バセドウ病治療の現地点について
本日は、現時点でどのようにバセドウ病の治療が行われているかお話ししたいと思います。あくまでも、特殊なものではなく日常診療で普通に行われているバセドウ病治療についてです。
バセドウ病で苦しんでいる人を毎日、診察していますとこの疾患を確実に治癒させる治療法がないことに無力感を感じます。多くの先人たちが、現在も世界中の研究者が真剣に病気の本態を解明するために日々努力しています。
しかし、残念ながらバセドウ病の原因は未だ不明で根本的に治す治療法は、現時点では存在しないというのが現状です。最近、新しい治療法が注目を集めていますが、本当の原因が解明されなければ、いかなる治療法でもバセドウ病を確実に治すことはできません。
約80年前からバセドウ病の治療法は、抗甲状腺薬、放射性ヨウ素内用治療、手術の3つのみで新しい治療法は出てきていません。わたしがこのように言うと、分子生物学(遺伝子)の利用、AI(人工知能)の利用などの進歩があるではないかとおっしゃる方もいるでしょう。しかし、バセドウ病の治療に関すると大きな変革(ブレイクスルー)は起こっていないと思います。
愚痴ばかり言っていると、どこかの国の野党議員のようになりますので、話を現実に戻します。いくら嘆いてみても、毎日、バセドウ病の患者さんは当院を訪れてきます。現時点で、多くの甲状腺専門医が行っている治療法とは何かを紹介したいと思います。
まず、バセドウ病の治療法に関して、ここ30〜40年の流れをみてみましょう。30年前、日本、ヨーロッパでは9割は抗甲状腺薬が第1選択肢で、放射性ヨウ素内用治療や手術は少数派でした。それに反して、米国では7〜8割は放射性ヨウ素内用治療で抗甲状腺薬や手術は少数派でした。
2024年、バセドウ病治療法の変化について重要な論文 〈1〉が発表されました。それによると、日本とヨーロッパではバセドウ病治療法の割合は30年前と比べてほとんど変わっていませんが、米国では劇的に治療法が変わりました。具体的に言えば、抗甲状腺薬が8〜9割と日本やヨーロッパ並になり、放射性ヨウ素内用治療が1〜2割に激減しました。チェルノブイリや福島原発事故の影響があったかもしれません。米国では、手術は以前から少数です。これは、米国の医療訴訟の多さと関連しているのかもしれません。
以上の結果を踏まえますと、世界の趨勢では抗甲状腺薬が揺るぎない第1選択肢です。さらに、抗甲状腺薬治療では少量長期投与 〈2〉が好まれてきています。また、長期投与は寛解率が高いというのが常識になってきています。甲状腺ニュースで紹介しましたメルカゾール超少量投与量まで減量して中止すると寛解率が高いという報告 〈3〉が最近、本邦から発表されました。
手術(メスで切除する)や放射性ヨウ素内用治療(放射線で甲状腺を縮小させる)は甲状腺を傷つける治療法です。しかし、抗甲状腺薬は甲状腺自体には傷をつけません。したがって、抗甲状腺薬が甲状腺にとっては一番優しい治療法ということです。長期間あるいは生涯にわたるメルカゾール長期治療法は、降圧薬やスタチン(高コレストロール血症のクスリ)など生活習慣病の治療に似ています。何が言いたいかというと「気長に病気とうまく付き合っていきましょう」ということです。
バセドウ病治療の現地点は何か? 答えは、メルカゾール長期治療ということになります。今後どのように変化していくかわかりませんが、バセドウ病の原因が解明され、治癒を目標とした治療法が行われる時代が来ることを期待して止みません。それまでは、最善の治療を行っていきたいと思います。
次回はバセドウ病の治療法として、安全でよく効く薬物としてのヨウ化カリウムについてお話したいと思います。
文責:田尻淳一
以下の文献を参考にしました。
〈1〉A 2023 International Survey of Clinical Practice Patterns in the Management of Graves Disease: A Decade of Change. JCEM 109: 2956-2966, 2024
〈2〉Approach to the Patient Considering Long-term Antithyroid Drug Therapy for Graves’ Disease. JCEM 109: e1881-e1888, 2024
〈3〉Impact of Minimal Dose Strategy Before Antithyroid Drug Discontinuation on Relapse Risk in Graves’ Disease. JCEM 111: e368-e374, 2026

