T4)を作るよう指令します。

02 子供の診断で通常行なわれる検査はどのようなものでしょうか? ↑このページのトップへ
手または腕の静脈からTSHあるいはT4の測定を行なうための血液サンプルを採取し、甲状腺機能が正常かどうかを調べます。薬を飲んでいる子供では、薬の量がちょうどよいかをチェックします。

甲状腺機能低下症の子供に対しては、骨の発育に遅れがないかを診断するため手や手首(乳幼児では膝)のレントゲン写真をとることがあります。

大きくなった甲状腺がでこぼこしており、シコリまたは結節が疑われる場合でなければ、普通はレントゲン写真をとる必要はありません。結節がある場合は、超音波診断で結節が液体で満たされたものか、あるいは充実性のものであるかがわかります。甲状腺のX線検査はスキャンとも呼ばれますが、これによって安全な弱い放射性物質を用いて甲状腺が均等に放射性物質を取り込み、正常に機能しているかどうかを見ることができます。放射性物質を取り込んでいない部位があれば、そこは「コールド」と呼ばれ、腫瘍である可能性があります。この場合は細い針を使って甲状腺の生険が行なわれるでしょう。これは針を甲状腺に差し込んで、顕微鏡で調べるため細胞を少し取るものです。大きな子供は鎮静剤を使わなくてもこの方法を行なうことができます。怖がる場合は親が抱きかかえるか、麻酔クリームを使うとよいでしょう。

03 先天性甲状腺機能低下症 ↑このページのトップへ
先天性甲状腺機能低下症は4,000人の新生児の1人が罹っているのですが、かつては精神発達遅滞の最大の原因となっていました。子供の正常な発育だけでなく、脳の発達も正常な甲状腺ホルモンレベルに依存しているのです。 生後2日から5日の間に踵を針で突いて採取した少量の血液サンプルで、甲状腺の血液検査(TSHまたはT4)がルーチンに行なわれています。TSHが高い(あるいはT4が低い)場合は、静脈から採取した血液を用いて再度検査を行い、確認します。

甲状腺は、胎生初期に舌の後ろにある数個の細胞からでき始めます。これらの細胞の数が増え、受胎後最初の何週間かの間に首の前の正常な位置に下がってきます。胎児の成長は主に自分の甲状腺が作り出す甲状腺ホルモンに依存しています。先天性甲状腺機能低下症の乳児では、理由はわかりませんが甲状腺が発育できなかったか、正常よりはるかに小さいかのいずれかの場合があります。この発育不良の甲状腺の位置は、舌の後ろから首の前の正常な位置の間のどの場所にもなり得ます。先天性甲状腺機能低下症の乳児の約10%は、甲状腺が存在するにもかかわらず遺伝的に甲状腺ホルモンを作る能力がありません(先天性甲状腺腫)。まれに、甲状腺が一時的に甲状腺ホルモンを作れない場合があります。甲状腺疾患を持つ母親の血液中にある抗体が胎盤を通過し、一時的に赤ちゃんの甲状腺の働きを阻止してしまう場合があるのです。このような少数の赤ちゃんを除き、甲状腺機能低下症は永久的なものです。

今ではどこでもスクリーニングテストを受けられるようになったので、この病気をすぐに見つけ、治療できるようになりました。毎日甲状腺ホルモン剤を飲む治療を生涯続けることによって、精神発達遅滞を予防し、正常な発育をもたらすことができます。乳児から小児期を通じ、血液中のTSHとT4レベルを測定して薬の量をモニターし、調節します。

04 先天性甲状腺腫 ↑このページのトップへ
子供にはまれな甲状腺腫(甲状腺の肥大)を起こす数種の遺伝性疾患があります。これらの子供は甲状腺機能低下症の場合もありますが、普通は甲状腺の機能は正常であり、異常は甲状腺の肥大だけです。治療は甲状腺ホルモンを与えることですが、これで脳下垂体のTSH産生を「止める」ことにより幾分甲状腺が小さくなります。これらの病気の一つは聾を伴いますが、他の家族にもこの病気を持つ人がいる場合があります<注釈:この病気をペンドレッド症候群といいます。詳しくは野口病院のこのページでご覧ください>。

05 慢性甲状腺炎(自己免疫性甲状腺炎) ↑このページのトップへ
04:甲状腺機能低下症06:甲状腺炎を参照。

小児と青少年の甲状腺肥大の原因で一番多いものは慢性甲状腺炎です。この病気は女の子の方に多く、また慢性甲状腺炎または他の甲状腺疾患の家族歴がある子供に多いのです。甲状腺機能低下症が生じなければ、甲状腺の肥大以外に何の変化もない場合があります。小児と青少年の慢性甲状腺炎の管理は、大人とまったく同じです。数年かかることがありますが、時間が経つにつれて甲状腺が小さくなっていきます。慢性甲状腺炎では、診断時に甲状腺ホルモンの分泌が正常なことがあります。甲状腺機能低下症が生じた場合に備えて、約6ヶ月の間隔をおいて注意深いモニターを受けることをお勧めします。甲状腺ホルモン剤による治療をいったん始めると、それは生涯続けなければなりません。糖尿病やダウン症、あるいはターナー症候群のある特別な子供のグループがありますが、これらの子供たちは慢性甲状腺炎を起こす可能性が高いので、定期的にチェックしてもらわねばなりません。

06 バセドウ病(甲状腺機能亢進症) ↑このページのトップへ
07:バセドウ病による甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症)も参照してください。

バセドウ病は子供の甲状腺機能亢進症の原因でいちばん多いものですが、思春期に近づくにつれてその発生率も増加していきます。目の合併症(眼症)も生じますが、大人の場合ほどひどくはありません。診断がつく前の最大の問題は、極度の落ち着きのなさと集中できる時間が短いことで、学校についていけなくなったり、親がいらいらしたりするようになることがあります。治療は普通、抗甲状腺薬で始められます。一部の子供では甲状腺機能亢進症が落ち着いてから甲状腺を手術で切除することが最良の管理方法となります。放射性ヨードを使った治療は小さな子供では時たま使われるにすぎません。この治療法はもっと大きくなった青少年に対して非常に効果があると思われます。特にコントロールがなかなかできない甲状腺機能亢進症のある子供に対して効果が高いと思われます。

07 その他の甲状腺疾患 ↑このページのトップへ
単発性甲状腺結節、多結節性甲状腺腫、亜急性甲状腺炎およびその他の甲状腺疾患が起こりますが、カナダの子供たちにはまれです。

08 甲状腺疾患と発育 ↑このページのトップへ
赤ちゃんの甲状腺機能低下症は普通、新生児スクリーニングで見つけられ、直ちに治療が行なわれます。もし治療されないままであれば、前の先天性甲状腺機能低下症の項で述べたように、発育や発達が損なわれます。

甲状腺機能低下症の子供には大人と同じ症状がすべて出ることがありますが、いちばん目立つ変化は体重が正常か、あるいは普通より太っているのに背が低いということかもしれません。甲状腺ホルモン剤で甲状腺機能低下症の治療をすれば、かならず「巻き返しの成長(遅れを取り戻す)」が起こります。思春期が遅れることもありますが、時に早まることもあります。

2歳以降に甲状腺機能低下症が生じても、知能には変化がありません。

09 治療法 ↑このページのトップへ
小児と青少年が甲状腺機能低下症あるいは甲状腺機能亢進症で受ける治療では、きちんと薬を飲むことがとても大切です。親が治療の監督を行なわねばなりませんし、ピルマインダ−ボックス(錠剤を曜日毎または日付毎に分けて入れ、飲み忘れがないようにする箱)が子供の監視やしつけに非常に役立つと思われます。子供が規則正しい治療(毎日薬を飲む)の理由を必ずしも理解しているとは限りません。そして病気がどのようになるかと脅かしてみたところで大して効果はないのです。

甲状腺機能低下症の子供、特にそれが長く続いていた子供では、甲状腺機能が正常に戻ることで、行動に著しい変化を見ることがあります。この結果学校の成績が悪くなることがあります。教師はそのような子供の問題や現在出されている医学的勧告事項についてもよく知っておくようにしなければなりません。

バセドウ病の子供の場合は、そのような問題は主に治療開始前に起こります。しかし、きちんと薬を飲まなければ甲状腺機能亢進症の症状が再びあらわれてきます。

もっと詳しい情報は、内分泌学会が出している母親の甲状腺機能低下症の中の母親の甲状腺機能低下症に関する勧告および質問と答えのところもご覧ください。

この記事はノバスコシア州ハリファックスのイザークウォルトン小児病院内分泌病科部長、ダルハウジー大学助教授であるSonia R. Salisbury, M. D., F. R. C. P. (C)により書かれたものです。

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