情報源 > 患者情報[005]
16
[005]
患者さんとの橋渡し【Bridge】 Bridge; Volume 11, No2

16:隠れた甲状腺の病気:誰が検査を受けるべきか? / Lawrence C. Wood, M.D., F.A.C.P.

今年の秋の始めに、 ある不安を抱えた人から『甲状腺の病気に罹っているような気がするんですが、私がかかっている先生は検査してくれないんです。』という電話がTFA本部にかかってきました。その不安な気持ちを表わした電話をくれた人は、今では私達の新しいスタッフとなっています。実際に月に何度も甲状腺の病気に罹っているに違いないと思っている人から電話がかかってきます。その人達は自分の気持ちを真剣に受け止め、必要な検査をしてくれる医師をどうやって見つけたらいいかを知りたいのです。検査自体はきわめて簡単なものです。普通は、血清TSHレベルの検査で、その人の甲状腺ホルモンレベルが高すぎるか、低すぎるかを見分けることができるため、それだけで十分です。甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモンのレベルが高く、脳下垂体がTSHの産生を減らします。その結果血液中のTSHレベルが低いのが見つかるのです。甲状腺機能低下症では、血液中の甲状腺ホルモンのレベルが低く、そのため脳下垂体はTSHの産生を増やし、その結果血液中のTSHレベルが高くなります。甲状腺の検査のもう一つのよい点は、TSH検査それ自体、費用がかからないことです。最近行われた数箇所の病院検査室と民間検査施設の調査では、TSH検査の費用は$43.00から$89.00の範囲であり、平均コストは$50.00であることがわかりました。しかし、多くの医師は甲状腺機能不全の患者を正しくスクリーニングするために、TSH検査だけを使うことはせず、何種類もの甲状腺の検査を行うようにしていることを頭に入れておかなければなりません。
したがって、TSH検査がそれほど高いものでなければ、TFAに電話をかけてくる患者は、なぜ医師が甲状腺の病気の検査に積極的でない場合があるのか知る権利があります。電話をかけてくる方達の心配に対するお答えとして、甲状腺のスクリーニングの問題自体についても、私達の集団の中のある種のグループの総合的スクリーニングをお勧めすることについての情報も合わせて述べることにいたします。読者の皆さんが、医師や甲状腺専門医、健康管理機関管理者にとってどのくらいの頻度でフォローアップ検査を行うべきかということだけでなく、誰が検査を受けるべきかということも非常に興味のあることだということを頭に入れておいていただきたいと思います。患者の診断と管理を優れたものにするよう誰もが考えていますが、同時に医療費削減をはかるため、スクリーニングやフォローアップの検査にかかるコストにも注意を向ける必要があります。数年間同じかかりつけの医師に診てもらっている人は、運のよい人です。主治医は過去の投薬歴も知っていますし、もし甲状腺の機能が悪くなった場合に起こるわずかな変化にも気が付きます。しかし、主治医がきちんと話してくれないという感じが正当なものであれば、第2の意見を求めるのは理にかなったことであることも覚えておいてください。もし、甲状腺の活動が強すぎたり、あるいは弱すぎる場合、下に挙げた症状の全部ではなくても、どれかが出るはずです。いちばん大事なのは、そのような症状があって、前には経験しなかったようなものであれば、スクリーニングTSH検査を受ける必要があるということです。日によって気分が変ることは、症状の種類が増えていくことに比べ、甲状腺の病気があることを示す程度は低いのです。そのような症状は数週間または何ヶ月にもわたって出てくるものです。その一方で、これらの症状の多くは、誰もが普通に生活している間に、時々経験するような類のものです。そのため、自分も主治医もそのような変化が起こったのかどうかはっきりしない場合、主治医は、甲状腺の病気の検査を行うに足る他の証拠を捜すようにするでしょう。

甲状腺機能亢進症(活発すぎる甲状腺)の症状や徴候
  • 神経質
  • 心悸亢進(脈が速くなる)
  • 異常に暑く感じる。
  • 食欲があるのにやせてくる。
  • 手が震える。
  • 不眠症
  • 汗をかく量が増える。
  • 多動性
  • 甲状腺が大きくなる(甲状腺腫)。
  • 月経期間が短くなり、回数が減る。
  • 筋肉の弱り。特に大腿部と上腕部
  • 腫れや目の充血、乾燥、あるいは眼球が本当に前に突き出たり、またはそのように見える(上瞼が上に上がることがあり、そのために目が突き出たように見えます)などの目の問題。
  • 腸が頻繁に動く。

甲状腺の活動が不活発になっているか、機能不全になりつつあるもの(甲状腺機能低下症)
  • 動きが鈍くなる。
  • うつ病
  • 寒く感じる。
  • 筋肉がつる。
  • 皮膚の乾燥。
  • 毛髪が抜ける。
  • 便秘
  • 甲状腺肥大(甲状腺腫)
  • 疲労
  • 水分貯留
  • 月経期間が長くなり、回数が多くなる。
  • 体重増加(普通は水分貯留のため、3〜4ポンド[1〜2キロ]だけである)
  • 声がしゃがれる。
  • 男性のインポテンツ

甲状腺機能亢進症(活発すぎる甲状腺)の症状や徴候
年 齢
甲状腺機能障害はどの年齢でも起こり得ますが、甲状腺機能亢進症は20歳から40歳の間に起こることが多いと考えられています。しかし、最近の研究で高齢者にも多いことがわかりました。それに対して、甲状腺機能低下症はもっと年齢が高くなってから起こる傾向があります。50歳までに、女性の10人に1人に甲状腺機能不全の証拠である高TSHレベルがあります。多くは、 "不顕性"または非常に軽いために何の症状もないものです。しかし、医師の間では軽度の甲状腺機能低下症であっても、見逃されている些細な症状があるということで意見が一致しています。50歳以上の女性と60歳以上の男性全員に、スクリーニングTSH検査を行うのは理にかなっていると思われます。その時点で約9%に高TSHレベルが見られます。
性 別
甲状腺機能障害は、男性に比べ女性の方に少なくとも5倍多く見られます。そのため、あなたに症状があり、女性であれば、医師は甲状腺の病気を考え、検査を勧める可能性が高くなります。
甲状腺の病歴
今までは、過去に活発すぎる甲状腺になり、薬や放射性ヨード、または手術によって治ったのであれば、そのまま健康な状態が続くと考えられていました。でも、そうではありません。したがって、過去に活発すぎる甲状腺になったことがある場合は、ずっと後になってから甲状腺の働きが衰えてくる可能性があります。同じ理由から、甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモン剤を飲んでいる人は、薬の量が正しいかどうかを見るため、定期的にTSH検査を受けることが必要です。あなたがどこも悪く感じなければ、主治医は年1回のTSH検査で十分だと判断するでしょう。
妊 娠
妊娠すると、体が必要とする甲状腺ホルモンの量が増えます。したがって、甲状腺ホルモン剤の投与を受けている人には、医師が甲状腺機能をチェックするためにTSH検査を行うようにすることがあります。また、出産後何ヶ月かは甲状腺機能に変化が起こり得る重要な時期でもあります。アメリカでは、若い母親は20人に1人の割合で、出産後最初の数ヶ月に甲状腺機能の変化を経験しています。新生児と家にいればたくさんのことが次々に起こるため、新しい症状が甲状腺機能の変化によるものだとは思いもしない可能性がある時期でもあります。甲状腺に問題があるかどうかはTSH検査でわかります。甲状腺の病気や関連疾患(下を参照)の家族歴のある母親は、ここに挙げた問題が生じるリスクが高くなります。主治医はこのような家族の病気を知らない場合があるため、必要な家族歴の情報を提供し、医師の診断に役立てることができます。
自己免疫疾患の家族歴
グレーブス病(バセドウ病)によって起こる甲状腺機能亢進症と慢性(橋本)甲状腺炎による甲状腺機能低下症は、どちらも自己免疫疾患の部類に入ります。ちょうど抗体が甲状腺を刺激して活動し過ぎるようにしたり、甲状腺の細胞を損傷して甲状腺の機能不全を起こすように、他の抗体が糖尿病や慢性関節リューマチ、悪性貧血、大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患、白斑症の皮膚の白い斑、まだらな毛髪の喪失(円形脱毛症として知られています)、および若白髪(30歳前に始まる白髪)などを起こすことがあります。あなた自身または近い親族に、これらの自己免疫疾患の一つがあれば、医師の注意を喚起するようにしてください。そのような病気は甲状腺の病気に罹るリスクも高めるため、主治医はこの情報により、あなたに甲状腺の症状が出たり、50歳以上であったり、妊娠したり、また最近子供を産んだ場合など、TSH検査の必要な時にもっと機敏に対処するようにするでしょう。
特殊な状況
他にも医師が甲状腺の機能障害を調べるため、TSH検査を行う場合があります。そのような特殊な状況についてはすべて医師がよく知っていると思われますが、自分自身の状況を適切に述べることで医師の診断の助けとなる場合があります。
子供時代の頚部放射線照射
あなたが過去に胸腺肥大や頭皮の輪せん、にきび、または反復性扁桃腺炎などの治療目的で、頭部や頚部にX線照射を受けた200万人近いアメリカ人の一人であれば、おそらく甲状腺機能低下症や甲状腺結節、さらには甲状腺癌を起こしてくる危険性があると思われます。甲状腺機能低下症があれば、TSHレベルの増加で診断を確かめるだけでなく、治療をしないでいれば、甲状腺結節や甲状腺腫になるリスクが高くなることがあります。もし、医師が過去のX線治療について知っていれば、おそらく1年に1回簡単なTSH検査を行うことで、甲状腺が正常な状態にあるかを確かめるようにするでしょう。もっと詳しい甲状腺の画像診断や機能検査を行うかどうかは、受診時の医師の所見によって決まります。
鉄(鉄剤の中に含まれている)やコレスチラミン(コレステロールを下げる薬)、およびサルファート(抗潰瘍剤)などを含むある種の薬が、甲状腺ホルモン錠の吸収を悪くすることがあります。したがって、甲状腺ホルモン錠を飲んでいて、このような薬も飲む必要がある場合、少なくとも4時間から6時間間をあけて別々に飲むようにしてください。ここでも医師はTSH検査をして、そのレベルが正常かどうか確かめるようにするでしょう。その他にも甲状腺の機能を悪くするような薬があります。これには、うつ病の治療に使われるリチウムや皮膚の感染症や膣洗浄に使われるベタジン、そして心臓のリズムの異常の治療に最近使われることが多くなった心臓病薬のアミオダロンなどのヨードを含む薬があります。ヨードはケルプ(昆布の一種)、ダルス(紅藻の一種)や他の海草にも見出されます。

どのような時に他の医師の意見が役に立つのでしょうか?
あなたに甲状腺の病気の症状や徴候があり、医師がTSHレベルの検査以外の甲状腺の検査をいくつか行うようにした場合でも、TSH検査をするよう医師に頼むべきです。というのは、TSH検査が甲状腺の機能レベルが正常であるかどうかを見るのにいちばん感度の高い検査であるからです。もし、かかっている医師が甲状腺を調べようとしなかったり、あなたの側に検査をうけるだけの理由があると感じているのであれば、第2の意見(他の医師の意見)を求めてください。何にもまして、あなた自身が自分の甲状腺の病気を管理するという姿勢が重要であることを頭に入れておいてください。また、アメリカ甲状腺協会では、お近くの資格を持つ甲状腺専門医の名前をお教えすることもできますので、甲状腺に関して何か心配なことがあればお電話を下されば手をお貸しすることができます。そのために私共がここにいるのです。

Lawrence C. Wood医師は、ボストンのマサチュウセッツ総合病院の医員で、ハーバード大学医学部のインストラクターをなさっています。

もどる