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主治医が、あなたにまだ話していないかもしれないバセドウ病についての説明:10項目
メアリー・ショーモン

. Dr.Tajiri's comment . .
. わたしの意見を<注釈>として書き加えています。 .
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[1]
バセドウ病自己免疫疾患である。バセドウ病患者において、免疫機構はTSHレセプター(受容体)として知られている蛋白に対する甲状腺自己抗体を作り出す。TSHレセプター(受容体)は、甲状腺濾胞細胞、眼筋細胞、皮膚の真皮細胞の表面に存在する。

[2]
TSHレセプター(受容体)抗体(TBII またはTRAb)や甲状腺刺激抗体(TSAb)として知られている抗体は、バセドウ病、バセドウ病眼症前脛骨粘液水腫と呼ばれる皮膚病変の原因である<注釈:バセドウ病以外は医学的に証明されているわけではない>。バセドウ病では、甲状腺刺激抗体(TSAb)は甲状腺細胞に存在するTSHレセプター(受容体)に結合して、脳下垂体から分泌されるTSHの代わりに甲状腺細胞を刺激する。この刺激により甲状腺ホルモンが過剰に作られ、血液の甲状腺ホルモン値も高くなり、甲状腺機能亢進症の症状が出現する。甲状腺刺激抗体(TSAb)は、バセドウ病の診断に使われる。ジョセフ・フィッシャー医師は最近の論文の中で(South Med J 95(5): 493-505, 2002)、放射性ヨード摂取率はバセドウ病の診断には最早、不必要であると述べている<注釈:ジョセフ・フィッシャーが書いた論文を実際に読みましたが、実際の記載は「放射性ヨード治療を計画している場合か無痛性甲状腺炎を疑うとき以外、放射性ヨード摂取率試験は必要ない」というものです。加えて、「甲状腺刺激抗体(TSAb)やTSHレセプター抗体(TBII またはTRAb)が放射性ヨード摂取率より優れているという点に関しては、今も結論が出ていない」と書いている。メアリー・ショーモンは真実を伝えていない。放射性ヨード摂取率はバセドウ病の診断に使われる検査のうちで、今でも最も信頼のおけるものです。アメリカでは、甲状腺刺激抗体(TSAb)、TSHレセプター抗体(TBII またはTRAb)の費用は150〜225ドル(現時点のレートで18,000〜27,000円)と高価です。
日本では、TSAbは3,700円、TRAbは3,400円です。3割負担で患者さんが支払うのは1,000円ちょっとです。日米の医療費の違いがよく分かります。因みに、放射性ヨード摂取率はすべてを含めても5,600円で、3割負担だと1,600円程度です。これにシンチをすると値段は数倍に跳ね上がります。機能性甲状腺結節を疑う場合を除いて、通常、バセドウ病の診断にシンチは必要ありません。基本的には放射性ヨード摂取率のみで十分です。TSAbかTRAbのどちらかを一緒に測るとバセドウ病の重症度が分かりますので、有用です>。

[3]
バセドウ病の症状は、個人差がある。たった一つの症状しかないこともあるし、いくつかの症状があることもある。主な症状は時間とともに変化することもあり、症状が悪化したり良くなったりする。特に、ストレスがかかったときには症状が悪化することがある。バセドウ病は、良くなったり悪くなったりして長い経過をたどって改善することがある。改善はときとして急激に訪れることもある<注釈:抗甲状腺薬が開発される以前は、治療法は手術だけという時代がありました。1923年にメイヨー・クリニックのプランマー医師がバセドウ病の手術前にルゴール(ヨウ化カリウム)を使用する前まで、バセドウ病手術による死亡率は80%という大変な時代がありました。このような状況だと患者も手術しないで経過をみて欲しいという人も出てくるわけです。このころ行われた有名な研究で、バセドウ病は自然経過で30%は治るという成績があります。この寛解率は、現在の抗甲状腺薬の寛解率とピタリと符合します。すなわち、バセドウ病は抗甲状腺薬で治っているのではなく、自然経過で治る人がいて、抗甲状腺薬はその間だけ甲状腺ホルモンを正常に保つだけの働きしかないという結論に達します。前置きが長くなりましたが、このようにバセドウ病には自然寛解が30%あるという事実は知っておくべきです>。

[4]
バセドウ病は遺伝的因子と環境因子により引き起こされます。バセドウ病患者は、ある環境因子に曝されたときにバセドウ病になりやすいいくつかの遺伝子を持っています<注釈:バセドウ病の原因遺伝子はみつかっていません。いくつかの遺伝子が関与していると考えられていますが、それは見つかっていません。環境因子で有名なのは、ストレスですが、ストレスとバセドウ病の因果関係は科学的に証明はされていません>。

[5]
アメリカ病理学会は、ストレスはバセドウ病を引き起こす一番重要な引き金であると発表しています。その他の引き金は、過剰ヨード摂取、女性ホルモン(エストローゲン)、例えばアスパルテーム(カロリーの低い人工甘味料)のような化学物質がある。一日150マイクログラムの余分なヨードを取ると、バセドウ病の素因を持っている人は発症しやすくなる。アメリカ人の平均的な一日ヨード摂取量は、300〜700マイクログラムであり、ファーストフードを食べると一日1,000マイクログラムを越すことがある<注釈:この記載にもかなり無理がある。ストレスとバセドウ病の因果関係については、結論は出ていない。過剰ヨード摂取についても、日本人は一日1,000〜3,000マイクログラムのヨードを摂取しているわけですから、その説からすると日本人にはバセドウ病の発症率が高くなければなりませんが、そのような事実はありません。女性ホルモンを服用中の人がバセドウ病になりやすいという事実もありません。アスパルテーム(カロリーの低い人工甘味料)については、知りませんが、少なくともその物質がバセドウ病を引き起こすという科学的根拠はないと思います>。

[6]
自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病や慢性甲状腺炎)を持っている人は、その時点で持っている抗体(刺激抗体か阻害抗体)によって甲状腺機能低下症になったり、甲状腺機能亢進症になる。通常、自己免疫性甲状腺疾患患者は、数種類の甲状腺自己抗体を持っている。甲状腺刺激抗体(TSAb)が優位なら甲状腺機能亢進症になり、阻害型抗体TSHレセプター抗体が優位なら甲状腺機能低下症になる。ほとんどのバセドウ病患者は、治療を受けることで将来、軽度もしくは顕性甲状腺機能低下症になる<注釈:アメリカでは、ほとんどが放射性ヨード治療を受ける>。バセドウ病を無治療でみていても、自然経過で20%は甲状腺機能低下症に陥る<注釈:一般的に、アメリカではバセドウ病に対して手術や放射性ヨード治療を行う場合には、甲状腺機能低下症にすることを目標とする。日本では、なるべく甲状腺機能低下症にしないで再発もしないように努力します。しかし、それでも半数は将来、甲状腺機能低下症になります。最初から甲状腺機能低下症にすることを目標にするか正常にすることを目標にするかの違いですが、誰しも甲状腺機能低下症になりたいと思う人はいないと思います>。

[7]
バセドウ病の治療は、甲状腺ホルモン値を下げることを目標としている。手術と放射性ヨード治療は甲状腺組織を減少させることによって目的を達成するが、甲状腺機能低下症になる。抗甲状腺薬や代替医療(民間医療や漢方などの西洋医学以外のものの総称)は、甲状腺ホルモンの産生を抑えたり、ヨードの吸収を阻害することで甲状腺ホルモンを下げる。さらに、抗甲状腺薬や代替医療は、免疫系を癒し、抗体産生を抑える<注釈:抗甲状腺薬の免疫系に対する効果として自己抗体産生抑制が報告されているが、本当にヒトの体の中でそのような効果が出ているかどうかは疑わしい。この記述の情報源になったエレイン・モーアが書いた『バセドウ病』という本を読んでみますと、ヨードを代替医療として扱っていました。ヨード(ヨウ化カリウム)は、現在、西洋医学で使用しているので代替医療ではないと思います。昆布は代替医療になります。これは、間違いなく効きます。その他のものとして、サプルメント(補助剤)としてのビタミン剤(ビタミンBやビタミンC)、漢方薬、薬草、指圧、鍼灸、ヨガ、ミネラルなどがある。どれだけ効果があるのかは分からないが、最近の研究から日本人の76%が過去1年間に何らかの代替医療を受けていることが分かった。アメリカでは、60%以上の医学部で代替医療を教育カリキュラムに入れている現実を考えると、医師も代替医療についてもう少し、患者の話に耳を傾ける必要がありそうである。最近のアンケート調査によると、患者が代替医療を受ける理由は、西洋医学に不満があってのことではなく、西洋医学と代替医療を併用して欲しいというのが本音のようである。医師は、代替医療を最初からインチキだと決めつけないで、患者の言い分も聞き、西洋医学と併用することも考慮すべきときが来たようである。診察室で代替医療の話題を避けることなく、患者と向き合うことから第一歩を踏み出すときであろう>。

[8]
バセドウ病の寛解は可能であり、予測も可能である。免疫系がTSAbの産生をストップしたら、寛解が訪れる。抗甲状腺薬を中止する前に、TSAb値は2%以下でなければならない<注釈:ここでいうTSAbの正常値が分からない。日本では180%未満が正常であるが、その測定値とは違うようである>。再発を起こしやすい因子として、TSAb高値、大きな甲状腺腫、喫煙が知られている<注釈:TSAbが正常になって抗甲状腺薬を中止しても、50%は再発する。この記載は、あまりにも甘すぎる。再発しやすい因子は、彼女の記載通りである>。

[9]
抗甲状腺薬を内服中のバセドウ病患者は、フリーT4とフリーT3をチェックしながら治療を行うべきである。TSHの抑制が戻るには数ヶ月かかることもあるので、TSHを測らないで甲状腺ホルモンだけみていると判断を誤ることがある。数週間で甲状腺ホルモンは正常になるが、ほとんどの患者は12〜18ヶ月で寛解状態になる。一部の患者では、緩解しているかどうか判断できないことがある。そのような場合には、少量の抗甲状腺薬を長期間服用することがある。これは、ヨーロッパでよく行われている<注釈:抗甲状腺薬を長期間服用している患者は、日本でも多いと思う。医師によっては、抗甲状腺薬を服用する前から数年服用することを要すると話すことがある。これは、間違いである。30%の人は、12〜18ヶ月で寛解するので、まずその人たちを早く選別してあげることが肝要である。抗甲状腺薬で治りにくい場合には、別の治療法について説明するべきである。そこで患者自身が治療法を選択すればいいわけである。間違っても、医師が治療法を押しつけることだけはすべきではない>。

[10]
食事や生活習慣を改善することで病気が良くなるかもしれない。研究により、食事のヨードを減らしたり、ヨードの吸収を阻害する物質を食べたり、バセドウ病を引き起こす化学物質を避けることで寛解率を上げることが分かっている。バセドウ病患者は、プロカイン(塩酸プロカイン;局所麻酔薬)<注釈:プロカインそのものが悪いわけではなく、添加している血管収縮剤が脈を速くする可能性があるので、プロカインを使用する場合には、血管収縮剤を添加していないものを使用すべきである>、抗ヒスタミン剤<注釈:かゆみ止めやアレルギーのときに使う。脈を速くする可能性がある>、エフェドリン<注釈:咳止めとして使う。脈を速くする可能性がある>を避けるべきである<注釈:確かに、ヨード摂取量の少ない国では、バセドウ病治療中にヨードを沢山取ると、抗甲状腺剤の効きが悪くなるのは事実です。しかし、日本は、世界でも一番ヨードを摂取している国です。ヨードをいくら制限しても、ヨード不足の国の人達が多目にヨードを取るより、それでも多いのです。何故かといいますと、日本の土壌にはヨードが豊富に含まれており、海草類を控えても日本で採れた野菜、果物、穀物、全てにヨードが含まれているからです。日本はヨード摂取において、世界でもユニークな国なのです。以上の事情から、日本の甲状腺専門家はバセドウ病治療中のヨード制限は指示しないことが多いと思います。外国の教科書に書いてあることを鵜呑みにして、抗甲状腺剤で治療中に海草類を食べてもいいかどうか気にする人もいますが、少なくとも日本では、普通どおりに海草を食べても差し支えありません。以前、海草を控えた人と海草を普通にとった人で抗甲状腺剤の効き方を比べてみましたが、違いはありませんでした。バセドウ病を引き起こす化学物質とは、タバコのことです。禁煙しましょうね>。

. Dr.Tajiri's comment . .
. 今回の患者情報は、ジャーナリストが書いたもので、かなり思い違いをしている箇所がありました。わたしなりに日本人向けに訂正しました。全くのでたらめではありません。特に、代替医療に関しては勉強する必要性を感じました。効く効かないの問題ではなく、患者から相談されたときに逃げるのではなく、患者の言い分も理解してあげて、できれば西洋医学と併用していく姿勢が必要だと思います。昔から病は気からという諺がありますが、患者さんの希望を叶えてあげることが、好ましい患者ム医師関係を築く上で重要なのではないでしょうか。

代替え医療については以下を参考にしてください。
甲状腺にやさしい生活を送る:毎日の健康的な選択
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