甲状腺眼症の最新治療:テッペーザについて
今回は、甲状腺眼症治療における最近の進歩についてお話したいと思います。従来、甲状腺眼症の治療は副腎皮質ホルモン(ステロイド)の局所注射、ステロイド内服、ステロイドパルス療法、球後照射、眼科手術でした。特に、中等症〜重症の甲状腺眼症に対する治療の主流はステロイドパルス療法でしたが、副作用の多さが問題になっていました。一部の医師は、ステロイドパルス療法を「ジュラシック治療」と呼んでいます。「ジュラシック(恐竜が生きた古い時代)」という言葉は、もっと副作用の少なくて効果が高い新薬が使用できるにもかかわらず、40〜50年前から変わらない古い治療に拘っていることに対する強い比喩を表現したものです。この「ジュラシック治療」という表現を使った背景には、ステロイドパルス療法と比べて副作用が少なく安全な治療法の出現があると思います。その治療法こそが、今回のテーマであるテッペーザなのです。
テッペーザは、米国では2021年にFDAから承認されました。本邦では、2024年11月に保険収載され治療に使えるようになりました。中等症〜重症の活動性甲状腺眼症が対象です。治療効果は優れており副作用も少ないのですが、欠点は薬価(薬物の値段)が高いことです。1瓶約100万円です。体重で投与量は変わりますが、具体的に体重50kgの人ですと、初回1瓶、3週間毎に2瓶を7回投与し、計15瓶を投与します。治療費用は、合計約1500万円になります。3割負担でも、総額約450万円です。しかし、高額療養費制度 の利用で自己負担を軽減でき、年収370万円未満のケースで総額約30万円程度(治療期間が4〜5ヶ月間)になります。詳しくは、上記の高額療養費制度をご覧になってください。
熊本県では、テッペーザの治療は熊本大学病院糖尿病・代謝・内分泌内科と出田眼科病院で行っています。当院でも、適応となる甲状腺眼症の患者さんは、どちらかにご紹介しています。既に、14例の方を治療していると聞いています。治療効果は、大変満足いくものです。特に、眼球突出に有効のようです。以前なら、高度の眼球突出に対しては眼科医による眼窩減圧術をお勧めしていました。高度な技術を要する手術ですので、名古屋、東京の甲状腺眼症専門眼科病院に紹介していました。わたしも数人の方を紹介しました。全員、手術によって眼球突出は良くなって帰ってこられました。患者さんも満足されていました。
日本でも、眼窩減圧術を要する患者さんに対して、手術ではなくテッペーザという薬物で治療できる時代の到来は、医学の進歩の成せる技です。
ここから、日本で最初に発表されたテッペーザによる治療成績の論文についてご紹介します。対象は、中等度から重度の甲状腺眼症患者54例です。テッペーザまたはプラセボ(偽薬)のいずれかに1:1で無作為に割り付けられました(テテッペーザ群27例、プラセボ群27例)。患者は、24週間にわたり、3週間ごとに1回、計8回の点滴注射を受けました。治療終了時(24週時)の眼球突出反応率(ベースラインから2mm以上眼球突出が減少した患者の割合)で効果を判定しました。眼球突出反応率は、テッペーザ群(89%、24/27例)の方がプラセボ群(11%、3/27例)よりも明らかに高い結果でした(p<0.0001)。重篤な副作用や死亡例は認められませんでした。この結果は、今後のテッペーザ使用において、大変期待できるものです。
海外の文献も紹介します。有名な総合医学雑誌であるN Engl J Med 、眼科専門雑誌の米国眼科学会雑誌 、英国王立眼科学会雑誌 に実際の治療効果を実感できる写真が掲載されています。参考にしてください。ブラウザ(Edge、Safariなど)で、日本語へ簡単に変換できますので、ご利用ください。
今までは、甲状腺眼症の治療は難しいこともありましたが、テッペーザの出現によって、甲状腺眼症の治療が大きく前進しました。甲状腺眼症で悩まれている患者さんは、まず甲状腺専門医を受診して相談しましょう。テッペーザは、各県で治療を行っているところがあるはずです。
文責:田尻淳一
以下の文献を参考にしました。
A randomised, double-masked, placebo-controlled trial evaluating the efficacy and safety of teprotumumab for active thyroid eye disease in Japanese patients. The Lancet Regional Health – Western Pacific 55: 101464, 2025

