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患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 14, No4

33:患者は医師に何を期待し、医師は患者に何を期待すべきなのか? / Elliot G.Levy, M.D.

そんなことわかりきっていると思われるかもしれませんが、甲状腺は首の前の方にある小さな器官で、ある製品−甲状腺ホルモンを作るための工場です。普通は、体がちょうど必要とするだけのホルモンを作っています。でも時にはホルモンをたくさん作り過ぎることもあります。それよりもっと多いのは、作るホルモンの量が少なすぎる場合です。そのような場合、甲状腺癌を含む甲状腺腫瘍がある可能性があります。

あなた自身、またはあなたが知っている人に突然甲状腺の病気があるとわかるまでは、何もかも簡単明快に聞こえ、またそう見えます。でも、その後で最初は簡単に思えたものが、実はとてもややこしく、何が何だかわからなくなることもあるのです。

この記事の目的は、特定の分野について何をすべきかとアドバイスすることではありません。あらゆる分野に対する情報を満載した記事は今までにもここにたくさん出ておりますし、これからも出てくるはずです。患者である皆さんと医師との間の関係について理解を深めて頂くことにあります。

患者は医師に何を期待すべきか
今日では、伝統的な“医師”の役割が違ってきているように思えます。特に医師が友人であり、たっぷり時間を割いてくれ、 家族全員のことをよく知っており、あらゆる面で面倒を見てくれ、入院している時は見舞いに来てくれるし、おそらく電話1本で家にも来てくれ、他の専門医にためらわず紹介してくれるというような“古き良き時代の医療”を覚えている人にとってはそうでしょう。でも、もはやそのようなことはないのです。

雇用主にかかる健康保険のコストの上昇か、政府の総医療費の上昇、あるいは医療産業に利益を優先する“ビッグビジネス”が参入してきた影響があるのか、それとも他に原因があってこうなったのかどうかは別として、今日の医療のアプローチは非常に異なっております。管理医療(雇用主の医療負担を抑制するため、ある患者集団の医療をある医師集団に請け負わせる方式)の影響で、昔とは医師と患者の関係が大きく変わってしまいました。医師は常に患者の病気の診査や治療にいくら費やしているのか精細に調べられております。入院期間は短くなり、行われる検査の数も減っています。診療に要する諸経費は上がり続けておりますが、それでもほとんどの地域の医師は保険会社やメディケア(65歳以上の老人や身障者などに対する政府の医療保険制度)との契約のため、診療報酬を上げることができません。初期医療担当を担当する医師には、早い内に専門医へ紹介することを控えるということも含め、“何もかもする”ようにという大変な圧力がかかっているのです。

甲状腺疾患の分野では、このような事実が歴然としております。患者はたくさんの不適切な(そして費用のかかる)検査を受けた挙げ句、病気が末期になってから紹介されることが多いのです。このようなスタイルの医療が続けば、いちばん苦しむのは誰でしょうか。患者は常に被害者なのです。

このような時代にあって、私は個人的に患者が自分で医師との関係を作っていくことをお勧めします。満足した健康な患者となるという最終目標に行き着くため、この関係を改善するコツをいくつかつかんでいただければ幸いです。

患者にはどこが悪いのかを知る権利や質問にすぐ答えてもらう権利があります。“医師(doctor)”という言葉はラテン語の“docere”すなわち“教える”という言葉からきたものです。したがって、医師の主な役割は患者にどこが悪いのか、そしてそれを治すにはどうしたらよいかを教えることです。

患者が医師に対して持っている不満で、主なものが3つあります。
  1. 医師がいつも時間に遅れる。
  2. 自分に十分時間を割いてくれない。
  3. 私の言うことを聞こうとしない。
おそらく、これら3つのことは起こり得ることだと考えて、個別に対処するようにするか、あるいはかかっている医師が自分のニーズに答えられない場合は転医するようにすべきでしょう。

医師は、特に大きな病院で働いている初期医療担当医はそうですが、一日にたくさんの患者を診なければならないことが多いのです。あなたが必要とする時間が医師のスケジュールに入らないこともあるでしょう。甲状腺の病気は、触診や血液検査、核医学的検査、超音波診断、生検などの様々な検査を受け、詳しい説明が必要なことが多いので、非常に複雑になる場合がよくあります。

家庭医や一般医のもとか、内科で正式なトレーニング(すなわち研修医)を受けた医師は内分泌病科ではあまり時間を費やしていません。その上、甲状腺の病気に罹った患者のほとんどは、甲状腺の手術以外のあらゆることで病院に行くのです。そのため、主に病院で経験を積んだだけの若い医師は甲状腺の病気の診断や治療をするには十分な経験がないことが多いのです。

質問にちゃんと答えてくれないとか、医師が質問に答えるのをためらっているように思える場合、スタッフに対する答えが違う場合、頼んでも文書を渡そうとしない場合、いちばん信頼できる患者情報のあるウェブサイトを知らない場合、ちょっと無理な、あるいは紛らわしいアドバイスをするようなことがあれば、おそらく専門医の診察を求めるべき時期と思われます。この事は非常にデリケートで、やっかいな問題ですが、時には患者が自分のことを聞いてもらうためにわめいたり、叫んだりしなくてはならない場合もあるのです。

私自身は、どのようなものであれ甲状腺機能低下症や甲状腺のしこり(結節)、妊娠に関連した甲状腺の病気、甲状腺腫瘍はすべて、また甲状腺の血液検査で紛らわしい結果が出た時は早目に専門医に紹介する方がよいと思っております。専門医(すなわち内分泌病専門医または甲状腺専門医)は先に述べたことをすべて行うことができるはずです。専門医はすべての質問に答え、もっともややこしい甲状腺の病気であってもよくわかるように説明するだけの時間と経験を持っているはずですし、診断用の検査や入院、臨床検査を受けるのにいちばんよい場所を、また甲状腺の手術が必要な場合は外科医師の手配をすることもできるはずです (もちろんあなたが契約している保険会社の給付範囲内でのことですが)。そのような医師は必要な文書を出してくれますし、支援グループ(TFAのような)も教えてくれ、ウェブサイト(www.tsh.orgのような)の情報も提供してくれるはずです。そして、家にいる家族に説明できるようそのための書き付けも書いてくれるはずです。

さらに、あなたがかかる医師はあなたが物事を決める手助けをするべきだと思います。あなたはどこが悪いのか、どんな検査をするべきか(でもあまりたくさんではなく)を知るため、そして具合がよくなるために医師のもとに行くのです。あなたがかかる医師はその分野の最新の情勢に通じていなければなりません。あなたがかかる医師は治療の選択肢やどこでその治療が受けられるかということを教えるべきですが、あなたにきちんと情報を与えずに、あなたにどうするか自分で決めるよう任せるようなことはすべきでありません。これは私自身の気持ちでもありますが、患者はどうしたらいいのかを聞きに医師のもとに行くのです。医師は正しい決断ができるよう導くべきであって、患者一人に物事を決めさせるようなことがあってはなりません。

どの程度の頻度で診察を受けるべきか
甲状腺疾患患者がどの程度の頻度で内分泌病専門医の診察を受ける必要があるか予測することは大変難しいのですが、病気が新たに見付かったとか、治療途中、あるいは再発であるとかに関係なく、その病気の活動性によることは確かです。診察を受ける頻度は患者のコンプライアンス(患者が指示に従う確かさ)の程度だけではなく、患者の年齢によっても違ってきます。大ざっぱな目安を挙げてみます。
甲状腺機能低下症
  • 診断をつけるための初診。
  • 検査結果を見るために初診から1〜3週間後に第1回目の再診を受ける。
  • TSHレベルが正常になるまで6〜8週間毎に受診する。
  • 6ヶ月以内に1度受診する。
  • その後は1年に1回受診する。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
  • 診断をつけるための初診。
  • 検査結果を見るため1〜3週間後に1回目の再診を受ける。
  • 放射性ヨードを使う場合、医師の診療所、または医療センターの核医学施設、あるいは診断センターのいずれかで治療を受ける。
  • 毎月1回(最初の6ヶ月)または甲状腺機能低下症であることがわかるまで、受診する。
  • 甲状腺機能低下症になった場合は上記の甲状腺機能低下症の受診の目安に従う。
  • 抗甲状腺剤を使う場合、抗甲状腺剤で治療を行っている間は1〜2ヶ月毎に受診する。
甲状腺結節
  • 診断をつけるための初診。
  • 検査結果を見るため1〜3週間後に1回目の再診を受ける。
  • 手術を勧められた場合、術後1ヶ月以内に1度受診する。
  • 手術をせず、甲状腺ホルモン抑制法を使う場合、最初の3年間は3〜6ヶ月毎に受診し、その後は年1回受診する。

医師は患者に何を期待すべきか
受診の時間を守るようにしてください。あるいは、間に合いそうもなく、予約を組み直した方がよいとわかっている場合は電話をしてください。専門医に受診する前に委任番号または委任状が必要な場合、専門医にその文書があるかどうか確かめるか、初期医療担当医の元に寄ってもらうようにしてください。

薬を飲む必要がある場合は、毎日適当な時間に飲むようにしてください。それはあなた自身の健康のためです。もし、うまく薬が飲めない時は、そのことを医師に言ってください。時に、あなたが指示に従うであろうという想定の元に、薬の強さを合わせ直すこともあります。薬を飲み忘れることが多いという問題がある場合は、もっと飲む回数や飲み方を簡単にしてもらえるはずです。

具合が悪くなったり、手術が必要な場合、あるいは他の家族が心配して医師と話したがる場合は、家族の誰か一人を代表にして話すようにしてしてください。医師が同じ説明を何度も繰り返してしなくてよいようにしてください。入院患者についての質問であれば、医師が回診を行う際にできれば誰か患者の側にいるようにしてください。

初めて専門医にかかる場合、最近受けた検査結果のコピーを集め、予約時に一緒に持参するようにしてください。それに加え、最近甲状腺のスキャンやCTスキャンを受けたのであれば、そのX線フィルムも一緒に持って来てください。前もって病院または診断センターに電話を入れれば、フィルムを出してくれるはずです。

あなたがよりたくさんのことを知れば知るほど、治療を受けやすくなるため、甲状腺の病気についてできるだけ多くのことを学んでください。

今日では、患者は以前よりもっといろいろな知識を得ることができるようになりました。利用できる情報源がたくさんあります(TFAも含め)が、いちばん利用しやすく、信頼性の高い情報源−あなたがかかっている医師を利用するようにしてください。その代わり、医師に協力するようにしてください。そうすれば早く健康を取り戻すことができるのです。

Levy博士はフロリダ州マイアミのマイアミ大学医学部臨床医学教授です。

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