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[005]
患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 14, No3

29:超音波ガイド下穿刺吸引細胞診:UG FNA / H. Jack Baskin, M.D., F.A.C.E.

アメリカでの甲状腺癌発生率は過去10年間に増加してきていますが(現在1年当たり17,000の症例が新しく発生しています)、甲状腺の手術を受ける患者の数は目立って減ってきています。この甲状腺手術の量の減少は、良性の甲状腺結節に行われていた不必要な手術の数が減少したことによるものです。これは、穿刺吸引細胞診(FNA)が普及したことによる直接の結果で、これは甲状腺結節が癌性であり、手術で取り除く必要があるかどうかを確かめる検査としてはいちばん正確なものです。

1980年代に高解像度のリアルタイム超音波診断装置が導入され、それは甲状腺結節を検知するのに、もっとも感度の高い検査であることが証明されています。触診や放射性ヨードスキャン、CTスキャン、あるいはMRIでは見逃されるような結節も見つけることができます。超音波では直径2〜3mmしかない小さな結節も見分けることができます。残念ながら、これほど感度が高いにもかかわらず、結節が悪性であるか、良性であるかを見分ける能力は低いのです。超音波では結節が孤立性であるか、1個以上の小さな結節からなっているのかどうか、また充実性か液体で満たされているのかどうか、またその他の特徴だけでなく内部にカルシウムを含む領域があるかどうかもわかりますが、穿刺吸引細胞診によってしか癌であるかどうかはわかりません。

超音波と穿刺吸引細胞診では異なる情報が得られることから、互いの欠点を補うことができるため、甲状腺結節のある患者の多くはこの検査を2つとも受けることになります。1990年代に、医師はこの2つの検査を1度にまとめて行う、「超音波ガイド下穿刺吸引細胞診(UGFNA)」と呼ばれる方法を始めました。この方法では、超音波モニターを使って、直接甲状腺の画像を見ながら生検を行います。

ほとんどの結節は、超音波を使わずに生検が行われますが、UGFNAでは医師が与えられる視覚的情報にしたがって、生検部位を選ぶことができます。

時に、結節があまりに小さいか、あるいは甲状腺の非常に深いところにあるため、触れることができない場合がありますが、そのような結節は超音波で見ることができます。UGFNAはこのような結節の正確な生検を行うために欠かせないものです。この方法は、甲状腺の中に数個の結節を含む(多結節性甲状腺腫)患者で、他より大きな結節を選んで生検をするのにも使うことができます。これらの結節の中には触診で触れないものがある可能性があります。

筋肉質、肥満、あるいはずんぐりした体格の患者では、生検時に結節を見たり、触れたりするために首を伸ばすよう言ってもうまくできないことがあります。UGFNAでは、確実に適切な部位から生検のサンプル採取ができます。

甲状腺結節の穿刺吸引細胞診の欠点の一つは、診断を下すための“採取サンプルが不十分”で、もう一度やり直さなければならない生検の数がかなり多い(約15%)ことです。数種類の臨床試験で、UGFNA法を使うと“採取サンプルが不十分”となる生検の割合が3%に減ることが示されています。確かに、生検が“採取サンプルが不十分”であるため、やり直さなければならない場合、かならず超音波誘導による穿刺吸引細胞診を行うようにすべきでしょう。

もう一つのUGFNAの重要な利用法として、甲状腺癌の手術を受けた患者のフォローアップがあります。このような患者で血液中のサイログロブリンレベルが増加した時は、甲状腺癌の再発の徴候であることが多いのです。再発のほとんどは頚部に起きますが、超音波はこの領域に再発した癌を早期に検知する際にもっとも感度が高いものです。疑わしいリンパ節も触診で触れるようになるずっと前に超音波で見ることができます。炎症を起こした(良性)リンパ節も頚部には普通に見られるため、リンパ節のUGFNA生検が癌の存在を確認するために必要です。

全体的に見て、UGFNAは再発癌の検知をするのに感度が高く、甲状腺癌患者のフォローアップで、ルーチンに放射性ヨードの全身スキャンを行うより費用効率も高いのです。その一方で、医師がある特定の時期に特定の患者にこれらの検査のどれを行うのがいちばんよいかを決めるにあたっては、まだ数多くのファクターがあります。
超音波と穿刺吸引細胞診は甲状腺の病気の診断とフォローアップに革命をもたらしました。この2つを一緒に組み合わせることで、甲状腺結節または甲状腺癌のある患者のケアに大きな影響を与える可能性を持つ有力な診断用の道具となります。

Baskin博士はフロリダ州、オーランドのフロリダ甲状腺および内分泌病クリニックの医長であり、アメリカ臨床内分泌病専門医会の元会長です。Baskin博士の著した超音波ガイド下穿刺吸引細胞診のテキストブックはKluwer出版で現在印刷中で、間もなく発売される予定です。

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