「アブレーション」についての簡単な説明

「アブレーション」という聞き慣れない治療法についてお話しします。
この話題は、甲状腺がんの治療を受ける人やその患者さんの家族の方を対象としてお話ししたいと思います。

まず、はじめにサイログロブリンについて説明しましょう。サイログロブリンは、甲状腺で作られるタンパクです。甲状腺がんでもサイログロブリンは作られます。すなわち、サイログロブリンは正常甲状腺と甲状腺がんでのみ作られるということを覚えておいてください。

甲状腺がんの手術には甲状腺を全部切り取る甲状腺全摘術という治療法があります。しかし、甲状腺全摘術といっても実は甲状腺組織を本当に全部切り取ってしまうわけではないのです。気管に付着した正常甲状腺組織を無理に取ろうとすると気管を傷つけることがあります。すなわち、甲状腺全摘術後でもほんの少しだけ正常甲状腺組織は残ります。このほんの少し残った正常甲状腺組織が甲状腺がん再発の早期発見にとって妨げになります。その理由を説明するためにサイログロブリンに話を戻しましょう。

最初にお話ましましたようにサイログロブリンは正常甲状腺と甲状腺がんでのみ作られます。もし、甲状腺がんが再発したら、血中サイログロブリンが増えるわけです。しかし、正常甲状腺組織が残っていれば、そのサイログロブリンは甲状腺がんが作っているのか正常甲状腺が作っているのか分かりません。ですから、少し残った正常甲状腺組織を完全になくしてしまえば、正常甲状腺組織からサイログロブリンは作ることができまません。したがって、サイログロブリンは甲状腺がん再発を早期発見できる腫瘍マーカーになるわけです。

少し残った甲状腺組織を完全になくしてしまう方法が、放射性ヨードによる「アブレーション」です。放射性ヨードは小さなカプセルです。このカプセルを服用すると、腸から吸収された放射性ヨードが少し残った甲状腺組織に取り込まれます。すると、放射線によって甲状腺組織が完全に消失してしまいます。すなわち、正常甲状腺組織から出てくるサイログロブリンは血液中では検出できなくなります。もし、血液中のサイログロブリンが検出されるようになった場合、体のどこかに甲状腺がんが再発したことを意味します。どこに再発したかは、放射性ヨードによる全身シンチを行えば、診断ができます。すなわち、甲状腺がん再発の早期発見、早期治療が可能になります。

将来、甲状腺がんの再発や遠隔転移(肺や骨に転移すること)を起こす危険性が少しだけ高い人にこのアブレーションをお勧めしています。この治療を行うことで、がんの再発や遠隔転移を早期に発見できます。

実際の治療は、甲状腺ホルモン剤を2〜4週間中止して(当院では2週間中止)、外来で放射性ヨードのカプセルを飲むだけの簡単なものです。入院の必要もありません。また、治療のために海草などのヨードを含んだ食べ物を1週間だけ控えてもらいます。甲状腺ホルモン剤を2週間中止しても甲状腺機能低下症の症状はほとんど出ませんので、ご安心ください。カプセルを飲んで2〜3日後に来院していただき、全身シンチを撮影します。この検査で、どれくらい甲状腺が残っているか、肺や骨に転移していないかどうかなどが分かります。もちろんアブレーションによって残った甲状腺組織は消失します。甲状腺組織が消失するのに通常6〜12ヶ月を要します。甲状腺組織がなくなったことを確認するために6〜12ヶ月後に甲状腺ホルモン剤を2週間中止して、全身シンチ検査を行います。シンチで転移が見つかれば、入院して放射性ヨード治療を行います。リンパ節転移などは手術で治すことができます。

アブレーションは、あなたにとって利益にかなった治療法かもしれません。アブレーションの必要性があるかないかについては主治医の先生に詳しくお聞きになってください。