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[005]
患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 14, No3

28:隠れた甲状腺の病気:誰がスクリーニングを受けるべきか? / Lawrence C. Wood, M.D.
〜1999:古くからの質問を改めて見る〜

はじめに
アメリカには、甲状腺機能低下症に気付いていない人がまだおよそ1,000万人おります。甲状腺結節のある人は何百万人もおり、その多くは気付かないまま放置されております。それは、家庭医が甲状腺にある癌かもしれないしこりがはっきりしているのに、触診すらしないためです。200万人のアメリカ人が、子供の頃ににきびや反復性扁桃腺炎、または胸腺肥大などの病気で1940年から1957年の間に頚部の放射線照射を受けております。そしてこれらの患者では甲状腺癌と甲状腺機能低下症になる危険性が高くなっているのですが、多くはこの重要な情報に対する家庭医の注意を喚起することなく、また甲状腺が健康であるかどうか確かめるため、年1回の甲状腺の検査とTSHの血液検査を受けておりません。相当ひどい甲状腺機能亢進症の症状であっても、何ヶ月、あるいは何年も患者が気付かないでいたり、あるいは医師までもが多動症や、不安または精神病で感情的に不安定であるのだと取り違えております。

したがって、アメリカ甲状腺協会では、隠れた甲状腺の病気の検査という重要なトピックを定期的に見直し、継続的な甲状腺の研究に基づいて、勧告の内容を更新しております。HMOが医療の資金を出しているこの時代にあっては、あらゆる健康問題のスクリーニングの費用効率性にますます重きをおくようになったため、甲状腺のスクリーニングも重要な見直すべき疑問であります。

皆が何をしてもらうべきか
50歳までに、女性の10人に1人は、簡単な甲状腺刺激ホルモン(TSH)の血液検査で証明されるように、甲状腺機能不全を起こします。正常な場合、脳の基底部にある脳下垂体が甲状腺刺激ホルモンを出して甲状腺の機能を制御しています。甲状腺の機能が不全になると、TSHのレベルがあがります。反対に、甲状腺機能亢進症で血液中の甲状腺ホルモンのレベルが高くなると、TSHレベルは低くなります。
何年もの間、アメリカ甲状腺財団とアメリカ甲状腺学会は、甲状腺機能障害を見つけるために、50歳以上の女性は全員TSH検査を受けるように勧めてまいりました。私共は60歳以上の男性にも同様のTSHスクリーニング検査を行うことに関し、意見の一致を見ております。これは、この年齢になるまでに9%が甲状腺機能低下症になり、甲状腺ホルモン治療が必要であるためです。もっと新しい研究では、コレステロールやその他の脂質レベルが高い患者に甲状腺機能障害の発生率が高いことが確認されています。甲状腺機能低下症の人は、甲状腺の治療を行うと脂質の分析値が改善することから、脂質レベルが高い人はTSH検査をかならず医師に頼んでください。

他に危険性の高い人は?
毎年健康診断を受けている人は、家族の甲状腺の病気についても医師に告げるようにするべきです。自分か、家族の中の誰かが今までに甲状腺の病気に罹ったことがあれば、他の親族にも甲状腺の病気が起こる可能性が高くなります。医師は甲状腺に関連した自己免疫疾患のことも考慮に入れる必要があります。これらの関連疾患には、若年性(タイプI)インスリン依存型糖尿病、慢性関節リューマチ、ビタミンB12の欠乏による悪性貧血、大腸炎、および白斑症などがあります。その他の遺伝的指標には、若白髪(30歳前に白髪になる)の家族歴があることや、おそらく家族内に左利き、または両手利きの人がいることなども含まれます。

これは、家族内の慢性関節リューマチ、または若白髪の人だけに甲状腺の病気が起こりうるということではありません。あなたか、あなたの親族が甲状腺機能障害を起こす危険性が高いことを意味します。

その他の特殊状況
他にも甲状腺機能障害に伴って起こる危険性が高くなることがわかっている病気があります。これには手根管症候群とうつ病が含まれます。前者は痛みが強く、手の力が入らなくなる病気で、甲状腺の病気を治療した後で改善し、あるいは正常になることさえあります。

うつ病では甲状腺機能障害が見られることが非常に多く、特に躁鬱病として知られるローラーコースターのように感情の起伏がある病気に普通に見られます。そのため、ほとんどの精神科医は甲状腺機能障害を見つけるためにどのうつ病患者にもTSH検査を行います。リチウムまたはゾロフトをうつ病に使う場合、これらの薬剤にも甲状腺の機能を悪化させる可能性があるため、TSHのフォローアップ検査も適応となります。このような場合でも、これら効き目の高い薬剤を飲むことができますが、甲状腺の治療も必要になる可能性があります。

最後に、女性は子供を産んだ後に、特に甲状腺の機能障害を起こす危険性が高くなります。アメリカではおおよそ20人に1人の割合で、出産後何ヶ月かの内に甲状腺の機能の変化が見られることが分かっています。現在は、すべての女性に対し、妊娠中に最低1回と出産の2〜3ヶ月後に再度甲状腺の機能障害の検査を行なうようにしている医師もおります。少なくとも、甲状腺機能亢進症か機能低下症の症状のどちらかが出たことのある女性、あるいは甲状腺の病気や関連のある自己免疫疾患の家族歴のある女性は、そのような検査を受けた方がよいと信じております。

最良の検査
ルーチンな甲状腺のスクリーニングに必要なのは、TSHの血液検査だけです。万一、TSHが異常であれば、医師が他にいくつか検査を行うでしょう。甲状腺ホルモンの血中レベル(T3とT4)でその病気がどの程度ひどいかがわかります。一方、抗甲状腺抗体のスクリーニングなどの他の検査で、病気の原因をはっきりさせることができます。

甲状腺結節と癌
自分で、または医師が首にしこりを見つけ、それが甲状腺の一部か近いところにあるように思われる場合、結節が癌である危険性があるかどうかを調べるため、他の検査が必要になることがあります。放射性ヨードスキャンが甲状腺の画像診断のため、およびその結節が正常に機能しているかどうかを見るために行われることがあります。癌性の細胞は、甲状腺ホルモンを作るためにヨードを使う正常な甲状腺細胞のように、血液から放射性ヨードを取り込むことがありません。

しかし、いちばん大事な検査は、時にこれが医師が行う最初の検査となる場合がありますが、結節の生検です。ここでは、小さな針を結節に刺して少量の甲状腺細胞のサンプルを採ります。ほとんどの場合、生検で結節が癌であるかどうか、したがって取り除かねばならないのかがはっきりします。

あなたに病気がある場合は、親族のことを忘れないように
あなたの甲状腺が活動し過ぎ、または不活発であることが分かった場合、他の家族も同じ病気になりやすい傾向があります。甲状腺機能低下症が起こる可能性は、年を取るにつれて高くなるため、年を取った親族、特に50歳以上の女性にはかならず医師にTSH検査をしてもらい、甲状腺の病気がないことを確かめるよう言ってください。そして、その時に悪性貧血や手根管症候群、また他の甲状腺に関連した病気になるリスクが高くなる可能性があることにも言及する場合もあるでしょう。

そのような人のためにもっと詳しい情報を知りたい場合、アメリカ甲状腺協会のウェブサイト(http://www.tsh.org/)、あるいはフリーダイヤル800-832-8321を通じて問い合わせることができます。ここでは、スタッフから個人的な質問に答えてもらうことができ、また甲状腺の病気や関連疾患に罹る危険性についてわかりやすく説明したパンフレットや参考書を入手することができます。

スクリーニングはどの程度費用効率がよいか?
甲状腺の病気のある患者は、異常な甲状腺ホルモンレベルを治療で正常に戻すと間違いなく具合がよくなります。しかし、今日ではほとんどの保健関係の専門家は、甲状腺の病気のスクリーニングをすることでお金を節約できるのかという新たな疑問を持っております。

約15年前、カイザーパーマネンテ保健団体の医師がこの疑問に対する答えを出しました。そこでは、診察の予約をした成人患者すべてにTSH検査を行ったのです。その結果、甲状腺に病気が見付かったほとんどの患者は、甲状腺の機能に変化があるにもかかわらず、ずっと働き続けることが可能であったということがわかったのです。したがって、甲状腺機能が変化するにつれて、職場での生産性は落ちていたかもしれませんが、大体は収入を失ってはいませんでした。研究者が見つけたことは、甲状腺機能障害を持つ多くの人は、医療の助けを求めていたのですが、どの専門医にかかったらよいのかわからなかったということです。したがって、彼らはおそらく家庭医に疲労のため診察を受けたり、皮膚科に皮膚の変化のためにかかったり、心拍の異常のため心臓病専門医に診てもらったり、あるいはうつ病のため心理療法士の元へ行ったりしたものと思われます。甲状腺疾患のスクリーニングで診断がつき、診察の費用が節約できたはずです。さらに、甲状腺機能亢進症や機能低下症は命に関わることはめったにありませんが、間違いなく、早期診断で生活の質の改善がはかれ、心臓病、疲労、鬱病などを防ぐことができたと思わます。

結 論
今日の医師は、あなたが60歳以上の男性、50歳以上の女性、そして出産直後の女性であれば、TSH検査を付け加えるべきです。また、あなた自身か親族に甲状腺の病気または甲状腺関連疾患の病歴があれば、TSHのスクリーニングがなされるべきです。年1回の健康診断時に、主治医に首の前と甲状腺を触診してもらいましょう。これはつばを飲み込みながら行なってもらいます。主治医がこれらのことをしなかったり、甲状腺の病気の家族歴を尋ねない場合、医師にそのような評価をしてくれるよう頼まなければなりません。

あなたに甲状腺の病気がある事がわかった時は、TFAに連絡をすることを忘れないようにしてください。私共で、あなたの病気のことや、よくする方法、および健康を保つ方法についてあなたが知る必要のあることを学ぶお手伝いをします。甲状腺の病気は生涯続く傾向があり、TFAのメンバーになれば、あなた自身やご家族の健康を維持するために役立つ新しい研究や治療法の最新情報を常に得ることができます。
次のような場合、医師にTSH検査をしてもらいましょう。
  • 甲状腺の薬を飲んでいる場合
  • 甲状腺機能亢進症または機能低下症の症状がある場合
  • 親族に甲状腺の病気がある場合
  • あなた自身か、近い親族に関連する自己免疫疾患がある場合
  • 妊娠している場合
  • 過去1年以内に出産した場合
  • 50歳以上の女性
  • 60歳以上の男性
  • コレステロールや他の脂質の値が高い場合
  • 子供の頃に頚部の放射線照射を受けた人
  • 首のところにしこりを触れる場合
  • うつ病の薬を飲んでいる場合
  • 若白髪である時(30歳前に白髪になる)

Lawrence C. Wood博士は、アメリカ甲状腺協会理事長であり、医療部長も兼任されております。また、ハーバード大学医学部の指導教官をなさっており、マサチュウセッツ総合病院の非常勤医師として、そこの甲状腺科で教えておられます。

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