甲状腺微小乳頭がんに対する積極的監視について
今回は、日本で考案、実践された甲状腺微小乳頭がんに対する積極的監視についてお話します。直径1.0cm以下の甲状腺乳頭がんを微小乳頭がんと呼びます。微小乳頭がんは大変予後が良く、生命を脅かすことがほとんどないことで知られています。「微小乳頭がん」は、今回の話のキーワードです。
従来は、直径が1.0cm以下の小さな乳頭がんでも、手術を勧めていました。しかし、1993年に神戸の隈病院、1995年に東京の癌研究会中央病院から甲状腺微小乳頭がんに対する積極的監視という新しい概念が提唱されました。この治療方針は、甲状腺微小乳頭がんに対して手術をしないで経過をみていくというものでした。そこに至るまでには、多くの症例を詳しく調べられたと思います。この新しい選択肢を患者さんに提示して、手術するか経過観察を行うかの選択をしていただけるようになりました。この選択肢が増えたことで、どれほどの患者さんの気持ちが救われたことでしょう。また、医師にとっても手術だけであったものが、患者にとっては優しい選択肢を提示できるようになったことは、診療の幅を広げることになり喜ばしい限りでした。この手術を行わないで経過をみることを、医学用語で積極的監視と呼びます。「積極的監視」は、今回のもう一つのキーワードです。
2023年、隈病院から「甲状腺微小乳頭がん」に対する「積極的監視」について30年間の経験が報告されました。以下にこの論文をまとめてみました。
1993年から2019年の間に隈病院で低リスク微小乳頭がん(有意な甲状腺外浸潤、リンパ節転移、遠隔転移を伴わない1.0cm以下の乳頭がん)と診断された5646人を対象としました。このうち、積極的監視が3222人、即時手術(診断された時点で手術を受けた患者)が2424人でした。
積極的監視では、124人(3.8%)に3mm以上の腫瘍増大(この場合を腫瘍増大ありと判断)が認められ、10年および20年の増大率はそれぞれ4.7%および6.6%でした。新たなリンパ節転移は27人(0.8%)に認められ、10年および20年のリンパ節転移発生率はそれぞれ1.0%および1.6%でした。
即時手術では、13人(0.5%)に術後リンパ節再発が認められ、10年および20年のリンパ節再発率はそれぞれ0.4%および0.7%でした。片側甲状腺切除術(甲状腺を半分切除する手術)を受けた1327人のうち18人(1.4%)に残存甲状腺(手術で残した半分の甲状腺)に再発が認められました。
リンパ節転移率は積極的監視で即時手術よりも有意に高かった(10年時点で1.1% vs. 0.4%、20年時点で1.7% vs. 0.7%、p = 0.009)が、その差は小さかった。しかし、1回以上および2回以上の手術を受けた患者の割合は、即時手術の方が積極的監視よりも有意に高かった(100% vs. 12.3%、1.07% vs. 0.09%、p < 0.01)。
遠隔転移再発は、積極的監視および変換手術後(積極的監視から手術に変更)に1例、即時手術後に1例認められたが、両例とも生存しています(それぞれ診断後18.4年および18.8年)。本研究では、甲状腺癌で死亡した患者はいませんでした。
結論として、微小乳頭がん患者の長期的な治療効果は、積極的監視と即時手術で臨床的に有意な差は認められませんでした。積極的監視は、低リスク微小乳頭がん患者にとって実行可能な初期治療選択肢です。
この研究結果は、低リスク微小乳頭がんの患者さんにとっては大変心強いものです。もちろん、医師にとっても安心できる結果です。今まで実践してきて良かった、そして今後も同じように確信を持って実践していくことができます。
この研究が、日本で考案され、実践されてきたことを誇りに思います。
文責:田尻淳一
以下の論文を参考にしました。
Long-Term Outcomes of Active Surveillance and Immediate Surgery for Adult Patients with Low-Risk Papillary Thyroid Microcarcinoma: 30-Year Experience. Thyroid 33: 817-825, 2023

