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甲状腺疾患健康ガイド

07:バセドウ病による甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症)
01 バセドウ病
02 甲状腺刺激抗体
03 臨床的特徴
04 治療法
05 放射性ヨード
06 抗甲状腺剤
07 甲状腺切除術
08 その他の甲状腺機能亢進症の原因

01 バセドウ病 ↑このページのトップへ
バセドウ病(グレーブス病)は1835年にロンドン医学雑誌に数症例を記載した医師の名前を取って名付けられました。本当はその数年前にParryによって最初に記載されていたのです。ヨーロッパではバセドウ病として知られています。すべての国で、「甲状腺中毒症」としても知られています。バセドウ病はカナダ国内では飛び抜けて多い甲状腺機能亢進症の原因であり、おそらく100人に1人はこの病気に罹っていると思われます。しかも、さらに増えているようです。家族の誰もがこの病気になるわけではありませんが、これは遺伝性の病気です。また、男性より女性に多い病気です。

02 甲状腺刺激抗体 ↑このページのトップへ
バセドウ病は自己免疫性疾患です。この病気は甲状腺刺激抗体と呼ばれる異常なたんぱく質によって引き起こされます。この抗体は甲状腺を刺激し、コントロールが利かない状態で大量の甲状腺ホルモンを作らせます。正常な人では、甲状腺刺激抗体(およびその他の異常な抗体)の産生を監視システムにより防いでいます。このシステムは他の成分もありますが、ある種の血液細胞からなっており、それはサプレッサーリンパ球、ヘルパーリンパ球、およびキラー(K)細胞と呼ばれるものです。サプレッサーリンパ球は望ましくないリンパ球を抑制します。

診断を確定するためにバセドウ病患者の血液中にある甲状腺刺激抗体をすべての症例で測定する必要はありません。

03 臨床的特徴 ↑このページのトップへ
バセドウ病が原因の甲状腺機能亢進症の症状は、体の機能や代謝に過剰な甲状腺ホルモンが及ぼす影響によるものです。普通に見られる症状は、体重減少、神経質、いらつき、暑さに耐えられない、過度の発汗、震え、および筋力低下です。他には脈が速くなる、体脂肪と筋量の減少、甲状腺の肥大(甲状腺腫)、指が細かく震える、温かく湿ったなめらかな皮膚といった徴候があります。

患者の約50%に顕著な目の症状(眼球突出症)も出ます。目が眼窩から飛び出してきて、赤い涙目になり、まぶたも腫れてきます。目が正常に動かないということが頻繁に起こりますが、これは目の筋肉が腫れてちゃんと動かせなくなるためです。バセドウ病による甲状腺機能亢進症患者の残り50%は、まぶたの筋肉が収縮するためにわずかな目の突き出しが起こり、このため目を見開いたような見かけになります。

甲状腺ホルモンは体に様々な影響を及ぼすので、症状もそれを反映したものになります。簡単に言えば、すべての代謝プロセスが「スピードアップ」されるのです。例えば、脈拍が速くなり(100/分を超える)、腸の機能が増し(下痢)、汗腺の働きが異常に高まります。神経系も刺激されるので、患者は神経質になり、いらいらするようになります。食欲が増すにもかかわらず、食物摂取量が分解される体のたんぱく質の量が増加するのに追いつかないため、やせてきます。その結果、やせて、暑がりの「出目」と甲状腺腫のある神経質な患者になります。これは前にそのような患者を診たことのある臨床家であればすぐに気づく、古典的な臨床的特徴です。

04 治療法 ↑このページのトップへ
バセドウ病による甲状腺機能亢進症は遺伝的に定められた免疫系の異常によって引き起こされるため、この病気は複雑であり、現在のところ根本原因である免疫異常に対する特定の治療法はありません。ただ、この病気の結果は甲状腺の過剰刺激であることから、その症状を治療するのはきわめて簡単です。簡単に甲状腺の一部を手術で取ること(甲状腺切除術)もできますし、放射性ヨードで甲状腺細胞を破壊するか、あるいは抗甲状腺剤で甲状腺ホルモンの産生を阻止することもできるのです。

05 放射性ヨード ↑このページのトップへ
放射性ヨードは何よりも簡単で、いちばん都合のよい治療法ですが、若年者や子供に対する使用は、放射能の照射により有害な影響が出る可能性があるため、以前は懸念されていました。放射性ヨードは40歳以上の人に使われてきましたが、何ら有害な影響は出ないということがはっきりしました。ほとんどの甲状腺専門医は20〜25歳以上のバセドウ病患者すべてに放射性ヨードを使うよう勧めるでしょう。中には子供にも使う人がいます。

放射性ヨードは普通、カプセルの形で与えられます。量は「甲状腺取り込み試験」を行って甲状腺腫のサイズから計算されます。放射性ヨードの効果がフルに発揮されるまで数週間かかるため、それまで抗甲状腺剤が投与されることもあります。

06 抗甲状腺剤 ↑このページのトップへ
抗甲状腺剤(カナダではプロピルチオウラシル<注釈:日本ではプロパジールまたはチウラジール>とメチマゾール<注釈:日本ではメルカゾール]だけしか使えません>は子供と20〜25歳以下の若年者に必ずといってよいほど使われる薬です。また寛解をもたらすため、あるいは摘除術に先立ってあらゆる年齢の人に使われることがあります。このタイプの治療には2つの大きな欠点があります。
  1. 何ヶ月、あるいは何年にもわたって患者が薬を飲まなければならない。
  2. 治療を止めると、病気の再燃が起こらない確率は約50%しかない。
さらにごく少数ですが、副作用の出る人がいます。最終的には、ほとんどの患者が放射性ヨードまたは甲状腺切除のどちらかによる治療を必要とします。甲状腺機能亢進症の症状を抑えるために与えられるもう一つの薬がプロプラノロール<注釈:日本ではインデラール>です。この薬は過剰な甲状腺ホルモンが心臓や血管、神経系に及ぼす影響を遮断するものですが、甲状腺に直接作用するものではありません。

07 甲状腺切除術 ↑このページのトップへ
外科手術は、抗甲状腺剤を使った後に甲状腺機能亢進症が再発してきた20歳以下の患者の80%に勧められます。また、年齢を問わず、甲状腺腫が大きくなりすぎて空気の通り道(気管)あるいは食べ物の通り道(食道)の閉塞を起こしている患者にも勧められます。イギリスとヨーロッパでは、カナダよりバセドウ病に対して手術が行われる頻度がはるかに高いのですが、これは主に経験と伝統のためです。

甲状腺切除術は約5日ほどの入院が必要で、ごくわずかな部分を残して甲状腺を取ってしまいます(経験を積んだ外科医によって行われます)。

放射性ヨードや甲状腺切除による治療の後、正常に機能するに十分な甲状腺が残っていると見込まれますが、時にはその甲状腺が再び活動し過ぎになってくることがあります。これはまだ異常な刺激抗体をリンパ球が作り出しているからです。それ以外の患者では、残っている甲状腺が不活発になる(甲状腺機能低下症)傾向が強いのです。おそらく最終的には全バセドウ病患者の80%が生涯にわたる甲状腺ホルモン補充療法を必要とすることになるでしょう。これは甲状腺機能低下症であることを認識し、治療を受けている限りは問題にはなりませんが、十分な甲状腺を取り除かなかったり、放射性ヨードの投与量が少なすぎたりして甲状腺機能亢進症が再発してきた患者にとっては大きな問題となります。事実、一部の専門医は、甲状腺機能亢進症の再発を防ぐためにわざと甲状腺を破壊してしまい、その後直ちに甲状腺機能低下症が起こることを予測して甲状腺ホルモン治療を始めるのです。

08 甲状腺切除術 ↑このページのトップへ
カナダでは、甲状腺機能亢進症の全患者のうちバセドウ病が80%を占めています。甲状腺機能亢進症は長いこと甲状腺腫のあった高齢の患者にも起こることがあります。

カナダにおけるそれ以外の甲状腺機能亢進症の原因は、ウィルスの感染で起こる痛みの強い亜急性甲状腺炎ですが、この甲状腺機能亢進症は腫れて傷ついた甲状腺から甲状腺ホルモンが漏れ出すために起こるものです。また、同じような病気ですが、痛みを伴う甲状腺の腫れがない 無痛性甲状腺炎もあります。

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