メルカゾール最小維持量(約0.7mg/日)で中止する治療法:当院の取り組みについて
前回は、「中止前のメルカゾールの最小投与量が少ないほど、再発率が低い」という内容の文献を紹介しました。今回は、当院で10年前から実践しているメルカゾール少量維持量(メルカゾール約0.7mg/日)での中止法についてお話します。
当院での研究結果は、第67回日本甲状腺学会学術集会(2024年)で、「メルカゾール5mg/週で休薬した場合の寛解率と寛解予測因子の検討」というタイトルで発表されました。2017年1月〜2019年12月の3年間にメルカゾール5mg/週(メルカゾール約0.7mg/日)を6ヶ月以上内服し、甲状腺機能正常を確認後に休薬(中止)した313例を対象としました。
メルカゾール中止1年後と2年後の寛解率は、80%(225人/281人、受診しなくなった32人を除外)、72%(184人/257人、受診しなくなった56人を除外)でした。寛解率を議論する場合、最低、2年後まで経過観察することが望ましいと考えます。
メルカゾール中止時のTSHとTSH受容体抗体(TRAb)が寛解と関連していました。具体的には、TSH<1.0かつTRAb 1.0≦では休薬2年後の寛解率が50%と低く、1.0≦TSHかつTRAb<1.0では寛解率が82%と高かった。治療開始前の諸々のデータは、再発例と寛解例で差はありませんでした。
そもそも、メルカゾール約0.7mg/日という極少量の投与量が本当に効いているのかという疑問は多くの臨床医が感じていた疑問です。我々もその点につき、若干気になっていました。そこで、今回の発表では、メルカゾール約0.7mg/日を6ヶ月間服用して甲状腺機能が正常であることを確認して中止する方法の再発例を詳しく検討しました。再発例73例中21例(29%)は、中止1ヶ月以内に再発していることがわかりました。
この再発パターンをみると、メルカゾール 5mg/週(メルカゾール約0.7mg/日)は実際に効いていたと考えられます。また、中止直後の再発は、再発というよりはまだ寛解していない症例と考えられ、メルカゾール 5mg/週(メルカゾール約0.7mg/日)中止法は、まだ寛解していない症例を検知する良い方法である可能性があります。
メルカゾール少量維持量(メルカゾール 約0.7mg/日)中止法の利点は、以下の2つです。
- メルカゾールを徐々に減量していく過程で、まだ寛解していない症例を判別できることです。その場合は、メルカゾールを増量するわけです。この時点で、クスリで治りにくいことを患者さんに説明して、薬物以外の治療法について相談、検討しても良いでしょう。
- メルカゾール中止1ヶ月以内に再発した場合は、時期的にメルカゾールの再投与にはならないので、治療を再開したとしても副作用の心配はなく、今まで通りメルカゾールを3ヶ月分処方できることです。患者さん、特に遠方の患者さんはメルカゾール開始時または再投与時の副作用チェックのために頻回に来院を要すため、時間的かつ経済的な負担が大きくなるのです。
現時点でのバセドウ病治療に対する治療法についての捉え方は、手術や放射性ヨウ素内用治療は甲状腺を痛めつける(メスで切除することや放射性ヨウ素で甲状腺を縮小する)治療であるのに対し、抗甲状腺薬は甲状腺を全く痛めつけない治療法であることより、抗甲状腺薬が治療の第1選択肢に最も適しているというものです。さらに、抗甲状腺薬の長期投与治療法の有用性も認識されてきています(長期間投与することで寛解率が高くなるという証拠が報告されています)。
このように時代が変わるにつれて、バセドウ病の治療法の考え方も変化してきています。将来は、バセドウ病の原因が分かり、原因治療ができる時代が訪れることを期待して待ちましょう。それまでは、今できる治療法を工夫して改良していくことが重要と考えます。
文責:田尻淳一