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甲状腺結節の診断と管理のためのAACE臨床ガイドライン
AACE Clinical Practice guidelines for the Diagnosis and Management of Thyroid Nodules
アメリカ臨床内分泌病専門医協会およびアメリカ内分泌学協会作成

甲状腺結節の診断と管理のためのAACE臨床ガイドライン
アメリカ臨床内分泌病専門医協会(AACE)のアメリカ甲状腺結節対策委員会とアメリカ内分泌学協会(ACE)により、甲状腺結節の診断と管理のための臨床ガイドラインが作成されました。これら臨床診療上の合意事項のガイドライン発表は、偶然にも1996年1月に開かれたAACE主催の第2回甲状腺結節啓蒙月間に行われることとなりました。
この目標とするところは、医師や一般人に甲状腺結節の診断と管理に理解と認識を深めてもらうことにあります。
このガイドラインは完全性を目ざしたものではなく、また、これを教義的なものにするつもりもありません。この非常に複雑な問題について、臨床内分泌病専門医全体の意見の一致をすべての面で得ることは困難であると思われます。意見が様々に異なったグループ間の意見の一致をはかるために委員の選出を行ないました。この対策委員会の目的は、甲状腺結節に対する明確かつ適確な最新のアプローチ法を系統立てることであります。すべての知識は流動的なものであり、変更されていくものであるため、これらのガイドラインが最終的なものである必要はありません。さらに、このガイドラインでは、甲状腺結節の診断と管理における臨床内分泌病専門医の付加価値を明確にし、重要なものとして扱っています。
Jack Baskin, Rhoda Cobin, Hossein Gharib, Lan Hay, Michael Kaplan, およびErnest Mazzaferri各先生方には、このガイドラインの作成にあたり、多大なご助力をいただきましたことに深く感謝いたします。作成のプロセス中、参加者全員が非常に鼓舞激励されました。
当対策委員会副委員長であるMichael Garcia博士におかれましては、このガイドラインを完成するにあたり、博士のあくことないお働きに関しては、別に機会を設けてそのご尽力を称える必要があるかと思います。
ガイドライン作成中に仲間としての連帯感が生まれ、このことは私個人にとって記念すべき忘れがたい経験となりました。
最後に、AACE会長Stephen F. Hodgson, M.D., F.A.C.E.には、AACE理事会全体のご支援のみならず、博士御自身からも多大なるご支援と御激励をいただきましたことに感謝の意を表したいと思います。
なお、このAACE甲状腺ガイドラインは、Knoll製薬会社の教育助成金による支援を受けて行われました。

甲状腺対策委員会
甲状腺対策委員会
委 員
  • Stanley Feld., M.D., F.A.C.E.
  • Doris G. Bartuska, M.D., F.A.C.E.
  • Yank D. Coble,Jr., M.D., F.A.C.E.
  • Stephen F. Hodgson, M.D., F.A.C.E.
  • John J. Janick, M.D., F.A.C.E.
  • H. Jack Baskin, M.D., F.A.C.E.
  • Paul S. Jellinger, M.D., F.A.C.E.
  • Rhoda H. Cobin, M.D., F.A.C.E.
  • C. Conrad Johnson, Jr., M.D., F.A.C.E.
  • Hossein Gharib, M.D., F.A.C.E.
  • Ann M. Lawremce, M.D., F.A.C.E.
  • Ph. D. Ian D. Hay, M.D., F.A.C.E.
  • Edward Paloyan, M.D., F.A.C.E.
  • Micheal M. Kaplan, M.D.
  • Pasquale J. Palumbo, M.D., F.A.C.E.
  • Ernest L. Mazzaferri, M.D.
  • Helena W. Rodbard, M.D., F.A.C.E.
  • John A. Sebel, M.D., F.A.C.E.
  • Nelson B. Watts, M.D., F.A.C.E.
  • Craig Wierum, M.D.
副委員長
  • Eugene T. Davidson, M.D., F.A.C.E.
  • Jaime Davidson, M.D., F.A.C.E.
  • Micheal Garcia, M.D., F.A.C.E.
  • Richard A. Dickey, M.D., F.A.C.E.
  • Carlos R. Hamilton, M.D., F.A.C.E.

甲状腺結節の診断と管理のためのAACE臨床ガイドライン

社会的使命
甲状腺結節は極めてありふれたもので、甲状腺に触知可能な結節を生じるリスクは、一生の間に5〜10%あります。高感度画像による研究では、女性全体の3分の1以上に1個以上の結節が見つかる可能性があるということになります。それとは対照的に、アメリカでは年間12,000症例が甲状腺癌と診断されており(全人口の0.004%)、甲状腺癌に関連した死亡例はまれであります。
どのようにすれば、まれな悪性の甲状腺結節をありふれた良性の結節と区別することができるのでしょうか。
さらに、どのようにすれば甲状腺に結節のある患者に、費用とケアの質のどちらをも十分に満足させる治療を行なうことになるのでしょうか。これらの問題は、このガイドラインの目的の中心をなすものであります。甲状腺に結節のある患者を外科的治療に関する基準で選別することには、異論があります。診断のための甲状腺切除は満足な結果になったことは決してなく、しかも費用がかかります。技術が進歩するにつれ、多くの検査や手法が甲状腺結節の診査に使えるようになりました。しかし、これらすべてのものを甲状腺結節のある患者全部に応用することは、ヘルスケアシステムにとって大変な重荷となることでもあります。ほとんどの症例ではすべての検査が必要というわけでなく、一部の患者は、ごく限られた検査しか必要としません。
AACEは、経験を積んだ臨床内分泌病専門医が甲状腺結節の治療には一番慣れており、そのほとんどが甲状腺結節診断における各テクニックをその役割に応じて適切に利用することができると信じています。このガイドラインの使用により、AACEは公衆衛生の面で患者の罹患率を減少させ、3千万人ともいわれる潜在的甲状腺結節患者のケアの費用効率を増大させたいと希望しております。

甲状腺結節の診断
病歴と身体的的検査
包括的病歴聴取と身体的検査は、各項目の中から統計学的に甲状腺癌である可能性を示す確かな手がかりを得ることができるため、極めて重要なものです。
甲状腺の触診の技術を磨くことを放棄してはなりません。経験を積んだ臨床家は、普通甲状腺腫または甲状腺結節と正常な甲状腺を区別することができるのです。この区別によって、診査の方向付けがしやすくなり、診断用のテストがいくつか不要になることがあります。甲状腺の検査に不慣れな医師は、不必要であるかもしれない高価な検査の予定を組む前に、内分泌病専門医に問い合わせることを考慮した方がよいでしょう。
病歴や身体的検査で以下のような要素があれば、良性の可能性が高いと考えられます。しかし、これらのファクターがあることにより、甲状腺癌の存在を否定することにはなりません。
  • 家族歴に橋本病または自己免疫性甲状腺疾患がある。
  • 家族歴に良性の甲状腺結節または甲状腺腫がある。
  • 甲状腺機能低下または甲状腺機能亢進の症状がある。
  • 柔らかい、滑らかな、可動性の結節である。
  • 他より目立って大きい結節がない、多結節性の結節である。
病歴や身体的検査で以下のような要素があれば、悪性の甲状腺結節の疑いが強くなります。
  • 年齢−若年者(<20歳)と高齢者(>70歳)の者では、触知できる結節がある場合は甲状腺癌である確立がもっとも高い。
  • 性別−結節が悪性である確立は、男性の方が女性の2倍である。
  • 小児期または思春期に頚部の外部放射線照射歴がある(このファクターでは、悪性でない結節性甲状腺結節の罹病率も高くなります)。
  • 固く、不正形で、可動性のない結節。
  • 頚部リンパ節腫大の存在。
  • 甲状腺癌の既往。
病歴に悪性を示唆するようなものが何もない場合でも、数は少ないのですが、それでも無視できない程の数の患者に甲状腺癌があります。このように、大抵の場合は病歴採取が、悪性を示唆するファクターの存在を見分けるのに役立ちます。診査は数値以上のものであります。甲状腺癌の診断が確定的でない場合でも、触診上の所見が甲状腺癌であることを強く示すようなケースは例外です。病歴および身体的検査の所見を軽視することなく、意思決定のプロセスや利用できる技術的診断試験の使用に関する方向付けのためのファクターとして利用することができます。

検査所見の評価
甲状腺に結節のある患者では、甲状腺機能亢進または甲状腺機能低下の有無を確かめるために、最小限、感受性の高い甲状腺刺激ホルモン(THS)アッセイを行なう必要があります。血清サイロキシンとトリヨードサイロニンレベルの測定も役立つことがあります。孤立性の結節があり、それが悪性である場合は、甲状腺機能亢進、または機能低下がある患者はごく希です。TSHの異常がはっきりすれば、甲状腺の結節が悪性である疑いは減りますが、悪性である可能性を退けるものではありません。甲状腺に結節を作る疾患では、特に血清TSHレベルが増加している場合は、血清中の抗甲状腺ペルオキシダーゼ(正式名は抗マイクロゾーム)抗体と抗サイログロブリン抗体の測定が橋本病(慢性甲状腺炎)の診断に有効です。橋本病では、甲状腺によく似たサイズと硬さの孤立性または両側性の結節があることがよくあります。しかし、橋本慢性甲状腺炎の証拠があるからといって、甲状腺癌が存在しないとは言い切れません。孤立性の甲状腺結節の評価で、初診時の血清サイログロブリンレベルは、あまり役に立たず、費用効率のよいテストではありません。サイログロブリンレベルの値は、甲状腺癌の診断がなされ、患者の甲状腺のほとんどを取り除く治療が行なわれた後に、連続的に測定することによって結果がでるものであります。
家族歴に甲状腺の髄様癌がある患者では、特異的な遺伝子テストとカルシトニン(またはカルシトニン刺激試験)レベルの測定をする必要があります。甲状腺の髄様癌、または多発性内分泌腺症(MEN II)の疑いがないものでは、孤立性の甲状腺結節のある患者のカルシトニンレベルの測定をルーチンにする必要はなく、費用効率も悪くなります。

放射性核種スキャニング
甲状腺のスキャンは、歴史的に甲状腺結節の評価の基礎となっているものです。
“hot”または自律性に機能している甲状腺結節は、甲状腺領域をスキャンにかけると、正常な甲状腺組織より多くのアイソトープが集積した結節があることが、視覚的に認められます。結節外組織もアイソトープを取り込むことができますが、抑制されている可能性があり、そのため結節のみが認められるのです。“warm”または機能的に境界のはっきりしない結節は、正常な甲状腺組織と同じように機能しています。“cold”結節は、機能低下、または機能不全のどちらかで、スキャン上では欠損として認められます。機能している全結節の約10%にみられる機能している結節では、悪性の可能性がほとんどありません。“warm”および“cold”結節は、約5〜8%のケースで悪性である可能性があります。したがって、甲状腺の核種スキャンの限界は、約10%の結節しか良性と確定されないことで、すなわち残り90%の結果は不明ということです。
甲状腺のイメージングによく利用されるアイソトープは、131-I、99m-Tc、および123-Iがあります。テクネシウムのスキャニングは、早くできて便利なのが、少数の患者では、紛らわしい結果が出る可能性があります。この欠陥は、テクネシウムで“warm”または“hot”と認識された結節の少数が、ヨードスキャニングでは機能低下を示す可能性があるということであり、テクネシウムと相性が悪いこれらの結節の中には、わずかですがヨードスキャンで悪性を示すものがあります。131-Iは、甲状腺癌のフォローアップ評価においては一番効果が高いイソトープであることがはっきりしていますが、甲状腺のルーチンなスキャンに使うと、患者の被爆量が多くなりすぎるので、やめた方がよいでしょう。123-Iでのスキャニングは、テクネシウムにある問題と131-Iの被爆量の問題を避けることができるため、推奨される方法です。
普通に使われているアイソトープによる甲状腺スキャンは、どれも結節の存在を見分けるものではなく、どちらかと言えば局所の取り込み、または機能を測るものです。初期検査として非対称性結節性甲状腺腫や、結節状または塊状をした小葉の肥大、および胸骨下にある甲状腺腫の評価を行なうことが特に有効です。2次検査では、TSHレベルの抑制がある患者に対するスキャニングが有効です。スキャニングで、自律性、または機能性の結節が明らかになる可能性があります。細い針の吸引による(FNA)生検で、細胞学的に良性であることがわかっている患者に、甲状腺ホルモンの抑制治療を考慮しているのでなければ、その後に核種イメージングを行なってもあまり意味はありません。
核種スキャンを行なってから機能性であることが確認されるような結節に、甲状腺ホルモンを投与すると、甲状腺中毒症を引き起こすことにもなりかねません。FNAで疑わしい、または診断のつかない結節に対しては、核種イメージもまた診断の助けになるでしょう。ほとんどの臨床内分泌病専門医は、長年の間、核種スキャニングを使って甲状腺結節の評価を行なっており、結果の結果の評定にも慣れていますし、その限界もよくわかっています。
確かに、甲状腺に結節を持つ患者のすべてが核種イメージングを必要とするものではありません。多くのセンターでは、スクリーニングでは結節の評価ができないため、甲状腺のFNA生検が甲状腺の核種イメージングに代わって行われるようになっています。AACEでは、医師が個々のケースに利用するにたって、甲状腺の核種スキャンが適切であるかどうか、臨床的に判断を下されるよう勧めています。

甲状腺の超音波検査
甲状腺の超音波検査は、甲状腺結節のサイズと数を確かめることに関して、最高の感度を持っていますが、その結節が良性か悪性かを判定する検査ではありません<注釈:日本では、乳頭癌が圧倒的に多いために、超音波で乳頭癌は大体、見当がつきます>。この検査の価値は、走査する人の技術と経験に大きく左右されます。超波検査が、診察を担当している内分泌病専門医によって行われる場合は、外科的介入が必要かどうかの決定を下す助けとなるような、結節のごくわずかな特徴も明らかにされるでしょうし、またFNA生検の目安としても使うことができます。
甲状腺の超音波検査を甲状腺結節のスクリーニングにルーチンに使うことは、内分泌病専門医がこの方法をFNA生検の目安に使うのでなければ、勧められません。FNA生検や、甲状腺のスキャンと超音波検査を組み合わせて使うことが有効な場合も時にはありますが、もう一つの重要な利用法は、手術をしないという決定がなされた後の結節のフォローアップです。これは、時間の経過とともに結節のサイズが増大しているのか、それとも減少しているのかを、具体的かつ鋭敏に示すものであります。結節のサイズが減少していることが明らかな場合は、外科処置の必要性は薄いのですが、結節のサイズが大きくなりつつある場合は、少なくとももう一度FNA生検を行った方がよいでしょう。最後に、超音波検査は、甲状腺癌患者の長期的フォローアップで、小さくてもそうでなくても、癌の再発を示している可能性のある離れた部位の結節を検知する上で、一番役に立つ方法と言えましょう。

甲状腺のMRIとコンピューター断層撮影
甲状腺の結節に対するMRIやコンピューター断層撮影で得るものはほとんどなく、しかも大変な費用がかかります。これらの検査は、甲状腺に結節を持つ患者の評価においては、ほぼ全員に対して全く役に立っていないのです。

FNA生検
FNA生検が完全なものとなり、一般的に使われるようになったことで、甲状腺結節の診断が大きな進歩を遂げました。今、FNA生検が、悪性の甲状腺結節か良性のものか鑑別するのにもっとも有効な方法であると信じられています。
AACEは、悪性の可能性がかなり高い場合や患者に外科的または内科的な癌の治療を行なう予定がある場合は、甲状腺の結節すべてにFNA生検を行なうことを提唱しております。AACEは、癌の疑いが極めて高い場合でもFNA生検を行なうよう勧めております。というのは、あらかじめ癌細胞のタイプがわかっていれば、外科処置のプランニングを行ないやすいからです。
この方法の有効性を明らかにするため、数シリーズのFNA生検を行い、検討が行われてきました。このガイドライン作成のため、委員会のメンバーがこの一連のFNA生検の検討を行ないました。
Mazzaferri et al.は、9,119人の患者からなる10シリーズについての報告をしています。:針生検の結果は、良性が74%、不適合または疑わしいものが22%、悪性が4%でした。
Gharib et al.は、7シリーズで合計18,183例のFNAの評価を行ないました。:結果は、良性が69%、疑わしい、または診断がつかないものが27%で、悪性のものは4%にすぎませんでした。疑わしい、または診断のつかないグループは、ほぼ同じ人数に分かれており、疑わしいグループの10〜30%は、最終的に悪性と診断されました。
複合分析により、FNA生検の感度は68〜98%(平均83%)であり、特異性は72〜100%(平均92%)であることが明らかになりました。多くのセンターでは、切除した甲状腺の内、甲状腺癌の外科的歩留まり(間違いなく甲状腺癌であったものの割合)は、約15〜45%に増加しています。したがって、これは、FNA生検の著しい進出を表わしていることになります。
FNA生検の有効性が減少する主な原因は不慣れな医師が生検を行なっているまたは経験の浅い細胞病理学者が標本の判定を行なっているためです。針の操作が下手であれば、満足な生検標本を採取できる割合は低くなり、おそらくは手術面でも不手際が起こる割合が多くなると考えられます。甲状腺に複数の孤立性結節がある場合は、一番大きい結節だけでなく、アクセスできる結節全部にFNA生検を行うべきです。内分泌病専門医は、生検を行なうにあたり、十分に訓練されており、FNA生検のデータを使って今後の方針を決めるのにもっとも適した医師であります。
経験の浅い細胞病理学者は、濾胞性病変、または疑わしい生検標本の報告の割合が非常に高くなりがちですが、これは、これらの結節が良性であると判定するだけの自信がないためであろうと思います。内分泌病専門医と細胞病理学者は、難しいケースでは互いにフィードバックできるようチームを組んで仕事をするようにしなければなりません。
もう一つの懸念は、標本中に"悪性細胞は認められない"と報告されたものが実は細胞が少なすぎるかまたは無細胞性の標本であることです。;この結果は、FNA生検標本の偽の良性判定です。このようなエラーを防ぐには、細胞病理学者は、スライド上に細胞塗抹した標本やCytospin細胞標本、または、赤血球溶解液標本に最低6から8個の細胞が存在することを含み、標本の妥当性について、適切な基準に従わなければなりません。必要な、または推奨されるスライドの数は様々ですが、普通数回の穿刺で2〜10枚のスライドが得られます。
細胞病理学者の報告には、標本の細胞数が十分であるか、それが診断に十分であるかどうかについてのコメントも入れるべきです。極小の結節以外はすべて、数箇所で吸引を行なうようにするべきです。針のゲージは22〜29ですが、結節が血管に富んでいるか、線維性かに応じて使い分けるようにします。血液で薄めすぎたり、押しつぶしてアーティファクトを作ったり、または湿式固定材料の空気乾燥を避けるよう、十分注意しなければなりません。実行できる場合は、細胞吸引を行なっている間に顕微鏡で調べれば、吸引が適切であるかどうかの情報がその場で得られるため、不満足な標本ができる率は下がることになります。

嚢胞性甲状腺結節のFNA生検
嚢胞性結節は、全甲状腺結節の10〜25%に現れ、さらに診断が難しいものです。 嚢胞での癌発生率は、充実性の結節より低いと思われます。;それでも、複合性の嚢胞性結節は悪性の可能性があります。針で穿刺することによって完全につぶれてしまうような、壁の薄い嚢胞はほとんどありません。ほとんどは、部分的に充実性となっています。最初に、粘度が極めて高いのでなければ、嚢胞液を吸引するようにします。そして、液をCystopin標本作成のため、細胞病理学者に送るようにします。嚢胞液の性質は、色や粘度に大きなばらつきがあります。液の特徴がどのようなものであっても、悪性である可能性を退けることはできません。FNA生検は、残りの結節の充実性部分でも行なうことができます。無色透明の液は、副甲状腺嚢胞があることを示唆しています。
この方法の問題点は、不満足な(無細胞性)標本の率が高いことで、一回目、またはその後の穿刺で、針を結節の周辺部に挿入することで解決できることがあります。ほとんどの内分泌病専門医は、満足な結果が得られるまで、FNA生検を繰り返して行ないます。このような例では、超音波誘導によるFNA生検が、甲状腺結節の充実性の部分を見つける一番楽な方法です。

細胞病理学的診断
適切な標本が得られた場合、甲状腺FNA生検によって、以下の良性と悪性疾患の診断を下すことができる。
  • 橋本甲状腺炎
  • コロイド結節(結節性甲状腺腫)
  • 亜急性(肉芽腫性)甲状腺炎
  • 乳頭癌
  • 濾胞癌
  • 髄様癌
  • 未分化癌
  • 悪性リンパ腫
  • 癌の甲状腺転移
中間、または疑わしいものの診断名は、以下のとおりです。
  • 乳頭癌が疑われるもの
  • 細胞性濾胞性病変または濾胞性新生物
  • ヒュルトレ細胞新生物

甲状腺結節の管理
FNA生検上で悪性甲状腺結節の結果が出たもの
悪性と認められた甲状腺結節のほとんど全部が、甲状腺切除で治療されます。
例外には、甲状腺の未分化癌、または悪性リンパ腫のある患者の一部が含まれます。
FNA生検上で良性甲状腺結節の結果が出たもの
甲状腺のFNA生検で偽陰性の結果が出る確率は低く、したがってFNA生検が良性所見の患者のほとんどは、定期的に丁寧なモニターがなされるならば、外科的治療を行なわずにフォローアップを受けることができます。診査には、念入りな期間中の病歴採取や身体的検査、適切な甲状腺機能試験、また内分泌病専門医が必要と判断した場合は、超音波検査、または再度の生検などが含まれます。実際には、内分泌病専門医の多くが、FNA生検で良性の判定が出た結節で、特に変化が見られないものでは、期間をおいた後(6〜24ヶ月)再度生検を行ないます。そして、結節が大きくなったり、疑わしい徴候が出た際にはいつでも再生検を行ないます。FNA生検で良性と判定され、安定している結節を持つ患者は、期間を定めずフォローアップを受けることができます。
AACEは、患者は外科的介入と監視の相対的リスクの十分な説明を受けた後、治療方針の意思決定には内分泌病専門医と共にあたるようにするべきであると信じています。FNA生検所見が明らかに良性であっても、不安症、または癌恐怖症の患者や結節が成長を続けている患者、または最初から結節が非常に大きい時は、外科的処置が適切な場合があります。
FNA生検所見が疑わしいか、または診断がつかないもの
一般的に、FNA生検で疑わしい結果が出た結節は、機能的に自律性であることを示していなくても、外科的に除去すべきです。FNA生検で濾胞性病変と認められたものの10〜30%が、術時の病理学的検査で悪性であることが証明される場合があります。非常に小さな濾胞性病変(1cm以下)または橋本甲状腺炎が背景にあるヒュルトレ細胞性病変の一部は、臨床的フォローアップによる管理が可能です。診断のつかない嚢胞性、または充実性FNA生検標本についてはまずFNA生検を再度行なうようにします。このような腫瘤の30〜50%は、その後の生検で細胞病理学的に特定できるからです。FNA生検を繰り返しても診断がつかない結節は、単純に臨床的観察を行なうこともできますが、それ以外の、特に大きなものは外科的に除去すべきでしょう。
もう一度繰り返しますが、臨床的判断と経験がこのような決定を下すために欠かせないものです。

自律機能性の“hot”な甲状腺結節
実際上は、自律性の甲状腺結節が悪性であることはまずありません。ただし、希ではありますが、例外も報告されています。それでも、結節が自律性を示している場合、FNA生検が必要なことはほとんどありません。中毒性の自律性甲状腺結節を持つ患者は、すべて治療の必要があります。これらの中毒性結節は、大きい傾向があり(>2.5cm)、身体的検査、およびラボ検査の所見に甲状腺中毒症の特徴が現れています。中毒性結節を持つ患者のほとんどに、放射性ヨウ素(131-I)での治療が選択されます。若年者で、大きな結節があり、その結節が実質が出血性、または嚢胞性成分である時、また、外科的治療を望む患者には甲状腺の葉摘出が適当です。医師は、これらのアプローチの相対的メリットを患者に十分説明し、できれば患者も治療方法の決定に加わるべきでしょう。
自律性結節や潜在的甲状腺機能亢進(サイロキシンとトリヨードサイロニンレベルは正常、TSH抑制)のある患者の多くは、診断がついた時点で治療しなければなりません。これらの患者は、症状があることを認めないことがありますが、高齢者では、潜在的甲状腺機能亢進が心臓に影響するため、積極的に治療を行なう必要があります。自律性甲状腺結節があり、TSHレベルの抑制が最小限に留まっている若い、健康な患者には、治療を行なわずに、無期限の臨床的モニターが可能です。それは、数は少ないのですが、このような結節は相当な割合で、嚢胞性の変性または梗塞を起こすことがあるからで、それにより潜在的甲状腺機能亢進の問題は解決されます。これらのケースでは、臨床的判断が重要となります。
TSHが正常な機能性甲状腺結節は、治療の必要はありませんが、診断はさらに難しくなります。甲状腺ホルモン剤によるTSH抑制療法時の核種イメージングは、ケースを選べば結節が機能性であるかどうかの判定に役立ちます。
甲状腺の機能状態がよくわからない場合は、FNA生検が適応になります。このような機能性の甲状腺結節を持つ患者は、フォローアップと定期的な再診査を受ける必要がありますが、その間隔は様々です。

たまたま見つかった小さい甲状腺結節
頚動脈のドップラー超音波検査、または、一般的ではありませんが、副甲状腺の超音波検査で、高齢の患者にたまたま発見される甲状腺結節は相当な数に上ります。この結果は、このグループでの甲状腺結節の罹患率を考慮すれば、驚くにはあたりません。ほとんどは、1cmかそれ以下で、一部は嚢胞性であり触知できません。かなりの頻度で、多発性結節の報告がなされています。これらの結節においては、癌の疑いを示す指標は事実上非常に低く、ほとんどの場合、追加のイメージング検査、または生検なしで、フォローアップが可能です。超音波検査で疑わしい結節(不整な外形、または大きく触知不能)では、超音波誘導によるFNA生検が適用になります。

甲状腺ホルモン剤(レボサイロキシン:日本ではチラージンS)によるTSH抑制療法
良性の甲状腺結節のある患者に対するレボサイロキシン抑制療法は、まだ論議の最中で、この治療の支持者は、結節の中にはこの療法によりサイズが減少するものがあると主張していますが、反対者は、治療の有効性を否定しています。
今までに発表された研究では、どちらの側にも根拠があり、AACEでは、個々のケースで臨床的に判断するよう勧告しています。レボサイロキシンを結節が縮小するかどうかを試す診断的目的で投与しても、手術が必要かどうかの決定における価値はほとんどなく、したがって勧められるものではありません。このような試験的投与は、FNA生検の代わりとはなりません。
これに関係の深い論争は、良性結節で甲状腺葉切除を行なった後に、甲状腺機能が正常な患者をレボサイロキシンで治療してよいかどうかというものです。
この点に関する文献は、賛否こもごもで、AACEは、内分泌病専門医が効果とリスクを検討した後に、患者と共にどうするかを決めるようにするべきであると信じています。
レボサイロキシンによる治療には、リスクを伴わないわけではありません。過量投与により、心臓の不整脈や骨粗鬆症を起こす危険が伴います。高齢患者は、TSHレベルが正常値の下限である患者と同様にレボサイロキシン抑制治療の対象には不適です。レボサイロキシン治療のガイドラインは、甲状腺機能亢進症と機能低下症の評価と治療のためのAACE臨床ガイドライン中に発表されています。

妊婦と小児の甲状腺結節
妊婦に甲状腺結節が見つかった場合は、放射性核種スキャニングが禁忌である以外は、普通の患者と同じように扱います。FNA生検は妊娠中に行なうことができますが、妊娠が進んでいる場合は、分娩後に延ばすこともできます。結節が悪性である場合、妊娠中期であれば外科的除去は比較的安全に行なえますが、出産後まで処置を延期することもできます。
小児の甲状腺結節はあまりなく、成人のものに比べ悪性であることが多いようです。小児患者の甲状腺結節の診断と管理にFNA生検を使った報告が、最近2つ出ておりますが、その結果は、55%がコロイド結節で、29%が橋本甲状腺炎、そして15%が悪性でした。乳頭状甲状腺癌が一番普通に見られる悪性病変です。
FNA生検は、成人の患者に対すると同じように、小児患者にも重要な役割を持っています。明らかに、ほとんどの甲状腺結節は良性で、内科的に管理することができます。外科的介入は、細胞学診断で疑わしい、または悪性の結果が出た時にのみ、必要となります。

結 論
AACEにより提起されたこれらのガイドラインの概念は、甲状腺に結節のある患者の評価と治療に対するアプローチについて、意見の一致をみたものであるということです。
この分野は非常に複雑で、かなりの意見の相違があります。この意見の多様性は、このガイドラインを作成したAACE甲状腺結節対策委員会により反映されております。目標のひとつは、経験を積んだ臨床家による臨床的判定の重要性に重きをおくことです。臨床家による確かな判定と適切な処置を通じて、費用効率の高い管理を実現することができるのです。

参考文献]・[もどる