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甲状腺の病気シリーズ3
[078]
百渓尚子先生が作った患者さん向けのパンフレット

甲状腺の病気シリーズ3:バセドウ病の薬物治療

表紙

バセドウ病に使う薬
バセドウ病患者さんの甲状腺は、甲状腺ホルモンを過剰に産生しています。このホルモンには新陳代謝を高める働きがあるので、多すぎると心臓をはじめいろいろな臓器に負担をかけます。そこで、甲状腺ホルモンの合成を抑える薬を使います。これが「抗甲状腺薬」です。

「抗甲状腺薬」にはチアマゾール(商品名メルカゾール)と、プロピルサイオウラシル(商品名チウラジールあるいはプロパジール。どちらも同じ)の2種類があります。日本で使われることが多いのはメルカゾールです。効果がより確実で早く効くからです。なお軽いバセドウ病や、抗甲状腺薬で副作用が出た場合には、ヨード薬を使うことがあります。これらのほかに、症状を和らげる薬や、合併症の治療薬が補助的に使われることもあります。
挿し絵

薬の量と通院間隔
初めは1日3〜6錠服用し、血液中の甲状腺ホルモン濃度が正常になったら減らし、血液検査をしてどのぐらい減らしても正常が維持できるか決めていきます。最終的には1日1錠、場合によっては2日に1錠になります。

個人差はありますが、大抵は2〜3週で効き目がわかるようになり、2〜3カ月もすると甲状腺ホルモンの過剰による悪影響から解放され、すっかりよくなったような状態になります。こうなってもとれない症状があれば、それはバセドウ病以外のことが原因です。

通院の間隔は、初めの2〜3カ月は2週に1回、その後は1〜2カ月に1回、場合によっては3カ月に1回になります。最初のうち通院が2週ごとなのは、薬の効果が人によって違うので、これを見分けて薬の量を加減するという理由のほかに、3カ月までは「副作用」(前述)がでる可能性のある期間なので、それをチェックする必要があるからです。

薬を止めるタイミング
少量の薬で正常な状態が続き、甲状腺のはれも以前より小さくなって、血液中の甲状腺刺激物質(TRAbとTSAb)が陰性になったら、薬の必要がなくなった可能性があります。しかしこうなってすぐに止めると再発しやすいので、これまでの経過を参考にしながらさらに6カ月か1年して中止します。このような状態になるまでに平均2年ほどかかります。
次のような場合は比較的早く治ります。
●バセドウ病になって半年以内
●甲状腺のはれが小さいか治療しているうちに小さくなる
●甲状腺ホルモン濃度がもともとそれほど高くない
●TRAbやTSAbの値がそれほど高くない
●出産後数カ月以内の発病
薬を止めてからの通院
バセドウ病には「治った(今後再発しない)」ことを証明できる検査法が今のところまだないので、「寛解している」という言葉を使い、薬を止めたあとも検査に通うことになります。初めの1年は3〜4回の通院です。この間に問題がなければ再発の可能性が低くなるので、その後は間隔をあけていきます。

薬の副作用
抗甲状腺薬は使われ初めてから50〜60年も経っていますので、副作用はほとんどわかっています。大抵のものは3カ月以内におこりますので、その後は飲みつづけても安心です。副作用がおきても適切に対処すれば心配はいりません。副作用と注意点は以下の通りです。
A. 入院が必要な副作用
1. 細菌感染を防ぐための白血球が減って細菌感染をおこす

500人に1人ぐらいにおこる副作用で、白血球のうち、細菌感染を防ぐためになくてはならない「顆粒球」が極端に少なくなるものです。これを「無顆粒球症」といい、最も注意しなければならない副作用です。服用を始めてすぐにおこることはなく、最も早くて飲み始めて2、3週間です。扁桃腺炎がおこってみつかることが多いのですが、白血球を調べていればその前に発見できることも少なくありません。しかし急におこることもあるので、高い熱が出て、のどが痛くなったら薬をすぐ止めて、その日のうちに白血球の数を調べる必要があります。その場で調べてもらえる病院に、薬とこのパンフレットを持って受診してください。「無顆粒球症」でしたら入院治療が必要です。
白血球に異常がなかったり、逆に増えていれば、副作用によるものではありません。
2. 肝臓の機能が悪くなる
極端にだるくなったり、白目が黄色くなって、水を十分飲んでいるのに尿が濃くなった場合は、薬による肝機能異常かもしれませんので、薬を止めて一両日中に調べてください。まれな副作用ですが、入院が必要です。

3. 特殊な抗体(MPO-ANCA)と関連した血管炎
長く服用している人におこることがある、特殊な副作用です。尿検査で潜血、蛋白反応がでたり、血痰がでたら、医師に相談ください。大変まれな副作用で、チウラジールやプロパジールよりメルカゾールの方がさらにまれです。
B. 入院の必要のない副作用
1. かゆみのある発疹(じんましん)

じんましんのようなかゆみのある発疹があちこちに出るもので、薬を始めて2週間前後に多い副作用です。かゆみは薬を飲む前からある場合もありますが、そうでない場合はひとまず薬を止めて翌週に受診してください。あまりひどくなければ薬屋さんでじんましんの薬を買って飲んでみて、治るようなら抗甲状腺薬を続けて飲んでいてください。
2. 筋肉に部分的に強い痛みを感じる
体位を変えた瞬間に筋肉が部分的に強く痛む場合は、急に薬が効いてきた証拠でもありますが、早めに受診してみてください。薬の量を加減する必要があることがあります。
3. 関節痛
薬を飲んでいて関節痛が見られた場合は、ほかの原因によるものかもしれませんが、早めに受診してください。
薬をやめて、再び飲み始めた時に、前回は見られなかった副作用がでることがあります。
脱毛や胃腸障害は大変まれで、大抵はほかのことが原因です。
薬を飲み始めてから太るのは、薬が効いてきて以前よりカロリーが必要なくなったためで、副作用ではありません。
他の薬と一緒に服用しても差し支えありません。

妊娠・授乳
安全な方法がありますので、医師にご相談ください。
手術や放射性ヨード治療をする必要がある場合
次の場合には、薬による治療が向いていませんので、他の治療に変更する必要があります。
  • 抗甲状腺薬が副作用で使えない
  • きちんと服用していても甲状腺ホルモン過剰が続く
  • 長期間の通院が困難
  • 早く治したい、あるいはその必要がある
  • 甲状腺に腫瘍がある
挿し絵

(財)東京都予防医学協会
挿し絵
百渓尚子
2004.2

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