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[023]2002年2月1日
[023]
抗甲状腺薬による無顆粒球症に対して顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は効くのか?
田尻クリニック / 田尻淳一
抗甲状腺薬による副作用のうちでも、無顆粒球症は1,000人に3〜4人と頻度は低いが最も注意を要するものです。最近、マスコミで報道されましたので、ご存じの方もおられると思います。

フランスのAndres Eらが、最近のQ J Med誌(94: 423-428, 2001)に抗甲状腺薬による無顆粒球症に対して顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF: Granulocyte-Colony-Stimulating-Factor)は効くという報告をした。無顆粒球症の定義は顆粒球が500/mm3未満としている。G-CSFを使用する基準は、顆粒球数が100/mm3未満、年令が70歳以上、細菌感染症の症状が強い場合のいずれかと決めている。抗甲状腺薬による無顆粒球症を発症した20例を対象として、10例でG-CSFを使用、10例でG-CSFを使用しないで従来の抗生物質などの治療を行った。G-CSF使用群とG-CSF未使用群を比較すると、G-CSF使用群において、無顆粒球症から回復するまでの期間(平均6.8日 対 平均11.6日)、抗生物質の使用期間(平均7.5日 対 平均12日)、入院期間(平均7.3日 対 平均13日)が有意に短縮された。

1990年に入って、遺伝子工学を利用してG-CSFが大量生産できるようになりました。G-CSFは白血球のうちでも、好中球(顆粒球)を増加させる働きをしています。元来、G-CSFはヒトの体内にあり、細菌感染を起こしたときにG-CSFが血中に出てきて好中球(顆粒球)を増加させ、細菌をやっつけるわけです。このG-CSFが、抗甲状腺薬による無顆粒球症の治療に使えるどうかの研究が、1991年頃から始められ、1993年にある程度まとまった症例数を対象とした2つの論文が出ました。ひとつはTajiriらの論文(Arch Intern Med 153: 509-514, 1993)、もう一つはTamaiらの論文(J Clin Endocrinol Metab 77: 1356-60, 1993)です。どちらにも共通しているのは、重症の無顆粒球症(例えば、顆粒球数100/mm3未満)にはG-CSFは無効であるという点です。この二つの研究では、G-CSFの使用量は75μg/日です。それに対して、今回のAndres Eらの研究ではG-CSFの使用量が300μg/日という高用量を使用している点です。抗甲状腺薬による無顆粒球症に対してG-CSFは有効であるという報告をしているアメリカから出ている論文でも、G-CSFの使用量は300〜400μg/日と同様に高用量です。この使用量の違いが、治療成績に違いが出たのかは今は不明です。

しかし、最近、Fukataらは前向きコントロール研究で、抗甲状腺薬による無顆粒球症に対してG-CSFは無効であるという報告をしている(Thyroid 9: 29-31; 1999)。彼らは100〜250μg/日のG-CSFを使用しているが、おおむね100μg/日が多い。これは、日本では抗甲状腺薬による無顆粒球症に対してG-CSFの使用が保険適応になっていないために最小量を使うからである。

今でも結論は出ていないが、抗甲状腺薬による無顆粒球症が発症したら、やはりG-CSFを使いたいのが本音です。一日でも早く無顆粒球症から回復して欲しいと願うのは患者さんも医師も同じです。
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