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バセドウ病 … クスリによる治療
クスリはどこでもできる簡単な治療
クスリ(抗甲状腺薬)としてはメルカゾールとチウラジール(プロパジール)の2種類があります。
最近、チウラジールによる重症肝障害や腎障害(ANCA血管炎症候群)が報告されてきたために今ではどの国でもメルカゾールが最初に使われます。どれくらいで効いてくるかはその人の甲状腺の中に入っている甲状腺ホルモンの量で決まります。
抗甲状腺薬は飲み始めるとすぐに甲状腺ホルモンが作られるのを抑えますが、甲状腺から甲状腺ホルモンが出てくる(分泌される)のは抑えられません。ですから、甲状腺の中に貯まっているホルモンが全部出てしまわないと血液の中の甲状腺ホルモンは正常になりません。
クスリの副作用はないの?
クスリの副作用で多いのはかゆみやじんま疹です(10人に1人)。この時はかゆみ止めを飲んで様子をみるかクスりを変えます(メルカゾールからチウラジール、またはその反対)。最近は、ヨウ化カリウム丸に変更することが多くなりました。ヨウ化カリウム丸がよく効けば、そのままヨウ化カリウム丸を続けます。

非常に気を付けねばならないのは白血球が減ることです。白血球が減るのは、クスリを飲み始めて2〜3ヶ月以内が多いのですが、数年経っても減ることも希にあります。また、再発してクスリを再投与する場合も同じように気をつけなければいけません。特に白血球の中でも好中球が減ります。好中球はバイキン(細菌)をやっつける働きがありますので、好中球が減りますと体中にバイキンがついて熱がでたり喉が痛くなり、知らないでクスリを飲み続けると大変危険で場合によっては命を落とすこともあります。
病院に来る度に白血球を調べると、早めに分かりひどくならないですむことが分かってきました。今では、抗甲状腺薬を服用開始2〜3ヶ月間は、白血球数と好中球数を調べることが義務づけられています。通院が大変ですが、ここをしっかりみておくことは、大切なことですので、がんばってください。また、最近は白血球を増やす良いクスリができたので心強い限りです。
しかし、診察と診察の間に白血球が減ることもありますので、クスリを飲んでいる人で熱がでたり、喉が痛くなったら、主治医にすぐ電話で連絡しなければなりません
幸いなことにこのクスリで白血球の減る人は1000人のうち3〜4人と非常に希です。

白血球の仲間たち
顆粒球 正常な状態では、白血球の約半分が好中球です。
クスリの副作用のために図のように好中球のみが減ります。
好中球=顆粒球
その他、肝障害、関節痛、胃腸障害、頭痛、めまいなどがみられます。筋肉がつることもありますが、これは副作用ではなく、ただクスリが効きすぎているだけですので、クスリを減量すると治ります。
チウラジールの副作用で注意を要するのは、ANCA血管炎症候群です。他の副作用と大きく違うところは、ほとんどの場合、服用後1年以上経って起こることです。また、チウラジールによる重症肝障害も問題になってきています。そのためにチウラジールを使うのは、メルカゾールで副作用が出たときや妊娠初期に限られてきています。
どれくらいで治るの?
通常は、クスリを飲み出して2週間から1ヶ月経って効いてきます。最初、メルカゾール1日3錠(朝1回)から始め(チウラジールなら6錠、1日2〜3回に分けて)、甲状腺ホルモンが正常になってからメルカゾール1日2錠に減らします。それから徐々に減らして最小量の隔日1錠まで減らします。その量を6ヶ月間服用して甲状腺ホルモンが正常を保っていれば、7割は治っている可能性がありますので、患者さんの同意が得られれば、クスリを中止して、経過をみます。
クスリを一生飲みましょうと言っているわけではありません。一般的には、クスリで治る人は1.5〜2年間服用すれば、治ります。最近の研究でも、クスリを1.5〜2年間服用してクスリを中止できない症例は、クスリの治療では治らないことが分かってきました。ですから、クスリを飲み始めて1.5〜2年経って、クスリが中止できない人は、引き続きクスリの治療を続けるのか、別の治療(手術かアイソトープ治療)に切り替えるかを医師と相談して決めるわけです。
クスリの治療に適する場合
小児、若い人、妊婦、甲状腺の腫れが小さい人や病気の程度の軽い人はまず薬物で治療をします。また、甲状腺の腫れが大きく、病気の程度がひどくても患者さんが手術や放射性ヨード治療を受けたくない場合には薬物で治療します。
クスリを飲みだして半年経つとクスリで治り易いかどうが分かります
クスリを飲み始めて6ヶ月くらいすると、治り易いかどうかだいたい分かります。
クスリで治りにくい時には、手術や放射性ヨード治療について話しますが、本人が納得しなければそのままクスリを続けます。
治った状態になったら試しにクスリをやめてみます
現在では、服用を始めて1.5〜2年後1日おき1錠服用中で甲状腺刺激ホルモン(TSH)も含めて甲状腺ホルモンが正常なら、クスリを止めます。その時、いろいろな検査をして止めるかどうかを調べた方が良いと言う人もいますが、そんなお金のかかることはしないでクスリを止めて様子をみるのが一番いいのではないかと思います。再発すればまたクスリを飲めば良いわけです。その間、病院に行かなくても良いのですから、患者さんにとっても好都合です。 もちろん、クスリを中止するとき、TSHレセプター抗体などを参考にすることもあります。
クスリを中止できても、約半数は再発します。
クスリで治ったと思ってもバセドウ病患者の3〜4割はクスリを中止すると数ヶ月して再発します。再発した時には、原則としてクスリ以外の治療を勧めますが、この際も治療法を説明したのち、患者さんの希望を優先させます。
ちなみにわたしがクスリで治療した患者さんが再発した場合、5割弱はまた薬物治療を望み、4割が放射線治療を、1割強が手術を受けます。
しかし、最近では再発したとき、アイソトープ治療を受ける人が増えてきています。平成10年から外来でアイソトープ治療が可能になったことも一因と思います。
薬物中止後再発までの期間<154例>
棒グラフ
バセドウ病の患者さんが抗甲状腺薬を中止してどれくらい経って再発するかをみたものです。
再発した154人中57人は3ヶ月以内に再発しています。
しかし、8年後に再発する例もありますので、バセドウ病のクスリを止めて治っていると思っても安心せず、定期的に検査を受けることをお勧めします。
早めに再発に気づけばひどくなる前に治療できるわけです。
クスリで治りにくいときは、他の治療を勧めます。
他の治療法を勧めるのは、クスリの副作用が出て使えない時、クスリをしっかり飲んだにもかかわらずクスリを止めた後に再発した時、クスリをきちんと飲まない時、クスリの量が減せない時、甲状腺の腫れが大きくなる時などです。
本人が早く治りたいと希望する場合には子供や老人でなければ手術を勧めます。
平成10年6月から外来でも放射性ヨード治療ができるようになりましたので、最近は放射性ヨード治療を選択する人が増えてきています。
妊娠中もバセドウ病のクスリは安心して使えます。
棒グラフバセドウ病は若い女性に多いので、妊娠との関係がたびたび問題になります。普通の妊婦と抗甲状腺薬を服用中のバセドウ病妊婦を比べても、奇形児が生まれる頻度(約1%)は同じです。すなわち、抗甲状腺薬が奇形の原因になっているという証拠はありません。しかし、最近、メルカゾールを服用中の妊婦で、頭皮欠損などの奇形が生まれるのではないかという報告がありました。まだ、結論が出ていませんが、今のところ、妊娠を近いうちに希望している人にはチウラジールを使います。もちろん、チウラジールの副作用が出れば、メルカゾールを使っても差し支えありません。メルカゾールでコントロールされている場合、チウラジールに変更したら、副作用が出る可能性もあります。実は、副作用の方が頻度としては、ずっと高いのです。メルカゾールによる奇形は医学的に証明されていませんので、メルカゾールを継続した場合の奇形とチウラジールに変更したときの副作用についての説明を聞いて、メルカゾールを継続するか、チウラジールに変更するかを決める必要があります。最近、軽いバセドウ病やクスリで落ち着いている人には妊娠中は副作用のないヨウ化カリウムを使うことも多くなりました。難しい決断ですが、避けて通れません。医師と時間をかけてじっくり話し合うことが大切です。
バセドウ病は、妊娠の終わりには非常に落ち着いた状態になり、クスリを止められることもあります。クスリでしっかり治療していれば、元気な赤ちやんを生むことができます。産後3〜4ヶ月してバセドウ病が悪くなることもありますので注意を要します。
生まれてくる子供にバセドウ病が遺伝するのではと心配される人がいますが、この病気が遺伝することを証明した人はいません。ただ、お母さんの体質は受け継ぎますので、他のお子さんよりバセドウ病になり易いと思います。しかし、バセドウ病は治る病気ですから、あまり取り越し苦労をしないで、元気な赤ちやんを産むことを考える方がずっとよいと思います。
抗甲状腺薬はオッパイをあげても大丈夫です。
産後は赤ちやんにオッパイをあげなくてはいけませんが、クスリを飲んでよいのかどうかが気になるところです。通常は、オッパイに出にくいチウラジールを使用します。メルカゾールはオッパイに出ますが、1日4錠までなら授乳可能です
クスリを飲んでいるときでも、海草類は普通に食べても大丈夫です。
抗甲状腺薬で治療中に海草類を食べてもいいかどうか気にする人もいますが、少なくとも日本では、普通どおりに海草を食べても差し支えありません。海草を控えた人と海草を普通にとった人で抗甲状腺薬の効き方を比べてみましたが、違いはありませんでした。最近、日本の研究者が、海草を普通に取っても抗甲状腺薬の効果に違いがないことを報告しました。
ヨード摂取量の少ない国では、バセドウ病治療中にヨードを沢山取ると、抗甲状腺薬の効きが悪くなるのは事実です。しかし、日本は、世界でも一番ヨードを摂取している国です。
ヨードをいくら制限しても、ヨード不足の国の人達が多目にヨードを取るより、それでも多いのです。何故かといいますと、日本の土壌にはヨードが豊富に含まれており、海草類を控えても日本で採れた野菜、果物、穀物、全てにヨードが含まれているからです。日本はヨード摂取において、世界でもユニークな国なのです。以上の事情から、日本の甲状腺専門家はバセドウ病治療中のヨード制限は指示しないことが多いと思います。外国の教科書に書いてあることを鵜呑みにして、抗甲状腺薬で治療中に海草類を食べてもいいかどうか気にする人もいますが、少なくとも日本では、普通どおりに海草を食べても差し支えありません。
抗甲状腺薬以外のクスリ
べ一タ遮断薬 脈をゆっくりにするクスリ
動悸、手のふるえなどによく効きます。抗甲状腺薬が効いてくるまでのあいだ、症状をとるために、最初の1〜2ヶ月使います。しかし、心不全や喘息のある人には使えません。
ヨウ化カリウムまたはルゴール ヨード:海草類に多く含まれています
以前は、バセドウ病の手術前に使われることがほとんどでした。長く使っていると効かなくなる(これをエスケープ現象といいます)と考えられていた時期があり、バセドウ病の治療としては短期間使われるのみでした。しかし最近、軽いバセドウ病や副作用で抗甲状腺薬が使えない症例に対して、数ヶ月〜1年以上使用することが多くなりました。エスケープは、思ったより起こりません。ヨウ化カリウムは丸薬になっており、飲みやすく、副作用がないことが一番の長所です。使い方をうまくすれば、大変重宝なクスリです。
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