「脳の霧」に対する当院の治療成績について

今回は、「脳の霧」に対する当院での治療成績についてお話します。「脳の霧」を訴える甲状腺機能低下症の患者さんがどの程度いるのか? また、「脳の霧」に対してT3+T4併用療法がどの程度効果があるのか? 今回の報告は、「脳の霧」で苦しんでいる患者さんのお役に立ちたい一心で当院職員一丸となって、取り組んだ結果です。

まず、毎日訪れる甲状腺機能低下症で1日チラーヂンS 50μg以上を服用している患者さん全員に「脳の霧」について説明したパンフレットをお渡しして、「脳の霧」の症状があるかどうか問うことから始めました。2024年2月から約6ヶ月間に、パンフレットをお渡した患者さんは4805名でした。そのうち、366名が「脳の霧」を訴えていました。チラーヂンSを服用している患者さんの約8%が「脳の霧」を自覚していたことになります。海外の報告では「脳の霧」の頻度は10〜15%ですので、本邦の頻度は若干少なめでした。「脳の霧」を自覚していてT3+T4併用療法に同意していただいた患者さんに治療を開始しました。ただし、明らかな心臓病、妊婦、小児はこの治療から除外しました。

実際の治療は、現在服用しているチラーヂンSの量に見合ったT3+T4併用療法を行いました(詳細な計算方法は省略)。3ヶ月間、T3+T4併用療法を行って治療効果を判定しました。当初は、患者さんから症状の改善を聞いて効果を判定していましたが、最後の2ヶ月間はPOMS2という質問形式で判定を行い、より客観性のある結果を得ることができました。治療を完了できた361名を対象に効果判定を行い、治療成績を出しました。

症状の改善を聞く問診のみでの効果判定は、有効(57%, 205/361名)、無効(34%, 124/361名)、どちらか分からない(9%, 32/361名)でした。POMS2という質問形式で判定を行った効果判定では、怒り(敵意)、混乱(当惑)、抑うつ(落ち込み)、疲労(無気力)、緊張(不安)の全ての項目で明らかな改善が認められました。また、気分障害総合スコア(個人のネガティブな気分状態を総合的に表す指標で、高いほど気分障害が強い:60以上は気分障害が強いと判定)は、治療前:気分障害強い症例54%が、治療後:気分障害強い症例12%に激減しました。気分障害強い症例に限ると有効率は、約78%です。

患者さんの訴えによる主観的な判定より、客観的な質問形式による判定の方が、有効率が高かったことは興味深い結果です。

チラーヂンSを服用しているにもかかわらず、「脳の霧」を訴える甲状腺機能低下症の患者さんに対するT3+T4併用療法は、非常に有効な治療法であると考えます。

T3+T4併用療法が無効であった症例は、「脳の霧」ではなく別の原因があったと想像されます。貧血、ビタミンD不足症、更年期障害、軽度のうつ病などが考えられますので、そちらの治療を行うようにお勧めしようと思います。

チラーヂンSを服用しているにもかかわらず、「脳の霧」を訴える甲状腺機能低下症の患者さんに対するT3+T4併用療法は、日本甲状腺学会の臨床重要課題に取り上げられましたので、今後はもっと詳細に研究されることを望んでやみません

文責:田尻淳一

われわれは、以下の学会で発表しました。

第98回日本内分泌学会学術総会[千葉]2025年

「脳の霧」を訴える甲状腺機能低下症患者に対するT3+T4併用療法の治療成績:361例の検討  

濵田勝彦、丸田 哲史、溝上 哲也、東 輝一朗、田尻 淳一

第68回日本甲状腺学会学術集会[福島]2025年

「脳の霧」症状を訴える甲状腺機能低下症患者に対するT3+T4併用療法の効果: 気分状態を評価する検査POMS2による検討  

濵田勝彦、丸田 哲史、溝上 哲也、東 輝一朗、田尻 淳一