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TSHレベルと診断に関するアメリカ臨床内分泌専門医会の見解の逆転

「3.0〜5.0μU/mlの間のTSHレベルは…疑わしいと考えるべきである」とアメリカ臨床内分泌専門医会(AACE)は述べている。
Mary J. Shomon
どのように甲状腺機能低下症の診断をすべきかということについて、以前の見解にかなり劇的な逆転があったが、アメリカ臨床内分泌専門医会(AACE)が2001年1月の甲状腺意識向上月間用資料でその内容を述べている。

「3.0〜5.0μU/mlの間のTSHレベルは正常範囲であっても、甲状腺の不活発化に進む恐れのあるケースであるため、疑わしいと考えるべきである」
AACE新聞発表、2001年1月18日
これは因習的なアメリカの医学組織がTSH検査値の正常範囲の上半分は実際のところ正常ではなく、甲状腺機能低下症を起こしてくる徴候、あるいは患者に甲状腺機能低下症の症状を起こすに十分なレベルであるということを初めて認めたものである。

従来の内分泌学を数十年にわたって支配してきた見解は、いわゆる「正常範囲」内にあるTSHレベルは「甲状腺機能正常状態」…または正常…であることを示すものであり、臨床症状があっても治療の必要はないというものであった。

実際には、甲状腺疾患の家族歴があるだけでなく、様々な甲状腺機能低下症の臨床症状のあるほとんどの患者が…慢性甲状腺炎を示す甲状腺自己抗体が陽性であった場合でも…内分泌専門医や他の医師からTSHレベルが「正常範囲」を超える検査値でなければ…通常4.7〜6.0μU/mlの間であるが…治療を断られている。

現に甲状腺機能低下症の症状に苦しんでいる多くの人は…甲状腺機能低下症とみなし、診断と治療を受ける資格があるのではないだろうか
AACEが認めたことは、多くの先駆的な医師の努力や患者の主張から…患者自身が疑ってきたことも含め…何年も遅れている。例えば、ほぼ4年前になるが、内科の教授であるA.P. Weetman博士がBritish Medical Journal 1997年4月19日号の『隔週論評:甲状腺機能低下症:スクリーニングと潜在性疾患』という論文の中で、次のような独創的見解を述べている。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度が0.5〜4.5mU/Lの正常範囲内であっても、高い(>2mU/L)場合は将来甲状腺機能低下症を起こしてくるリスクが増加する。分かり易く言えば、甲状腺疾患はあまりにもありふれた病気であるため、多くの甲状腺機能低下症になりやすい人がTSH検査で正常値の中に含まれることになる。そこで、甲状腺刺激ホルモンレベルが2mU/Lを超える患者に対してサイロキシン補充を行なうべきかどうかという疑問が生じてくるのである。
David Derry博士は、2000年7月に当サイトでMary Shomonにインタビューを受けたが、このように語っている。
臨床症状と何の相関関係もない検査になぜしたがっているのですか。甲状腺専門医の合意のもとで、実際は患者の具合とは無関係なのにこの検査が治療のフォローアップにいちばん有益だと定められたのです。この結果は恐ろしいものでした。この合意ができてから6年後、慢性疲労症候群や線維性筋痛が現れたのです。これはどちらも甲状腺機能低下による疾患です。しかし、これらの患者のTSHは正常なので、治療を受けることはありませんでした。このTSHの必要性は破棄し、医学生には甲状腺機能低下による状態を臨床的に見分ける方法を改めて教える必要があります。
その他の医師は甲状腺機能を評価する抗体検査の研究を行ってきた。そして、一部のケースでは自己免疫性疾患のプロセスを示す徴候である甲状腺自己抗体があり、TSHの値が正常範囲の患者の治療を行なってきた。Elizabeth Vliet, M.D.は評判のよい女性保健センターを運営しているが、女性としての立場から、またベストセラー「お願いだから聞いて:女はホルモンに関係あるのではと疑っているのに…医者は知らん振り」の著者である立場からも、TSH検査が女性の甲状腺の健康状態を示す指標だとは決して信じていない。1990年代半ばから、Vliet博士は甲状腺抗体の上昇と正常なTSH値を伴なう症状は、甲状腺ホルモン剤による治療を行なう理由となると言い続けている。ここに博士の本からの引用を載せる。
私が見出した問題は、徹底的な甲状腺の検査を行なわずに、甲状腺は正常だと言われる女性があまりにも多いということです。もちろん、ほとんどの人、そして多くの医師が気付いていないことは、検査の正常範囲ということは単に範囲というだけのことなのです。ある人にとっては、具合よく感じ、いちばんよい状態になるためにそれよりも高いレベルか、あるいは低いレベルが必要な場合があるでしょう。検査結果を患者が訴える臨床症状と合わせて見なければならないと思っています。私はTSH値が正常で、甲状腺自己抗体が明らかに陽性である患者(この患者さん達が正常だと感じるために甲状腺ホルモン剤の投与を行っています)を100人以上診ていますが、2名を除き全員女性です。このタイプの見落としは、特に甲状腺炎と呼ばれるタイプの甲状腺疾患が多いのです。この病気は男性より女性の方に約25倍多く見られます。この病気の女性にはTSHが上がってくる何ヶ月も、あるいは何年も前から症状が出ていることがあります。
1年ほど前に出版した私自身の著書である「甲状腺機能低下症とうまく付き合う:医者が言わないこと…そこのところを知っておかねば」の中に次ぎのようなことを書いた。
検査室で、現在使われている甲状腺機能の『正常』範囲を定めたTSHレベル、そして主な診断の手段としてのTSH検査の使用については、相当な見直しが必要である。TSHが0.5〜5.5 mU/Lというだけでは、甲状腺機能が『正常範囲』であるという診断のための十分な情報とはいえない。British Medical Journalに報告された研究では、2mU/Lを超えるTSHレベルは正常ではなく、その代わりに甲状腺疾患を起こしてくるリスクの高い人が含まれる可能性があることがわかった。これは本当の『正常範囲』がおそらくはもっとはるかに狭く、正常範囲の下限の方に集中するのではないかということを意味する。この問題を総合的に見て、甲状腺自己抗体を持たず、今後甲状腺疾患を起こしてくることのない人の集団に対する真の正常範囲を評価する新たな研究が必要である。

甲状腺疾患患者に対する意味
2000年2月にまったく新しいタイプの研究で、1,300万人ものアメリカ人に未診断の甲状腺疾患があるという見積もりが出た(Canaris GJ et al. Archives of Internal Medicine 160; 526: 2000)。これらの大多数は女性であり、未診断の甲状腺機能低下症に苦しんでいる。このコロラド甲状腺疾患罹患率研究は、当サイトでもそれについて詳しく書いたが、甲状腺機能低下症であると定める診断基準に使う--すなわち、これがこの研究の目的であったが…TSHの正常範囲は5.1μU/ml以下であった。TSH検査の正常範囲が3μU/mlを超えるレベルになったことで、コロラド甲状腺疾患罹患率研究によれば、1,300万人以上のアメリカ人が甲状腺機能低下症であると定められることになる可能性が出てきたのである。

TSHが3μU/mlを超えれば疑わしいというAACEの新しい基準が--HMOや保険会社も含め--広く普及し、受け入れられ、実際に使われるようになれば、その患者に対する意味は甚大なものとなる。私の甲状腺機能低下症症状のチェックリストに詳しく挙げた様々な甲状腺の症状に苦しんでいる多くの人が、やっと甲状腺機能低下症であるとみなされ、診断や治療を受けられるようになると思われる。最終的には現在未診断、未治療の甲状腺機能低下症に苦しんでいる多くの人たちの苦しみを予防できるところまで発展するであろう。

さらに、多くの内分泌専門医が、TSHレベルが正常範囲の上の方になるように下げる程度の甲状腺ホルモン補充しか行なってこなかったが、3μU/mlを超えるレベルは疑わしいということになれば、医師は用量の決め方を見直し、TSHレベルを3μU/ml未満に保つのに必要な量を与えるようになるかもしれない。最適なTSHの問題(これは一部の臨床家と多くの患者が1μU/mlから2μU/mlの間のTSHレベルであると信じているが)を当ウェブサイトで詳しく述べてきた(助けて、甲状腺機能低下症で、まだ具合がよくないんです。を参照)。そして、これはまだ多くの甲状腺疾患患者にとって深刻な問題である。

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