ヨード過剰摂取による甲状腺機能低下症について

今回は、海藻類(ヨード)を過剰に摂取したときにみられる甲状腺機能低下症についてお話したいと思います。

前回の甲状腺ニュース「古くて新しいバセドウ病の治療法:長期ヨウ化カリウム治療について」で話題にしたヨードの続編です。昆布を代表とした海藻類はヨードを多く含んでいることは、みなさんもご存知ですよね。

成人では、ヨードの1日必要量は大体150μgです。1日1000μg(1mg)以上はヨードの摂り過ぎと考えられています。日本では、海産物を食べる習慣がありますので、1日1mg以上のヨードを摂っている人は結構多いです。東京などの都市部では、若い人は日本食をあまり食べませんので、ヨード摂取量は1日1mg未満の人が多いのではないでしょうか。沿岸部に住んでいる人、特に北海道や九州ではヨード摂取量が多いことが知られています(1日数mg〜数十mg)。

北海道の沿岸に住んでいて昆布を沢山食べる習慣があるところでは、以前から甲状腺が腫れている人が確認されていました。1960年代に北海道大学の先生達がその甲状腺腫について報告したことで「沿岸部甲状腺腫」として有名になり、海外の甲状腺学の教科書に巨大甲状腺腫の写真が掲載されました。現在では、昆布(ヨード)の摂り過ぎが原因と分かったので、昆布を制限することで「沿岸部甲状腺腫」はみられなくなりました。

しかし、北海道では「沿岸部甲状腺腫」は解消されましたが、日本は海に囲まれていますので、沿岸が全国津々浦々にあります。日常的に海産物を摂る習慣は今でもあります。魚、海藻類などの日本食は最近、健康食人気から推奨されているくらいです。

海藻類を日常的に食べるのは、日本、韓国が知られています。韓国の場合、わかめスープを摂るようです。韓国焼肉などで、わかめスープが出てきますね。ある研究に拠ると、わかめスープ250mlを一日3回摂った場合、1日ヨード摂取量はスープのみ摂ると1.4mg、スープとわかめを摂ると5.0mgになるそうです。

日本では、わかめも食べますが、やはりヨードが桁違いに多い昆布を摂る習慣があります(昆布、だし昆布の1日ヨード摂取量は数mg〜数十mg)。海藻類の中でも、ヨード含有量が圧倒的に多いのは昆布だし、昆布です。海産物のヨード含有量については、田尻クリニックのホームページ(甲状腺の病気[病気別] /甲状腺機能低下症)にも掲載していますので、参考にしてください。

食品中に含まれるヨードの量

図:食品中に含まれるヨードの量

甲状腺の病気[病気別]/ 甲状腺機能低下症
『日本では海草の取りすぎで、甲状腺機能低下症になっている人が一部います。』より

橋本病の人においてヨード過剰摂取による甲状腺機能低下症に陥る理由は、前回の甲状腺ニュース「古くて新しいバセドウ病の治療法:長期ヨウ化カリウム治療について」で説明しました。くどいですが、もう一度お話します。

ヨードを摂り過ぎると甲状腺ホルモンを作る過程の有機化を阻害(邪魔)します。普通、この作用は48時間で消失します。この有機化を阻害することを「ウォルフ・チャイコフ効果」と呼びます。この効果がなくなることを「エスケープ」と言います。ですから、普通の人ではヨードを摂りすぎても甲状腺機能低下症にはなりません。しかし、橋本病ではこのエスケープが起こりにくいのです。したがって、橋本病ではこのために甲状腺機能低下症に陥るわけです。

日本では、甲状腺機能低下症の患者さんを診察する場合、昆布を過剰に摂取しているかどうかを問診することは大切です。具体的には、昆布そのものを食べていること以外、注意したいのは昆布だしです。すなわち、目に見えない形で摂取するヨードです。例をあげれば、汁物にだし昆布を使っている場合が要注意です。具体的には、うどん、そば、煮物などに使用される昆布だしですね。

最も注意すべきは、健康に良いと思って摂っている根昆布です。根昆布は、橋本病の人には要注意です。根昆布のヨード含有量は、昆布、昆布だしと同等かそれ以上です。

ここで知っておいていただきたいことは、橋本病の人が全員、ヨードの摂り過ぎで甲状腺機能低下症に陥るわけではありません。わたしの印象では、橋本病の人でヨード過剰摂取による甲状腺機能低下症は想像しているより少ないです。橋本病と言われたら、医師に海藻類を制限する必要があるかどうか尋ねてみましょう。

日本に住んでいる限り、ヨードを避けては通れませんが、恐れることはありません。ヨードは甲状腺ホルモンの原料ですから、過度に制限するのではなく、適量を摂取すれば問題ありません。

世界ではヨード不足のために苦しんでいる国が多く、対策として塩にヨードを添加しています。日本ではヨード不足はありませんが、摂り過ぎに注意を要する人がいます。孔子も言っていますが、「過ぎたるは及ばざるが如し」です。ヨード摂取において、日本は独特の国です。

海藻の摂り過ぎによる甲状腺機能低下症は、海藻を控えるだけで甲状腺機能が正常に戻る可能性が高いです。その場合は、甲状腺ホルモン剤の治療は不要です。

しかし、海藻が好きで今まで通り食べたいとおっしゃる人がいます。その場合は、海藻は摂りながら甲状腺ホルモン剤を服用するという治療を選択することもできます。要は、医師は患者さんの希望を聞いてよく話し合い、治療法を患者さん自身に選択していただくという柔軟な姿勢が必要なのではないでしょうか。

文責:田尻淳一

以下の論文を参考にしました。

Risks of Iodine Excess. Endocrine Reviews 45: 858-879, 2024