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[008]2002年11月1日
[008]
甲状腺機能正常にもかかわらず甲状腺機能低下症の症状がある患者にはサイロキシン治療は効かない
田尻クリニック / 田尻淳一
Pollockらは、英国医学雑誌(British Medical Journal)に「甲状腺機能正常にもかかわらず甲状腺機能低下症の症状がある患者にはサイロキシン治療は効かない」という論文を発表した(BMJ 2001; 323: 891-895)。彼らは、「最近、甲状腺機能検査ではまったく正常であるが甲状腺機能低下症の症状を持つ患者に対してサイロキシン治療が有効であるという風評がある。しかし、この事に対して偽薬を使用したコントロール研究はなされていないというのが現状である」と述べている。Pollockらの今回の研究はこの問題について、初めて行われた偽薬を使用したコントロール研究である。

結論は、「甲状腺機能正常にもかかわらず甲状腺機能低下症の症状がある患者に対してサイロキシン治療を行ったが、症状の改善はみられなかった」であった。

実は、Pollockらは4年前に甲状腺機能正常にもかかわらず甲状腺機能低下症の症状がある二人の患者に対してサイロキシン治療を行い、劇的に症状が改善した経験を持っている。この治療を行ったきっかけはSkinnerらが英国医学雑誌に掲載された「甲状腺機能正常にもかかわらず甲状腺機能低下症の症状がある患者に対してサイロキシン治療は有効である。」という論文を読んだからである(BMJ 1997; 314: 1764)。このSkinnerらの論文が地元の新聞に取り上げられ、Pollockらの病院に数人の患者がサイロキシン治療を希望して来院したというわけである。Pollockらは、このとき甲状腺機能正常にもかかわらず甲状腺機能低下症の症状がある患者にサイロキシン治療が医学的に正当性があるかどうかを検討する必要があり、偽薬を使用したコントロール研究を行うための承認を取り研究をすると結んでいる。4年間の研究で分かったことは、彼らの最初の予想と反するものであった。しかし、これが自然科学というものです。客観性と普遍性が必要です。2〜3人の患者で有効であったから、それが医学的に正当性のある治療法かどうかを研究するのにこれだけの時間がかかったわけです。

一方、今年、米国臨床内分泌医学会はTSHが正常範囲にあっても3.0mU/Lを越えている場合にはサイロキシン治療をすることが望ましいというコメントを発表した。また、1997年の英国医学雑誌にWeetmanは「甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度が0.5〜4.5mU/Lの正常範囲内であっても、高い(2mU/L以上)場合は将来甲状腺機能低下症を起こしてくるリスクが増加する。分かり易く言えば、甲状腺疾患はあまりにもありふれた病気であるため、多くの甲状腺機能低下症になりやすい人がTSH検査で正常値の中に含まれることになる。そこで、甲状腺刺激ホルモンレベルが2mU/Lを超える患者に対してサイロキシン補充を行なうべきかどうかという疑問が生じてくるのである」と述べている(BMJ 1997; 314: 1175-1178)

この分野における結論を出すには、もっと多くのコントロール研究を必要とするようである。
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