セレンと甲状腺について
セレンという微量元素はご存知ですか? 今回は、セレンと甲状腺の関係についてお話したいと思います。
セレンは、強い抗酸化作用(体内や細胞を「サビ」つかせ、老化や病気(がん、動脈硬化など)の原因となる「活性酸素」の発生や働きを抑える作用)により老化や病気を防ぐ、必須の微量元素です。セレンは、魚介類(まぐろ、いわし、たらこなど)、ナッツ類、全粒粉、玄米、ネギ、鶏肉などに豊富で、特に魚介類に多く含まれています。日本人では、1日摂取目安量は成人で約25〜30μgです(海外では、50〜75μgと記載されています)。日本人の食事の場合、魚介類を多く摂っているのでセレン不足は起こりにくいと言われています。
ここから本日の本題に入ります。まず、「脳の霧」でお話した基本的なことを思い出してください。「脱ヨード酵素」は、T4からT3へ変換して活性型甲状腺ホルモンのT3の産生に必要な酵素です。セレンは、この脱ヨード酵素の構造に必須な微量元素です。
この考えに従うと、セレンが不足すると組織のT3量が減って、甲状腺機能低下症に陥る可能性があります。加えて、セレンが不足すると橋本病発症のリスクが増えることが報告されています。さらに、セレン補給によって甲状腺機能の改善、抗TPO抗体の低下、マロンジアルデヒド(MDA: 主に脂質の過酸化反応によって生成されるアルデヒド化合物であり、酸化ストレスの指標です)の低下がみられます。その根拠は、これからお話するメタアナリシスの結果です。
上記の根拠となるメタアナリシスによると、セレンの補給により甲状腺機能の改善、抗TPO抗体の低下、マロンジアルデヒドの低下がみられると結論付けられました。多くの研究で投与されたセレンの1日補給量は200μgで、いくつかの研究では60〜80μgでした。すなわち、橋本病患者さんにとってセレンは大切な微量元素ということです。
ここで重要なことは、セレン欠乏を診断するには血清セレン濃度を測ることです。セレンは保険適応で測定することが認められています。しかし、セレンが測れる対象は、1) 長期の静脈栄養(高カロリー輸液)管理を受けている患者、2) 長期の成分栄養剤を用いた経腸栄養管理を受けている患者、3) 人工乳若しくは特殊治療用ミルクを使用している小児患者、4) 重症心身障害児(者)のみで、セレンを保険診療で測定するハードルは大変高いのです。従って、橋本病の方に対してセレンを調べることができません。保険点数は144点ですから、1440円になります。どうしてもセレンを調べて欲しい場合は、自費になります。
セレンはサプリで販売されています。わたしがインターネットで調べたところでは、NOW Food, セレン, 100μgが適切と思います。値段もお手頃です(100錠 825円、 250錠 1861円)。1日1錠を服用しますので、1日約8円という安さです。大変経済的ですね。
今日からでも、すぐにできることはセレンの多く含まれた食事を積極的に摂取することでしょう。具体的には、魚介類(まぐろ、いわし、たらこなど)、ナッツ類、全粒粉、玄米、ネギ、鶏肉など、特に魚介類ですね。将来的には、セレンと橋本病の関連性が確実に証明されて、セレンの測定が保険収載に加えられることを期待しましょう。
文責:田尻淳一
以下の論文を参考にしました。
Selenium Supplementation in Patients with Hashimoto Thyroiditis: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials. Thyroid 34: 295-313, 2024

