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甲状腺疾患と妊娠<第1部>

甲状腺疾患と妊娠』に関する2部シリーズの第1部をここに載せることができて嬉しく思っています。私は橋本甲状腺炎に罹っているだけでなく、妊娠もしているのでこの問題に興味を持つようになりました。
当然ながら、私は妊娠と甲状腺疾患について目に付くものすべてを読み始めました。そして、様々な本に載っている情報にいくつか食い違いがあるのに気が付きました。
例えば、ある本は「甲状腺疾患は流産の原因である」と言っていますが、これが未治療の甲状腺の病気のことであるのか、あるいは甲状腺の病気があるが、治療を受けて“甲状腺機能正常”と見なされている人のことであるのかがはっきりしません(甲状腺機能正常とは、甲状腺の血液検査でTSHレベルが正常範囲にあり、甲状腺機能亢進症でも、機能低下症でもないことを言い表す医学用語です)。
また、alt. support. Thyroid newsgoupやSt. John's Thyroid Listserv上に甲状腺疾患と妊娠に関する疑問や懸念を伝えてくる多くの女性もおります。
Sheldon Ruinbenfeld博士
Sheldon Ruinbenfeld博士
はっきりした答えを得ようと、Dr. Sheldon Ruinbenfeld, M.D., F.A.C.P., F.A.C.E.とお話しする機会を持ちました。博士は診療に携わっている甲状腺疾患専門医であり、また教育と研究のための甲状腺学会の設立会長と医療部長でもあります。さらに、Ruinbenfeld博士はBaylor医科大学内科教授でもあり、アメリカ内分泌学学会とアメリカ医師会の会員です。

甲状腺機能亢進症/甲状腺機能低下症がどのように受胎能を妨げるのでしょうか?
甲状腺疾患のある多くの女性が、果たして妊娠できるのかどうか心配しています。甲状腺の病気が時に妊娠の障害となることがあるというのは本当です。Ruinbenfeld博士によると、甲状腺の機能障害によって起こる問題でかなり多いのは、無排卵(排卵がない、言い換えれば卵が放出されないこと)と月経不順です。受胎する卵がなければ、妊娠は不可能です。さらに、一部の女性では黄体期が短くなります。黄体期とは排卵と月経開始の間の期間です。受胎した卵に十分な栄養を与えるために、黄体期は十分な期間(正常な黄体期は約13から15日)である必要があります。そのため、黄体期が短すぎると一見不妊症のようなことが起こります。でも本当は受胎した卵を留めておくことができず、妊娠のごく初期に、ちょうど月経がいつも通りに始まる頃にだめになってしまうのです。

Ruinbenfeld博士は「甲状腺の病気が受胎能を妨げるメカニズムはわからないことが多いのですが、甲状腺機能の他の側面が受胎能に影響することは疑いありません」と言っておられます。例えば、Ruinbenfeld博士がおっしゃるには、甲状腺機能低下症がプロラクチンの増加を引き起こすことがあり、これは脳下垂体で作り出されるホルモンですが、産後の女性の母乳の分泌を促し、維持する働きがあります。プロラクチンが多すぎることは、受胎にはマイナスの効果となります。さらに、Ruinbenfeld博士は、これについての体系的な研究はほとんどないが、甲状腺機能亢進症が男性の精子数の減少あるいは精子の運動性の低下を引き起こすことで、受胎能に影響し得るというはっきりした証拠があると言っておられます。しかし、この問題は治療可能です。

夫に甲状腺の病気があると女性の妊娠能力または妊娠維持能力に影響があるのでしょうか?
一部の女性は夫の甲状腺の病気が妊娠を維持する能力を妨げるのではないかと心配しています。

繰り返しますが、Ruinbenfeld博士によれば、甲状腺機能亢進症の男性の中には正常な場合よりも精子数が減ったり、精子の運動性が落ちたりすることがあるという証拠があります。しかし、女性が妊娠したら、配偶者の甲状腺疾患が妊娠に悪影響を与える心配はありません。
私の場合
私は妊娠できないのではないかと恐れている甲状腺機能低下症に罹った女性の一人でした。甲状腺の病気に加え、生理が25日毎にあるということ、そして35歳という年齢から不妊症になるには十分ではないかと恐れていました。しかし、夫と私が3ヶ月も頑張らないうちに妊娠したのです。
私のいちばんの助けとなったことは、よい内分泌病専門医にかかったことだと思います。私の主治医は、受胎し、妊娠を維持するにはTSHを1と2の間に下げなければならないと思うと言いました。私はその時4.2でしたが、これは正常範囲です。先生は妊娠するにはちょっと高すぎると言いました。そのレベルで妊娠はできるかもしれないが、維持するのは非常に困難だろうと言われました。それで、先生は薬の量を増やしました。
次は本です。私がこれこそ神の恵みだと考えているものは、Toni Weshler著の メ受胎の責任はあなたにあるモという本です。私は受胎能を最大限にする方法や妊娠のチャンスを確実に最大限にする方法をこの本から学びました。これは素晴らしい本です。
また、これはほんのちょっとしたことですが、他の人からも妊娠に関係のあることをいろいろ聞きました。私はカフェインを完全に止め、カフェイン抜きのコーヒーにしました。 要するに何かですって?TSHが4で、カフェインを飲み、受胎の徴候を記録したり、監視したりしていなければ、私は妊娠しなかったということです。甲状腺ホルモン剤の量を増やして、TSHが1になり、Wechslerの本を参考に受胎の徴候を調べ、受胎してもすぐにわかるような方法であるモニター用のチャートに記入して、カフェインを避けるようにしたんですが、そうしたら2ヶ月も経たないうちに妊娠したんです。

甲状腺疾患のある女性は正常な人より流産の危険性が高くなるのでしょうか?
甲状腺の病気がすでにある場合、流産の危険性が高まると書いてある本もありますし、治療すれば、甲状腺機異能低下症の女性の流産の危険性が高くなることはないと書いてある本もあります。Ruinbenfeld博士によれば、橋本甲状腺炎に罹っている女性は、治療を受けて、正常なTSHになっている場合でも、正常な人よりもわずかに流産の危険性が高いということです。でも、その理由は分かっていません。甲状腺機能亢進症の治療がうまくいった女性では、流産の危険性は甲状腺の病気がない人とほとんど同じです。

しかし、分かっている危険性のいくつかは母親自身の行動で減らすことができます。Ruinbenfeld博士によれば、甲状腺の病気を持つ妊婦の主な問題は“コンプライアンス(医師の指示にきちんと従うこと)”だそうです。処方された量を守って適切な時間に甲状腺の薬を飲み、最大限に薬が吸収されるようにし、そして言われた通りの間隔で医師の診査を受けることです。

予 告
この記事の第2部で、次のような質問について考えることにします。
  • 甲状腺疾患のある女性は、妊娠のどの時期に産前のケアや甲状腺ホルモンレベルの監視を受け始めればよいのでしょうか?
  • 赤ちゃんが甲状腺の病気を受け継いだり、発病したりする確率はどれくらいでしょうか?
  • 甲状腺ホルモンを飲んでいる女性が避けた方がよい栄養剤/食物が何かありますか?
  • 妊婦はどれくらいの時間をおいて鉄を含む妊婦用ビタミン剤と甲状腺ホルモン剤を飲むようにすればよいのでしょうか?

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