抗甲状腺薬中止時の最小維持量は少ないほど寛解率が高い

本邦では従来から、抗甲状腺薬治療はバセドウ病の治療法として第一選択肢です。さらに、長期間の少量維持量治療の有用性も認められてきています。しかし、抗甲状腺薬中止時の最小維持量については議論の余地があります。

バセドウ病で薬物治療を開始するのは、副作用に注意すれば、それほど難しいことではありません。しかし、我々医師は薬物治療を中止する場合、頭を悩まします。今回は、メルカゾールを中止する場合についてお話します。

日本甲状腺学会編の『バセドウ病治療のガイドライン2019』によると「メルカゾール1錠隔日(2.5mg/日)投与で、6ヶ月以上甲状腺機能が正常な場合には、休薬を検討してもよい」と記載されています。このルールを守っても、中止2年後の寛解率は50-60%です。

もっと少ない最小維持量(メルカゾール2.5mg/日未満)でメルカゾールを中止した場合、寛解率が改善するかどうかという疑問が湧いてきます。この疑問に対して答えを出した研究が発表されました。甲状腺専門病院として有名な神戸の隈病院から出された研究が、米国内分泌学会から出版されている臨床内分泌代謝雑誌(JCEM)に掲載されました(Impact of Minimal Dose Strategy Before Antithyroid Drug Discontinuation on Relapse Risk in Graves’ Disease. JCEM AOP 2025 )。

2008年から2024年の間に新たにバセドウ病と診断され、メルカゾールを開始して中止できた患者は5081人でした。妊娠、放射性ヨウ素内用治療や手術、中止後1年未満の追跡期間、最小維持量の投与期間が3ヶ月未満の合計729人は除外した。メルカゾール1日2.5mg以下の最小維持量を投与された後にMMIを中止した4352人を対象としました。

患者は、メルカゾール中止前の最小維持用量に基づき、4つのグループに分類されました。2.5mg/日(3523人)、1.25mg/日超 2.5mg/日未満(526人)、1.25mg/日(227人)、1.25mg/日未満(76人)。2.5mg/日未満の用量を服用していた患者は、メルカゾール2.5mg錠を1日おきもしくは週2〜3錠で服用しました。日本では、メルカゾール2.5mg錠を入手できますが、アメリカではメルカゾール2.5mg錠を入手できません。

4つのグループにおける1年後の再発率は、維持用量2.5mg/日では13.8%、1.25mg/日超 2.5mg/日未満では13.1%、1.25mg/日では7.1%、1.25mg未満のグループでは2.6%でした。中止時の最小維持量が少ないほど、再発率が低いこと(寛解率が高い)が分かりました。

1.25mg/日群では85.5%がメルカゾール中止時のTSH受容体抗体(TRAb:バセドウ病の原因物質と考えられている)力価が検出限界以下であったのに対し、1.25mg/日未満および1.25mg/日超~2.5mg/日未満の群では約55%、2.5mg/日群では45.8%でした。これは、メルカゾール中止時のTRAb値は再発の予測には有用ではないという従来からの結果を支持するものです。

年齢、性別、甲状腺の容積、喫煙状況、メルカゾール治療の総期間、維持用量の期間、中止時のTRAb力価などの要因を調整した後も、結果は変わりませんでした。

最後に、著者らは「中止前のメルカゾールの最小投与量が少ないほど、再発率が低い」と結論付けています。この研究は、日常臨床において大変重要で貴重な意味を持っています。なぜなら、この方法を実践することで患者さんは大いに利益を得るからです。

次回は、当院で10年前から実践しているメルカゾール少量維持量(メルカゾール約0.7mg/日)での中止法について説明します。

文責:田尻淳一