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副甲状腺(上皮小体)機能亢進症
山下弘幸 野口病院 大分

副甲状腺とは?
大きさは4〜5mmぐらいで甲状腺の周囲にあり、副甲状腺ホルモンをつくる臓器です。多くの人は4つ持っていますが、3つあるいは5つ以上もっている人も稀ではありません【図1】。ここでつくられる副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウム濃度を一定の範囲内に調節しています。健康な人では、血液中のカルシウムが減ると、副甲状腺ホルモンが増加します。そうすると、骨に蓄えられているカルシウムが血液中に溶かし出されてカルシウムが正常な濃度にもどります。
【図1】副甲状腺の位置
図1

副甲状腺機能亢進症とは?
副甲状腺機能亢進症とは、血液中のカルシウムが正常またはそれ以上あるのに、副甲状腺ホルモンが必要以上につくられる病気です。そのために、骨の中のカルシウムが減少して骨そしょう症(骨がやせてもろくなり骨折しやすくなる病気)になったり、腎結石(腎臓や尿管に結石が生じる病気)、消化性かいよう(胃・十二指腸などにできる)、膵炎などを引き起こすことがあります。

頻度について
以前は非常に稀な病気と考えられていましたが、血液の生化学検査に自動分析器が導入されて、カルシウムの測定が一般化するようになり診断例が増えています。外国では病院受診者の500〜1,000に1人、日本でもその1/10程度の頻度でみつかっていますので稀な病気とはいえません。この病気が閉経後の女性に多いことより、50歳以上の女性に限ると1,000人に1人くらいの頻度と推定されます。尿路結石患者での頻度は5%前後と報告されています。当院での経験より、副甲状腺機能亢進症は決して稀な疾患ではなく、今後高齢化と共にますます増加すると考えています。

副甲状腺機能亢進症の症状
以前は、腎結石、骨そしょう症、消化性かいよう、膵炎などから診断されることが大半でした。最近では、血清カルシウムのスクリーニング検査が普及し、はっきりとした症状のない方もたくさん見つかってきています。食欲がない、いらいらする、身体がだるい、集中力がない、頭痛がするなどの症状が治療後に改善することがあります。このような場合は、病気のためにこれらの症状があったと判断されます。

副甲状腺機能亢進症と骨そしょう症
骨そしょう症の診断と治療において注意しなければならないことがあります。骨密度の測定器械が普及、一般の方の骨そしょう症という病気に対する関心が高くなったことより、骨そしょう症の診断で治療を受ける患者さんが増えています。骨そしょう症の診断と治療において、原発性骨そしょう症(原因が特定できない骨そしょう症)と2次性骨そしょう症(何らかの原因があって骨そしょう症をきたしている)とを鑑別しなければなりません。理由は治療方法が違うからです。副甲状腺機能亢進症では、2次性骨そしょう症を生じますが、これを見逃すと“ビタミンDやカルシウム”の内服治療を受け、ますます血液中のカルシウムが高くなり、場合によっては命の危険まで生じることがあります。当院に“首のはれ”を訴えてきた患者の中には、甲状腺の病気だけでなく副甲状腺機能亢進症がありながら、近くの先生から“骨が弱っているから薬を飲みなさい”と間違った治療を受けていた方は少なくありません。骨そしょう症学会では、「このようなことがないように原発性骨そしょう症の診断には血清のカルシウムを測定しなければなりませんよ」と啓蒙していますが、まだまだこのことは広く浸透していないようです。
その理由としては、
  1. 副甲状腺機能亢進症が稀な病気と考えられていたこと
  2. 骨そしょう症が、内科・老年科・整形外科・婦人科と多くの科にまたがって治療を受けており、それぞれの分野特異性がある
などが考えられます。

副甲状腺機能亢進症の診断
血液中のカルシウムの濃度と副甲状腺ホルモンが両方高く、尿中カルシウム排泄量の高い場合、副甲状腺機能亢進症と診断されます。家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(遺伝性の病気で尿にカルシウムを排出しにくいので、血液中のカルシウムが高くなる病気で、手術は必要なく経過観察だけでよい病気)の方も同じような検査結果のことがありますが、尿中のカルシウム排泄量を測定しますので識別できます。腺腫の超音波写真をごらんにいれます【図2】。
【図2】副甲状腺腺腫の超音波像
図2

副甲状腺機能亢進症の原因
副甲状腺の1つだけ(希に2つ)が腫れて、どんどんホルモンをつくる腺腫が大半(約80〜90%)で、4つの副甲状腺が必要以上にホルモンをつくる過形成は約10〜15%です。癌は100人に1人か2人と稀です。

治療について
現在のところ外科的切除が唯一の治療法です。

どんな患者さんを手術するか?
はっきりとした症状のある方はもちろんですが、無症状と考えられても、副甲状腺機能亢進症と診断がついた場合は、手術をした方が良いと考えています。理由は、この病気は悪性腫瘍(癌など)や心臓・脳血管の障害で寿命が約10年くらい短くなること、手術後に身体の調子が良くなるのに気づく方が多いことなどからです。さらに、強調しなければならないことは、この病気によって生じた障害はひどくなると手術後も完全には元通りにならないということです。この病気で骨そしょう症をきたして、椎骨(背骨)の圧迫骨折をおこし、若いときに比べて20cm以上身長が低くなった患者を手術しても、元には戻らないことは自明です。当院でもこのような患者さんを経験しています。早い時期に受診されていれば障害を残すようなことにはならなかっただろうと思います。

手術前の検査は?
全身麻酔をしますので、心臓(心電図)、肺機能、肝・腎機能検査(血液、尿)は必要です。さらに、病気の治療のために以下の検査を組み合わせておこなっています。
  1. 病的の副甲状腺はどこにあるのか?
    超音波とシンチ検査で、9割程度病的な副甲状腺の位置がわかります。
  2. 超音波を見ながら内頚静脈(頸の深い部分にある太い静脈)の左右から採血し、副甲状腺ホルモンを測定することにより、ある程度の部位と腺腫か過形成の判断の材料としています。腺腫と過形成とでは手術の方法が違うので非常に大事なことです(手術方法を参照)。
過形成をきたす遺伝性疾患として多発性内分泌腫症(Multiple endocrine neoplasia、以後“MEN”と略)があります。最近、原因遺伝子が発見されましたので、当院では術前の遺伝子検査をします。

手術方法
腺腫では、1つあるいは2つの腫れた副甲状腺だけを摘出(取り除くこと)します。過形成ではすべての副甲状腺を探し出し(先にも述べたが、副甲状腺は5つ以上あることもある)、一番正常に近いと考えられる副甲状腺の一部を残して他の副甲状腺をすべて摘出します。症例によってはすべての副甲状腺を摘出して、一部を前腕などに移植します。癌では周囲組織を含めて広範囲に取り除く必要があります。術前に癌の確定診断がつくことはほとんどありませんし、迅速病理検査(手術中に行う組織の顕微鏡検査)で悪性かどうかの判断は非常に困難ですので、手術中の医師の判断が非常に重要です。
当院では現在、1つの副甲状腺の病気と判断した場合、内視鏡を用いて小さな傷で手術を行っています(【図3】【図4】【図5】【図6】)。

術前の検査で病的な副甲状腺はどこにあるのかわからない場合は?
術前の部位診断がついていなくても手術をすすめています。理由は、はやい時期に手術で病気を治すことが大事と考えること(前述)、ほとんどの症例で手術時に探し出すことが可能なこと、手術の合併症もほとんどなく手術による患者の身体的負担は少ないことなどの理由によります。

手術の合併症
この病気の性質を十分にわかっている内分泌外科がおこなえば、合併症はほぼありません。甲状腺周囲をあつかいますので、反回神経麻痺(声帯を動かす神経で麻痺が生じると声がかれる)の可能性はありますが、副甲状腺癌などの特殊な場合を除いて非常にまれで、ほとんどは一過性です。その他、一般的な手術と同様に、出血(血管を結んだ糸が術後の嘔吐やくしゃみなどで糸がはずれ、頸のなかに血がたまる)のために再度傷を開き止血しなければならないこと(1%以下)、傷が化膿(3,000〜4,000例に1例程度)することなどの可能性があります。

手術後の管理
手術後カルシウムが低くなり、カルシウムやビタミンDを飲まなければならないことがあります。不思議に思うかもしれませんが、これは主として以下の二つの理由によるものです。
  1. 手術前は副甲状腺ホルモンがどんどんつくられており、このホルモンが骨から血液中にカルシウムを溶出していたが、術後は反対にカルシウムが骨に取り込まれるので、血液のカルシウムが低くなる。
  2. 副甲状腺ホルモンをどんどん出していた病気の副甲状腺を取り除いたので、残った正常な副甲状腺はしばらくの間働きが悪い。
これでおわかりかと思いますが、カルシウムやビタミンDを飲まなくてはならなくても、それは手術の合併症ではありません。自分の身体が良い方向(術後の骨の回復)に向かっていると考えてください。

手術後の管理
手術後カルシウムが低くなり、カルシウムやビタミンDを飲まなければならないことがあります。不思議に思うかもしれませんが、これは主として以下の二つの理由によるものです。
  1. 手術前は副甲状腺ホルモンがどんどんつくられており、このホルモンが骨から血液中にカルシウムを溶出していたが、術後は反対にカルシウムが骨に取り込まれるので、血液のカルシウムが低くなる。
  2. 副甲状腺ホルモンをどんどん出していた病気の副甲状腺を取り除いたので、残った正常な副甲状腺はしばらくの間働きが悪い。
これでおわかりかと思いますが、カルシウムやビタミンDを飲まなくてはならなくても、それは手術の合併症ではありません。自分の身体が良い方向(術後の骨の回復)に向かっていると考えてください。

手術後の再発はあるのか?
結論から述べますと、この病気のすべての患者さんを初回の手術で完全に治すことは不可能です。初回手術による治ゆ率は、欧米(この病気は欧米が日本にくらべ多い)の内分泌外科を専門にしている施設で最も成績の良いところで95%前後です。なぜ、100%ではないのかについて次の二通りについて詳しく説明します。
  1. 手術後でもカルシウムが十分下がらず、持続性に高カルシウム血症をきたす場合
  2. 術後数年あるいは数十年経過し、再度血液中のカルシウムが高くなる場合
1. は手術がうまくいっていなかったと考えて良いでしょう。
カルシウムが十分下がらない理由は、
  1. 病的な副甲状腺を探し出すことができなかった。
  2. 病的な副甲状腺が複数個あり(2個の腺腫や過形成など)、その一部を取り残した。
などが考えられます。
前に説明しましたが、副甲状腺は4個とは限らず、それ以上ある可能性も10%以上あることや通常副甲状腺は甲状腺周囲にありますが、甲状腺内、甲状腺から離れたところ、さらには胸のなかにあったりすることが、手術がうまくいかない理由になります。
2. に関しては、
カルシウムが十分下がらない理由は、
  1. 病気が過形成であったが、十分な量が切除されていなかった。
  2. 移植した副甲状腺が必要以上にホルモンをつくるようになった。
  3. 病理検査で良性(腺腫、過形成)の診断であったが、実際は癌であり(癌と良性の鑑別が困難な場合もある)再発した。
  4. 腫大腺を切除する際に被膜をやぶり細胞をばらまいてしまった。
  5. 1つの副甲状腺の病気でそれを取り除いてうまくいっていたが、他の腺に新たに病気が発生した。
などが考えられます。
上記に対する当院の対策
1. の“手術後も持続性に病気が続く”ことに関しては、
  1. 手術前の検査で、病的な副甲状腺の位置あるいは腺腫(基本的には1腺の病気)あるいは、過形成を鑑別する。精度の高い超音波検査やシンチだけでなく、当院独自の方法として、手術前に3箇所(左右の内頚静脈と手の静脈)より採血し、副甲状腺ホルモンを測定、検査結果より、上記の判断の材料にしています。
  2. 現在手術中に副甲状腺ホルモンの迅速測定(具体的には病気の副甲状腺を取り除いたのちに副甲状腺ホルモンを測る)で、ホルモンが十分下がることを確認、もし、十分下がらなければ、他の病的な副甲状腺を探し取り除く方針ですのでほぼ回避できています。これまでに約30例(平成11年4月より10月)に行いましたが、この方法ですべての方がうまくいっています。
2. に関しては、新たに病気が発生した様な場合は非常に稀です。われわれは実際に経験したことはありませんが、理論的には可能です。他は病気の性質の理解や手術の習熟により避けることができると考えています。

術中の副甲状腺ホルモンの迅速測定について
術中に副甲状腺ホルモンを測定(結果を得るまで20〜30分)し、手術がうまくいったかどうかを判断する方法は欧米では一般的ですが、日本ではほとんど行われていませんでした。主な理由は、厚生省がその試薬の使用を認めていなかったからです。副甲状腺は過剰腺(先にも記しましたが、副甲状腺は通常4つであるが、3つあるいは5つ以上のこともある)や異所性腺(甲状腺の周囲になく胸のなかにあったりする)の存在、腺腫、過形成、癌など解剖・病理学的多様性を持っています。このため、手術は難易度の高い場合もあるので、十分に病態を理解した内分泌外科医が行うのが望ましいと考えています。今後、内視鏡で手術を行なう施設も増えると思いますが、これらの縮小手術には他の病的な副甲状腺を見逃さないためには術中迅速副甲状腺ホルモン測定を是非行っていただきたいと考えています。
副甲状腺機能亢進症のまとめ
  1. 副甲状腺機能亢進症はけっして希な疾患ではない
  2. 骨そしょう症のなかにもこの病気を見逃され誤った治療を受けている患者が少なからずいる。尿路結石その他も同様である
  3. 当院の診断の工夫(両側内頚静脈の副甲状腺ホルモン測定)
  4. 診断がつけば手術を行う
  5. 症例により内視鏡手術が可能
  6. 術中の迅速ホルモン測定の導入・有用性

. Dr.Tajiri's comment . .
. 山下弘幸先生は外科医で現在、野口病院の副院長です。 .
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