情報源 > 患者情報[005]
25
[005]
患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 8, No2

25:放射性ヨード:患者さんへのアドバイス / H. Jack Baskin, M.D.

甲状腺に対する放射性ヨードは、ちょうど心臓病に対する心臓カテーテル法や開心術のようなものです。これは甲状腺の病気を持つ患者の診査や治療の両方に甲状腺専門医によってひろく使われています。毎日のようにひろく使っている我々にとって、放射性ヨードは欠かせない道具です。しかし、よく知らない患者にとっては、放射能のある化学物質を飲むことに不安を覚えることが多いのです。

放射性ヨードは放射能を持つように作られたヨードですが、体内では放射能を持たないヨードとまったく同じように行動します。これは新しい発見ではなく、1930年代に最初に使われております。数種類のタイプの放射性ヨードがありますが、患者に投与されるのはその内2種類だけです。放射性ヨード-123(123-I)は甲状腺の病気の診断に使われ、甲状腺のヨード取り込み(甲状腺の活動状態)を測定したり、甲状腺スキャンを行うために与えられます。放射性ヨード-131(131-I)は甲状腺機能亢進症や甲状腺癌の患者の治療に使われます。

放射性ヨードはカプセルまたはコップの水に溶かした形で投与されます。放射性ヨードは患者が飲んだ後、血液中に入りほとんどが甲状腺だけに集積されます。
他の組織には残留しないため、甲状腺が取り込まなかった放射性ヨードは腎臓から尿中に速やかに排泄されます。

診断用の放射性ヨード-123
放射性ヨード-123は診断専用にに使われ、患者が被爆する放射線の線量はきわめて低いものです(胸部X線写真よりもはるかに少ない)。半減期が短いため、事実上すべての放射能が2日以内に体からなくなってしまいます(“半減期”は放射性物質の自然消滅または“崩壊”を表わす言葉です。放射性ヨード-123の半減期は13時間です。13時間後に放射性ヨード-123の半分が消滅、または“崩壊”します。放射性ヨード-131の半減期は約8日です)。

X線がそうであるように、放射性ヨード-123も妊婦には投与されません。そして授乳中の女性は放射性ヨード-123の投与を受けた後2日間は母乳を捨てるように言われます。放射性ヨード-123の取り込みを測定することは、ある種のタイプの甲状腺炎の診断やバセドウ病との鑑別に重要であることが非常に多いのです。バセドウ病では放射性ヨードの取り込みが高いのですが、それ以外のタイプの甲状腺機能亢進症では低くなっていることがあるからです。甲状腺の放射性ヨードの取り込みの測定は、バセドウ病患者の治療前にも必要です。

甲状腺スキャンに使う放射性ヨード-123で、甲状腺の画像が得られるだけでなく腺内のいろいろな場所の機能を見ることができます。これは普通のX線写真や甲状腺の超音波診査、あるいはCTスキャンまたはMRIでは確かめることができません。放射性ヨード-123のスキャンは結節の検査にきわめて重要なものです。これは、放射性ヨードを取り込む結節(“ホット”結節と言います)は悪性ではなく、針生検が必要ない一方で、ほとんどの結節に針生検が必要になるからです。
甲状腺スキャンはもう一つの放射性物質であるテクネシウム-99mを使って行われることがよくあります。テクネシウムを使ったスキャンは数時間以内に行うことができ、1日で終わるため一部の医師は好んで使います。ただし、良性と悪性の結節の鑑別がよく出来ないため、甲状腺結節の検査にはそれ程、適していません。

放射性ヨード-131と病気の治療
放射性ヨード-131は甲状腺癌があることがわかっている患者のスキャンにまだ使われていますが、その主な使用目的は甲状腺の病気の治療です(甲状腺機能亢進症と甲状腺癌の両方)。第2次世界大戦の前に最初に使われて以来、バセドウ病の治療法の選択肢の一つになりました。過去50年間に100万人を超える人が放射性ヨード-131で治療を受けており、今日まで副作用が起きた例はありません。甲状腺癌や白血病、またはその他のタイプの癌の発生率は、放射性ヨード治療を受けた患者では増加しておらず、この形の治療を受けた女性の子供に先天性の奇形が増えたというようなこともありません。

事実、放射性ヨード-131よりも安全性が高いという記録がある薬や治療法はほとんどありません。これが使えないのは妊娠中だけです。妊娠の可能性がある場合は、放射性ヨードを飲む前に妊娠検査を行うことができますし、患者は治療後3から6ヶ月は妊娠を避けるように言われます。

放射性ヨード-131治療で不妊が増えることはありません。実際に、患者の甲状腺機能亢進症によって起こる相対的不妊は、治療を受けて甲状腺ホルモンレベルが正常に戻れば治ることが多いのです。“避妊などに思い煩う必要がない”と感じている人は、治療後にとても妊娠しやすくなったのに気付くことがあります。
したがって、放射性ヨード-131で治療を受けた患者は全員、治療後少なくとも3ヶ月は避妊を行うようにすることをお勧めします。

治療後のガイドライン
治療を受けた後に注意すべきことはほとんどありません。甲状腺に行かなかったヨードは腎臓から尿中に排泄されてしまうため、治療後数日間は尿がいくぶん放射能を帯びます。1日にコップ3〜4杯多く水を飲むことで、体内から放射性ヨードが排出されやすくなります。

他の人が不必要に少量の放射線被爆を受けないように、患者は治療後3日間、妊婦や小さな子供に接触するのを最小限にとどめる必要があります。家庭内で他の人の放射能汚染を避けるために、患者は風呂のタオル類を別にしなければなりません。また、その3日間は唾液にも少量の放射性ヨードが出るため、キスも避けるようにします。洗面台や浴槽をすすいだり、トイレの使用後水を2度流すようにすることも、他の人の放射能汚染のリスクを減らすのに役立ちます。

期待出来ること
バセドウ病の治療を受けた患者は、直ちに結果が出ると期待しないように注意を受けます。治療後最初の1ヶ月は、事実上何の変化も起こりませんし、血液検査の結果も改善されません。患者は出来るだけ休息を取るようにし、この時期はまだ甲状腺機能亢進症の状態なので、適切な食餌をとるようにしなくてはなりません。インデラール(プロプラノロール)のようなベータ・ブロッカーが過剰な甲状腺ホルモンが体の組織へ与える影響を阻止します。これらの薬剤は、この待機期間中に症状をコントロールするため、頻繁に使われ、普通6から12週間かけて徐々に減らしていき、放射性ヨード-131で甲状腺機能亢進症が治った時に止めることができます。時に、患者が治療から数日経って、甲状腺のところを触ると痛みを感じることがありますが、これはアスピリンを飲んで和らげることができます。
治療を受けて2ヶ月目に甲状腺機能亢進症の改善が期待出来ます。治療後の甲状腺の血液検査は、普通4から6週間毎に行われます。6ヶ月目の終わりまでには、大多数の患者で甲状腺機能亢進症が治ってしまいます。2度目の放射性ヨード治療が必要となる患者は5分の1以下です<注釈:日本の場合は、アイソトープの投与量が少ないために2度目の放射性ヨード治療が必要となる患者はもう少し多い>。

甲状腺機能亢進症が治った患者は、甲状腺機能低下症の発生を監視してもらう必要があります。放射性ヨード-131で治療を受けた患者の少なくとも50%が治療後1年以内に甲状腺機能低下症を起こしてきます。他の患者も大部分は将来甲状腺機能低下症になります。最初の年は、経過観察を密に行ってもらうことが大切です。その後は年1回の甲状腺の血液検査を受けるようにします。これによって、甲状腺が不活発になったら直ちに甲状腺ホルモン補充療法を開始することができます。一度甲状腺機能低下症が起きたら、患者は生涯甲状腺ホルモン剤を毎日飲むことになります。

術後のフォローアップ
放射性ヨード-131は、手術後の甲状腺癌の治療にも使われます。甲状腺ホルモン剤を飲んでいる場合、脳下垂体からの甲状腺刺激ホルモン(TSH)の分泌を促すためにホルモン剤の服用を中止します。これによって、残留した正常な甲状腺組織または癌組織がもっと活発に放射性ヨード-131を取り込むように刺激され、治療効果が上がります。

放射性ヨード-131を投与した後に、甲状腺ホルモン剤の服用を再開します。放射性ヨード-131の線量が30ミリキューリー*を超える場合、アメリカ原子力規制委員会の規定では、患者を入院させることとなっております。これは患者に危険があるためではなく、患者の放射能を帯びた尿の廃棄を適切に行い、患者の体内の放射能レベルが高いので他の人の被爆を避けるためのものです。普通、24時間から48時間後に患者は退院しますが、その際にはバセドウ病の治療を受けた患者と同じ注意事項を守るようにしてください。
*キューリーは、放射能を発見したキューリー夫人の名を取った放射能の単位です。甲状腺スキャン用の放射性ヨード-123の通常線量は100マイクロキューリー(1万分の1キューリー)です。バセドウ病治療用の放射性ヨード-131の通常線量は10ミリキューリー(100分の1キューリー)です。甲状腺癌治療のための放射性ヨード-131の通常線量は100ミリキューリー(10分の1キューリー)です。

Baskin博士はオーランドのフロリダ甲状腺および内分泌腺診療所の医長です。また、博士は甲状腺疾患患者のための本、『甲状腺の働き』の著者でもあります。この本はボストンのTFA本部または2981 North Orange Avenue, Orland, Florida 32804のフロリダ内分泌腺診療所でお求めになれます。

もどる