抗甲状腺薬で治療開始した未治療バセドウ病133例の10年後について
今回は、抗甲状腺薬で治療を開始した未治療バセドウ病133例の10年後の治療成績についてお話したいと思います。日常、バセドウ病の人を治療していますが、以前から10年後にバセドウ病は一体どれくらい治っているのかという疑問を抱いていました。この疑問は、患者さんも同じように感じているのではないでしょうか。
この疑問の答えを得るために、わたしが20年前に調査した結果をお話します。この研究は学会、論文にも発表していません。あくまでも、自分の治療成績を知りたいという気持ちで調査しました。しかし、この結果を患者さんと共有することは大切と考え公開することにしました。
解答を求めて調査を行ったのは、2005年のことです。すなわち、開業してから13年後です(1992年 開業)。今から約20年前ですね。甲状腺ニュース「バセドウ病治療の現地点について」でもお話したようにバセドウ病の治療法は、基本的には80年前から抗甲状腺薬、手術、放射性ヨウ素内用療法の3本柱です。なので、20年前の調査であっても調査結果は現在でも通用するものです。
開業してから3年間に当院を訪れたバセドウ病の人は445例です。そのうち、未治療バセドウ病は133例(女性 110例:平均年齢37才、男性 23例:平均年齢40才)でした。未治療バセドウ病というのは、当院でバセドウ病と診断して治療を開始した症例のことです。別の医療機関で治療開始していた症例をこの調査に含めると実際の治療成績に影響を与えるので、これらの症例は今回の検討から除外しました。
かように甲状腺専門クリニックは大体どこでも、未治療バセドウ病の割合は低いです(当院では133例/445例(29.9%))。別の医療機関でバセドウ病と診断されて治療を開始したが、なかなか治らない、甲状腺機能が落ち着かない、副作用が出た、患者さんが専門医の診察を希望した、などの理由で甲状腺専門医を訪れるということが、専門医で未治療バセドウ病にお目にかかる割合が低くなる理由だと思います。
133例すべてを抗甲状腺薬で治療開始しました(メルカゾール 131例、チウラジール 2例)。当時は、1日メルカゾール30mg、チウラジール300mgで開始していました。現在は、1日メルカゾール2.5〜15mgで開始しています。チウラジールは、基本的に副作用の観点から第1選択肢では使用しません。
副作用は38例(28.6%)にみられました(全例メルカゾール)。内訳は、蕁麻疹27例、好中球減少症2例、関節痛1例、その他8例でした。副作用が出た症例では、チウラジールに変更36例、手術2例でした。当院に放射性ヨウ素内用療法が導入されたのは1999年ですので、この治療開始の早期時点(治療開始2〜3ヶ月)での放射性ヨウ素内用療法の選択肢はありませんでした。
メルカゾールからチウラジールへ変更した36例中12例(33%)で副作用が出現しました。内訳は、蕁麻疹7例、肝障害2例、好中球減少症1例、その他2例です。この12例は2つの抗甲状腺薬で副作用が出ましたので、8例が手術、4例が放射性ヨウ素内用療法を受けました。この頃は、手術や放射性ヨウ素内用療法は別府・野口病院にお願いしていました。ここまでは、治療開始から数カ月後の治療状況ですよね。
さあ、今回の本題である未治療バセドウ病133例の10年後の最終治療成績を眺めてみましょう。
133例のうち、最終治療は手術25例、放射性ヨウ素内用療法22例、抗甲状腺薬86例でした。この133例中57例(43%)が治療中もしくは治療終了後に来院しなくなりました。この人たちを医学用語で「ドロップアウト」と言います。手術25例中10例、放射性ヨウ素内用療法22例中3例、抗甲状腺薬86例中44例が「ドロップアウト」しました。すなわち、この57例は10年後の甲状腺機能が不明ですので、今回の調査から除外しました。
ようやく今回の核心に至るところにきました。「ドロップアウト」57例を除外した76例(57%)を対象にして10年後の長期成績を検討しました。最終的に、手術15例、放射性ヨウ素内用療法19例、抗甲状腺薬42例でした。10年後まで来院してくれた患者さんが、57%もいたことに正直驚いています。
手術15例の甲状腺機能の内訳は、機能正常3例、甲状腺機能低下症10例、潜在性甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモン値は正常でTSHにみ高い)1例、甲状腺機能亢進症1例でした。10年後の寛解率は、14/15(93.3%)です。手術した症例は、治癒困難な症例を選択していますので、確実に治す術式(準全摘術)を選択したために寛解率が高かったと思います。
放射性ヨウ素内用療法19例の甲状腺機能の内訳は、機能正常4例、甲状腺機能低下症7例、潜在性甲状腺機能低下症3例、潜在性甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモン値は正常でTSHにみ低い)4例、甲状腺機能亢進症1例でした。10年後の寛解率は、14/19(73.7%)です。想像より寛解率が低い理由は、20年前は重量に応じて放射性ヨウ素投与量を決めていたので、投与量が少ないことや放射性ヨウ素内用療法を行って時間が経っていない1例が含まれていることがあげられます。潜在性甲状腺機能亢進症は、抗甲状腺薬を服用していませんので、実際には寛解と捉えていいのではないでしょうか。その甘い寛解率では、18/19(94.7%)になりますが・・・。
抗甲状腺薬42例の甲状腺機能の内訳は、機能正常29例、甲状腺機能低下症3例、潜在性甲状腺機能低下症1例、潜在性甲状腺機能亢進症3例、甲状腺機能亢進症6例でした。10年後の寛解率は、33/42(76.7%)です。甲状腺機能亢進症6例は、10年後にバセドウ病が治っていないのですが、手術や放射性ヨウ素内用療法を望まない人たちです。甲状腺ニュース「バセドウ病治療の現時点について」でお話したように、現在では有益な治療法と考えられているメルカゾール長期治療を選択しているわけです。
手術、放射性ヨウ素内用療法、抗甲状腺薬を合わせた10年後の寛解率は、61/76(80.3%)です。みなさん、未治療バセドウ病を治療した場合、10年後には8割が治るという、患者さんにとっては大変心強い結果であり、朗報です!
バセドウ病と診断されて治療を開始した場合、何らかの方法(抗甲状腺薬、放射性ヨウ素内用療法、手術)で10年後には8割の人は治るということを知っておいてください。巷では、バセドウ病は治らない病気であるという間違った情報が流れていますが、今回のお話でお分かりのように決して悲観することはありません。主治医の先生を信頼して、気長に治療を受けてください。
最後にわたしが言いたいことは、バセドウ病は抗甲状腺薬、放射性ヨウ素内用療法、手術のいずれかで確実に治すことができるということです。抗甲状腺薬で治らなければ、放射性ヨウ素内用療法か手術で、手術で治らなければ放射性ヨウ素内容療法で治すことができます。しかし、治療法を選択するのは患者さん自身です。放射性ヨウ素内用療法または手術を望まない人は、メルカゾール長期治療をすればいいのです。抗甲状腺薬で副作用が出ても薬物治療を望む人がいます。その場合は、甲状腺ニュース「古くて新しいバセドウ病の治療法:長期ヨウ化カリウム治療について」でお話したように、ヨウ化カリウム丸で治療すればよいのです。
わたしたち医師は、バセドウ病と付き合う長い道のりを患者さんと一緒に歩み、常に患者さんに寄り添っていきます。バセドウ病を敵視しないで、うまく付き合う術を一緒に学んでいきましょう。
文責:田尻淳一

