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ハンバーガー甲状腺中毒症
田尻淳一 田尻クリニック 熊本

カナダ医師会雑誌(CMAJ)の最新号に、ハンバーガー甲状腺中毒症<注釈:ハンバーガーの中に牛の甲状腺が混入したために起こる甲状腺中毒症のこと>を11年間に5回起こした症例が報告されました(CMAJ 2003; 169: 415-7)。1984年と1985年、アメリカのミネソタ州、サウス・ダコタ州、アイオワ州でハンバーガーの中に牛の甲状腺が混入したために甲状腺中毒症の集団発生が起こりました。この集団発生についての報告は、ニューイングランド医学雑誌(NEJM 1987; 316: 993-998)と米国医学雑誌(Am J Med 1988; 84: 10-18)に掲載されました。この集団発生後、牛や豚を屠殺する屠殺場では首の部分を市場に出すことが禁止されました。首には甲状腺があるために、その肉を使用したハンバーガーを食すると、俗に言うハンバーガー甲状腺中毒症になるからです<注釈:甲状腺中毒症とは甲状腺ホルモンは高いが、甲状腺で甲状腺ホルモンを過剰に作っているわけではなく、甲状腺ホルモンを服用しているとか、甲状腺炎で甲状腺組織が破壊されて甲状腺ホルモンが漏れ出て、甲状腺ホルモンが高いような場合をいいます。甲状腺機能亢進症は、厳密にいえば、甲状腺で甲状腺ホルモンを過剰に作っている状態で代表的なものはバセドウ病です。甲状腺機能亢進症と甲状腺中毒症を分けて使うこともありますが、最近は甲状腺ホルモンが高いときは、原因の如何にかかわらず甲状腺機能亢進症と呼ばれることもあります>。

今回の報告を読みますと、61才の女性が11年間に5回、甲状腺機能亢進症を起こし、すべて2〜3ヶ月で自然に甲状腺機能亢進症は治っています。1990年、1996年、1998年に甲状腺自己抗体を調べていますが、陰性でした。1990年、1993年、1996年に放射性ヨード摂取率を行い、低値でした。1998年に、血沈正常、血清サイログロブリン(Tg)低値が判明しました。【図】に示していますように、甲状腺機能亢進症があり、血清サイログロブリン(Tg)低値を示すのは、甲状腺ホルモン剤によるTSH抑制療法中、甲状腺ホルモンの隠れ飲み(痩せるために甲状腺ホルモン剤を隠れ飲みする人がいます)、ハンバーガー甲状腺中毒症です。最近、話題になった中国のやせクスリを飲んでいても、同じように甲状腺機能亢進症があり、血清サイログロブリン低値を示します。外から甲状腺ホルモン剤が過剰に投与されると、脳下垂体から分泌されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)が抑制され低値になります。これは、一種の生体防御反応です。それ以上、甲状腺ホルモンが高くなることを防いでいるわけです。TSHには血清サイログロブリンを増加させる作用がありますから、このような状況では血清サイログロブリン値は低値を示します。同じ放射性ヨード摂取率低値を示す甲状腺炎などは、甲状腺組織が破壊されて血中甲状腺ホルモンが高くなっているため、血中サイログロブリンも血液中に漏れ出るために正常か高くなります。ここが、外から甲状腺ホルモン剤が過剰に入ったときとの大きな違いです。ですから、甲状腺機能亢進症で血清サイログロブリン値を測定することは重要な意味を持っています。

話を今回の女性のことに戻しますと、彼女は4回目までは無痛性甲状腺炎と診断されていました。5回目のエピソード時に血清サイログロブリンが低値であることが分かり、甲状腺ホルモン剤を服用していないかどうかを詳しく問診されています。甲状腺ホルモン剤の隠れ飲み、中国のやせクスリなどについて聞きましたが、そのようなものは服用していませんでした。食生活について、もう少し詳しく聞かれました。すると、彼女は夫と一緒に農場で暮らしていて、2年ごとに彼らが飼っている牧場の牛を一頭屠殺して、それを彼らの食用としていたことが分かりました。夫婦の牛を屠殺していた人に聞いたところ、彼は牛の首の部分を食用にすることは禁止されていることについて無関心で、その部分を夫婦に渡していた。彼女は、首の部分はハンバーガー用に使っていた。
特に、屠殺してから2ヶ月以内に食していた。彼女の夫は、甲状腺機能亢進症にはならなかった。彼は、ハンバーガーは食べないで、別の部分の肉を食べていた。時期的に、肉に含まれた甲状腺ホルモンは分析できなかったが、2年ごとに牛を屠殺した後にハンバーガーを食べたころと甲状腺中毒症を起こした時期が一致するため、彼女の5回の甲状腺中毒症はハンバーガーによるものと考えられました。

日本では、牛の首の部分は廃棄しますので、このようなハンバーガー甲状腺中毒症を起こすことはありません。海の向こうの話です。それも、個人的に屠殺していたために起こったことです。ちゃんとした畜産業者なら、適切な処理をしているわけですから外国から輸入した牛肉でもハンバーガー甲状腺中毒症を起こす心配はないと思います。

今回は、ハンバーガーで甲状腺中毒症になったことが過去にアメリカで起こったことがあり、最近、カナダで報告されたことを紹介しました。いろんなことがあるんですね。

. Dr.Tajiri's comment . .
. もうすっかり忘れかけていたハンバーガー甲状腺中毒症が報告されていましたので、紹介しました。1980年代後半には一時期、話題になりました。しかし、牛や豚の首の部分を食用にすることが禁じられてから、この病気は忘れ去られていました。世界は広いもので、今でもこのようなことが起こるのですね。 .
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