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[041]2002年9月24日
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非中毒性多結節性甲状腺腫(腺腫様甲状腺腫)に対する放射性ヨード治療とサイロキシンによるTSH抑制療法の比較:前向き二重盲検試験
田尻クリニック / 田尻淳一
非中毒性多結節性甲状腺腫(Nontoxic Multi-Nodular Goiter; NTMNG)は、日本では腺腫様甲状腺腫と呼ばれることが多い。この疾患は甲状腺に結節が多数できるが、真の意味での腫瘍ではなく、厳密には過形成である。原因は不明である。通常、甲状腺機能は正常で甲状腺腫の小さいものは治療の必要はなく、経過観察で十分である。しかし、甲状腺腫が大きい例や美容上の問題などの理由で治療が必要になることがある。一般的には、まず甲状腺ホルモン剤投与によるTSH抑制療法を試みることが多い。

オランダの研究グループは最近の米国内分泌学会誌(Wesche, MF et al. J Clin Endocrinol Metab 2001; 86: 998-1005)に、非中毒性多結節性甲状腺腫(腺腫様甲状腺腫)に対して放射性ヨード治療(29例)とサイロキシン(日本ではチラーヂンS)によるTSH抑制療法(28例)の比較を行っている。

放射性ヨード投与回数は一回である[平均24mCi(12〜90mCi)]。放射性ヨード摂取率と超音波で測定した重量から投与量を計算している。放射性ヨード治療を行って1年後、2年後に甲状腺重量を測定している。2年後には甲状腺重量が44%縮小した。しかし、45%の症例で甲状腺機能低下症に陥った。

サイロキシンによるTSH抑制療法(28例)では、2年後に甲状腺重量が1%縮小したのみであった(p<0.001)。サイロキシンによるTSH抑制療法を行った症例では、有意に骨量が減少していた。

結論として、非中毒性多結節性甲状腺腫(腺腫様甲状腺腫)に対する放射性ヨード治療は安全で、効果的な治療法であると述べている。

非中毒性多結節性甲状腺腫(Nontoxic Multi-Nodular Goiter; NTMNG)に対しては、まず甲状腺ホルモン剤投与によるTSH抑制療法を試みることが多い。しかし、高齢者や閉経後の女性には不整脈や骨粗鬆症を考慮すると、安易に試みるのは避けるべきであろう。気管を圧迫するような巨大な甲状腺腫をもった症例では、手術を必要とする場合もある。しかし、この場合も高齢者、手術を拒否する人には手術は適さない。そのような症例で、放射性ヨード治療はもう一つのオプションとして考慮しても良いようである。
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