甲状腺機能と代謝機能障害関連脂肪性肝疾患の関連性について

今回は、甲状腺機能と代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の関連性についてお話したいと思います。代謝機能障害関連脂肪性肝疾患は、名前が長いのでMASLDと呼びます。

脂肪肝という病名を聞いたことはありませんか? 脂肪肝は、肝臓に脂肪が溜まった状態を言います。脂肪肝は、お酒の飲み過ぎ、糖尿病、肥満など原因は問いません。MASLDは、「脂肪肝」と「代謝異常の指標(肥満、高血糖、高血圧、脂質異常のいずれか)が1つ以上あること」の2つの条件を満たした疾患です。すなわち、MASLDはお酒の飲み過ぎ(男はアルコール週210g以上、女は週140g以上)を除外した脂肪肝です。

MASLDは、単純性脂肪肝、代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)、肝線維症、肝硬変、最終的には肝細胞がんまで幅広い肝臓病変です。現在、世界中で25%の人がMASLDであると言われています。これは、重大な健康上の問題ですね。

甲状腺機能とMASLDは、一見何の関係もないように思われますが、最近、MASLDが甲状腺機能低下症と関連があると報告されています。フリーT3やフリーT4は肝臓の脂質代謝を調節しており、甲状腺ホルモンが低下すると肝臓に中性脂肪が蓄積します。そのために甲状腺機能低下症では、MASLDになるわけです。これで、甲状腺機能とMASLDの関連性が理解できましたね。

顕性甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが低くてTSHが高い:ひどい甲状腺機能低下症)は、潜在性甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが正常でTSHのみが高い:軽い甲状腺機能低下症)に比べて、MASLDの頻度が高いことが分かっています。詳しい研究から、MASLDと甲状腺機能低下症の因果関係が証明されました。ざっくり言うと、MASLDと甲状腺機能低下症は科学的かつ医学的に関係があるということです。

実際、MASLDと診断している人の15〜36%が甲状腺機能低下症であると報告されています。さらに、重要なことは甲状腺機能低下症が、MASLDによる死亡リスクや心血管疾患による死亡リスクの増加と関連していることです。すなわち、甲状腺機能低下症は脂肪肝のみでなくMASLDの予後(見通し)にも悪影響を及ぼす可能性があります。

ご存知のように甲状腺ホルモンには、T3とT4があります。実際の甲状腺ホルモンの働きをするのは、T3です。T3が肝細胞内に入って、細胞核内にある甲状腺ホルモン受容体に結合して本来の甲状腺ホルモンのはたらきをするわけです。ところで、甲状腺ホルモン受容体にはαとβがあります。肝臓に存在する甲状腺ホルモン受容体はβです。T3が増えると脂肪が分解され脂肪肝は改善します。反対に、T3が減ると脂肪が溜まって脂肪肝になります。

肝臓内で脱ヨード酵素(T4からT3に変換する酵素)の働きが悪くなり、T4からT3への変換が減ると肝臓内のT3が減ります。肝細胞核内にある甲状腺ホルモン受容体βに作用するT3量が減れば「肝内甲状腺機能低下症」を引き起こし、脂肪肝を助長することは自明の理です。したがって、甲状腺ホルモン受容体β作動薬(甲状腺ホルモン受容体βを活性化する薬)は、「肝内甲状腺機能低下症」を是正して脂肪代謝を改善することが期待されています。アメリカでは、甲状腺ホルモン受容体β作動薬「レスメチロム」がMASLDの治療薬として承認されました。残念ながら、日本ではまだ「レスメチロム」は使用できません。

ですから、日本で行えるMASLDに対する甲状腺ホルモン治療についてお話します。低用量のチラーヂンS治療(中央値 18.75μg/日)がMASLDの発症率を低下させたという報告があります。この研究では、血清TSH値を0.34〜1.70μIU/mlに保つように治療しています。これに似た値は、どこかで見たことがありますね。甲状腺ニュース「慢性腎臓病と甲状腺機能の関連性について」を思い出してください。その中で、血清TSH値0.61〜1.82μIU/mlを目標にチラーヂンSで治療することが理想的と言いましたね。MASLDとCKD(慢性腎臓病)に対して甲状腺ホルモン剤で治療する場合、血清TSHの目標値はほぼ同じなのです。甲状腺は、「肝腎かなめ」と言われるほど重要な臓器である肝臓と腎臓に貢献しているわけです。

レスメチロムが承認されるまでは、MASALDに対しては、低用量チラーヂンS治療を行っていくというのが、現実的と思います。もちろん、MASLDの原因(肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常など)があれば、その治療も併せて行っていくべきでしょう。

文責:田尻淳一

以下の論文を参考にしました。

NAFLD and thyroid function: pathophysiological and therapeutic considerations.  Trends Endocrinol Metab 33: 755-768, 2022

Low-Dose Levothyroxine Reduces Intrahepatic Lipid Content in Patients With Type 2 Diabetes Mellitus and NAFLD. JCEM 103: 2698–2706, 2018