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甲状腺疾患健康ガイド

11:高齢者の甲状腺疾患
01 高齢者の甲状腺機能低下症の見つけ方
02 高齢者の甲状腺機能低下症の治療
03 高齢者の甲状腺機能亢進症の見つけ方
04 高齢者の甲状腺機能亢進症の治療
05 まとめ
年齢が高くなるにつれて甲状腺機能障害を起こす危険性も増してきますが、これは高齢の女性に非常に多いのです。甲状腺機能障害は臨床的になかなか見つけにくいことが多いのですが、これはその症状が加齢自体に伴って起こる変化とそっくりなことが多いからです。

甲状腺機能低下症はその主な臨床症状が、精神および身体機能の全体的低下や低体温傾向、寒さに弱い、体重増加、動脈硬化、血清脂質(コレステロール)の上昇、血圧上昇、および貧血などを含む加齢の症状と共通しているために隠されてしまうことがあります。感覚鈍磨(無関心)行動が加齢の一部であるかもしれませんが、高齢者の甲状腺機能低下症をあらわす所見であるかもしれません。甲状腺機能亢進症は、不整脈やうっ血性心不全、神経質、発汗、体重減少、筋力低下を伴う場合、やはり加齢プロセスの一部と誤解されることがあります。

高齢者の甲状腺疾患で起こる可能性がある臨床所見は、非定型的かつ非特異的ではっきりしないため、ちゃんと見つけられるかどうかは医師の側が大いに疑いを持ち、適切な検査で確認するかどうかにかかっています。しかし、甲状腺の検査の解釈には加齢自体に関連した血中甲状腺ホルモンレベルのわずかな低下についてよく知っておく必要があります。さらに、様々な薬剤やX線造影剤だけではなく、カロリー摂取量の減少や甲状腺以外の急性、慢性疾患などが同時に存在しているとやはり検査値に影響してきます。そのような病気が既存の甲状腺機能障害を隠すか、あるいは脳下垂体の甲状腺刺激ホルモン(TSH)のレベルだけでなく血液中の甲状腺ホルモン濃度[(サイロキシンT4)またはL-トリヨードサイロニン(T3)]のみせかけの増加または減少を誘発して甲状腺の検査値を変えてしまうことがあるのです。これらの合併ファクターを除外すると、若い人の通常の正常範囲を年齢に応じて少し修正するだけで、甲状腺機能低下症や機能亢進症の診断に十分使えるはずです。さらに、新しく考案された極めて感度の高い血清TSHの測定方法は高齢者の甲状腺機能障害の早期診断ができるように改良されてきました。これは先に述べたような合併ファクターが除外されている場合に特に有効です。

01 高齢者の甲状腺機能低下症の見つけ方 ↑このページのトップへ
高齢者に甲状腺機能低下症が疑われる場合、血清T4とT3取り込みアッセイ(T3U)を通常の血清TSH測定と一緒に行なわねばなりません。典型的な原発性甲状腺機能低下症では、血清T4とT3U検査値が正常より下で血清TSHが上がっています。通常の高齢者集団(60歳以上)のスクリーニングでは被験者の約15〜20%に血清TSHの上昇が見つかることは珍しくありません。また女性は男性に比べ3〜4倍リスクが高くなっています。TSHスクリーニングに引っかかった高齢者の大多数はあまり症状がなく、血清TSHレベルが10mIU/L以下です(正常範囲の上限は3.5mIU/L)。血清TSHに中等度の上昇があるそのような患者のうち、慎重に甲状腺ホルモン補充療法を試みて症状が改善されるのは50%に過ぎません。その一方で、もっと重症の人(血清TSHが大体20mIU/Lを超えている)では適切な治療を受けた後、精神的身体的機能に劇的な改善をみることが多いのです。

02 高齢者の甲状腺機能低下症の治療 ↑このページのトップへ
高齢者の甲状腺機能低下症の治療では、血清TSHがわずかに上がっているが血清T4とT3Uレベルは正常な患者は大きな甲状腺腫がなければ、すぐに治療する必要がない場合があります。心疾患のようなやっかいな病気が他にある場合も治療が保留されることがあります。一般的に、甲状腺ホルモン補充療法を行なう場合は12.5〜25マイクログラム/日のL-サイロキシン(L-T4)の低い初期量で治療を開始します。このL-T4の量は6週間毎に最大量の75〜125マイクログラム/日になるまで徐々に増やしていきます。これは神経質、発汗、暑さに弱い、体重減少、心悸亢進および胸痛のような甲状腺ホルモンの過剰投与による合併症を避けるためです。通常、L-T4は血清T4が正常範囲の中ほどで、血清TSHレベルが正常範囲の上の方にくるだけの量を投与します。しかし、高齢者では平均補充量が若い人より少なく、特に循環器系の病気がある場合は量が少なくなります。長いこと甲状腺機能低下症があり、大人になってから治療を始めた患者では、高齢になると毎日の維持量を減らす必要がある場合が多いということがはっきりわかっています。特に、TSHレベルを抑えるような量のL-T4の投与を受けている閉経後の女性は、高齢者に多い骨密度の減少(骨粗鬆症)の程度がひどくなる危険があります。

03 高齢者の甲状腺機能亢進症の見つけ方 ↑このページのトップへ
全身疾患や薬剤による干渉の可能性がなければ、TSHレベルが低い、あるいは抑制されていることは甲状腺機能亢進症を示すものです。甲状腺機能亢進症の程度を見るために血清総T4とT3Uの測定が必ず行なわれます。同様に、血清T3検査も「T3中毒症候群」として知られているごく軽いタイプの甲状腺機能亢進症を見つけるためによく行なわれます。この病気は単発性または多発性の機能が亢進している結節のある高齢者に起こることがあるのです。診察と検査で甲状腺機能亢進症の診断が確定したら、様々な原因のうちどれがその甲状腺機能亢進症を引き起こしているのかを確かめ、適切な治療選択に役立てるために放射性ヨード取り込み試験とスキャンが行なわれます。

04 高齢者の甲状腺機能亢進症の治療 ↑このページのトップへ
高齢者の甲状腺機能亢進症の原因でいちばん多いのは、甲状腺全体の活動し過ぎ(バセドウ病)か、機能し過ぎの単発性あるいは多発性甲状腺腫またはシコリ(中毒性結節性甲状腺腫)のいずれかによる甲状腺ホルモンの作りすぎです。そのような原因で起こった甲状腺機能亢進症は、最初に抗甲状腺剤(プロピルチオウラシルまたはメチマゾール)で甲状腺ホルモンの産生を止めるとうまく治療できます。また、鎮静剤やベータ・ブロッカー(神経質さや震え、発汗、頻脈を抑えるため)を、抗甲状腺剤で患者が正常に戻るまで甲状腺機能亢進症の非特異的な症状をコントロールするために注意しながら高齢者に使う場合もあります。このような薬を3ヶ月から6ヶ月使って甲状腺機能が正常になったら、通常は永久的に甲状腺の機能亢進を抑えるためにもっと確実な治療を選択します。いちばん多いのはチオナミド剤を7〜14日間中止した後放射性ヨードを投与する方法です。バセドウ病を放射性ヨードで治療した場合、しばしば甲状腺機能低下症が起こりますが、機能し過ぎの甲状腺結節に対して放射性ヨードを使った場合はあまりそのようなことは起こりません。万一甲状腺機能低下症が起こった場合は、適切なL-T4補充療法が引き続き行なわれます。甲状腺機能亢進症と機能が低下している甲状腺結節とが一緒にあってちょっと心配な場合(そしてその原因が悪性である危険性があります)、どちらの問題にも対処する確実な方法として手術が選択される場合があります。適切な手術の後、結果的に甲状腺機能低下症が起きた場合は長期にわたるL-サイロキシン補充療法が適応となります。

高齢者の甲状腺機能亢進症は痛みを伴う甲状腺の破壊的炎症過程(典型的なものは亜急性甲状腺炎:デ・ケルバン症候群)から2次的に起こる場合があります。亜急性甲状腺炎は感染(ウイルスによることが多い)により2次的に引き起こされると信じられています。もう一つ、痛みのない甲状腺炎(根本原因は慢性甲状腺炎)も甲状腺機能亢進症を起こすことがあります。そのような甲状腺機能亢進症は放射性ヨード取り込み試験で取り込みが抑制されていることから疑われます。この甲状腺機能亢進症は何週間か、あるいは何ヶ月か経つと自然に治まってきますし、甲状腺機能亢進症が自然に治まるまで鎮静剤やベータ・ブロッカーを用いて甲状腺機能亢進症の一時的な症状に対しての治療だけをすればよいのです。しかし、炎症がひどい場合は、甲状腺の機能が戻るまで6〜12ヶ月間のL-サイロキシン補充療法を必要とするような一過性の甲状腺機能低下症が2〜4ヶ月後に起きてくる危険性があります。

05 まとめ ↑このページのトップへ
加齢の症状や徴候とそっくりである場合があるので、高齢者の甲状腺機能障害を見つけるには気をつけて疑うようにする必要があります。甲状腺機能をモニターするのに使われる標準的な検査の値が加齢によってわずかに変わることがありますが、最近X線造影剤や薬剤の投与を受けた可能性だけでなく、並存する急性、慢性疾患や栄養状態、精神状態などのファクターを除外すれば、若い人に用いられる「正常範囲」を高齢者の甲状腺機能障害の診断に当てはめることができます。

高齢者の甲状腺機能障害の治療は、若い患者に比べ特別の配慮が必要です。一般的に、甲状腺機能低下症に対するL-サイロキシン療法は少ない量から開始されますし、高齢者を正常に戻す最終的な長期維持量は若い患者の必要量よりも少ないのです。高齢者の甲状腺機能亢進症の治療では、甲状腺機能亢進症の再発の恐れをなくすために放射性ヨード治療か手術のどちらかを行なう前に、抗甲状腺剤(プロピルチオウラシルまたはメチマゾール)を用いて3〜6ヶ月かけて甲状腺機能を正常にする必要があります。

この記事はトロント州トロント大学マウントシナイ病院内科小児科教授Paul G. Walfish, CM, MD, FRCP, FRSMが書かれたものです。

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