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[005]
患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 13, No4

18:最近の甲状腺研究 / Robert C. Smallridge, M.D.
〜アメリカ甲状腺協会年次総会1998年〜

アメリカ合衆国の食餌性ヨード
ヨードは甲状腺が正しく機能するために欠かせないものです。食餌の中に含まれるヨードが少ないと、甲状腺の病気(甲状腺腫または甲状腺機能低下症を含む)が起こることがあります。世界の多くの地域では、ヨード欠乏が主要な公衆衛生上の問題でありますが、アメリカ合衆国ではヨード化塩やパンなどの食物中にヨード添加がなされているため、このような問題はなかったのです。

ジョージア州アトランタの疾病管理センターおよびマサチュウセッツ州ボストンのブリガム女性病院のJ.G. Hollowell医師等は、アメリカの男性と女性のヨード摂取量(尿中のヨード排泄量で測定)が1974年から1994年までに平均50%減少していることを報告しています。ヨード摂取量が低い集団の割合は、2.4%から11.7%に増加しており、妊娠中の女性では、ヨード摂取量の低い人が1.0%から7.0%に増加しています。

アメリカ合衆国でのヨード摂取量低下の理由は、ミルクの中に含まれるヨードが少ないことと、パン製品のヨード添加がなくなったことによるものと思われます。一方、ヨードの全体的なレベルはまだ許容される範囲にありますが、これ以上のヨード摂取量の減少がないか集団を密に監視していくことが重要でしょう。

甲状腺機能低下症と甲状腺癌
甲状腺癌患者は甲状腺ホルモンの服用を定期的に6週間止めなければなりません。こうすることで再発腫瘍を捜すための甲状腺スキャンを行うことができるのです。この間、患者は甲状腺機能低下症となり、正常とは感じなくなります。医師は、多くの患者が経験する症状を和らげるため、作用時間の短い甲状腺ホルモン剤(T3またはサイトメル)を3〜4週間服用させることがよくあります。

ジョンズホプキンス医療センターおよびその他の医療センターのPaul Ladenson医師等は、甲状腺ホルモン剤を止めた後の症状と生活の質の問題について200名以上の患者で評価を行いました。多くの患者は短期間の甲状腺機能低下症になっている間、身体的な症状は出ましたが、精神衛生または社会的機能には変化はありませんでした。

男性と女性、また高齢者と若年者を比較しても症状の変化の度合いには差は見られませんでした。驚いたことに、T3治療は、甲状腺スキャンの2週間前に止めてしまうと、症状の発現を防止できませんでした。
まとめ
甲状腺癌の再発の検査を受けるため、甲状腺ホルモン剤の服用を中止しなければならない患者の中では、精神的症状ではなく、身体的症状が多く見られました。T3による一次的治療でこれらの症状を軽くできるかどうかについては、さらに研究が必要であるという結論がでました。また、全身スキャンに近い将来遺伝子組み替え型ヒトTSHが利用できるようになれば、甲状腺ホルモン剤の服用中止に伴って遭遇する問題はなくなるはずです。

体重と甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症の患者は、体の代謝が増加するためにしばしば体重が減少します。活動し過ぎの甲状腺の治療がうまく行くと、体重が増えるのが普通です。ミネソタ州ロチェスターのメイヨー診療所のMichael Brennan医師等は、顕性または "不顕性"甲状腺機能亢進症(不顕性甲状腺機能亢進症は、血液中の甲状腺ホルモンレベルは正常であるが、血液中のTSHレベルが低く、非常に軽い形の甲状腺の活動し過ぎを窺わせるものです)のどちらかを持つ患者の身体構成成分に治療が及ぼす影響を研究しました。

最初の体重減少量がわかっていないのですが、顕性甲状腺機能亢進症の患者では、治療後に平均7.8kgの体重増加があり、不顕性甲状腺機能亢進症の患者では4.0kgの増加でした。脂肪と赤色筋の体積のどちらも増加しており、体重増加分の50〜60%は筋肉の体積でした。
まとめ
この研究は、活動し過ぎの甲状腺が落ち着いた時に体重増加が多く見られるという以前からの観察を確かめるものとなりました。ある程度の増加分は、甲状腺機能亢進状態である間に最初に減った体重が戻ったものですが、一部の患者では、実際に“度を越して”おり、摂取カロリーに注意を払う必要があります。ただ、体重増加分の少なくとも半分は筋肉の量が戻ったことによるのはよい知らせであります。

妊娠と甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は男性より女性に多く起こります。そして、妊娠して甲状腺ホルモン(サイロキシン)を飲んでいる若い女性はそれほど珍しくありません。最近の研究では、妊娠中の女性は普通より多くのサイロキシン(平均28%多い)を必要とすることが示されています。しかし、個々の女性に対する適切な投与量はTSHの血液検査に基づいて決められなければなりません。

甲状腺機能低下症が適切に治療されなければ、母親と赤ちゃんの双方に合併症が起こるリスクが増加します。ロサンジェルスの南カリフォルニア大学のArosZograbyan医師等は、82例の妊娠の結果を報告しました。母親側の主な合併症は高血圧でしたが、子供の側では未熟児や低出生時体重であることが多かったのです。妊娠中に甲状腺機能低下症のままであった女性の32%に合併症が起こりましたが、妊娠20週目以降に甲状腺が正常になった女性では19%、妊娠20週目以前に適切な甲状腺の治療を行った女性では5%でした。
まとめ
妊娠する前にTSHレベルのチェックを受けるよう女性を教育することと、妊娠前と妊娠中のサイロキシン投与量を正しく調節することが、母親と胎児双方の合併症のリスクを大きく減らすことになるはずです。

性別とバセドウ病の結果
女性の方が男性よりバセドウ病に罹りやすい一方で、症状や治療に対する反応に性差があるのかどうかははっきりしていません。イギリス、バーミンガムのバーミンガム大学のA. Allahabadia医師と研究員は、508名の患者の記録を再検討しました(83%が女性、17%が男性)。この結果、甲状腺機能亢進で女性の方が脈が速くなり、治療中に男性の方が体重の増え方が多いことがわかりました。男性は、また甲状腺機能亢進症の治療に2倍以上の放射性ヨードを必要とすることが多かったのです。
まとめ
臨床上の特徴や治療の反応のどちらにおいても、男性と女性の間にはある程度の差があります。観察されたこれらの違いの理由はわかっていません。今後さらに臨床研究を行う必要があります。

甲状腺と乳癌
甲状腺研究欄の最後に、私は乳癌のある女性が甲状腺抗体も持っていた場合、結果がよくなる可能性があるということを見出した研究を再検討してみます。今年の年次総会で、テキサス州ヒューストンのM.D.アンダーソン癌センターのR.Vasilopolou-Sellin医師と研究員は、最初の診断が乳癌または甲状腺癌のどちらかであった多数の女性の診療記録を調べました。

甲状腺癌の女性は、甲状腺癌の病歴がない女性に比べて3倍以上乳癌に罹りやすいことを見出したのです。この反対は成り立ちませんでした。すなわち、乳癌の女性は後で甲状腺癌を起こしてくる可能性はなかったのです。これらの所見はまだ予備的なものであり、本当に関連性がある可能性があるかどうかを見るには、もっと多数の患者で、さらに詳しい研究を行う必要があります。

Robert C. Smallridg医師はフロリダ州ジャクソンビルのメイヨー診療所、内分泌病科の医長です。

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