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プロピルチオウラシル(PTU)による肝障害に対する50年間にわたる経験:我々は、何を学んだか?《更に詳しい情報[053]患者さんのための分かりやすい解説》
田尻淳一 田尻クリニック 熊本

. Dr.Tajiri's comment . .
. 甲状腺専門医にとって、抗甲状腺剤の副作用は常に念頭に置く必要がある事柄です。頻度が一番多い蕁麻疹は、クスリを変更することで対応できます。蕁麻疹のような軽症の副作用なら問題ないのですが、無顆粒球症などのような重大な副作用は、頻度は低いのですが注意を要します。今まで、あまり気になっていなかった肝障害という副作用について、更に詳しい情報[053]を公開する際に読んで、これは非常に注意を要する副作用という認識を持ちました。私の経験では、そんなに重篤な肝障害を経験していなかったので、甘く見ていました。
確かに、副作用情報などで、PTU(チウラジールもしくはプロパジール)による劇症肝炎の報告は読んでいました。実際、更に詳しい情報[053]を読むと死亡率の高さに驚かされました。幸いなことに、非常に稀な副作用です。1,000人に1人くらいの頻度です。でも、このような重篤な副作用も起こりうることは、患者さん自身も知っておくべきと考え、今回公開しました。
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『プロピルチオウラシル(PTU)による肝障害に対する50年間にわたる経験:我々は、何を学んだか?』更に詳しい情報[053]の内容を分かりやすく、箇条書きにしてみます。
  1. 肝機能検査ではどの患者がPTU による肝障害を起こすか予測することはできないが、PTUを投与する前に肝機能を調べておくことは、PTUによる治療中に肝障害が出現したときにPTUを中止するかどうかを判断する助けになる。
  2. PTUによる治療中に肝障害が出現したときには、PTUは直ちに中止すると同時に、肝機能障害を引き起こす他の原因の検索も必要である。
  3. PTUを中止したにもかかわらず、肝不全が進行することがあるので、PTUによる肝障害を疑っている患者は慎重な経過観察が必要である。
  4. 早急に肝移植の必要性を判断することは、予後を決める上で重要である。
  5. PTUによる肝障害患者の甲状腺機能は、臨床症状とフリーT4値から解釈すべきである。
  6. 経口ヨード剤を投与してから即座に放射性ヨード治療を行うことは、甲状腺機能の悪化を緩和する可能性がある。
  7. PTUによる肝障害は自己免疫疫機序で起こっている可能性があるので、肝障害が回復した後でさえ、PTUは再投与すべきではない。

. Dr.Tajiri's comment . .
. 今回の公開で紹介した肝障害は、重症タイプです。実は、抗甲状腺剤治療中に軽度肝障害はよくみられます。多くは、一過性のもので自然に改善してきます。
しかし、全員が改善するわけではありません。抗甲状腺剤を投与していると悪化していく人がいます。どの時点で、抗甲状腺剤を中止するかというコンセンサスはありません。各医師が、自分の判断で行っているというのが現状です。更に詳しい情報[054]は、わたしの経験をまとめてみました。
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